Lewittマイクを使った、ポップスのためのアコースティックギター録音Tips
2018.09.14
ごあいさつ
こんにちは、はじめまして。福富雅之です。
相棒の「藤本記子」と共に「Nostalgic Orchestra」という音楽制作団体で「プリキュア」シリーズや「アイドルマスター ミリオンライブ!」など、アニメ業界の歌ものを中心に楽曲制作しています。
機材の買い方には派閥がありまして、
「高いスタジオ定番機材を一発で買う派」と
「手が届く範囲で良い音を探求し続ける派」に分かれています。
私が所属しているのは「手が届く範囲で良い音を探求し続ける派」ですが、これがなかなか厄介でして、安くて良いものを探すだけではなく、「人の持っていないものを求め続けてしまう」傾向があります。今までマイクを何本買ったかなぁ…。
安いマイクから高いマイクまで色々と試行錯誤した私ですが、ある日メディア・インテグレーションのスタッフHさんから電話があり、「安くていいマイクが出てきたんですが、使ってみてもらえませんか?」とオファーを頂きまして、最初に届いたのがLCT 240 PRO。
でもお安いんでしょう…?と思いつつも、さっそくアコギで使ってみたのですが「これ採用!」だったのです。
19,800円のエントリーモデルが本チャンでも使えるということは…なんてことを思ってしまった結果、現在我が家のデシケーターにはLCT 240 PRO、LCT 440 PURE、LCT 640、LCT 640 TSと4モデルが入っています。すっかりLewittのファンになってしまいました。
そればかりか、いつもデータでやり取りをしているギタリストさんにも「これでアコギを弾いて、録ってくれ!」と貸し出したりもしています。僕のアレンジはだいたいLewittのマイクです。
冒頭から語ってしまいましたが、結論から言いますとLewittのマイク「超気に入ってます」
安価なマイクは安価な音がするのか?
Lewittのマイクに対して言えることは、
・低価格帯のモデルにも手抜きがない
・全モデル、それぞれ音に個性がある
つまり「数字が小さいモデル = 廉価版」ではないということです。LCT 240 PROはLewittの中ではエントリーモデルと言えますが、ノイズが多かったり外装がチープなこともありません。もちろん「Lewitt」というブランドのカラーはあるのですが、安価なモデルから高価なモデルまでそれぞれにキャラクターがあります。ギターアンプの「4発キャビ」と「1発キャビ」って、どちらが上でも下でもなく「この曲にはこっちだよね」というセレクトがあることに似ていて、「この曲は440じゃなくて240かな?」というケースが普通にあるのです。
言いたいこと、伝わっているでしょうか…語彙力の限界を感じたので、ラーメンに例えます。
LCT 240 PRO:塩ラーメン
LCT 440 PURE:醤油ラーメン
どちらのラーメンを扱っているのも内装が綺麗な「Lewitt」というお店です。これならきっと伝わったでしょう!
プロの方にはぜひ、「出しっぱなしマイク」として使って頂きたいです。
気合いを入れて後からスタジオ定番マイクで録音し直したときに「あれ?デモの方が質感よかったんじゃ…?」となるかもしれません。僕はこのパターン、ありました。
LCT 240 PRO レビュー
福富:主にトラック数の多いアレンジのときのアコギに使っています。
LCT 240 PROは2/3インチのダイアフラムにより、スピード感とレスポンスの速さが特徴だ、という謳い文句を見かけていましたが、まさにその通りでした。アコギのストローク、カッティングが上手に聞こえます。
LCT 240 PROで録音をするとコードのまとまりが良く録れます。恥ずかしながらピッキングに自信がなく「ジャラ」となりがちな私のカッティングが「ジャッ」とキレ良く録れます。基本のマイキングはボディとネックのジョイント辺りを狙い、そこから楽曲の低音の具合に合わせてマイクの角度を微調整しています。
LCT 440 PURE レビュー
主に華やかな楽曲や、派手に作りたい楽曲のボーカルに使っています。
傾向としてはLCT 240 PROと似ていますが、より「押し出しの強い音」で、いい意味で「化粧済み」の音がします。軽くレベルを整えるだけでCDのような音がするというか、歌っている時からCDの音がします。仮歌のお仕事で、ほぼ完成形に近いオケで歌を収録するときに「化粧済み」の音で収録/モニターできるので、とても歌いやすいと相棒の藤本も太鼓判を押すマイクです。
また、LCT 440 PUREで当初からボーカルを録音をして、それに合わせてアレンジを進めていくと華やかな質感になっていい感じ。
では、この2つのマイクを使ってアコースティックギターがどのように異なって聞こえるか、チェックしてみましょう。
実際にアコースティックギターをレコーディングしてみよう
使用した機材について
ギター:Gibson J45
マイクプリ:SSL XLogic(EQやコンプは不使用)
アウトボード:WESAUDIO β76(1〜2dB程度のリダクションがかかるよう薄めに使用)
録音後には一切処理を行わず、そのまま書き出しています。
6/8拍子 開放コードのレコーディング
福富:LCT 240 PRO、LCT 440 PUREともにLewittらしい華やかなサウンドが収録できていることがよく分かると思います。
LCT 240 PRO バンドミックスサンプル
LCT 240 PRO アコースティックギターのみのサンプル
LCT 440 PURE バンドミックスサンプル
LCT 440 PURE アコースティックギターのみのサンプル
本体の大きさや形状、見た目はまったく一緒であるLCT 240 PROとLCT 440 PUREですが、異なるのは搭載しているダイアフラムの大きさ。2/3インチのLCT 240 PROは小さめのダイアフラムらしくスピード感や高域の伸びの美しさが特徴。1インチのラージダイアフラムを搭載したLCT 440 PUREは充実したローミッドを捉えていて、J45の豪華な鳴りを抑えています。いずれのマイクも福富氏のレビュー通り「華やか」なサウンド。
4/4拍子 ストレートな開放コードのレコーディング
福富:僕の場合、アコースティックギターのレコーディングのときは基本的にネックとボディのジョイント部分にマイクを向けて収録します。もしもアコースティックギターがアレンジの中心になるようなとき、アコギのボディ鳴りをしっかりと聞かせたいときにはここ(ジョイント部分)からサウンドホール部分にマイキングしてベストな位置を探します。
福富:このアレンジでもLCT 240 PROとLCT 440 PUREを両方試してみました。LCT 240 PROではジョイント部分とサウンドホール部分の両方でレコーディング。LCT 440 PUREはLCT 240 PROよりも下(低域)が充実しているので、いつものジョイント部分のマイキングだけで良さそうだと感じました。このアレンジでも両方のマイクを聞き比べてみてください。
LCT 240 PRO バンドミックスサンプル(ジョイント部分を狙ったもの)
LCT 240 PRO バンドミックスサンプル(サウンドホールを狙ったもの)
LCT 240 PRO アコースティックギターのみのサンプル(ジョイント部分を狙ったもの)
LCT 240 PRO アコースティックギターのみのサンプル(サウンドホールを狙ったもの)
LCT 440 PURE バンドミックスサンプル(ジョイント部分を狙ったもの)
LCT 440 PURE アコースティックギターのみのサンプル(ジョイント部分を狙ったもの)
LCT 240 PROとLCT 440 PUREには約1万円の価格差がありますが、サウンドキャラクターが異なることがこのサンプルを聞いてもわかり、福富氏が冒頭レビューでも指摘している通り「どちらが上、どちらが下」という関係性になっていないことが分かります。また、LCT 440 PUREは定番ポイントへのマイキングで「これでOK」となることに対して、LCT 240 PROは「他のマイキングポジションも試してみたい」となるマイクと言えるかもしれません。
4/4拍子 アップテンポなカッティングギターのレコーディング
福富:LCT 440 PUREはラージダイアフラムらしい押し出しの強さがあり、音のバランスがとてもいい感じです。対してLCT 240 PROはピッキングのムラが少なく聞こえるようなニュアンスが非常にありがたい(笑)
LCT 240 PRO バンドミックスサンプル
LCT 240 PRO アコースティックギターのみのサンプル
LCT 440 PURE バンドミックスサンプル
LCT 440 PURE アコースティックギターのみのサンプル
福富さんのレポートによれば、レコーディング時に1〜2dBのリダクションがかかるコンプ以外、このサンプルにはコンプもEQもかかっていない素材とのこと。福富さんは大きく謙遜をされていますが「安定したプレイがあるからこそ、マイクによる違いをシビアにチェックできている」ということに疑いの余地はないでしょう。どちらが「いい音だ」ではなく、どちらが「好みの音だ」という点でチェックしてみてくださいね。
フィンガーピッキングによるアコースティックギターのレコーディング
福富:指弾きによるアコギのレコーディングや弾き語りなどでは、低音の動きやルート音をしっかり聞かせたいので、サウンドホール寄りにマイキングをしています。LCT 440 PUREのどっしりしたサウンドキャラクターが好きですが、LCT 240 PROを使った場合ならレコーディング時やミックス処理を行うときに好みの低域をブーストしてあげると同じような質感が得られます。このサンプルでは、どちらもストレートな状態で録ったものを用意してみました。LCT 240 PROはネックよりのポジションとホールを狙った2種類、LCT 440 PUREはホールを狙ったサンプルです。
LCT 240 PRO ジョイント部分を狙ったサンプル
LCT 240 PRO サウンドホールを狙ったサンプル
LCT 440 PURE サウンドホールを狙ったサンプル
アコースティックギターのレコーディングは、多くの方も体験されている通り「ちょっとした工夫」で大きくサウンドが変わります。特にこのサンプルのような美しいアルペジオを収録するときには、椅子の軋みやフレットノイズなど多くの「気にするポイント」があることでしょう。特にこのサンプルでは、周囲の空気感の好み、弦をこする「キュッ」というノイズにフォーカスしてチェックしていただくと、好みのマイクを見つける指針になるかもしれません。
ボーカルのレコーディングではどうかな?
福富:なんと!制作途中の楽曲を公開してしまいます。ミックスも何もしていないだけでなく、アレンジ途中の作りかけのもの(汗)Lewittのマイクはボーカルにはどうでしょうか。
使用機材:
マイクプリ:SSL XLogic(EQやコンプは不使用)
アウトボード:WESAUDIO β76
楽曲:シンガソン(Nostalgic Orchestra)
LCT 240 PRO でボーカルレコーディング
LCT 440 PURE でボーカルレコーディング
レコーディング後、WAVESのRenaissance VOXだけをかけてミックスになじませましたが、それ以外の処理は行なっていません。録りっぱなしでいい感じになることが分かっていただければ幸いです。
LCT 240 PROとLCT 440 PURE、どちらもミックスに馴染む素晴らしいサウンドで、それぞれのマイクにキャラクターがありますね。
プロフィール
Nostalgic Orchestra Twitter公式アカウント:@NostalgicOrch
主な楽曲提供
「HUGっと!プリキュア/OP」「キラキラ☆プリキュアアラモード/ED」
「THE IDOLM@STER MILLION LIVE!」「おしりたんてい/OP」など
作曲/編曲 福富雅之 Twitter公式アカウント:@afro_fukutomi
作詞/作曲/シンガー 藤本記子 Twitter公式アカウント:@Noriko_Fujimoto
現在2名からなる音楽制作団体。主にアニソンを中心に楽曲提供をする傍ら、ボイストレーナーや音楽講師としても活動中。18年10月より「セミナー&ライブ キノコ音学校」を開校!