シリーズの第1回目では、次のことについてお話しします。
●デモソング
まずはSWAMを使用したデモソングをお聴きください。
∪[cup] (前半)⇒Wavダウンロード
「不思議の国のアリス」狂ったお茶会の場面から着想を得て制作した曲です。
使用楽器

Leap Motionでグラフを下書きし、XP-penで加筆修正しています。
Leap Motion:2012年にLeap Motion社から販売された手のジェスチャーによってコンピュータの操作ができる入力機器。
マウスや画面タッチを用いずに操作ができる体感型のシステムで、ジェスチャーによって直観的に操作することが可能なのが特徴。⇒詳しく(Wikipedia)
XP-Pen:2005年に日本で設立されたペンタブレット会社。Adobe社ソフトウェアとの親和性に定評がある。⇒詳しく(XP-Pen社のWebサイトへ)
●SWAMシリーズについて
物理モデリング音源は楽器シミュレーターです。 SWAMを起動すると「Expressionコントローラーを動かしてください!」と警告が出ますが、Expressionとは息や弓の速さです。 息を吹き込んだり弦を動かしたりしてはじめて音が出るということですね。(Pizzicato, Col Legnoは例外)
Pizzicato(ピチカート):弦楽器(擦弦楽器)の弦を指ではじくことによって音を出す演奏技法
Col Legno(コル・レーニョ):弦楽器(擦弦楽器)における特殊奏法の一つで、弓の毛ではなく、木製の棹の部分を用いて音を出す奏法
「息や弓の速さを変えることで、結果的に音が大きくなったり小さくなったりする」と考えると、Expressionグラフの描き方が見えてきます。
ブレスやタンギング、弓の入り・抜き・返しなどが鍵となります。
プラグイン画面にはパラメータによるダイナミクスや指・弓の動きが反映されるため、耳だけでなく目でも確認すると精度を上げられます。
奏法の細かなニュアンスをグラフに落とし込むにあたり、シンセサイザーの音色づくりにおけるADSRの考え方を適用すると、より呑み込みやすくなるかと思われます。
詳しくは次回以降のメイキング本編で触れます。
SWAM-S(弦)ではサンプルが使われていないこともあり、音作りの難度が高いです。
SWAM-W(木管)はサンプルが使われているハイブリッド音源であるため、物理モデリング音源を初めて扱う方にもおすすめです。
SWAM-S:Audio Modeling社のエンジンで、弦楽器のサウンドを100%物理モデリングで生成。本物の楽器に比肩するレベルのリアルな挙動を再現。⇒詳しく
SWAM-W:管楽器のサウンドをサンプルと物理モデリングとの合成によって生成。物理モデリングとサンプリングにおける、真のハイブリッドと呼べるエンジンです。⇒詳しく

●ヒューマナイズについて
演奏のヒューマナイズでは無意識的な表現を付加していきます。
どこで速さが落ちるのか、どこで弱くなるのか、どこで不安定になるのか、といったことをグラフ傾向に反映させると良い結果が得られます。
次のことを考えます。
- 動作制限
- 予備動作
- 抵抗
- 反動
イメージで例を挙げると
- より高く跳ぶために勢いをつけてバネを縮める
- 手が体から遠ざかるにつれて関節に引っ張られる
- 固い栓を抜いた瞬間手が大きく動く
- 倒れないようにバランスを取ろうとする
など「安定させたい表現のために犠牲になる安定性」に目を向け、力が変化するタイミングに注目します。
…とはいえ、これら全てを初めから手入力しようとすると割と手間が掛かりますから、MIDIコントローラーの使用を強くおすすめします。
そもそも、SWAMのメリットは「自由度が高く作り込めること」ではありません。
「仮想楽器をカスタマイズし演奏できる」ということこそが注目すべきポイントです。
Audio Modeling公式デモのほとんどが演奏形式であるのもそのためだと思われます。
楽器の傾向が反映されるようなMIDIコントローラーで演奏(必要に応じて修正)する、という使い方が理想的です。
ブレスコントローラーはその最たるものですね。息をそのままグラフに反映してくれるため、管楽器の制御を合理的に行えます。
リード・サイズの違いなど、楽器の傾向に合わせてマッピングを変えるとより制御しやすく生々しくなります。

問題は弦楽器の制御です。
2019年3月時点で、弓を模したコントローラー(The Bowsynth)は一般発売されていません。(※開発中のようです)
ブレスコントローラーでも制御できないことはありませんが、運弓による加減速や息の減衰など気をつけることは多いです。どちらかと言えば、ホイールやペンなど運弓速度を反映できるコントローラーの方が弦楽器には適していると言えます。
私は一通り色々なタイプのコントローラーを試してみて、現在はLeap Motionによる3D制御に落ち着きました。
管弦ともに片手で6〜8種のパラメータを制御しています。非常に柔軟で、好みのバーチャルコントローラーを作製できるため便利です。
ただし、コントローラーを本物の楽器に近づければ近づけるほど生々しい表現が容易になる一方、制御は難しくなります。
コントローラーを複数併用するともっと楽に制御できます。
次回から、実際のパラメータについて掘り下げていきたいと考えています。
しばしお付き合いいただけると幸いです。
本記事で使用しているソフトウェアのバージョンはSWAM-S 2.0.2です。最新版とはパラメータ名の表記などが異なる場合があります。