2022.12.28
クリス・ロード=アルジは、グラミー賞を 5 回も受賞したミックス・エンジニアです。グリーン・デイ、キース・アーバン、マドンナ、ロッド・スチュワートなどのミックスを手がけているエンジニアです。最近、彼のL.A.にあるStudio AがDolby Atmos®作業用にアップグレードされましたが、そこではFocusrite RedNetコンポーネントをベースに設計が行われました。Dante®ネットワーク上のRedNetを介して、2台のAvid Pro Toolsワークステーションと新しい9.1.4 Ocean Way Audioスピーカー・システム、クリスが愛用するSolid State Logic SL4064Eミキシング・コンソールが接続されています。
クリスは、Studio Aに新しいイマーシブオーディオ機能が加わったことで、長年確立してきたワークフローを見直す必要がありました。さまざまな業界関係者からの後押しもあり「未知の世界に飛び込んで、ついにオーディオとコンソールをつないでいたビンテージ機材をすべて排除することにしました 」と語っています。
長年のクリスのミキシングワークフローでは、まず48トラックのSony DASHテープマシンにトラックを転送。彼はコンバーターのパフォーマンスとメーターのために好んでこの方式をとっていました。(最終的にはテープを一切使用せず、マシンのコンバーターのみを使用していました)。現在そのマシンを96kHz/48bitで動作するPro Tools HDXに置き換え、Focusrite RedNet HD32R 32chのHD Danteネットワークブリッジを2台接続しています。
またDante上の4台のFocusrite RedNet A16R MkIを通してミキシングデスクに音を送っています。コンソールからのステレオミックスは、A16R MkIIの1台とHD32R HD Bridgeを経由してPro Toolsコンピュータに取り込まれます。
A16R MkIIのコンバーターは、DASHマシンに比べて明らかにパフォーマンスが向上しており、さらに、DASHマシンと2台のPro Toolsリグを同期させる必要があった以前のセットアップの苦労はもうないとクリスは言います。「どのレベルが有効で、どの程度のヘッドルームが必要なのかが分かると、A16R MkIIのサウンドはずっと良くなり、よりクリアで開放的になりました」と彼は語っています。
”どのレベルが有効かヘッドルームがわかれば、A16R MkIIの音はすばらしく、クリアで開放的だとわかりました。”
現在、2台目のPro Toolsシステムは、48 kHz/24bitであるDolby Atmosでのミキシング専用になっています。「アナログ機器とアナログ・コンソールを使ってレコードのすばらしいステレオ・ミックスを作成し、それをブレイクアウトします。ステレオミックスを終えて、Atmosに必要なステムをすべて作成したら、それを2台目のコンピュータに取り込みます。私のAtmos Mixは、ヴィンテージのアウトボード機器を使って作成したステムから作られています。そして、Dolby Atmos Rendererを搭載したコンピュータが第2の再生システムになっています」と、クリスは述べています。
「2台目のPro ToolsはI/Oが不要です。必要なのはRedNet PCIeRカード1枚だけ。Dolby Atmos Rendererに、Danteで128チャンネル、48kHz/24bitをMac Mini経由で接続しています。Pro Toolsは128のオブジェクトをレンダラーとモニタリングに送ることが可能です。RedNetがなければ、このようなことは不可能です。
ミックスしたステレオ・ステムをすべて書き出し、2台目のPro ToolsシステムでAtmosでのミキシング用のセッションを作成するには時間がかかりますが、クリスは「現時点では、これが私にとって有効な方法です」と言います。「オブジェクトの配置やミックスの立体感のために、Atmos コンピュータとレンダラーを使用しています。しかし、ミックス内の音作りのコツは、私のステレオリグを使っています。」
”Focusriteのサポートは紛れもなくすばらしいものでした。一度パズルのピースを正しく組み立てれば、毎回正しく起動し問題なく動作しています。”
MIX L.A.のスタジオは現在、DanteとRedNetで完全に配線されていると彼は言います。「部屋全体がRedNetでネットワーク化されており、隣の新しいスタジオも同様です。Danteを使って複数のスタジオに接続できることは、将来に向けての可能性を秘めています。そして、それはシームレスに機能するのです。」
これまで25,000曲以上をステレオでミキシングしてきたクリスは、自分がDolby Atmosの初心者であることを認めています。「私は完全に初心者です。しかし、私は未来のために、それがどのように機能し、何ができるかを学んでいるのです。」そのために、彼はアメリカのFocusriteチームからサポートを受けているそうです。
「Focusriteのサポートは紛れもなくすばらしい。」とクリスは言います。「 RednetやDanteは複雑なシステムを理解する必要があります。しかし、そうではなかった私にとって、サポートの存在はとても重要でした。」
しかし、彼はAtmosのミックスを聴いたとき、いくつかの点で不安を覚えたそうです。「Atmosに変換した途端、すべてが露呈してしまうレコードがあります。糊付けされた音をほどき始めると、記憶しているようなインパクトはなくなり『うわ、こんな音は聴いた覚えはないぞ』と思うようになります。その部分を聞いてはいけなかったのかもしれませんが、これが私の抱える問題点です。多くのレコードの音がAtmos上にバラバラにされることで、曲のよい面ではなく、醜い面を露呈してしまっている場合があります。」
劇場でDolby Atmosで配信されるライブパフォーマンスは、最高のリスナー体験を提供できると彼は考えています。「劇場に行って、これらのライブコンサートをAtmosでリミックスして聴き、その3次元性を活用することができるはずだと感じています。なぜなら、コンサート会場は本来3次元的だからです。実際に劇場でそれができたら、エキサイティングだと思うんです。」
クリスはイマーシブサウンドのミキシングに関しては初心者かもしれませんが、この分野で成功することを決意しています。「Atmosでのミックスの分野でより良い作品を作り出すための唯一の方法は、Atmosでの”自分のやり方”を見つけることです。私は、常に自分の耳で判断しています。そういう毎日をとても楽しんでいます。」