2019.03.13
スタッフHです。
これまで弊社スタッフの数人が自分の部屋をSonarworks Referenceを使って計測&補正するというレポートをお届けしてまいりましたが、スタッフレポートのラストは私、セールス&マーケティング部を統括するスタッフHが努めさせていただきます。
私たちメディア・インテグレーションは、数年前から一般的な会社にあるような制限を取り払って「多様な働き方で行こうよ」という取り組みをしています。勤続年数もだいぶ長くなってしまった私は自宅での勤務をさせてもらえるようになり、思い切って東京を大きく離れて、生まれ故郷の秋田県にて日々の業務にあたっております(もちろん、定期的に"通勤"はしていますけどね)
そんな私、かねてからの夢でもあった「音楽部屋」のある家を作りました。田舎なので近所迷惑とも無縁で、広さにも少し余裕があります。少々大きめのスピーカーを深夜に鳴らしても、苦情がくることもありません。こんな部屋でもSonarworks Referenceのような「補正」は必要なのでしょうか?実験レポートをしてみたいと思います。
私の音楽室は12帖+8帖。補正を行うのはスピーカーとデスクのある12帖の部屋です。
もともと私は吸音とか拡散などの対策を「したくない」タイプ。自宅でもあるので、「住む上での快適さ」を犠牲にしてまで吸音にこだわりたいとは思わなかったのです.....
...と、いうのは建前。本当はできるなら"そう"したいと思っていました。が、そこそこ広めのこの部屋に必要な分量の吸音パネルを仕込もうとすると、とてつもなく膨大なお金がかかります。
もしも吸音材で15万円かかってしまうなら、15万円で買えるギターを買いたい。私はどちらかといえば「そちら側」です。
引っ越してきた当初、私は「広さもあるし、スピーカーの背面や左右に余裕を持たせたセッティングもできる。さほど補正は必要ないんじゃないの?」くらいに考えていました。
引っ越しに際し購入したスピーカーは、FocalのTrio6Be。私自身がインタビューを担当させていただいたニラジ・カジャンチさん、鈴木"Daichi"秀行さん、森田良紀さんの影響をもろに受けて選択。特性も解像度の高さも、そしてパワーにも優れているスピーカーで、サブウーファーなしでも35Hzまでを確認できるスピーカー。お三方のようなスタジオ機器や防音設備はありませんが、近所迷惑とは無縁の私には最高のスピーカーだ、と思い切って購入しました。
鈴木Daichi秀行:Focal Trio6 Be導入インタビュー
私の部屋の天井高は一般的な住宅と同じ、2.4mほど。部屋の長辺は約5.5m、短辺は約3.5m。広さには全く不足はありません。スピーカーの設置もスピーカーの背面側の壁に60cm、左右までの壁に80cmのスペースを空けて設置しています。Trio6Beがもつ最強のスペックをこの部屋でも鳴らしてくれるはず....と思っていました。
聞き慣れたCDを聞いてみたり、自分の過去のPro Toolsセッションファイルなどを開いてみたのですが、違和感がありました。超低域はしっかりと感じられるのに、妙にベースが薄っぺらい。お腹に響くような帯域は聞こえているのですが、ベースが「いない」ような感覚。試しにテストトーンのサイン波を再生し、30Hz〜500Hzの辺りをスウィープしてみると....なんと70Hzから100Hzにかけて「極端に音量が落ちる」ように聞こえるのです。(テストトーンですから)本当は一定の音量がでているはずなのに。これは、この記事の通りの実験で「明らか」になりました。
自分の部屋、スピーカーは「補正」が必要?今すぐできるセルフチェック
このため、さまざまな対策を試みました。スピーカーの角度を調整する。リスニングポジションをデスクごと移動してみる。スピーカーを縦置きに変えてみる。変えるたびにわずかな変化こそあれど、この70〜100Hzあたりが聞こえない現象が改善されることはありませんでした。
わかりやすい前フリではありますが、一般的な部屋(スタジオとして0から設計されていない部屋)では、ほぼこういった問題が起きていると言ってもよいのではないでしょうか。無響室でもない限り、周波数帯のどこにも凸凹の問題がない部屋なんてものはまずありません。スピーカーブランドが公開している「いかにフラットか」のグラフだって、無響室で測定されたものなんですから。
そこで「部屋のクセを取り除く」SonarworksのReferenceを使い、さっそく私も部屋を解析してみました。
予想をしていた通りです。私の部屋は70Hzはおろか、60Hzあたりからもう聞こえにくい帯域になり、100Hzどころか150Hz辺りまで大きな谷ができています。
Trio6 Beのウーファーは35Hzまで再生可能ですが、その特徴もよく表れています。私の部屋の場合、超低域は再生できているのに、その上の低域に大きなディップ(凹んでいる)があるため、かえってキックやベースの判断を「しにくく」しています。
「Sonarworksなしで」この部屋でミックスをしようものなら悲惨です。ベースにとって大事な50〜150Hzが聞こえないこの部屋では必要以上にベースを持ち上げてミックスしてしまうことでしょう。よくある話かもしれません、つまり「他の環境で聞いてみたら異様にベースが大きい」問題です。私自身はベース弾きですが、ベーシストがこれをやってしまうとメンバーとの確執にもつながりかねません。
さて、高域側に目を向けてみると、10kHzを超えた辺りからなだらかにロールオフしているのが分かります。これは、スピーカー本体でハイを緩やかにカットしてたものが反映されたものでしょう(私は耳が疲れやすいので、よくこのセッティングをします)。幸いなことに左右の特性がさほどズレていないのは、なるべく左右対称の配置を心がけた結果ともいえます。
試しに、もう1つのスピーカーでも測定をしてみました。ドイツの名門モニターブランドの製品で、特性は50Hz〜20kHz。同軸型のスピーカーで、位相も良いと評価を受けるスピーカーです。結果はこちら。
...これもまた、ひどいものです。150Hz辺りから下が「まるでない」ようにも見える測定結果。特に150Hzから下を先ほどのTrio6 Beと見比べてみると、驚くほど共通の特性がみられます。このドイツ製スピーカーは低域が50Hzまでなので、ここから下がないことはスペック通り。
つまり、この部屋にはどんなスピーカーを置いたところで、60〜150Hzを正しく再生しないということなのです。
測定した結果をもとに補正を行うSonarworks Reference。プラグインとしてDAWのマスターに使うことも可能なだけでなく、iTunesやSpotify、YouTubeやHulu、Netflixなどの音声も補正できるので、制作時だけでなく普段のリスニングから耳を慣らしておくこともできます。
上の画像にある通り、私の部屋は「一番聞こえにくいところ」と「スピーカーの特性以上に出てしまうところ」の差が、ざっとみて±20dBほどもあります。このような部屋で「EQの1dBを絶妙に調整する」といった作業がはたして意味を成すのかと言われれば...
...多くのSonarworks Referenceユーザーが「もう戻れない」と言うのも頷けます。
またReferenceは、周波数特性の補正だけではなく、左右のスピーカーの微細な音量差、遅れも補正してくれます。普段私たちはオーディオインターフェイスのバッファサイズや、プラグインのレイテンシーには異常なまでにこだわるのに、アナログ接続をしているスピーカーの左右の「差」を気にしている人はどれくらいいるでしょう。1ミリ単位で左右対称に置かれたスピーカーであっても、アナログのケーブルで接続する限り、左右が完全にイコールになることは難しいでしょう。
Reference4で完璧に左右が補正されたスピーカーでは、音の奥行きやリバーブなどの空間系エフェクトのかかり方がより鮮明に確認できるようになります。リバーブへのセンドが今まで以上に繊細・慎重になり、パンの設定も「ざっくり」ではなくなり「ここがベスト」という基準を持てるようにもなります。音量差は0.1dB単位、時間差は0.01ms/サンプル単位で補正してくれます。
私の部屋ではレフト側のスピーカーが0.6dB小さいという結果が出ました。
補正を行なった私のFocal Trio6 Beは、カタログで語られているようなアピールポイントを「そのまま」感じられるようになりました。35Hzの超低域からベリリウムツイーターならではの正確な超高域までの再生。奥行きや広がりをダイレクトに感じさせてくれる音。
もしもみなさまが日々の音楽制作の中で「悩む、試行錯誤する」という時間を多く使っているようであれば、それはせっかく購入したモニタースピーカーが本領を発揮できていないことによる無駄な時間であるかもしれません。Sonarworks Referenceで部屋の癖を取り除き、スピーカーに「本領を発揮」させましょう。そういう意味で、Sonarworks Referenceはスピーカーというよりも「部屋にかかる」ソフトウェア(プラグイン)といったほうが、正しいかもしれませんね。
SoundID Reference for Speakers & Headphones with Measurement Microphone