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ライブマイクの新定番。エンジニア伊藤ハルク氏 インタビュー

2019.09.25

私たちメディア・インテグレーションがオーストリアのマイクロフォン・ブランド、Lewittの取り扱いを開始したのが2014年。当時はまだ世界的に見てもマイナーといっていいブランドでした。多数のレコーディング用マイク、ライブ用のマイクをリリースしているLewittですが、会社としてはまだ若く、シーンでもまだ「若輩者の1つ」だったのかもしれません。

近年、指名買いのようにLewittマイクを購入してくださる方が増えました。レコーディングだけでなく、ライブ、配信など多岐に渡るジャンルでその広がりを私たちも感じています。そこで「Lewittマイクだけを使用したライブを体感してみたい」という思いに至りました。

バンドには実力派のセッションバンド、サーディン・ヘッド。エンジニアには数多くのライブシーンでオペレートを務める伊藤ハルク氏。そして会場には青山の"月見ル君想フ”。この抜群の組み合わせの中で、Lewittマイクがいかにその真価を発揮できたか、エンジニアを務めた伊藤ハルク氏に伺いました。


このマイク好きという人は多いかも

MI

ハルクさんがLewittマイクを知ったきっかけは?

伊藤ハルク 氏(以下 伊藤)

数年前になりますが、たまたま楽器店の店頭で見かけたキックドラム用のDTP 640 REXが最初です。1つのユニットにダイナミックマイクとコンデンサーマイクの2つが収められているのが面白いな、と。気になったので一度デモ機を借りて、現場で音を出してみたところすぐに「あ、いいな」と。

MI

キック用のマイクというと、ライブ/レコーディングを問わずいくつかの「定番」マイクもありますよね。定番ものと比較されたりはしましたか?

伊藤

もちろんしました。ダイナミックマイクの定番ものはもちろん、DTP 640 REXと同じように1つの筐体に2つのカプセルが入った他社のマイクも使ってきましたが、実際に使ってみたら圧倒的にDTP 640 REXのほうが良かった。

MI

それは、機能面ですか?それともサウンド面ですか?

伊藤

シンプルにサウンドですね。今まで使ってきたマイクと全然違う。2つのマイクが同じ位置で集音しているから位相の問題も発生しないし、そもそも音のキャラクターがいい。ダイナミックとコンデンサ個々の音も混ぜやすいから、本当にこれ1本で音が作れてしまいますね。

僕が試してみたときはまだまだ「珍しいマイク」という位置だったけど、今はライブ業界でも相当浸透してきていますね。現場で見かけることも多くなりました。このマイクを悪いって言う人はいないんじゃないかな。

MI

DTP 640 REXはシンプルにサウンドがいい、と評価いただきましたが、ライブエンジニア視点ではどこにその「良さ」があったのでしょう?

伊藤

ライブの音作りって、キックに限らずEQなどでかなり「作り込む」必要があるんですね。今までこれは「仕方のないこと」と思ってオペレーションをしていましたが、DTP 640 REXはフェーダーを上げただけでほぼ出来上がっている。余計な処理をする必要がほとんどないんです。ライブってまず「マイナスな環境をゼロにする」というところから作業が始まるんだけど、これはゼロに近い状態からスタートできるんです。

MI

特に時間的な制約や制限のあるライブエンジニアにとって、短時間というのは大きな助けになるのではないでしょうか?

伊藤

そうそう。音作りが早く仕上げられて楽。これは大事です。それでいて音がいいのだから、なおさらですよね。


何よりミックスに集中できる

MI

特ハルクさんがオペレーションを務められたライブ、「SARDINE HEAD for FREE vol.3 @月見ル君想フ」では、総勢20本ほどのLewittのマイク「だけ」を使ってライブオペレーションをしていただきました。DTP 640 REX以外に印象に残ったマイクなどはありましたか?

伊藤

いくつもありました。例えばドラムのトップとライブハウス全体のエアーの収録に使ったペンシル型のLCT 340は特に印象深くて、ギラギラしていなくて、特に何もしていないのに狙った音にきっちりフォーカスしてくれる。

MI

「ハイがきっちり伸びているのに、ギラギラしていない」という表現は、Lewittマイクがよく頂く好意的な評価の1つです。

伊藤

例えばドラムトップによく使われる、定番中の定番ペンシル型コンデンサーマイクは僕も大好きなマイクの1つだけど、ハイが「うるさい」と感じて現場で少しカットをかけたくなることがある。LCT 340はそういったギラつきがなく派手さはないのに、しっかり抑えたかった音を集音してくれていて、音としても印象に残ると感じました。

MI

「印象に残る」とは、嬉しい評価です。他社にこういった傾向のマイクはないのですか?

伊藤

ありますよ。NeumannのヴィンテージKM84や現行モデルのKM184辺りには同じような印象をもっています。しっかりと落ち着きがあって、フェーダーを上げてもギラギラしてこない。ハイブランドらしい余裕のある感じなのですが、Lewittにも同じ質感を感じますね。それなのにNeumannに比べたら圧倒的に安い!(笑)

MI

あらゆるトラブルや故障も考えなくてはいけないライブシーンでは、価格面も大事ですよね(笑)

伊藤

狙った音を狙ったように集音できて、かつ音が落ち着いていると、ドラムなどのように複数のマイクを立てたときにもアドバンテージがあるんですよ。特にLewittマイクはギラつきがないだけでなく、おかしなピークもないので、立ててフェーダーを上げただけである程度音が仕上がっている。EQを過剰に使わなくてもいいし、マイクを立てる位置を微調整するだけでOKってことも多い。

MI

過剰なEQは楽器本来の鳴りや良さも無くしてしまいますからね。

伊藤

そう。ある音作りが短時間で終われば、他の音作りのために集中することもできるし、なによりミックスに集中できます。ライブのオペレーションをする人なら分かってもらえると思いますが、個々のマイクのピーク取りに時間がかかってしまって、肝心な全体のミックスに時間が使えないというのは最もNGですからね。

MI

タムには全てDTP 340 TTが使用されていました。

伊藤

このマイクもいいですよ。セッティングしてフェーダーを上げただけで、ある程度もう狙った音が集音できている。調整もごくわずかで済むので、僕の中では「仕事が早い音」のマイクだと思っています。ただ、タムのリムに装着するアタッチメントはちょっと大きい割に振り幅が短いので、これは改善してもらえたらな!と思っています。

MI

現場のエンジニアさんからの意見をLewittは何より喜びますので、伝えるようにいたします。

「SARDINE HEAD for FREE vol.3 @月見ル君想フ」では、ギターアンプにLCT 240 Pro、ベースアンプにLCT 540 Sとそれぞれコンデンサーマイクが立てられていました。会場に広さとの兼ね合いもあるかと思いますが、ライブでギター/ベースアンプにコンデンサーマイクを立てるのは珍しいケースではないかと思いましたが、いかがだったのでしょう?

伊藤

ハウリングは絶対に避けなくてはいけないことだから、通常は定番のダイナミックマイクが多いですよね。ダイナミックマイクが悪いわけではないけど、理想的な音かというとちょっと違う。LCT 240 ProやLCT 540 Sはボディのコンパクトさも幸いして、ダイナミックマイクと変わらないくらいセッティングがしやすかったし、何よりハウリングにも強かった。このライブはギターもベースもマイクの音を結構出していただんだけど問題なかったことにも驚きました。

MI

それぞれ耐圧性能もかなり高いので、アンプに近接したセッティングでも耐えられます。

伊藤

コンデンサーマイクの理想的な特性をそのままPAで拡声できるわけだから、バンドがイメージしている音をそのままお客さんに届けられるというのは嬉しいことですよ。


MI

今回の「オールLewittマイク」でやっていただいたライブ、私自身も観客席で体験をさせて頂きましたが、バンドの演奏力の高さとハルクさんの音作りが相まって、まるで「4人の音が1つの楽器」かと思えるほど、浴びるように心地よいサウンドを聴かせて頂きました。

伊藤

バンドがそもそもいい音を出しているし、1つの固まりなんですよ。グワーっと包み込むような音を出すからね。エンジニアとしてはそれをそのままお客さんに体験してもらえるよう、音を作るだけ。

MI

「だけ」とは言いますが、そこに多大な苦労や経験の反映があると思います。

伊藤

どんなライブ会場にいっても用意されている「定番」のマイクたちは、価格の面であったり、会社の大きさであったり、あるいは歴史的な部分で定番になったものと思います。もちろんいいマイクではあるけれども、ベストというわけではない。

さっきも話したけど、ライブ環境では特定の楽器に立てたマイクに他の楽器の音が混ざってくることが「当たり前」のものです。なるべくカブりが起きないようにマイクを立てるようにしますが、限界はあります。今回全てのマイクをLewittでやるというこのライブをやってみて、そのカブりの少なさと、ほとんど調整が必要ないサウンドにびっくりしました。節約できた時間の分、全体のバンドミックスにしっかり時間をかけられたのも良かったですね。

MI

今後、どのようなバンドで使ってみたいと思いますか?

伊藤

ジャズやビッグバンドも相性が良さそうだと思いました。ダイナミックマイクはもちろんだけど、コンデンサーマイクもライブ環境で問題なく使えることがわかったので、生楽器の多いバンドに使いたい。エンジニアとしては「出てくる音」が全てなので、定番だとか値段だとかに惑わされず、楽器や空間のニュアンスを表現できるマイクを使っていきたいですね。

伊藤 ハルク

エンジニア

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