2021.02.04
EQにはどのような種類があり、どのような場面でどれを使うのでしょうか?
ボード(緩やかなEQカーブ)かサージカル(鋭いEQカーブ)のどちらを使いますか?グラフィックEQかパラメトリックEQか?ダイナミックEQそれともスタティック EQか?ビギナーズガイドを読めば、あらゆる状況に対応した正しい選択ができるでしょう。
イコライゼーションとは、電気信号の中の周波数成分のバランスを調整する作業のことで、イコライゼーションを適用するための装置をイコライザー(EQ)と呼び、バンドと呼ばれる周波数帯域のエネルギーをブーストしたりカットしたりすることで機能します。
車に搭載されている低音や高音域のブースト/カットが可能なEQは、皆さんもよくご存じでしょうが、車に搭載されているEQの機能は限られています。本来EQの主な機能は、マイクや楽器のピックアップだけでなく、任意の電子音によってキャプチャされたオーディオの周波数のレスポンスを調整することです。
EQは操作が簡単ですが、ミックスのクオリティーに大きな影響を与えます。曲のさまざまな要素のバランスを調整し、ミックスの中に明快さを生み出すことができます。まさに、パズルのピースを組み合わせていくようなもので、レベルの設定とEQは非常に重要な役割を果たします。EQはLiveサウンドにおいても重要な役割を果たしており、エンジニアが機材を設置した部屋の音響効果を補正したり、スピーカーの周波数特性を「調整」したりすることができます。
EQには様々なタイプがありますが、どのようなオプションがあり、それぞれがどのように機能するのかを知っておけば、状況に応じて適切なEQを選ぶことができます。
グラフィックイコライザーとは、入力されたオーディオをバンク状に配置されたフィルターに送り、それぞれのバンドに基づいてオーディオを通過させ、スライドコントロールを使って各バンドの通過エネルギーをブースト/カットします。このタイプのEQは、スライドコントロールが周波数(X)に対するEQのレスポンス(Y)を表すグラフに似ていることから、その名がついたと言われています。
使用するフィルターの数によって、グラフィック EQ のタイプが決まります。例えば、フィルターの中心周波数が 1 オクターブの 3 分の 1 の間隔であり、1 オクターブに 3 つのフィルターを使用する EQ は、1/3 オクターブイコライザーと呼ばれます。同様に、1 オクターブあたりのフィルター数を半分にした EQ を 2/3 オクターブイコライザーと呼びます。オクターブあたりのフィルター数が多ければ多いほど、EQ のレスポンスをコントロールすることができます。
GEQ Graphic Equalizerは、ライブサウンド用のグラフィックEQの代表例です。このデザインは、バンドのゲインが上がるにつれてフィルター幅が狭くなるDNシリーズの1/3オクターブイコライザーにインスパイアされています。また、フラットトップフィルターを採用し、バンド間の相互作用による干渉を排除しています。
グラフィックEQは、エンジニアが各周波数帯域の微調整を気にすることなく、明確にマークされたスライダーで迅速な判断を下すことができるライブサウンドの状況に特に適しています。このアプローチは、より広いトーンのストロークが必要なミックスにも有効です。API 560もまた、このような目的で使用できる優れたグラフィックEQです。
パラメトリック EQ は、各バンドの振幅、中心周波数、帯域幅をコントロールできるマルチ可変バンドイコライザーです。振幅をブースト/カットしたり、センター周波数を周波数スペクトルの上下にシフトさせたり、各バンドの帯域幅を広げたり狭めたりすることができます。パラメトリックEQは正確な調整が可能なため、多くのケースでレコーディング/ミキシング・スタジオに適しています。
H-EQ Hybrid Equalizerは、イギリスやアメリカの様々なコンソールにインスパイアされたヴィンテージとモダンなEQカーブを特徴とするパラメトリックEQです。バンドごとに7種類のフィルターを選択でき、ミッド/サイドモードも可能です。また、バンドの中心周波数をキーボード上の音に合わせることができるキーボード・グラフィックも搭載しています。リアルタイム周波数スペクトル・アナライザー、独自の非対称ベル・フィルター、バンドごとのソロ機能、ライブ・サウンド・アプリケーションやCPUに負荷のかかるDAWセッションに最適なH-EQ Liteを搭載しています。このEQを使用することで、音色の決定を微調整したり、問題のある部分を外科的に除去したりすることができます。
スタティック EQ は、入力されるオーディオ信号のレベルに関係なく、バンドのエネルギーを設定された量だけブースト/カットします。ダイナミック EQ のようにスレッショルドレベルに依存してバンドのゲインをブースト/カットさせることはありません。基本的な EQ の多くは静的なものであり、DAW の一部である純正 EQ も同様に静的なものである場合が多いです。
スタティック EQ を使用するシチュエーションの例としては、クラブでサウンドシステムをセットアップする場合が挙げられます。例えば、会場のスピーカーの位置や部屋の形状によって、ダンスフロアの低音のレスポンスが9dBも低下してしまったとしましょう。自分でクラブの音響処理をすることはできませんので、スタティックEQを使用してサウンドシステムのローエンドを9dBブーストすることで、この問題を補うことが最善の方法です。これにより、クラブの他の部分で問題が発生する可能性がありますが、主なリスニング環境(ダンスフロア)での問題は解決されます。
ミックスの中で様々な要素を組み合わせる際には、RS56 Passive EQのようなスタティック EQ を使用してもいいでしょう。
ミックスのすべてのパートが素晴らしいサウンドを奏でていても、周波数がオーバーラップしてしまい、トランジェントが誇張されたり、特定のエレメントがマスキングされたりすることがあります。
このようなミックスをクリアにするためにスタティック EQ を使用する場合の例として、キックとスネアを一緒に ミックスする場合が挙げられます。キックのトップエンドが1~3kHzの範囲でスネアをマスキングしてしまうことはよくあることですが、サイドチェインコンプレッションのようなダイナミックなソリューションを活用しても、必ずしも解決するとは限りません。サイドチェーンコンプレッションを使用してキックを減衰させてスネアのスペースを確保すると、スネアがヒットするたびにキックのサウンドが変わってしまいます。スタティックEQを適用することで、キックのスペースを確保してスネアのスペースを確保し、スネアがヒットするたびにその効果を持続させることができます。
ダイナミック EQ は、スレッショルドベースの設計により、入力されたオーディオ信号に反応します。コンプレッサーとよく似ていますよね?一見するとよく似ていますが、その違いは、入力されたオーディオ信号をどのように処理するかという点にあります。
一般的なマルチバンドコンプレッサのクロスオーバーは、位相シフトを引き起こします。つまり、マルチバンドコンプレッサをパラレルコンプレッションに使用すると、ドライトラックと位相がずれた特定のクロスオーバーが発生する可能性があるということです。パラレルコンプレッションを行っていない場合でも、入力信号を圧縮していなくても、このような位相のずれはオーディオ信号に変化をもたらします。
一方、F6 Floating-Band Dynamic EQのようなダイナミック EQ は、入力信号がデバイスのトリガーとなるまで位相のずれが発生しません。つまり、一般的にマルチバンドのコンプレッサーよりも透明度が高いということです。
ダイナミックEQは、広い周波数帯域の処理に適したマルチバンド・コンプレッサーよりも、外科的な処理に適していることが多いです。例えば、ボーカルの共振周波数をノッチするような場合、狭い周波数帯域の処理に特化しているため、ダイナミック EQ を使用すると良いでしょう。
C6 のようなマルチバンドコンプレッサーは、バスコンプレッションを行う際にも使用されますが、ダイナミック EQ に比べてサウンドに色をつける傾向があります。
とはいえダイナミック EQも位相シフトを発生させますが、その位相シフトが聞き取れないような方法で使用されているケースが多くあります。先ほどの例では、共鳴するボーカルをダイナミック EQ で減衰させていましたが、その際に適用するノッチは非常に狭く、反応も早いため、位相のずれは聞き取れないほどわずかでしょう。ダイナミック EQ を使用した場合、共振周波数が存在しない場合でも、オーディオに影響を与えることはありません。
サージカルEQにより、非常に狭い帯域にブースト/カットをかけることができます。
パラメトリックEQで各バンドの中心周波数をコントロールできるため、気になるサウンドの周波数確認に最適です。Q10 Equalizerには、サージカルEQのブーストやカットを適用できる10バンドが収録されています。もしバンドの中心周波数を変更することができなければグラフィックEQとしてはかなりお粗末なものになってしまいます。
周波数の確認は、共振周波数をピンポイントで検出し、その周波数を減衰させることができます。そのためには、パラメトリック EQ のバンド幅を狭くします。バンドの周波数を大きくブーストしてから、共振周波数をターゲットにした周波数帯全体をゆっくりとスウィープしていきます。スピーカーから出力される信号が非常にシビアになってきたら、問題のある周波数を処理するまでバンドのレベルを下げていきます。このようにして、前項で述べたような過度に共振したボーカルに対処することができます。さらに、このタイミングでダイナミック EQ を導入するのも良いでしょう。
Scheps 73のようなミッドサイド EQ を使用すると、ステレオイメージの中央部の周波数をステレオイメージの側面の周波数とは無関係に、またその逆も同様に影響を与えることができます。このようなデバイスは、混雑したステレオミックスの中でスペースを確保したい場合に特に有効です。
特にミッドサイド EQ は、バスをミックスする際に最適です。例えば、ドラムバスとギターバスをミックスする場合を考えてみましょう。ハイハットが2本のリズムギターの後ろに隠れてしまっている場合もあるかもしれません。ギターバスに EQ を「サイドモード」に設定し、ハイハットをマスキングしている周波数帯をカットすることで、ハイハットを目立たせるのに十分な効果が得られるでしょう。このような状況でミッドサイド EQ を使用すると、ステレオイメージの中央部が影響を受けず、センターパンされたリードギターがそのまま残るという利点があります。
ミニマムフェイズ EQ のクロスオーバーポイントでは、マルチバンドコンプ レッサーの位相シフトと同様に、位相シフトが発生する傾向にあります。この位相シフトは、バンドのブーストやカット時の振幅の変化に伴うレイテンシーの結果として発生します。アナログの世界では、位相シフトの影響を最小限に抑えるために、ミニマムフェーズEQを製造している会社は、その名の由来となっています。状況によっては、EQが引き起こす位相シフトが望ましい場合もあります。
デジタルの世界では、アナログのエミュレーションが主流となっており、バンドの振幅を調整することで発生するレイテンシーなどのニュアンスがプラグインに組み込まれています。これを回避する方法はありますが、そうするとアナログに忠実ではなくなってしまいます。簡単に言えば、リニアフェイズ EQ よりもミニマムフェイズ EQ の方がサウンドに何らかの「色」を与える可能性が高いと言えます。
Linear Phase EQ のようなリニアフェーズ EQ は、純粋にデジタルであり、バンドをブースト/カットする際に位相シフトをゼロにすることができます。オーディオ信号の全体的な出力レベルに大きな影響を与えることなく、入力信号の高調波構造を操作することができます。この現象のため、リニア EQ はマスタリングに非常に適しており、最小位相の EQ に比べてサウンドに色がつきにくくなる傾向があります。
注意しなければならないのが、マスタリングの目的でリニアフェーズ EQ を使用しなければならないということではありません。ミニマムフェイズ EQ がミックスに与える効果が気に入ったのであれば、それを使用してください。ミニマムフェイズ EQ とリニアフェイズ EQ の違いを基本的に理解しておくことは、オーディオを処理する際の判断材料となるでしょう。最終的には、あなたの曲があなたにとって良い音であり、配信用に適切にフォーマットされているのであれば、どんなEQでも構わないのです。
EQには様々なタイプがあり、それぞれに長所と短所があります。EQを選ぶ際には、自分のニーズを把握した上で、そのタスクに最も適したEQを選び、実際に使ってみることが大切です。あなたが選択したEQが、思っていたものを表現することができない場合は、別のものを試してみてください。このような試行錯誤のプロセスは、あなたが最初に予想していた以上の望ましい結果を生み出す発見の道へとあなたを導いてくれる事でしょう。
さあ、早速デスクに向かって色々なEQを試してみましょう。