2023.02.14
「先日、札幌と旭川にDJで行っていたんですけど、その時OP-1 fieldを持って行って、電車の中でいじっていたんです。移動中にできることって今まではメモ程度のことしかなかったけど、OP-1 fieldは完パケまで作ることも無理ではない。コンピュータを使わずにここまでできるというのは、今までなかったですよね」
そう語るのは、説明不要のテクノDJ、石野卓球氏。OP-1 fieldの導入について伺った。
MI
卓球さんはオリジナルのOP-1も所有されていて、今回新たにOP-1 fieldも入手されたとのことですね。オリジナルOP-1はどういった経緯で購入されたのですか?
石野 卓球さん(以下、卓球)
エンジニアの渡部高士から教えてもらって、発売してすぐ買ったんです。登場したときのインパクトもすごかったし、何より見た目がいい。他のシンセとは全然違うじゃないですか。オモチャっぽいルックスなんだけど、圧倒的に「オモチャで片付けられない値段」が気にさせる要素だった。サイズ感もいいですよね。スピーカー内蔵っていうのも当時珍しくて、ちょっと遊ぶにはいいなと。一風変わった電子楽器、みたいな捉え方をしていました。
でも実はオリジナルのOP-1はあまり本格的な使い方をしてなくて、待ち時間にいじったりちょっと音を出したいときにサッと使ったり程度だったので、正直宝の持ち腐れだったかもしれないですね。
卓球
今回、OP-1 fieldを入手するにあたってメディア・インテグレーションのスタッフに色々とレクチャーしてもらって、アルペジエイターだったりシーケンスの作り方だったりを理解したんですが、すごく面白い。改めて思ったのは、他のシンセとは明らかに考え方が違うなと。
MI
シンセサイザーであり、リズムボックスであり、またレコーダーとしてもルーパーとしても使えるテープモードがあったり、サンプラーでもあります。いわゆるオールインワンのワークステーション的シンセでもありますね。
卓球
でも最近のワークステーションっていうと、とにかくイカついシンセばっかりですよね。いかにも「音楽作るぞ!」みたいに構えて使う感じがする。OP-1 fieldを触っていて思ったのは、そもそも他のシンセとかワークステーションと成り立ちが違っていたので、違う言語で話してあげた方がいいんだろうなと思ったんですよ。
MI
成り立ちが違う、違う言語で、とはどういったところでしょう?
卓球
OP-1 fieldでは曲のストラクチャーを作る場所が「テープ」になっていますよね。ハードでもソフトでも、最近の製品の多くはグリッドに沿った作り方が当たり前になっているけど、OP-1 fieldはテープだから、好きなところに好きな音を入れて行けばいいだけ。それにこのスイッチのような鍵盤は、流暢に演奏をしようという考え方じゃないところにあるんだろうなと。だから、今までの鍵盤付きワークステーションとは違う。自分の考え方を変えて接してみると、すごくフレンドリーなシンセだなと。
MI
OP-1 fieldを触っていて、機能面で気に入ったものはありましたか?
卓球
まだ自分でも細かいところまで組んだりはしていないんですが、このドラムのFinger(シーケンサー)とかはすごく面白いですよね。グラフィックも本当にフザけてていい(笑)
MI
2匹のゴリラが印象的なシーケンサーですね。各鍵盤にさまざまなフレーズをメモリーして、リアルタイムにフレーズを差し替えたり、重ねたり、フィルを組んだりなどできます。
卓球
これともう1つ、Endless(シーケンサー)も面白かったな。これわかりやすくて良かったです。これはずっと遊んでしまうな。
MI
鍵盤を押した順番で再生を行ってくれるシーケンサーですね。OP-1でこのシーケンサーが搭載されてから、他社製品でも同じような構造のシーケンサーを搭載するものも出てくるほど、多くのフォロワーを産みました。ただ単に順番を追うだけでなく、拍を増やしたり、フレーズ全体のノート位置だけをリアルタイムにずらしたりできます。
卓球
あーこんなに変わっていくんだ。これは面白い。この発想は他にはないですね。
サンプラーも入ってるんだよなって、なんか試しににサンプリングできるものないかなって探してたら、うちの犬がたまたま騒ぎ出したのでサッと本体内蔵マイクで録ってみたんです。サンプリングが終わったら、勝手にチョップしてくれて、鍵盤に自動で割り振られてた。
MI
はい、サンプラーには2つのモードがありまして、1つは音程をつけるタイプのサンプリング、もう1つが卓球さんの例にあったような、ワンショットの素材を作るようなサンプリングです。こちらのモードでは、連続して鳴った音を自動的にチョップしてくれます。OP-1 fieldではステレオ・サンプリングにも対応し、本格的な音楽制作にも使えるようになっています。
卓球
これをコンピュータとかでやろうとすると、実は結構面倒臭いじゃないですか。それがこの手っ取り早さでできるのが良いんです。
MI
他にないシーケンサーとしては、TOMBOLAというものがあります。六角形の箱があり、鍵盤を押すたびに重力モデルに沿って球が落ちて、枠に当たるたびに音を発音するという、一風変わったランダムフレーズを作成するシーケンサーです。手動で箱を回すこともできます。
卓球
えーこれは知らなかった。このTOMBLAは鍵盤を弾いてると絶対でてこないようなランダムで有機的なフレーズが出てきそう。ランダムなんだけど、ただのデタラメじゃないところもいい。だからやっぱりテープでレコーディングというのが生きてくるんだろうね。同じようなことをグリッドに沿ったレコーダーでやってもつまらない。このテープは、オートクオンタイズとかそういった機能はあるんですか?
MI
テープ部分にクオンタイズ機能はありません。テープを回してリアルタイムに手弾きする、またはシーケンサーで組んだフレーズをトリガーしたパフォーマンスを録るという使い方ですね。
卓球
そこも本当に「テープ」なんだ。その考え方もいいな。僕ね、頭の中にイメージがあって、それを具現化しようって作業がそもそもつまらないというか、一回浮かんだものを再現しなきゃいけないっていう徒労感みたいなものを感じるんですよ。
それよりも、自分が思ってなかったところから球が飛んできて、そっちの方向にそれていくような作り方が好きなんです。長くやっているとどうしても手癖のようなものができてしまうから、マンネリな方向に陥りがちだし。
MI
長く続けていらっしゃる卓球さんだからこそ、この言葉に重みがありますね。まるでシンセサイザーとセッションをしているような感覚でしょうか。
卓球
今でこそ色々な機材をつかって、ある程度狙ったところに球を飛ばせるようになってきたけど、昔はそもそもシーケンサーって何?くらいの時代もあったし、とにかくデタラメに色々と打ち込んでみたらとても鍵盤で弾けないようなフレーズが出てきたということが衝撃で、そういった作り方が好きなんですよね。なんか、ブラックボックスを相手にしてるみたいな。
OP-1 fieldを触っていると、一番最初に(Roland)TB-303を触ったときのような衝撃、楽しさがありますね。ランダムなんだけど音楽的。ちゃんと「楽器」を触ってるって感じがする。特定の音色やフレーズを作りたいっていう思いを一回捨てて触った方がいい楽器ですよね。そうすると、自分の想像を超えたものが出てきてくれる。
MI
シンセを触ったことがないような方でも使えるでしょうか?
卓球
むしろ、今まで楽器すらやったことない人ほど、すんなり入れて使いこなしちゃうかもしれないですね。飲み込みの早い子供とかもパッと覚えて使いこなしちゃうんじゃないかな。
MI
無垢な気持ちで使うことで、新たな発見があるシンセといえるかもしれませんね。
卓球
こういう小さなシンセっていっぱいあるし、実際いくつも買って使ってきたけど、音質もそれなりでしかなかったんですよね。でもOP-1 filedってちゃんとプロのプロダクションとしても成り立つ音質してる。特にfieldになってからはスピーカーの進化もすごい。キックの音がちゃんとキックで聞こえるし、これはこのサイズですごいなと。
MI
新しくパッシブラジエーターが本体に搭載されたので、ワイドレンジに進化しました。
卓球
先日、札幌と旭川にDJで行っていたんですけど、その時OP-1 fieldを持って行って、電車の中でいじっていたんです。移動中にできることって今まではメモ程度のことしかなかったけど、OP-1 fieldは完パケまで作ることも無理ではない。コンピュータを使わずにここまでできるというのは、今までなかったと思う。
もちろん僕も普段使っているような仕事用のでかいシステムもあるけど、そういうシステムからは生まれない音楽ができるだろうな。構え方も、アプローチの仕方も他社の製品とはまるっきり違うし。自分でも気がつかない違う側面を見せてくれるハードウェアなんじゃないかな。
MI
日によって生まれてくる音やフレーズも違ってくるかもしれませんね。
卓球
そうですね。普段電車とか飛行機を使って移動している人が、もしも凄く性能のいい自転車を手に入れたとしたら、その自転車でどこかへ出かけたくなりますよね。歩くよりも遠くへ行けるけど、かといって電車や飛行機とは違う場所にいくはず。OP-1 fieldはそういう感覚が持てる間違いのないシンセだと思いました。
アーティスト
1989年にピエール瀧らと"電気グルーヴ"を結成。
1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。
1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル"Love Parade"のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。
1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ"WIRE"を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。
2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。
2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。
そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。
現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。
HP – http://www.takkyuishino.com/
Twitter – https://twitter.com/TakkyuIshino
Instagram – https://www.instagram.com/takkyuishino/