2020.08.19
プロデューサー、作詞、作曲、アレンジャーとして数多くの大ヒット作品に携わるほか、DTMスクールのSOUND SCRAMBLEの設立、マネジメントやプロデュースを行う「油田LLC」の設立など多岐にわたる活動をされているcorin.氏。氏のプライベートスタジオにSonarworks Reference 4が導入されたとのことで、導入後のインプレッションを伺った。
- モニタースピーカーやヘッドフォンをフラットな特性に戻し、本来のポテンシャルを発揮するSonarworksのReference 4をcorin.さんに導入いただきました。導入に至ったのはどういった経緯だったのでしょう?
もともと周囲のクリエイターやエンジニアからの好評を聞いていたのでずっと気になっていた製品ではあったのですが、修理に出していたメインモニターのEVE Audio SC305が戻ってくるタイミングで、モニター環境をちょっと見直そうと思ってSonarworksを導入してみることにしました。
結論からいえば、多くの人の感想と同様で「なぜもっと早く導入しなかったのか...」と(笑)
- そのコメントを頂けると嬉しいです。この自宅スタジオは簡易防音室とのことですが、その他何か特別なルームチューニングなどは行っていらっしゃるのですか?
特に専門のルームチューニングはしていませんが、これまではいろいろな人のアドバイスを聞いたり、あるいは引っ越すたびに自宅スタジオを作ってきた自分の経験を元に配置やセッティングなどを行っています。今はSC305が一番気持ちよくモニタリングできるように心がけています。
- 早速、SC305の測定結果を拝見させてもらえたらと思います。スピーカー本体のEQ調整などはされていますか?
もともと今の部屋は、SC305をフラットな状態で鳴らすとLowが出過ぎで、かつHighが物足りない印象があったため、内蔵のDSPでLowを-1.5dB、Highを+2.0dBというセッティングで使用していました。今回Referenceで測定するにあたり、まずはこの設定をフラットにした状態からスタートしてみました。こちらがその測定結果です。
SC305 DSPフラット測定値
感じていた通りLowが出過ぎていることがわかります。セッティングの都合でスピーカーと左側の壁が近いため、左chは+8dBもの山ができています。同様にHighも若干聞こえづらい環境であることが分かり、これまで感覚だけで判断していたことがReference 4のおかげで数値的にも把握することができました。
- corin.さんが元々感じていらっしゃった通りの特性だったということですね。
次に、いつもDSP設定していた「Low -1.5dB、High +2.0dB」で測定をしてみたところ、左側のLowがまだまだ出過ぎていたことと、Highが少し多めに出ていたので、思い切ってSC305のウーファーをこれまでの外側から内側に変更。さらにDSPセッティングで左側のLowを-2.5dB、右側のLowを-1.5dB、左右のHighは+1.5dBにして再測定をしてみました。
SC305 DSP On測定値(L:Low-2.5、Hi+1.5/R:Low-.1.5、Hi+1.5)
- 中域以上で左右の特性が改善されていて、かつ10kHz以上がわずかに落ちていた部分も改善していますね。Reference 4はこういったズレの改善もしてくれますが、セッティングで改善できる部分は補正だけに頼らず、セッティングを追求することも大事ですね。
そう思います。この結果も先ほどより改善はありましたが、それでもまだLowは少し多く出ています。しかし、LowたっぷりはSC305の良さでもあるので、スピーカー側で行う調整はこれくらいに留めておこうと思いました。
- 部屋に合わせて補正されたサウンドは、最初どのようなソースでチェックされましたか?
Reference 4はOSの出力にも適用させることができるので、最初にSpotifyやYouTubeでさまざまな音源をReference 4のOn/Off、Dry/Wetのパーセンテージを試してみました。Reference 4を100%アクティブにすると、暴れ気味だったLowがスッキリ、Lowによってマスキング気味になっていたボーカルも輪郭がハッキリして、全帯域がバランスよく聞こえるようになりました。
普段使いのPro Toolsのマスタートラックにもプラグインで使ってみました。これも多くの方が言うように、一度使うともうReference 4無しの環境には戻れません(笑)リスニングをするだけなら、たとえLowが出過ぎていても「気持ち良ければOK」ですが、ミックスしたりアレンジする際のモニター環境は可能な限りフラットであることが望ましいです。
実はこれまで、SC305でモニターしながら作業をしていると「音圧疲れ」と言いますか、耳の疲労が激しかったので、基本的にはGENELEC 2029Aで小さな音量で作業をして、ローエンドのチェックの際にSC305に切り替えるという作業スタイルでした。
- 低域〜超低域はパワーも大きいので、長時間に渡って聴き続けていると耳の疲労に繋がるのかもしれませんね。
しかしReference 4でキャリブレーションして、フラットな環境で使うことでSC305でずっと作業をしていても疲れにくくなりました。さらにGENELEC 2029Aの方もキャリブレーションを行ってみたところ、もともと気になっていた左右の音量差や、現代音楽に必要なローエンドが見えないことに困っていたのですが、本当に「生まれ変わった」と言ってもいいくらい、正しいモニターになりました(笑)
GENELEC 2029A測定値。corin.氏が指摘していた通り、特に高域で左右のレベル違いが顕著
- モニター環境がフラットになったことで、作業上変化があったところはありますか?
特に、ボーカルの処理がやりやすくなりました。過去のセッションなどを開いて確認もしてみたのですが、Lowが出過ぎていたり、アレンジ的に帯域のバランスが悪いことが分かったりしたのはもちろんですが、POPSの要である「歌」に対してどの楽器が邪魔をしているのかもよく分かりました。
今は自宅でのミックス確認や、アレンジャーがミックスまで行うという制作も増えていますし、住宅環境でしっかり音を鳴らすことが難しいケースがほとんどだと思います。極端にいえば「自宅スタジオの環境が悪ければ悪いほど」、Reference 4は威力を発揮してくれると思いますね。
- Referenceに対してリクエストや改善してほしいポイントなどはありますか?
Reference 4はヘッドフォンの補正にも対応しているのが素晴らしいと思うのですが、手持ちのヘッドフォンがどれも対応していなかったことが残念でした。ヘッドフォンを使うのは歌入れのときくらいなのですが、20年来メインで愛用していて、今は3台目になったaudio-technicaのATH-A500、それから過去に自宅で大きな音が出せなかった時代にヘッドフォンでミックスチェックできるように購入したGrado GS1000をキャリブレーションして聞いてみたかったですね。
- 2020年の8月現在、250種を超えるヘッドフォンに対応していますが、ご指摘の通り未対応のモデルもあります。Sonarworksではリクエストも受け付けていますので、ご利用いただければと思います。貴重なご意見、ありがとうございました。
一般的な住宅、あるいは商用のスタジオであっても「モニタースピーカーの特性を100%活かす」ことは難しいといえます。そんな環境であっても簡単なステップで測定と解析、そして補正が完了できるSonarworks Referenceは、これからの時代の必携ツールと言っていいでしょう。しかし、corin.氏のように補正される量を最小限に抑えるための努力や経験を重ねることもまた、重要と言えます。