2022.03.30
メディア・インテグレーション(以下、MI)
Focal Professional Trio 6 Be を最近導入されたとのことでありがとうございます。このスピーカーに決めた理由はなんでしょうか?
メディア・インテグレーションのインタビュー記事などでもともと気になっていたのもあり、モニタースピーカーを買い替えようと思ったときにまず候補に上がったのがFocal Trio 6 Beでした。楽器店で他のスピーカーもいろいろと聞かせてもらったんですが、やっぱり明らかにTrio 6だけ違うぞ!ってなって(笑)
試聴ではいろんなスピーカーで音源を聞き比べて、その中でもTrio 6が一番「ミックスの粗」みたいなのが分かりやすかったんです。自分でもよいミックスができた!と思う音源は素直によく聞こえて、うまくいかなかったなと思っているものはよりダメなところが見えてくるというか。たまたま音楽を全くやらない友人も一緒にいたんですが、その友人でも分かるくらいに解像度がよかったんです。
MI
実際にスタジオに導入されたのはいつ頃だったんですか?
(2021年の)7月頃に購入して、すでに2〜3ヶ月ほど使っています。ただ実は今リリースされている楽曲ではTrio 6は使っていないですね。過去の音源を改めて聴いて、ここ直したいな…みたいなところがあったりもします(笑)
MI
「ミックスの粗がしっかりと聴こえる」と一番感じたのはどういうところですか?
僕は自身の音楽の活動以外にも、缶缶というネットアーティストの専属のミキサーとしても活動していて、例えば、バンドサウンドになるとEDMとかダンス系とかとミックスのやり方では何故か上手くMIXが纏まらない瞬間があって。そうなったときに以前使っていたスピーカーだと「これ以上詰められないな」という壁を感じてしまってたんですね。
Trio 6に替えたことで、ダイナミックレンジの調整だとか空気感の表現、ローエンドの調整が分かりやすくなりました。Trio 6はローエンドの見えやすさが半端ない!と思っていて(笑)以前使っていたスピーカーだとパワーはあるんですが「ローがブーストされてる」と感じてたんですよね。Trio 6 ではブーストされているのではなく「ローがそこに存在している」というか、音量としては大きくないんだけどちゃんと存在感があるんです。低域って今まではアナライザーをみて音量を調整していたんですが、聴感で分かるようになったので、ミックスもマスタリングも楽になりました。目ではなくて、耳で見えるようになった、という感じです。
MI
サブウーファを置かずに Trio 6 のみでローエンドまで再生する方法を選んでいただいているのですが、どういった理由ですか?
実はまだサブウーファっていうのを試したことがないんですが、1つのスピーカーから全域が鳴ってる方が気持ち的にいいですし、繋がり感みたいなものがあるのかなと感じます。別で置くとローエンドだけ分離して聞こえてしまう気がするので。
他にもTrio 6に替えたことで面白い変化があったんです。最近ネット界隈の人たちの中でもアウトボードを買う方が増えているんですが、スピーカーを替えてからアウトボードの効果もより聞き取れるようになってしまったので、そのせいでアウトボードがどんどん欲しくなって…今はいろいろな機材を買い漁っています(笑)
MI
ヘッドホンとの併用、聞き比べとか使い分けとかはありますか?その他セッティングでこだわったところなどもあればぜひ教えてください。
僕個人としてはヘッドホンはあまり使わないタイプで、スピーカーの音が好きです(笑)セッティングについてはやはり手軽にとはいかず、小型のスピーカーよりもシビアでした。この大きさのスピーカーを家で鳴らせるのかどうかで導入を悩んでる方は結構多いと思いますが、僕の部屋が6〜8畳くらいなんですけど、ちゃんと計測しながらセッティングさえできれば鳴らせることは判明しました。ただグラスウールの吸音ボードを敷き詰めたりとか、スピーカー背面の壁の位置とかも問題になったので、壁から離したりスピーカー間を調整したりとか…天井はどうしても消えてしまう周波数があったので、毛布を無理やり釣り下げたりして(笑)。
あとはスピーカーが部屋の壁と壁の距離の半分になる位置と、1/3になる位置で逆相になって消える周波数があったので、スイートスポットに定在波がこないようにシグナルジェネレーターでどの周波数が消えてるのかを聴きながら、音出しながらチェックして。SonarworksのSoundID Referenceも合わせて使ってはいますが、かけなくても大丈夫なくらい追い込んではいます。
MI
「6畳くらいの部屋でTrio 6は使えますか?」というような質問はよくいただくので、参考になります。縦置きか横置きかはどちらで使っているんですか?
MI
ミックスに対する姿勢や気をつけていることってありますか?
エンジニアさんにミックスしてもらう作品はもちろん素敵です。自分たちのようなクリエイターはいわゆる「ミックス」という意味では、プロのエンジニアとしてやってる方には勝てないと思ってはいます。でも「アンバランスなんだけどカッコいい」みたいなことをトータルでコントロールできるのが、ネットクリエイターの一番コアとなる部分だと思っていて。
エンジニアさん的には「ちょっとバランス悪いよね」っていう感じだったとしても、「多少音がぶつかっててもカッコいい」とか「アレンジが薄いけどお洒落」みたいなところがリスナーさんに届いているのであれば、それを大事にするべきと考えています。そういったスタンスで音を判断するとき、例えばローエンドをちょっと出し過ぎかな?と思ったときに、エンジニア的視点での正しさと自分がかっこいいと感じる要素のバランス、せめぎ合いみたいなのを、Trio 6だとより詰めていける。「どこまで攻めてやろうか?」みたいなことにチャレンジできるようになりました。
あとはドラム音源とか立ち上げてそのままで鳴らしても、パワーがあるから気持ち的にもテンション高く作業を進めていけるので、そういう意味でもいいスピーカーだなーと思います。聴いてる音がそのまま最終ミックスにも反映されるから、作ってる時になんとなくいい感じにしておけば大丈夫っていうのもありますね。
MI
楽曲によって制作のアプローチを意識的に変えたりするんでしょうか。
ボーカルを担当していただく方によっても違いますし、それに合わせて住み分けはしています。でも全部共通して言えるのは、メジャーとかは意識せずに、自分たちが楽しく、自分たちのやりたい音楽をやりたいようにやるっていうところを共通のテーマにしています。
最近だと缶缶の「ROAR」というアルバムでは、たくさんのボカロPさんとコラボする機会があって、名だたるボカロPさんの曲をミックスさせていただいたんですけど、ボカロPさんの音源ってその人独自のバランスで成り立ってて、ミックスで整理すればするほどその人の良さがなくなっていっちゃうみたいなのもあって。最終的にはパラデータを貰ったのに、どうしても元のボカロPさんの作ったDEMOの雰囲気が良くて、2MIXのインストを使って歌をミックスさせて頂くこともありました(笑)
昔だと大規模なスタジオに行かないとできなかった作業が自宅でも結構なレベルでできてしまうので、あえてアンバランスにするとか、セオリーを外していくとか、そういった調整が自由にできるというのは自分たちだからこその特権ですよね。クリエイター、エンジニア的な目線として「クオリティが高い」というのと、リスナーさん目線での「いい曲」。もちろん両方よければいいんですが、Trio 6はそういう目線でもバランス感を掴みやすくて、新たな音楽制作の形を実現できる最高のスピーカーだと思います。