2021.04.19
スタッフHです。
一度使った人は口を揃えて「もうコレなしでは考えられない」と評価するSonarworksのSound ID Reference(旧製品名はReference)自分のミックスルームをマイクを使って解析し、モニタースピーカーをフラットな状態で再生できるようにしてくれるプラグイン。
そして、ヘッドフォンからの音もフラットにしてくれるプラグインでもあるのです。待望の最新バージョンが先日発売となり、発売日には前バージョンからのアップデートのお申し込みが多数ありました。ここでは、製品のおさらいと新しい機能について少しご紹介したいと思います。
モニタースピーカーメーカーの各社は自慢の自社製品の広告に、必ずと言っていいほど「フラット/高解像度/正しいミックスができる」といった単語を並べます。近年のモニタースピーカーは、どのメーカーも素晴らしい特性を持っていて、信じられないほどパワフルなものが揃っています。
しかし、スピーカー側がフラットに再生していたとしても、みなさんのお部屋やスタジオがその「フラット」を阻害していたら、どうでしょう。これは「稀にあること」ではなく、ほとんどの場合そうなってしまっていると言い切ってもよいと思います。壁、天井、机、スピーカー周囲の家具などなどによって少しづつ影響を受け、耳に届くことにはフラットさも解像度もだいぶ失った状態となっています。
そんな状態を解消するSonarworks Sound ID Reference。計測にかかる時間は20分ほど。あとはDAWのマスターチャンネル(の、一番最後)にインサートするだけ。その部屋で大きく出過ぎている帯域は「あらかじめ引っ込めて」再生するし、小さくなっちゃってる帯域は「あらかじめ大きめに」出します。これを超精細に、かつ左右のスピーカーの違いも込みで補正しちゃうというのがすごいところです。
Sound ID ReferenceはOSの出力に適用することもできるので、YouTubeやSpotify、Apple Music、NetflixやHuluなども補正することができます。普段聞くものが全てフラットになっていれば、いざ自分がミックスを行うときの物差しにもなりますね。
・製品名が変わりました
製品が新しくなって変わったのは、まずは製品名。「Reference」から「Sound ID Reference」に変わりました。
・計測と、補正の精度をブラッシュアップ
ソフトウェアとしてはこれが最も大事なポイントですね。前バージョンのReference 4よりも計測においても、そしてスピーカーやヘッドフォンの補正もさらに精度があがりました。どんな環境でもフラットにするというコンセプトに変更はありません。
・複数環境のモニターを自前のスピーカーで
ミックスのチェックは、必ず複数のスピーカーを用いて行うこと。ミックス指南の書籍やウェブサイトには、必ずこれが書かれていることでしょう。しかし、ホームスタジオでは複数を置くスペースがなかったり、あるいは私のように予算の都合で用意できない方もいることでしょう。Sound ID Referenceでは、伝統的なモニタースピーカーからカーステレオ、テレビで鳴らしたときのバランス、イヤフォンやノートPCのスピーカーの再生音まで20種類を再現する機能を用意。クリック1つで20種類のモニター環境が切り替えられるのは、高いアドバンテージ。
・カスタムカーブにも対応
例えば私は少々耳が疲れやすいという自覚があるので、普段からモニターの10kHz以上をなだらかに落とすというセッティングをしています。もしもこれも補正されてしまうと、私の好みとは違う状態になってしまいます。が、これもOK。補正されたデータをもとに、自分なりの好みで微調整が可能です。「ミックスしてるときはフラットでいいけど、作ってるときはもうちょいローが欲しいな」なんて調整にも使えますね。
・あらゆる場所とプロファイルを1クリックで
自宅とスタジオ、あるいは友人宅、移動中などにも音作りやミックスをする方は多数いらっしゃることでしょう。そんな方のために、上記したような複数環境やカスタムカーブ、場所ごとの個別プロファイルを即座に切り替えられるブラウザ機能が大きく更新されました。
Sound ID Referenceを導入された方々は、一様に「なかった頃に戻れない」といいます。ミックスの時だけでなく、音作りやレコーディングの段階から使うべきだという方もいます。ベーシストとしてだけでなくアレンジ、プロデュースワークにも高い評価を受けているOvallのShingo Suzukiさんはこう言います。
「低域や超低域を多く含む音は、一般的な部屋をスタジオにしているとどう頑張っても正しく再生されていないはず。曲に合っていない音を使って「ミックスの段階でなんとかしよう」というのはあまり好きじゃなくて、まずはいい演奏といい音作りが大切」
こういった補正ツールを使って一番変化が起きるのは超低域〜低域です。これは私自身の部屋で顕著に起きていることですが、キックのサンプルなどを大量に聴き比べていても、大して違いがないように聴こえてしまうことがあります。それは、私の部屋がキックにとって大切な70〜100Hzを全く聞こえないようにしていたから。本当は「ドゥオーーーン」と大きく伸びているはずのキックなのに、「トッゥオン」と軽く・短く聞こえているのです。こんな状態では正しい判断はできませんよね。私の部屋のレポートはこちらで詳細にご紹介しています。
Sound ID Referenceは周波数特性の補正だけでなく、左右のスピーカーの時間的な遅れも補正してくれます。その単位は0.01ミリ秒単位。つまり10万分の1秒まで補正。これは驚異的な数値と言ってもいいでしょう。わずかでもズレがあることで、EQの調整はもちろん、空間系エフェクト(ディレイ、リバーブ)の判断が正確に行えるようになります。人気ビッグタイトルゲームの音楽を多数手掛ける作曲家、スピンソルファの牧野忠義さんはこう語ります。
リバーブは特にテイル..リバーブ音の消え際が分かりやすくなりましたね。特に今まで分かりづらかった低音楽器のリバーブ感、余韻が残る部分。今までだとヘッドフォンで緻密に確認しないと判断が難しかったフェードアウトも手に取るようにスピーカーで見える様になりました。
エンジニアがミックスのチェックをするとき、モニター1つだけでチェックをするということはほとんどないと言っていいでしょう。複数のモニタースピーカーのほか、ラジカセ的なもの、スマホのイヤフォンやスピーカー、テレビ、中にはカーステレオでチェックする方も多いと聞きます。なににせよ、複数の環境でチェックすることは大事です。
他のスピーカーならまだセレクターなどで一発切り替えができますが、テレビ、スマホのスピーカー、カーステレオなんかは一度バウンスの作業がどうしても必要。しかし、Sound ID Referenceは代表的なテレビ、スマホ(スピーカーもイヤフォンも)、カーステレオの特性カーブでチェックすることができるのです。さまざまな環境が揃っていて、その数20種類。
面倒な作業なく、1クリックでカーステやスマホの特性を再現してくれます。
リスナーがどんな環境で聞いても成立するように事前にチェックできるのは、大きなアドバンテージです。
**例えば下の画像はカーステレオの特性の図。サブウーファーを車載した車をシミュレーションしたもの。この状態で聞いてミックスとして成立してなければ、少しバランスを取り直した方がいいかもしれません。
音を鳴らすことを前提に設計段階から作られた部屋でない限り、スピーカーが公称のスペックでフラットに鳴ってくれることは、まずないと思ってよいかと思います。そうなると、Sound ID Referenceのような補正ツールはプライベートスタジオの必須アイテムと言っていいでしょう。
導入された方々は一様に同じコメントをくださいます。つまり「なかった頃には戻れない」と。新たな機能を追加し、エンジンもブラッシュアップされた新しいSound ID Reference。ぜひみなさまのスタジオにも。
これまでSound ID Reference(旧製品名:Reference)を導入してくださった方のレビューをまとめたページをご用意いたしました。お部屋によって異なる計測結果を見ているだけでも楽しいのですが、どういった改善があったかをご覧いただくと、日々みなさまがミックスで悩まれている問題の答えに繋がる項目も見つかるかもしれません。