2019.01.18
FLUX::製品の紹介・実践の連載第3弾としてIRCAM Verb3を取り上げたいと思います。
昨今、DAW標準で当たり前の様に付属しているComp、EQに次いで非常に多くのリバーブ・プラグインが存在する中、このIRCAM Verb3の存在意義や使い所などを読み解いていきたいと思います。
まずリバーブを乱暴に3つのカテゴリーにまとめてしまいましょう。
オーケストラ収録の時にはM7が混ざった音でモニタリングする事が多く、ボーカル収録ではレキシコンに送りながらモニタリングするのが経験上多いです。そのどちらももちろんハードウェアの実機ですが、今日日ハードウェアのリバーブをTDで使うことはあまり無い様に思います。
というとエンジニア業界の方から怒られるかもしれませんが、再現性や利便性を考えるとどうしてもDAW内で完結する事が大多数で、中にはProtools標準のプラグインを中心に組み立てるエンジニアもいる位、「外に音を送る」という行為自体は作曲の段階でやってしまう事の方が多いと個人的には思っています。(サウンドメイク的に)
さて、ご存知の通り一時期流行ったサンプリングリバーブですが当時の音源はチープで空気感のかけらもないドライ具合、どうやっても打ち込み臭さが抜けない状態にリアルな空間を足してリッチに聞かせる為にこの方式が注目されました。IRサンプリングコストも相まって総じて高価格帯、処理負荷も非常に高いものです。
しかし昨今の音源は10年前とは比べものにならないくらいクオリティーが上がり、マルチマイキングでホール録音された音源も多数存在します。
Closeマイクにも多少のアンビエントが含まれているものがありますが、すでにある空気感をサンプリングリバーブで異なる空間に置いてしまうと空間同士が喧嘩して混ざらないどころか収集がつかなくなる場合もありますので、音源の空間は活かしたまま使える「癖のないデジタルリバーブ」という選択肢に僕個人は注目しています。
このIRCAM Verb3はサンプリングリバーブの様な「空間表現」+「癖のないデジタルリバーブ」の双方を担う事ができるプラグインだと感じました。サウンドトラックや劇伴を主に作られている方に興味を持って頂けるのではと思います。
IRCAM Verb、IRCAM Verb sessionと2つバージョンがあります。
sessionはライト版という扱いで、設定項目が少なく、チャンネル数もステレオまでしか対応していませんが両製品のファクトリープリセットは同一数、同一項目です。
順にパラメーターを見ていきましょう。
今までお伝えしてきたFlux::らしくパラメーターが豊富ですし、独自の機能を詰め込まないと気が済まないという印象はここでも発揮されていました。
左が通常版、右がsession版です。
通常版はDecaytimeを各周波数ごとに変えられる機能を持っています。
例えば楽器の音域によってとか、Tuttiのリリースを派手に伸ばしたい時にこの設定が効いてきそうです。
後段の項目はまるで異なります。
部屋の吸収率や密度感、リバーブ成分の広がり方などを設定できる通常版に対してsession版はいわゆる部屋の広さ、プリディレイの設定のみとなります。
リバーブに何を求めるか?によって選択肢は分かれそうですね。
さらに後段のEQセクションにも差別化が図られています。
通常版ではRoom、Early、Cluster、Reverbの4項目をそれぞれEQで補正する事ができます。(session版は1種類のみ。多分テイル部分に対するEQ)
僕はリバーブプラグインでClusterという言葉を初めて聞いたのですがやはりFlux::独自の機能だそうです。「初期反射の散らばり」だそうで、イメージとしては壁や床の材質を決めてそれに当たった音の響きをシミュレートする部分だと感じました。
Room size やpreDelayでは追い込めない空間特性を作れるのは、冒頭で書いた通りサンプリングリバーブ的な性質を持っているという事になりますね。
もちろん触るパラメーターは増えますが、そもそも残響とは複数の条件によって定義されている音の響きですから、広さや密度感や材質を変更できる=IR並みの空間表現力を備えていると言っても過言ではないと思います。
なかなかエグい差別化にも感じますが、その差3倍の値段設定も・・・頷けます。
(リバーブに10万円出すコンポーザーがどれくらいいるかはさておき)
ここまでの紹介で「同じプリセット名でもパラメーターが全然違うのに同じ音になるの?」と疑問に思われた方の参考になればと、音源を用意しましたので次の項目で見ていきましょう。
早速音を出してみましょうね。
今回は3種類、オーケストラとフルートとピアノを用意しました。
皆さんプラグイン買ったらとりあえず何か適当に弾いてみますよね?
それと同じく、全く時間をかけずにできる事だけをテストしました。
通常版とsession版、プリセット名は同じでも音は全然違いますね。
もはや同じ名前で呼んでいいのかすら疑うレベルですが、それぞれ良さを感じてもらえたのではないかと思います。
session版は安かろう悪かろうではなく、しっかりとしたリバーブ感を感じられるのに対して、通常版は非常にスムース(なめらか)で自然な響きです。特にオーケストラの余韻はホールで聴いているに近い密度感が感じられとても上品な空間という印象でした。
ざっくりまとめると、
■session版が向いているソース
→アンサンブルからひとつ目立たせたい楽器、ボーカルなど。
■通常版が向いているソース
→オーケストラ全体。自然な空気感が欲しい楽器。
→ソロ楽器の独奏。
と、個人的にはなりました。
あとは細かい設定をしたいかどうか、価格に対して価値を感じられるか?
それは個人差がありますのでレビューは割愛しますが、リバーブという演出のために原音を変えない自然な響きが中核にあって、さらに空間を可変出来るプラグインは意外と数少ないという事に改めて気付かされます。
リバーブは単体で聴くとどれも大差ない様に感じます。
むしろ響きが強く抜けが良い方が「買った感」が強く、好印象にさえ感じますが、実際のセッションで複数使い分けていく中でリバーブプラグイン1つ1つのクオリティー(=自然さ)が楽曲全体を左右する要素であると気付きます。
元の素材が良ければ100%ドライでも楽曲は成立します。
なんとなくロングテールで誤魔化すのではなく、一度ドライにしてから楽曲や演奏の意味を引き立たせる、的を得たリバーブを心がけてみてはいかがでしょうか。
最後までお読み頂きありがとうございました。
このレビューが皆さんの楽曲制作の参考になれば幸いです。