2019.11.01
サンプル音源では成し得ない、有機的な表現が可能なAudio Modeling社のSWAMシリーズ。
管楽器のシリーズに続き、弦楽器でも同様に、様々な奏法がリアルにシミュレート可能です。
SWAM製品は使い込めば使い込むほど様々な表現力が見出せるのが特長ですが、時間的な制約もあり、今回は楽曲制作を「step1.作曲」「step2.ヒューマナイズ」「step3.マスタリング」の3つのステップに分けて、それぞれプロフェッショナルな方に依頼しました。
楽曲制作における「step1.作曲」と最後の仕上げである「step3.マスタリング」については、株式会社スピンソルファの牧野忠義氏にお願いしました。牧野氏はあのモンスターハンターシリーズなどのゲーム音楽やテレビ番組、劇伴などの作曲、サウンド制作を多数手がけられています。
重厚壮大なオーケストラ音源の作曲からマスタリングをも得意とする牧野氏の書き下ろした弦楽四重奏の楽曲に、SWAM製品の第一人者であるt1氏が「step2.ヒューマナイズ」を手がけることで、楽曲に命を吹き込んでいただきます。最後に「step3.マスタリング」で再び牧野氏にご登場いただき、楽曲の仕上げ作業を行なっていただきます。
記事を読み進めていただければ、SWAMシリーズを用いた実際の楽曲制作の進め方をリアルに感じていただけるはずです。
2人のプロフェッショナルによるコラボレーションはどのような相乗効果を生み出すのか、記事とサウンドで実感してください。
SWAMエンジンを使用する製品がSample ModelingからAudio Modeling社へ移管されましたが、今回はその注目のストリングス音源に焦点を当ててレビューをさせて頂きたいと思います。
実際に本製品で楽曲を作るにあたり、ヒューマナイズ(人間的な表現力の最大化)という観点から作曲を「牧野忠義」、ヒューマナイズを作曲家「t1」さんにお願いするというコラボ企画としてオファーを頂きました。
昨今ようやく落ち着いてきた感のある大容量サンプリング音源のように「録音されたものを再生する」のではなく、弓で擦る強さ、挙動、圧力などをリニアにコントロールして本物の楽器を鳴らすかのように音作りを行なっていける「物理シミュレーター」というジャンルになります。
本製品はあらゆる表現をコントロール出来る反面、一音一音に対してCC情報を入れていく必要がありますが、それなりに音源を使い倒してきた私でも入手後すぐに全てを把握する事は正直難しいです。
逆に、時間さえかければ相当なクオリティーが期待出来る製品でもあります。
Audio Modelingがt1さんの手によってどの様に表現されるのか。
そしてヒューマナイズ後の印象、その音源に対する音質調整の意図と処理を簡単にご説明します。
では早速ですが、内容を見ていきたいと思います。
全体的にスッキリしたインターフェイスです。
SWAM-S(弦楽器)はサンプルが全く使われていないため、非常に軽量(数十MB)ですがその分、取り扱いや音作りの難易度が高いそうです。
実際に立ち上げてみると「CC11を使え!」とメッセージが出ます。
これは鍵盤を叩いたら音が出る音源ではなく、シミュレーターである発想の違いではないかと思います。息を吹いたり、弦を擦ったりして楽器は音を発生しますのでその人間側からのアプローチをCC11で表現するという認識でいます。
CC11をコントロールして音を出すと、確かにただ弓で弦を擦った時の音がします。
この音をバイオリンらしく仕立てていくには時間がかかる気がしましたが演奏者が楽器に伝える表現、それに対する楽器側からのレスポンス。
それらを細かく情報を入れていく事でサンプリング音源とは異なるリニアな表現が得られるのでしょう。
CC11、それ以外の情報がどれくらい出音に反映出来るのか?
各パラメーターを見ていきます。
通常のサンプリング音源では奏法をキースイッチで切り替えたり、トラックを分けて読み込んだりしますが、このSWAMはレガート、スタッカートなどCC11とベロシティーによって表現する仕様になっている様です。
例えば、レガート(ポルタメント)の長さは次の音符のベロシティーが弱ければ長く、強ければ短くなります。また、今発音された音がどのアーティキュレーションなのかがDynamic&Articulations画面に表示されるようになっていますので、ベロシティーとその音の繋ぎ方によってスタッカートかポルタメントかなどが自動制御される仕組みと考えられます。
無限に時間があれば良いのですが、職業作家は時間との戦い。
やはり有効打となりそうな部分にのみ手を入れていく事にしましょう。
私が真っ先にCCを割り振ったのはこちらの通りです。
など。
これでもまだまだ不十分なのですが、メイン画面にあるコントロール部分も調整しながら今回のデモ制作をやりくりして見ました。
もっと膨大なCCをアサインしてフルコントロールする、もしくは専用のMIDIコントローラーを導入するなどすると、更に表現力が豊かになるのでしょう。
実は以前から興味があったもののSample Modeling製品には手を出していなかったので、このSWAMも全くの初見からスタートしています。
そんな本製品ど素人の私がこの製品を触り始めてのべ数時間の結果をお聞きください。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの四重奏です。
いかがでしょうか?惜しいんです。すごく。
デモでは私自身もまだ納得出来る表現には至っておらず、音域が上に行くほど、CCのやりくりがシビアになっていくので音域は低めにしました。
これをさらに本物に近づけていこうとすると現在割り振っているCCだけでは難しいです。
さらに細かい部分にまで一音一音手を入れて行くと時間がかかるのでここからt1さんにバトンタッチ!
■ヒューマナイズ調整後のマスタリング
私が高音域を回避する為に下げめで作ったデータをオクターブ上げつつ表現力の出しやすいと判断された調に移調して頂きました。
目の前で演奏されているかの様な、素のリアリティー、弦のアクの強さがありますね。束弦になるととても美しいストリングスですが、単体の素の音は結構な「えぐみ」もあるのでそういった部分もごまかしのない表現が足されている様に感じました。
私個人的には音質はもう少しマイルドに、音場も広げられる気がしたので頂いたwavを音質調整(というか配信用にマスタリング)する事にしました。
処理はハードウェアを使います。
DAWから外部ルーティングでSSL Fusionへ送りFusionからS/Rで結線されているMANLAY Vari-muで軽くコンプレッションを施しました。
Fusion側の設定はVintageDriveで全体の圧をリッチにしたあと、EQで50Hz/20KHzを微妙に持ち上げています。逆に3KHzあたりをHFCompで叩いたあと、MSで広げただけです。これ一台で2chに対するチャンネルストリップ的に処理ができるSSL Fusionは優秀だと思います。
MANLAY Vari-muへはPreEQで送っていますのでDriveの後段にManlayが刺さっているルーティングです。
PostEQに設定すれば(ボタン押すだけ)MS処理の前段にきます。詳しくはSSL Fusionの詳細ページをご覧ください。
DAW側ではリバーブにIRCAM、マスタートラックにElixirを挿して調整は終わりです。
耳馴染みがぐっと変わりましたね。この作業で約20分。
ハードウェア導入は高価ですが、本当に自分にとって必要か否かを見極めながらプランを立てると強力な戦力になってくれます。
SWAMの話に戻りましょう。
実際に打ち込んでみて感じたのは、そのレスポンスの良さです。
サンプリング音源の様な、発音までの微妙なラグやバラつきがありません。
上から下まで、リニアに鳴ってくれるので、演奏目的の四重奏をスケッチで作る時にはかなり良さそうです。同様に、旅先や移動中に曲を書かねばならない人にとっても軽いシステムで動くので適しているかもしれませんね。
中でも個人的にヒットしたのは重音をリアルにシミュレート出来るという点です。
サンプリング音源の場合、どのキーでも半音ぶつけたりしても文句言わず鳴ってくれますがSWAMの場合、G線上でG/G#を鳴らそうとしても鳴りません。
現実的に無理なものはそもそも鳴らさないという設計になっています。
どの弦のどのポジションを抑えると、D3-G3の和音が鳴るかを緑のポイントで確認できます。
ポジションのどこを押さえているのかが見て取れるのでこれはこのバイオリンという楽器を勉強するのにめちゃくちゃ良いんじゃないかと思いました。また、弓も指板側か駒側かなど、奏法によってちゃんとグラフィックが移動しますし弓の圧を最大にするとギリギリ…!としたノイズが発生したりします。
これはシミュレーターだからこその発想ですね。
まさに楽器そのものとして演奏させるだけでなく、その楽器を勉強するという意味合いにおいてもSWAMはポテンシャルを持っているのではないかと思います。
作曲家t1さんとのコラボ企画、いかがでしたでしょうか?
鳴らせばいい音が出る音源ではないですが、音源の強み弱みはすぐに把握出来るのでヒューマナイズ、マスタリングのやりとりは一回で終わりました。
ゲーム音楽制作にもマニピュレーターという音色を作ったりする職種がありますがヒューマナイズもそれに近い作業の様な気がします。
今後ヒューマナイザーという職人が出てきてもおかしくはないかも知れません。
この音源、時間と熟練度と比例して、かなりのポテンシャルを秘めている様に感じます。
時間をかけてでも表現力を求める方や、弦楽器を勉強したい方にぜひオススメします。
私もAudio Modeling製品がどこまで表現を突き詰められるのか楽しみにしています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いしましょう。