2021.10.26
マイクを使ったレコーディングにおいて、重要な機材のひとつがマイクプリアンプだろう。近年はオーディオI/Oに内蔵されているマイクプリの性能も飛躍的に進化してはいるが、やはり個性、特性や音質の面で単体機のプリアンプが一歩抜きん出ていると言える。
Sym・Proceedからリリースされたマイクプリアンプ、SP-MP500。ラックタイプだったこれまでのモデル(SP-MP4、SP-MP2)とは異なり、API500フォーマットで登場した本機はシリーズの特徴でもあるウルトラクリーンな特性と、圧倒的なトランジェント特性を持つプリアンプだ。
今回は、Sym・Proceedを愛してやまないニラジ・カジャンチ氏に実際に使用して頂き、SP-MP4、SP-MP2との印象の違いも含めてお話を伺った。
メディア・インテグレーション(以下、MI)
ここNK SOUND TOKYOには非常に多くの機材がありますよね。例えばどういったものがありますか?
ニラジ・カジャンチ 氏(以下、ニラジ)
いろいろなサウンドを作れるように、40種類以上のヘッドアンプを揃えています。ビンテージのマイクプリアンプに加え、GMLやMARTECH、MILLENNIA、GRACE DESIGNといった、いわゆるクリーン系と言われるマイクプリアンプや、Sym・ProceedのSP-MP4やSP-MP2もあります。それぞれキャラクターが異なり、ヘッドアンプの数だけ色というか、スイートスポットみたいなのがあって面白いですね。
MI
多くのマイクプリアンプがある中で、Sym・Proceed製品を使い始めたきっかけはなんでしょうか?
ニラジ
僕は元々ポップスやR&B、ジャズなんかを録ることが多かったんですけど、ある時からアニソン業界で声優さんのレコーディングも手掛けるようになったんです。声優さんの声ってアタックがとても速いんですけど、当初僕はそのアタックを抑えて録音してたんですよ。それが僕の中での「いい音」のイメージだったんです。だけど実は、それはリスナーが聞きたいものじゃなかった。
声優さんの声の良さをリスナーに伝えるためにどうしようかと考えた時に、今までの「いい音のイメージ」とは異なる音を探す必要がありました。そのためにクリーン系のマイクプリアンプをたくさん試したんですけど、歪み成分が少なくて、コンプのかかり方が一番安定したのがSym・Proceedだったんです。
結果的にSym・Proceedで録音することで、声優さんの声が持つアタック感、トランジェントをそのまま伝えることができて、それこそが「リスナーが聞きたい音」ということが分かったんですよね。今では4つのスタジオ全部にSP-MP2を導入していて、ジャンルや性別に関わらずマイクだけ相性のよいものを選んでいただいた上で、SP-MP2と1176の組み合わせをおすすめしています。
MI
今回お試し頂いた、SP-MP500はいかがでしたか?
ニラジ
SP-MP500は多くの500シリーズヘッドアンプのなかで、僕の好みに合う数少ないもののひとつです。今は6本だけど、本当はAPI500のケース いっぱいに10本揃えたいくらいです(笑)
僕はリボンマイクはSP-MP4との相性が一番いいと思っているのですが、コンデンサーマイクはSP-MP500の方がいいですね。ボーカル、ベース、ギター、ピアノ、ドラムセットと試してみて、特にギターとシンバルとの相性がすごくよかったです。ジャズドラムのトップシンバルに使った時は、シンバルを入れ替えたんじゃないかな?と感じたほどです。
その時のプレイはソフトな感じだったのですが、繊細な演奏でも表現力豊かに録音することができます。SP-MP2より音の立ち上がりが速くて、鳴っている音の良さをそのまま録音することができます。スタジオを使用したお客さんみんなが「SP-MP500を欲しくなっちゃった」と言っています。
MI
微弱な音も再現度が高いということですね。
ニラジ
他にはギターアンプに立てるマイクのプリアンプも、最近ではほぼSP-MP500を使用しています。
ひとつひとつのチャンネルの位相感がぴったり合うので、例えばギターのマイクを3本立てたときでも凄くブレンドしやすいんです。ここまで位相が揃うマイクプリアンプは他にはあまり思いつかないですね。製品の個体差が少ないからできることだと思います。
MI
改めて、SP-MP500はどんなユーザーにおすすめできるマイクプリでしょうか?
ニラジ
SP-MP500はキャラクターはしっかりあるんですが、それが強すぎずちょうどいいバランスなので「自分自身が演奏した音」がよく分かるんですよ。なのでミュージシャンにもおすすめのマイクプリアンプです。他メーカーのマイクプリアンプって、キャラクターが強くて通せば「らしい音」がするという機材が多くて、それでごまかされてしまうこともあるんです。
経験豊富なスタジオミュージシャンなら自分の音を理解しているので、エンジニア、スタジオ機材に関係なくいい音で結果を残してくれるんです。でも例えば自宅で制作しているミュージシャン、アレンジャー、クリエイターのような経験があまり多くない方にはそれはなかなかできない。
でもこのSP-MP500を使うと実際に演奏された音がよく分かるので、「自分の音」を理解した上で、「もっといいものを作るにはどうすればいいんだろう?」という発想になると思います。自分の音にこだわり持って、ミュージシャンとして成長できる。そんなマイクプリアンプだと思います。
ニラジ・カジャンチ
Neeraj Khajanchi
レコーディング&ミキシングエンジニア
マイケル・ジャクソン、ボーイズIIメン、ティンバランド、リルジョン、 ジャヒーム、ヨランダ・アダムス、ランディー・ジャクソン、ボビー・バレンティノなどの海外一流アーティストを始め、三浦大知, Crystal Kay, 安室奈美恵, 氷川きよし, Alexandros, Mrs. Green Apple, 粗品, RIRI, 大森靖子, May J, 持田香織, 小林愛香(ラブライブ), 鈴木雅之, SUGIZO, ZOC, などの国内アーティストまでを幅広く手掛ける今最も多忙なレコーディング&ミキシングエンジニアの一人。
進化する、マイク・プリアンプMPシリーズ
高解像度化が進んだレコーディング技術と再生環境の進化はマイク・プリアンプにも進化を必要としました。トランジェントに優れ、原音に忠実、トラックを重ねても飽和することのないサウンドが必要です。2011年 SP-MP4から始まるSP-MPシリーズはその時代の変化に応えたプリアンプです。そのSP-MPシリーズの比類なきトランジェントサウンドが更なる進化を遂げたSP-MP500の登場です。
127,600円(税込)