2022.12.15
ボカロPとして2009年より活動を開始し、現在は主にミックス、マスタリングを多数手掛けるかごめP氏。弊社主催のミックスセミナーなどでは氏のテクニックを存分に公開/解説してくださっており、参考にされているユーザーも数多いことだろう。
これまで数多くのモニタースピーカーを使ってきたというかごめP氏だが、新しいプライベートスタジオへの引っ越しを機に、Focal ALPHA 80 EVOを導入したとのこと。
白を基調とした非常にスタイリッシュなスタジオの中で大きな存在感を放つALPHA 80 EVO。導入に至る経緯やお気に入りのポイントなどを伺った。
MI
FocalのALPHA 80 EVOを導入してくださったと伺いました。導入に至った経緯や印象などを伺えますか?
かごめPさん(以下敬称略)
ちょうど自宅のモニタースピーカーをもう少し口径の大きいものにしたいなと考えていて、WAVESのセミナーで毎月メディア・インテグレーションの方と話すこともあって話題に出てきたのが新製品のALPHA 80 EVOでした。
MI
ALPHA 80 EVOは8インチ、ニアフィールドとしては少し大きいモデルです。
かごめP
以前使っていたスピーカーは6.5インチのものだったのですが、少し広い部屋に引っ越しをしたんです。新しい部屋はスペースにも余裕があったので、ピンポイントで8インチのスピーカーを探していたところでした。正しい低音を判断しようとすると、やはりある程度の口径の大きさが欲しいなと思って。
MI
Focalというブランドはそれまでご存じでしたか?
かごめP
はい、自分で所有したのはこのALPHA 80 EVOが初めてですが、SNSなどで他のクリエイターやエンジニアさんのスタジオ写真を見てみると、Focalを使っている人の比率が高いなと思って見ていました。実際に導入してみてこれは納得ですね。もちろん、モニタースピーカーはこれまでいくつかのブランドのものを使ってきましたし、新しいものを検討するたびにFocalは候補に入る1つでした。他社と違って、ツイーターが「反対側に引っ込んでいる」のが印象的ですよね。
MI
Focalならではの「リバース・ドーム・ツイーター」ですね。これによって、より広い指向性、正確なダイナミクスの再現性が得られるようになっています。実際に設置をしてみて、第一印象はいかがでしたか?
かごめP
確かに、届いてすぐ開封して雑に置きながら音出しをしてみたのですが、それでも想像以上にミドルの帯域がちゃんと出ていて、まずそこに驚きました。もちろん低域の正確な再現を得たくて8インチモデルを買ったのでローエンドはしっかり出てくれるし、ハイも好印象でしたが、ミドルの解像度がすごく高くて。当たり前ですけど「ミドルがちゃんと真ん中にいる」という感じというか。
実はこれ、ウーファーとツイーターを繋ぐクロスオーバーの問題だなってことは、以前から分かってはいたんです。今までのスピーカーではどうしてもクロスオーバー付近の1kHzとか2kHz辺りの解像度が気になってしまっていたのですが、ALPHA 80 EVOは全然気になりませんね。
MI
ミドルには音楽に重要な要素がたくさん集まりますから、ここの解像度が高いことは重要ですよね。
かごめP
その通りですね。そういえば、Focalがフランスの会社だと知って、妙に納得するお話があって。実は僕、一時期フランスのポップスやEDM、ヒップホップ辺りの曲を聴き漁っていたことがあるんです。フランスって、割とミドルの強いマスタリングをするんですよ。同じような話で、フランス製のソフトシンセって結構ミドルが強めな音だなという印象を持っています。
Focalがフランスと聞いて「あ、やっぱりフランスの音楽シーンぽいな」と思うところがあって。僕がFocalの音が好きな理由はここにもあったなと思っていたところです。
MI
導入されてすぐにALPHA 80 EVOの周波数特性を計測されてみたとか。
かごめP
はい、補正のために計測を行ったプロファイルがあるのですが、ALPHA 80 EVOは本当にスペック通り、38Hzまで再生してくれていることも、この図からわかりますね。直前まで使っていたスピーカーだと、40Hz近辺は全然聴こえない状態でしたから。この10Hz分の差はめちゃくちゃ大きいし、シンプルに嬉しいですね。
MI
50Hzより下は、可聴範囲とはいえ「聴く」というよりも「感じる」に近い体験になっていくかと思います。ここまで特性が伸びていることで、どのような変化があるのでしょうか?
左が新しく導入されたALPHA 80 EVOのプロファイル、右は以前まで使用していた他社製6.5インチスピーカーのプロファイル。
ALPHA 80 EVOは30Hz代の超低域もカバーしていることがわかる。
かごめP
日本人のスタジオエンジニアさんがミックスされたものだと、50Hzくらいから下はカット、あるいは結構抑えられちゃうことがありますが、ボカロ曲なんかでもここ数年で30〜40Hzを活かした音楽が増えてきているんです。もっというと、20Hzまで平気で使っているメジャー曲もあったりします。もちろん音楽に関係のない部分であればカットすべきですが、それが楽曲を構成する一部だとすれば、そういったトレンドには対応していきたいなとも思っています。
以前使っていたスピーカーだと、レンジの広い音楽を作れば作るほど「スピーカーが無理をしているな」という感じがして、そこで口径の大きいスピーカーならもうちょっと余裕をもって再生してくれるだろうなと思ったんですね。
MI
聴こえなかったものが聴こえると、制作にはどのような影響がでますか?
かごめP
キックやベースがどれくらいの長さで、いつ音が止まって、どんなグルーヴを出しているのかとかは、明らかに以前よりもクリアに解ります。だから、音作りの段階から変わるとも言えますよね。
ローエンドがここまで解りやすくなると、以前よりもミドルの意識や解釈が変わります。以前はミドルを抜けさせるためにもっと上の倍音を調整するしかないかという考えに寄りがちで、それを矯正するために労力を使っていましたが、このスピーカーにしてからその傾向から抜け出せました。ミドルへの意識も変わりましたし、コンプとかEQ、ゲートのスレッショルド設定も敏感になりましたね。
MI
本体のデザインやカラーなどはいかがですか?
かごめP
すごく気に入っています。この部屋にも合ってるなって思ってて。それから、バスレフが前にあるというのもセレクトの理由になっています。バスレフポートが後ろだと、やはり壁に近づけたセッティングがしにくいし、これって結構大事ですよね。
MI
最後に、ALPHA EVOシリーズはどういった方におすすめですか?
かごめP
うーん、普通の回答になっちゃうかもしれないけど、ヒップホップベースの音楽とか、アンビエントなどもそうだと思うけど、キックやベースのローを気持ちよく・正しく音作りしたいという人、そこに重きがある人には絶対におすすめですね。僕は直前のスピーカーが他社の6.5インチのスピーカーでしたが、8インチになって世界が変わったくらいの気持ちです。30Hz台までカバーしていることの意義は大きいですね。
でも、こういう事を言ってるとなんか「派手な音のするスピーカー」と思ってほしくなくて、非常にオーソドックスで、変な色気が付いたスピーカーではないと思っています。ジャンルを問わずチェックしてみてほしいですね。