2019.08.20
エフェクター、アンプ、キャビネットからマイクまで、統合されたギターリグ・シミュレータのBIAS FX。
このBIAS FXがVer2にアップデートされ、より高音質に多機能に生まれ変わりました。
BIASシリーズを発売当社から使用され、デジタル機器を縦横無尽に使いこなした音作りにも定評のある、ギタリストの鈴木健治さんにBIAS FX2のアップデートされたポイント、そしてギターの音作りから演奏まで、各種秘訣を聞きました。
MI
鈴木さんには過去に「BIASシリーズを使いこなそう」という連載記事を執筆いただきました。
当時に比べてアップデートされたBIAS FX2はいかがですか?
鈴木健治 氏(以下 鈴木)
すごく良くなりましたね。バージョン1のころもアンプを鳴らしている感が突出していましたが、よりエンジンがブラッシュアップされていると思います。
特に前から感じていたのが、BIASシリーズはレイテンシーの小ささです。ギターを弾くのに重要な要素ですが、ソフトウェアの中では抜群に速いと思います。そしてBIAS Amp2のリリース時にも感じましたが、BIAS FX2も解像度がより上がっていますね。特に少し歪んだクランチ系はすごく良いです。
MI
ピッキングの強弱のニュアンスや、ギターのボリュームを絞った時の反応のニュアンスはいかがでしょうか?
鈴木
実際のアンプ同様によく追従しますね。微妙なコントロールってギタリストには凄く大事ですし、クランチ系は演奏にも大きく影響します。この辺の追従性は一貫してBIASの良いところですね。
あ、あとプリセットのロードも早くなりました。色々プリセットを切り替えて音色を選ぶ時も快適です。
それからキャビネットシミュレータも良くなりました。2chのマイクと設置の自由度は高いですね。実際にマイクを立てると、極端に音が変わって結構難しいんですが、設置位置のイメージが的確に反映されて上手くデフォルメされていると思います。
MI
実際にキャビネットにマイクを立てると、思い通りの音にするのはなかなか難しいですよね。少しずれただけでも全然違う音になったり...。
鈴木
そうですね。それがギター弾きながら座って変えられるし、しかも破綻しないのが良いです。
そして、新たな機能として搭載されたGuitar Match機能は、これまでの技術が反映されてて、今後の進化が非常に楽しみな機能ですね。
MI
Guitar Matchはこれまでのマッチ機能を拡張した、ギター自体の音を別のモデルに変える機能です。後ほど詳しく伺います。
MI
今回はBIAS FX2で代表的なクリーン、クランチからハイゲインまで4つの音色を作っていただきました。
実際にBIAS FX2をお持ちの方は、同じプリセットをToneCloudからダウンロードいただけますので、ぜひダウンロードしてお試しください。
*紹介された各パッチはBIAS FX2のToneCloudからダウンロードいただけます。
ToneCloudの検索ウィンドウから、それぞれパッチ名で検索してダウンロードしてください。
また、ID ”kenji suzuki”からでも、鈴木さん作成の全ライブラリーが検索いただけます。
まずはクリーンサウンドです。
MI
これはどのようなイメージで作られたのですか?
鈴木
80-90年代の往年の豪華なライン系の音をイメージしました。 最近ではクリスタルクリーンと呼ばれる音ですね。
MI
かなり深いコーラスですね。奥行き感があります。
鈴木
MI
この奥行き感は複数のコーラスによるものなんですね。
鈴木
各コーラスのデプスを浅めと深めにそれぞれ分けることがキモですね。それぞれの揺れ具合も重なって汚くならないよう調整は必要ですが、すごく深みが出るんです。
昔はEventideのH3000をよく使っていました。8層コーラスとかありましたね。プリセットのRich Chorusはお気に入りでしたので、そんなイメージにもしています。
MI
クリーントーンではどのようなところに気を使いますか?
鈴木
時代性を気にしますね。80-90年代っぽい場合は今回の音のようにライン系にしたり。
ピックアップはほぼハーフトーンにします。
丸みとアタック感の両方が得られて、ピーキーな感じが無くなります。
ビンテージな感じの音の場合は、アンプを通した音にします。
MI
こちらですね。トレモロも含めて雰囲気ありますね。
鈴木
こちらではトレモロとスプリングリバーブを使っています。 それぞれモノラルにして、少しオールディーなイメージにしました。 リバーブの後にトレモロをかけているんですが、Fenderアンプと同じ流れにしています。 リバーブにもトレモロがかかるのが、良い雰囲気になるんですよ。
MI
スプリングリバーブはどのような時に使いますか?
鈴木
あえて広げたくないときですね。機械的な余韻というか、完全に音色効果の一つとして使います。
MI
トレモロはあえて使おうとしないと、なかなか出番が無いですよね。
鈴木
そうですね。例えば歌もので立ちすぎないイメージのフレーズには良く合いますよ。 コードをかき鳴らす場合も結構歌に馴染むことが多いんです。哀愁を帯びたり、ゆったりした雰囲気にも良いです。
MI
アンプはFenderですね。
鈴木
Tweed系のアンプは少し歪むけど癖が少ないので、ギターのボリュームを下げて枯れた感じにもできます。
FenderのReverb系は少し固めなピーキーなイメージでしょうか。
BIASにはこれらのバリエーションの感じが上手く再現されているので、すごく良いですね。
MI
こちらはクランチ系ですね。かなりキレがありますね。
鈴木
かなり歯切れよく弾いています。
プレキシ系のアンプを使っていますが、イメージとしてはモダンなジミヘンという感じです。
BIASの美味しいところって、コンプ感だと思うんですよ。
実際にギターアンプを鳴らすと、スピーカーが反応するときに一瞬コンプ的な抑えが入るんですが、それがすごく再現されていると思います。
あのガツっという感じにロックっぽさがありますね。
MI
恐らく真空管やトランスなど、個々のパーツのモデリングによる影響が出ているのかもしれませんね。
回路ごとのシミュレータなので、いわゆるエフェクター的なコンプではなく、電気の流れによる押さえ込みみたいな感じでしょうか。
Blues Wizardはどのような目的でアサインされているのですか?
鈴木
ここではローカットフィルター的に使っています。これはTONEノブ1つだけをとっても変化が素晴らしいですね。
ブースター的なエフェクトは、いわゆるトーンシェイパーとして使います。例えばプレキシのボワッとした音を引き締める時とか。
ベースをカットしつつ、上の方をドライブさせるとザクっとした感じが出せます。
ちょっと極論ですが、歪むEQのイメージですね。
MI
ポイントとしてはどのようなところでしょうか?
鈴木
歪みの二重がけの目的だと、歪みすぎたり音が飽和するので、ローカットしつつコントロールするのがポイントかと思います。
現在でも人気のあるTS808はオーバードライブですが、このポイントがよかったんでしょうね。
MI
アンプ自体の音作りについてはどのようにされていますか?
鈴木
アンプのEQ部分は歪み方を意識しますね。最初は全て真ん中あたりから初めて、動かして変わる範囲を把握します。
歪み方も相対的に変わるので、主に中高域に意識を向けますね。
たまにプレゼンスよりトレブルの方が上の時があったり、プレゼンスはボリュームにも大きく影響を受けますし。
古いタイプのプレゼンスは、フルボリュームにすると効かなくなったりましますので、注意が必要ですね。
MI
最後はハイゲイン系ですね
鈴木
これはドロップDで弾きました。
片方のアンプにディレイを入れてダブリングっぽい効果を出しています。立体感を出すためにたまにモジュレーションを使う時もありますね。少し揺れがでてより立体感が増します。
MI
アンプは5150とTriple Rectifireのモデリングですね。
鈴木
この2つのアンプはBIASの中でもお気に入りです。変にいじらなくても気持ち良いヘビーな音が出ます。
MI
メタル系の音って、ブリッジミュートの低音とソロの高域の両方を立てる音作りが必要だと思いますが、どのように意識していますか?
鈴木
EQでピークを切る時はありますね。4kHz前後を少し切ると、痛さや細さを抑えられるたりします。
この辺は弾きながらの調整がもちろん必要ですが、高域がポイントですね。
ただ、今回使ったアンプはあまり気を使わなくてもどちらも丁度よく出ます(笑)
MI
2つのドライブはブースターですか?
鈴木
ブースター、トーンシェイプとして使っています。808ODはミッドが残るブースター的なイメージですね。リイシューなど色々とありますが、オリジナルの808に近い印象です。Loomis ODは808に近いですが、もう少しフラットな印象ありますね。
MI
次はBIAS FX2に搭載されたギターマッチについて伺います。
今使っているギターの音を解析して別のギターの音に変える、という斬新な機能です。
これまでアンプやディストーションを解析した音に変化させるAmp MatchやTone Matchという機能がありましたが、ついにギター本体の解析までもが可能となりました。
鈴木
これは良い機能ですね。これからもっともっと使い方を詰めたいと思っています。 今後ターゲットとなるモデルもたくさん増えそうですね。
MI
トーンクラウドのようにギタークラウドも出来るかもしれませんね。
ものすごい高価なビンテージギターとか、実際に有名なギタリストが使っている実機とか...
このマッチングは、自分のギターの音を計測して、ターゲットをプリセットから選択します。
解析のプロセスはどうでしたか?
鈴木
結構簡単でしたね。最初に全ての弦と、フレットごとに順番に計測するんですが、時間もかからないし、ただ弾くだけなので。
ステップが多すぎず、かつ必要な部分はカバーされてるような気がします。
MI
それでは、元となるギターのオリジナルの音を聞いてみます。
鈴木
これはFenderですね。ピックアップなどもオリジナルのシングルコイルです。
MI
これをES-335にマッチングさせたものですね。箱鳴り感がやっぱりでますね。
鈴木
ええ、弾いていてもまさに335という感じの音でした。やっぱりフレーズにも影響が出ますね。
鈴木
こちらは335+クランチです。シングルコイルっぽさが無くなりますね。ジャキジャキ感が減り、ハムバッカーな感じがよく出ます。
MI
ギター自体の厚みというか、立体感もありますね。
MI
これはフロントで取った音をリアに変換した音ですか?
鈴木
そうです。ギターマッチはフロント、リアなどピックアップの変更もできるんです。
なかなか面白いですよね。フロントの丸みを帯びた音が、リアの尖った音に変わります。
MI
次は別のギターでのマッチングですね。こちらはどんなギターなんですか?
鈴木
YAMAHA Pacificaです。こちらはフロント、リアともにハムバッカーですね。
鈴木
こちらはストラトのブリッジに変えてみました。音もシングルコイルな少しシャキっとした音になります。
ハムバッカーのギターだけしか持ってないのに、シングル・フロントの音が使いたい時とか、万能ですね。
MI
ギターマッチって、どのような用途が合いそうでしょうか?
鈴木
あまり色々なギターを持ってない場合や、少しだけニュアンスを変えたい時、ダブリングの録音などにも良いですね。
やはりいつも弾き慣れたギターを弾いた方がパフォーマンスも良かったりしますから、別のギターの音を出すために無理して慣れないギターを弾くよりは良いかもしれません。もちろん、別のギターに持ち替えた方が良い場合もありますが。
ものすごく個人的な見解として、SSHのピックアップのギターを持ってる人って、どんな音でも一台で出したい人だと思ってます(笑)
MI
あ、自分もそうです。持ってるギターによって傾向が分かりますね(笑)
鈴木
今回作ったプリセットではダブリング用にディレイをアサインしましたが、ギターマッチで別のギターに変換してダブルにするのも良いですね。ギターを左右に振って少し音をずらしたり別の音に変えるのは効果的です。
MI
その他面白そうなモデルなどありましたか?
鈴木
テレキャスもいいですね。カリッとした音はまさにテレキャスです。
ヴィンテージはもちろんですが、ジョン・ペトルーシモデルとか、ジョン・メイヤーモデルとか、レスポールのリイシューなど、幅広いですね。これ、スタッフの私物も結構あるんじゃないですか?(笑)
MI
ラインアップを見るとありそうですね
鈴木
この発展系でフォークギターとかガットギターみたいなアコースティックも入るとさらに面白そうですね。
今後も多いに期待しています。
MI
今回は作成いただいたパッチを使って曲も作成いただきました。
鈴木
ギターは4つの音色を使っています。あとはドラムとベースですね。ギターに関しては、基本的にエフェクトも全てBIAS FX2のエフェクトです。
クリーン、クランチ、トレモロ、そしてリードです。
MI
それぞれの音色の役割はどのような感じでしょうか?
鈴木
クランチはシンプルに白玉っぽく弾いています。濁りやすいので、コードは厚くせず、パワーコードを基準に弾いています。
反対にトレモロはしっかりコードを弾いてコード感を出しています。クリーントーンはキメとなるような場所ですね。
クランチとクリーンはそれぞれ別の人が弾いているイメージで弾いています。相手がオブリを入れたらこちらは少し抑えたり、また逆になったり、掛け合い的な場合もあります。
MI
音色を含めたフレーズで役割分担しているんですね。 リードギターはどのような音作りでしょうか?
鈴木
サザンロック的なアメリカンなテイストをイメージしました。少し枯れ気味な感じですね。
シングルコイルのフロントを使っています。
私はよくギターのボリュームも使います。通常バッキングはつまみの7-8あたりで、ソロや決めでフルにあげます。
この方法はとても自然にニュアンスが切り替わるので、微妙な高揚をつけるのに最適なんです。
アンプシミュレータ系は今までここが弱かったのですが、前述のようにBIASはよく追従してくれるので、実際のアンプと同様な奏法も気にせず行えます。
鈴木健治
ギタリスト 2月18日生まれ 神奈川県出身
スタジオミュージシャンとして、MISIA,宇多田ヒカル,BoA,EXILE,倖田來未,SMAP 他沢山のアーティストのレコーディングへ参加。その数は1000曲を超える。
キレのあるリズムギター、歌う様なリードギターは、1990年代~2000年代のJ-POPでのギターアプローチに多大な影響を与える。アレンジャーとしてMISA,V6,島谷ひとみ、華原朋美、等の作品に参加。
ライブサポートでもその他多数のアーティストのライブに参加。
近年は既存のスタイルに捉われないギター×ITの研究家、宅録愛好家として、機材研究,執筆,YouTube,DTM,ギターアプリ監修など活動は多岐に渡る。