2021.03.29
さて、前回に引き続き、リードボーカルに対するアプローチをご紹介します。 前回の記事では、コンピングや編集で、ボーカルのベースを作っていく作業を中心にご紹介しましたね。 復習したい方は、(リードボーカルのミキシング 12のステップ 前編ステップ1~6)をご一読いただくと、今回の記事がよりわかりやすくなると思います。
今回の記事では、ミックスの中で他の楽器隊などに負けないように、よりボーカルをブラッシュアップする方法を紹介していきます。/p>
ボーカルの音色が決まったら、次はパフォーマンスがミックスの前面にしっかりと立つように、ダイナミクスを引き締めましょう。ボーカルによく使われるコンプレッサは数多くあり、音色やダイナミクスの処理方法が少しずつ異なります。
CLA-76のようなピークリミッタースタイルのコンプレッサーや、SSL E-ChannelまたはSSL G-Channelのコンプレッサーを使って、3~6dBのコンプレッションをかけるのが一般的です。コンプレッサーは最も大きなピークを抑えるためだけに作動させるべきで、ボーカルパフォーマンス全体で作動させるべきではありません。
次に、コンプレッサーのアタックタイムとリリースタイムを設定します。 最適な設定を見つけるための簡単な方法をご紹介します。
一般的には、最も大きなピーク時に針が3~6dBのゲインダウンを示し、0に戻る直前に次のピークが再び圧縮されるように圧縮します。このように、バランスを保ちつつ、エネルギーや力強さを加えることが大切です。このバランスを見つけるには、音の変化を正確に感知する練習が必要です。
多くのエンジニアは、コンプレッションを直列に適用することを好みます。つまり、複数のコンプレッサーを少量ずつ使用するのです。多くの場合、最初に高速のピークリミッタースタイルのコンプレッサーを使用し、次に低速のコンプレッサーを使用してボーカルを「絞り」、ダイナミクスを平準化していきます。
この場合、最も定番とされるコンプレッサーはCLA-2Aオプティカル・コンプレッサーですが、PuigChildやKramer PIEのような比較的反応の遅いコンプレッサーでも良いでしょう。 1台目のコンプレッサーでピークを素早く抑え、2台目のゆっくりしたコンプレッサーでボーカルを絞り、より安定したダイナミクスを作るという考え方です。
モダンで整ったボーカルにする場合は、パラレル・コンプレッションを使うのが一般的です。ボーカルをアグレッシブなコンプレッサー(CLA-76やdbx 160など)のAUXチャンネルに送ります。
高いレシオ、速いアタックとリリースタイム、そして低いスレッショルドで、思いっきり圧縮してみる。そして、ハイパーコンプレッションされた信号を好みに応じて少しずつブレンドしていきます。こうすることで、ボーカルを前に出しつつ、オリジナルテイクの自然なダイナミクスを保つことができます。
ごく少量のサチュレーションとディストーションは、ボーカルを太くし、ハーモニクスを加えてミックスのなかで、際立たせることができます。アナログ録音では、プリアンプのゲイン、コンソールのチャンネルの回路、使用するテープマシンによってサチュレーションを加えていました。最近のプラグインでは、こうした独特のサチュレーションをDAW上で簡単にエミュレートすることができます。
Scheps 73のプリアンプ・セクションは、NLSチャンネルコンソール・エミュレーションの「ドライブ」セクションと同様に、サチュレーション効果を得るのに最適なプラグインです。
よりアグレッシブなサウンドを求めるのであれば、ボーカルをAUXチャンネルに送り、サチュレーションやディストーションを自由にかけてみましょう。その後、エフェクトをかけたチャンネルをお好みでブレンドしてください。少しの量でも効果は絶大です。
この作業に最適なプラグインは、なんと言ってもAbbey Road Saturatorです。このプラグインには、あの有名なスタジオで使われていた2つのクラシックなコンソールプリアンプのエミュレーションが含まれています。これらのエミュレーションに加えて、信号にエキサイターのような働きをし、独特の高域の揺らぎを生み出すことができるコンパンダーモジュールが搭載されています。
Abbey Road Saturatorのハーモニック・サチュレーションをAUXセンドやインサートを介してボーカル信号にブレンドすることで、このポイントでボーカル信号に加えることのできる「色」の選択肢が広がります。このプラグインがボーカルのキャラクターにどれほどの効果をもたらすか、色々な設定を試してみましょう。
ヴォーカルのダイナミクスとトーンが整ったところで、今度は空間を加えてみましょう。ステレオのリバーブとディレイは幅を出すのに適しており、モノラルのリバーブとディレイは深みを出すのに適しています。一般的にリバーブやディレイは、トラックのテンポに合わせて時間を設定します。短い時間であれば小さな空間を、長い時間であれば大きな空間を作ることができます。
ミックスが混ざらないように、エフェクトのディケイが次のフレーズの直前にフェードアウトするようにします。ボーカルの拍子に応じて、1/8音、1/4音、1/2音などとします。
H-Delayは、特定の単語やフレーズを強調するためにディレイやエコーを加えるのに最適です。この設定では、AUXチャンネルにプラグインを挿入し、ボーカルのセンドをそのAUXにオートメーションで送るのが一般的です。 そして、繰り返してほしい言葉やフレーズを選択して送り、ディレイのタイム、フィードバック、EQフィルターを好みで設定します。
MIX HACK : Signature Series
ボーカルにEQ、コンプレッション、ダイナミクス処理、エフェクトをかけることは、科学であると同時に芸術でもあります。ありがたいことに、熟練したミキサーである
Chris Lord-Alge(Green Day、Muse)
Jack Joseph Puig(U2、Lady Gaga)
彼らがよく使うプロセッシング・チェーンをオールインワンのシグネチャー・シリーズ・プラグインに変換しました。
シグネチャーシリーズのプラグインは、EQ、コンプレッション、リバーブ、ダイナミクスの各処理をユニークに組み合わせ、さまざまなボーカルアプリケーションに対応するように設計されています。各プラグインには様々なプリセットが用意されており、目的のサウンドを素早く実現することができます。
オートメーションは、ボーカル処理の最後の仕上げです。曲の中でボーカルのボリュームを変化させるだけで、曲の展開に合わせてボーカルに命を吹き込むことができる非常に効果的な方法です。
同様に、曲の展開に合わせてリバーブやディレイ、サチュレーションをごくわずかにオートメーションさせることで、音楽や歌詞の内容をリスナーによりインパクトのあるものにするための効果を加えることができます。このテクニックで耳で聞くよりも感情的に「感じられる」ように仕上げるイメージを持つと良いでしょう。
実際ミキシングをするプロセスでは、セッションを開いてトラックを聴き、EQやコンプレッションのサウンドが明確にイメージできたら、それを実行してください。同様に、一つの細かい作業に没頭して、視野が狭くなった状態で繊細な調整を行っている場合は、より「機械的」な編集作業に移りましょう。作業を切り替えることは、ミキシングマインドにとって非常に有益であり、最高の仕事をするための大きな助けになるでしょう。
いかがだったでしょうか。 前編・後編と長くなりましたが、一連の作業を取り入れることで、リードボーカルをかなりブラッシュアップできると思います。
今一度、読み返してみて、どんな作業がどんな目的で行われるのかを意識することで、編集のスピードやコツがつかめるのではないでしょうか。
さあ、早速デスクに向かって制作しましょう。
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