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Focusriteが私に与えてくれるもの

2017.10.12

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Kim Studio 伊藤圭一

 

Focusriteは、早くから時代の流れを読んだ設計をしている。

皆さんは、Focusrite にどんなイメージをお持ちだろうか?

私にとって、Focusriteのサウンドを形容する言葉は「透明」「ピュアー」「ノイズレス」「ワイドレンジ」……そして、メーカーの印象としては、歴史があり(History)実績がある(Performance)。斬新で技術革新があり(Innovation)デザイン性が高い(Design)。有用(Useful)かつ便利で(Convenience)、そして高価(Expensive)。

 

初めて音を聞いた時、テスト機に触ってから5分も経たないうちに購入を決めていた。透明感のあるFocusriteサウンドとの出会いは、ISAシリーズだった。その後、Liquid Channel で度肝を抜かされた。それぞれ1chのチャンネルストリップなので、ステレオ使用ができるように2台ずつ手に入れた。

それから長年、ISA430とLiquid Channelは、私の道具として、いやパートナーとして、いつも使い続けてきた。ということは、皆さんの耳に届けてきたサウンドには、そのFocusriteサウンドが含まれているわけだ。

 

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Focusriteは、早くから時代の流れを読んだ設計をしている。コンピューターの台頭により、レコーディング業界が大きく変革していく過程で、大規模スタジオからプロジェクト・スタジオやプライベート・スタジオへと移行し、レコーダーがMTRからDAWへとシフトし始めると、大型コンソールから離れ、チャンネルストリップという考え方を早々に取り入れている。

わが国では、まだプロジェクト・スタジオという言葉が使われていないような頃から、私はプロジェクト・スタジオの典型的なスタイルとして Kim Studio を構築したわけだが、それにはチャンネルストリップは最適だった。多くのミュージシャンを並べて、一度に沢山のトラックを録音するのではなく、1〜2ch(ステレオ)程度のトラックをダビングすることで、丁寧に音楽を作っていくというスタイルは、私の考え方や時流にもマッチしていた。それは今も変わらない。演奏家の技量に任せっきりにせず、一つ一つの音にこだわって、アレンジやサウンドを追究できるので、個性豊かな音楽を作ることができるのだ。

そして、単にコンソールの一部を抜き出した機能というだけでなく、マイクレベルの微弱な信号を長く引き回さないために、リモートHAとしてブースのマイク近くに設置できたり、出先のスタジオに持ち運べることでも重宝した。

 

一番には、好みの音。透明感のある、
整った倍音が豊かな音は、Focusriteだけのもの。

レコーディングからミキシング、そしてマスタリングまで、様々な行程で有益なツールとしてフレキシブルに使えるものを求めていた、私のニーズを知っていたかのように提供されたのが、FocusriteのISAシリーズだった。

一番には、音が好みだった。透明感のある、整った倍音が豊かな音は、Focusriteだけのものだ。EQやコンプ、デュエッサーの効きも的確で、使っていて楽しい。

特にISA430は、チャンネルストリップとして完璧な考え方で設計されていた。詳しい機能は別の記述に譲るが、1台で様々な使い方ができる点は、本当に素晴らしい。また、私は音像を重視してステレオ録音に拘るのだが、そんな時も完璧なステレオマッチング&ステレオリンクしてADされたソースが得られる。

 

そして、私を魅了したのはそのルックスだった。NeveやSSLなどのコンソール・メーカーがグレーを基調とし、TC.Electronic、Roland、YAMAHAなどのエフェクター・メーカーが黒を基調としていたのに対して、爽やかなブルーに明るいイエローのキャップのノブが配されたデザインは、一目でFocusriteのISAシリーズとわかるインパクトのあるものだった。パネルには青、ノブのキャップが黄色、そしてスイッチなどのLEDインジケータが赤という、普通に考えれば、信号機のようなとんでもない色合いが、こんなにもオシャレにデザインされたものは、レコーディング機器という分野にとどまらず見たことがない。このデザインだけでも、レコーディング・スタジオに置いておくだけでグレード感が上がるほどに存在感がある。このカラフルさは、音にも現れており、メリハリがきいた分離の良い鮮やかな音は、他に例がない。

 

正直言って、私はFocusrite信者ではないので、他にも沢山のメーカーの機器も愛している。Millennia、Grace Design、Neveなどなど、その時々の目的に合わせて使い分けている。その中でも、透明感が求められる場合や、大きなゲインアップを必要とする音量の小さな楽器、倍音が乱れず滑らかであって欲しい場合などは、あれこれ試してみてもFocusriteが選ばれることが多い。

ここで、私がおこなうチェック方法をお話ししよう。人間は目からくる印象とか過去の記憶に振り回されることが多く、ブランドのイメージで選びがちになるので、ブラインドすなわち目隠しで選ぶことにしている。つまり、他の条件を揃えて何かだけを入れ替えるA/B比較をして、自分が好む方を選ぶ。HAの場合は、完全ブラインドで選択できるし、EQなどでは、複数の機器で事前に自分が一番好きな音にEQしておき、時間を置いてからブラインドで音だけを聞いて選び直すわけだ。そうしたシビアでクールな勝負の中で、Focusriteの勝率は非常に高い。

 

私たちプロは、仕事としてサウンド・メイキングをするわけなので、必ずしも自分だけの判断で決めるとは限らず、アーティストやクライアントの意見を聞くことも少なくない。彼らは、私がどのイクイップメンツを使っているかを知らずに選ぶのだから、常にブラインドということになる。そのなかであっても、ボーカリストや楽器の演奏家にはすこぶる評判がいい。おそらく整って伸びた倍音が耳に心地良いからだろう。

すべてのことに言えるのだが、静特性がどれだけ良くても、実際の使用状況で力を発揮できなければ意味がない。HAで重要なことは、実際にマイクを接続してどんな音になるかということ。ISAのサウンドを確立している一つの鍵は、マイク受けのトランス回路だろう。

トランスの音を聞いたことが無い方もいるようだが、是非聞いてみて頂きたい。私が今も使い続けているレジェンダリーな名機としてNeve/33609、Studer/A820などがあるが、入出力にトランスが使われている。私がプロフェッショナル・レコーディング・スタジオで聴いた “プロの音” は、トランスが決め手だったようにさえ思う。

スタジオでは、ケーブルの引き回しと、沢山の機器間での信号の受け渡しは避けられない。そこで重要になるのは、コネクションだ。ベストなのは、ローインピーのバランス信号となる。距離がごく短いケーブルであれば、インピーダンスが少々高かろうが、アンバランスであろうが、さほど問題にならない。デスクトップ・コンピューターだけで音楽を作るのであればともかく、マイクでボーカルや生音を録るとなれば、自ずと引き回しは長くなる。マイクからHAへの信号の受け渡しには、入力インピーダンスが大きく影響するし、HAからADへの受け渡しでも大切だ。先ほども言ったが、特性としてどれだけの値を誇っていても、実際につながるのはマイクであり、その出力段にトランスが使われていることもある。そして肝心なことは、そこに流れる信号は、複雑に変化する音楽信号だということ。一定レベルのサイン波の歪率など全く関係がなく、音さえ良ければ、歪率が高かろうが周波数特性が暴れていようが、どうでもいいとさえ言える。とはいえ良い音は、意外にも測定しても良い特性を持っているから不思議だ。

 

一方、ノイズレベルに関しては、低いに越したことはない。ノイズも音であるという場合もあるが、それは楽器や楽器アンプであって、スタジオ・イクイップメンツでは、ローノイズが基本だ。その点でもトランスには、素子ノイズが避けられない電子バランスにはない静粛さがある。

 

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そんな様々な理由から、最高にユースフルなのがISA430だった。ラッキングされ放熱不足でも使えるよう430MK2へと進化を遂げ、現在も生産され続けている。決して安価ではないこの製品が、長年作り続けられているということは、それだけのニーズがあることの最高の証だ。音楽にも言えることだが、ベストセラーであることより、ロングセラーであることこそが最高の評価に他ならないが、なかなかできることではない。

 

ところでFocusriteは、完全プロ用機器を提供しながらも、様々なレンジの製品群を提供し続けている。レコーディングを身近にするノートパソコンとセットで使われるオーディオ・インターフェイスでは、Scarlettシリーズが同価格帯ではトップのシェアーを占めているという。この事実を見ても、ニーズを的確に捉え、かつ高品質な製品を送り出しているメーカーであることがわかる。

そして最近、Redシリーズの新しい製品群が充実してきた。ProToolsのインターフェイスとしてはもちろん、DANTEにも対応したRed NETに興味がある。

私が理事を務める財団で、新しいホールのプランニングに関わっているのだが、サウンドのキーになるオーディオ機器、特に肝となるHAとADには、Focusrite/Redシリーズを考えている。DANTEでネットワークを組むことで、ホールの各所で有益なネットワークを簡単に構築できることは特筆すべき魅力だ。しかもそれがFocusriteサウンドのクオリティーで……。

 

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さて最後に、冒頭にFocusriteというメーカーの印象として「高価」と書いたことに触れたいと思う。これは、私がレコーディング・スタジオを作ろうとした頃は大型コンソールが必須で、当時の選択肢としてFocusriteコンソールは、高嶺の花だったからだ。主流はSSLで、ほぼ同じ仕様でNeveだと倍、Focusriteだと3〜4倍もした。そのためコンソールでは入手できなかったが、それをチャンネルとして切り売りした形のチャンネルストリップとして手に入れたのが、ISA430だった。

 

今日も明日も、Focusriteが新しいインスピレーションを与えてくれる

コストと質はなかなか両立しない。コストと引き換えに質を諦めなければならないことも多い。そのバランス感覚は難しいが、一つだけ言えることは、予算を先に決めて選ぶのではなく、まずはコストを度外視して、クオリティーや好みを優先して選んでみる。そしてその上で、コストを検討する。現在のFocusriteは、当時とは違い現実的な価格設定だと思う。また、Focusrite/ISA430やLiquid Channelを長年使ってきた私に言わせれば、“何年間、使えるのか” しかも “何年間、自分がそれを好きでいられるか” が肝心。要はコストパフォーマンスの高さとは、コストに対するパフォーマンスの比に、使える年数を掛け合わせることで判断すべきなのだ。そのためには、メーカーの信頼性は重要であり、海外製品の場合は輸入代理店も非常に重要だ。その点、国内代理店のメディア・インテグレーションは、輸入業務だけでなく、製品開発、ショップと全方位に窓口を持っているので、ユーザーフレンドリーな体制が整っていて安心だ。

 

私はこれからもずっとFocusriteを使い続けていくのだろう。今日も明日も、Focusriteが新しいインスピレーションを与えてくれるに違いない。

 

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プロフィール

伊藤 圭一

サウンド・プロデューサー&レコーディング・エンジニア

 

変幻自在なサウンド作りゆえ『音の魔術師』の異名を持つ、日本では稀なエンジニア出身のプロデューサー。

音響心理学や音響工学をベースに、論理的なアプローチから生み出されるアーティスティックなサウンドは、独創的で唯一無二な世界観を作り出す。

「Number OneではなくOnly One」の発想の元、音と音楽を追求する理想郷を求め、20代半ばで南青山に Kim Studio と(株)ケイ・アイ・エムを設立し、プロジェクト・スタジオの先駆けとなる。

SONY、YAMAHA、Roland、Digidesign(Avid)、ATVなど音響楽器メーカーの技術顧問やアドバイザーを歴任し、MIDI規格、シーケンサー、ハードディスク・レコーディングなどの礎を築くと共に、数々の名機を開発するなど、今日の音楽のスタイルを構築した功績は大きい。

 

「アーティストをスターに例えるなら、私はその星を輝かせるための夜空になります」との言葉通り、映画、テレビ、アニメ、ゲーム、イベント、スポーツ、CM、企業イメージなどあらゆるジャンルで、個性付けにより印象的で長く残る作品を数多く世に送り出しており、サウンド・プロデュースした映画の海外音楽賞受賞、TV番組の視聴率で歴代No.1獲得、フィギュア・スケーターの金メダル獲得なども実現している。

一方で、専門誌などへの執筆や “Japan Expo”(仏)、“Hyper Japan”(英)など国内外でのプロデュース、セミナー依頼も多数。日本初 “東京コミコン” 統括プロデュースなど、音楽分野にとどまらずワールドワイドに活躍。

 

株式会社ケイ・アイ・エム:代表取締役、Kim Studio:チーフエンジニア、公益財団法人かけはし芸術文化振興財団:理事、洗足学園音楽大学/大学院:客員教授

 

公式ホームページ

www.k-i-m.co.jp

www.k-i-m.co.jp/itohkeiichi.html

 

関連製品

ISA 430 MkII

 

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