2020.03.18
- スタジオのメインモニターにFocal Trio6 Beを選んでくださったとお聞きしました。ありがとうございます。Trio6 Beの前には同じくFocalのShapeをお使いでしたよね。Trio6 Beに入れ替えようと至った経緯を教えていただけますか?
このスタジオではもともとフロントとセンターにShape65、リアにShape50を使って5.1chのサラウンド環境を作っていたんです。Shapeは長時間聴いていても耳が疲れないですし、パッシブラジエターならではの音あたりの柔らかさが「作曲家目線」ではすごくベストなスピーカーだと思っています。
- 曲作りの段階だけでなく、アレンジを考える、音色を作る・選ぶ、レコーディングをしていくという工程を考えれば、確かに作・編曲を行う方はもっともスピーカーに向き合っている時間が長いとも言えますね。
そうなんです。私の周りでもShapeを使っている作家はものすごく多いですよ。作曲家目線でいうと、バスレフじゃなくパッシブラジエターだから置き方にシビアにならなくてもよく、環境に左右されにくいという特徴はありがたいことなんですよね。音ももちろんいいですし。不満を持っていたわけではないんですね。
- では、どういった経緯でTrio6 Beにアップグレードされたのでしょう?
このスタジオにエンジニアを呼んでファイナルミックスを仕上げるプロジェクトも多くあります。その際、Shape65からの出音はエンジニア越しに座る位置で聴くことになるのですが、この部屋がもつ特性も相まってか「音が後ろまで届かない」という印象がありました。距離が離れてももう少し精細なところまで確認出来る様にしたいと思ったというか。
僕自身は作曲家でもありますが、同時に完成したものの最後のジャッジを行う立場でもあります。それにふさわしいスピーカーが欲しいなと思ったことが、Trio6 Beを導入したきっかけですね。
- 今お話に上がった「音が届かない」というのは、周波数レンジという意味でしょうか?それとも別の部分でしょうか?
周波数レンジもありますが、一番には解像度ですね。Shapeシリーズは耳あたりもよくバランスもいいスピーカーですがニアフィールドなので、少し距離が離れたり厳密にチェックをしようとした時にパワー不足だったり解像度の物足りなさを感じていました。また、リアスピーカーに低音の量感を少し足したくて。同じFocalに揃える事は決めていましたのでShape65をリアに回すなら、新たなメインスピーカーには何がいいだろう?という部分がスタートになっています。
当初、同じ製品ラインナップのSolo6 Be、Twin6 Beと共に迷ったのですが、スペック的に35Hzから40kHzと周波数レンジも広く、僕がやっているようなオーケストラとかロック、そういったジャンルにも余裕で対応できるなという信頼感を優先してTrio6 Beを採用しました。名だたる方々の導入レビューがたくさんあったことも背中を押してくれましたね。
- 設置を終えて、最初にこのスタジオで音を出したときの第一印象はいかがでしたか?
エージングもしてない状態だったので当然ですが正直に言うと、第一印象はShape65と同じ特性を感じました。解像度や音圧が高いことはパッと聴いてわかったんだけど、薄皮一枚が挟まっているような丸い印象を受けました。エージングを経たあと、部屋の計測・モニタースピーカーの補正ができるSonarworks Referenceを使って補正をしてみたところ、見事に化けた。その時の音は解像度もレンジ感もともに、最高でしたね。
- どんなに吸音・拡散などの対策を行った部屋でも、モニタースピーカーは部屋の影響を受けてスペック通りに鳴ってくれないとも言います。
そうなんです。ReferenceによってTrio6 Beの本来の音が体感できるようになりました。例えばキックやティンパニーなどの更に下にある超低域の素材、音というよりも振動に近い部分をサブウーファーなしでもここまで感じられるというのは、素晴らしいですね。対して高域に関しても好印象でした。ベリリウムツイーターってなんだか「高域がキンキンしてるのかな?」なんて想像もしていたのですが、全くそんなことはなく、スムースで嫌味もなく、美しいハイエンドを再生してくれます。
- このスタジオにはサブウーファーも用意されていますが、こちらは使っていないのですか?
最近の据え置き機のゲームでは5.1chのものが減ってきていて、逆に4.0chが増えてきているんです。つまり、サブウーファーありきでミックスをすることが少なくなってきているんですね。
逆に4.0chなのにベースマネジメントを利かせたサブウーファーありきでミックスすると別の環境に持っていった時、実装する時、ステレオへのダウンミックスをする時など様々な所で低音の量感をどうやってステレオに畳んでいくかという課題が付いて回ります。元々サブウーファーは「.1ch」ですから基本はメインモニターでしっかり作って、超低音を気持ち良いバランスにする補完程度に使うべきものです(笑)。更に4.0chと同じくらいステレオミックスのみの仕事もあります。そういう幾つかの課題を解消する目的もあり、サブウーファーなしの環境でも超低域が確認できるTrio6 Beという環境はベストだし、今後の制作を見据えたアップグレードでもあると言えますね。
 
- 他にも、気に入られたポイントはありますか?
サイズ的にもTrio6 Beはミッドフィールドクラスになるのかなと思いますが、ラージモニターのような「音圧」を感じられるのがいいですね。ニアフィールドモニターから入った私たちの様な作曲家でも同じ距離感で置いても違和感がないし、ラージモニターに慣れているエンジニアさんに作業してもらうのにも問題がない。懐の深さを感じますね。
- 牧野さんはTrio6 Beを「横置き・ウーファー内側」でセッティングされていますね。縦置きやウーファー外側など、様々なセッティングを試されましたか?
はい、一通りのセッティングで試してこの形に落ち着きました。うちにあるスピーカースタンドが少々背が高いこともあって、縦置きよりは横置きの方がツイーターの位置的によかったことと、僕はオーケストラものを手がけることが多いので、左右の広がりを掴むという作業が非常に重要なので、ミドル&ツイーターユニットが外側にあった方が判断しやすいと感じました。
- Trio6 Beには、低域のウーファーユニットをバイパスして、2Wayのモニターに切り替えて使う「フォーカス・モード」を搭載していますが、使用されていますか?...実はこれまでインタビューをしてきた方々は「あまり使っていない」というお話だったのですが...
はい、意外と使っています。(笑)民生機想定のスモールモニターも併設していますが…例えばボーカルやベースのピッチ感を確認するときや、パンニングをシビアに判断するときは小音量で小さな口径のスピーカーで行う方がシビアな判断ができますよね。モニターコントローラーに手を伸ばさず音質も変えたくない時に足元のスイッチを踏むだけで良いので楽ですよ。あと、作曲段階でアーティキュレーションを詰める際に音量は変えずに音圧を抑えたい時です。超低音の再生能力はTiro6Beの醍醐味ですがやはり圧も強いので音符をじっくり確認したい時はむしろフォーカスモードの方がいいかも知れません。
Trio6 Beを導入して一ヶ月経ちますが、すでにもう私のリファレンス(基準)として活躍し始めてくれています。ゲームや映画、またはTVなど多様なメディアに対応できるスピーカーってさほど多くないと思うのですが、Trio6 Beは全く不足がない。ファイナルミックスまでをチェックできる、信頼できるモニターに出会えました。