2019.01.11
19個のマイクカプセルが仕込まれた球体のハウジング。ZYLIA ZM-1は外見のとおり360度の立体録音が可能なマイクロフォンに見えるだろう。確かにそれは間違いではない。でも、本当は一体なんなのか、一言で説明することはかなり難しい。
それでもかなり荒っぽく説明すると、19個ものマイクカプセルから得られた音声から、信号処理によって最大24のバーチャル・マイクを生成、自由にミキシングすることができる多目的なマルチトラック・レコーディング・システムである。さらにもうちょっと違った言い方をすると、フレキシブルな指向性マイクロフォンを360度方向から自由に取り出せるマイクロフォン・システムである。
ハードウェアとしての側面からみると、ZYLIA ZM-1はMacまたはPCとUSBで接続してアプリケーションまたはDAWでレコーディングを行う機材、つまり19台のマイクロフォン・カプセルを内蔵した19ch入力のASIO/Core AudioオーディオI/Oである。付属のアプリケーションは入力されてきた19のマイクカプセルの音を音声処理し、24個のバーチャル・マイクロフォンを生成する役目を果たす。
ではどんな用途に使えるものなのか、ざっと思いつくところを挙げてみる。
では実際どのように使うのか見てみよう。
下記動画がわかりやすいのでご覧いただきたい。
このように、レコーディングしたセッションはVST、AUに対応したDAWを使ってさらに高度なミシキングが行える。
※ZYLIA Studio Pro、Ambisonic Converterを使用 (いずれもVST/AUプラグインとして起動)
例として、製品に付属のデモセッション”Rachel by Anna Blanton”使って具体的な作業をみてみよう。このセッションはヴォーカル、ウクレレ、バイオリンの演奏をZYLIA ZM-1で一発レコーディングしたものであるが、これをREAPERに取り込んでミキシングしてみる。
前述のとおり、レコーディングデータそのものは19チャンネルが含まれた1つのWAVファイル。これをZYLIA StudioのAutomatic Calibrationで得られた3パートに分離して、個別にオーディオ・トラックとして立ち上げてある。まるで最初から楽器の前にクローズド・マイクを立てたかのようにきれいに分離できている。
この状態になっていれば、各トラックにEQやCompをインサートするなど、精度の高いミキシングが行えるわけだ。
このままステレオミックスしても良いが、せっかくなのでさらにここにひと工夫。バーチャルマイクを追加して2種類のアンビエンスマイクを作り出してみる。ひとつ目はVocal周辺を狙ったアンビエンス、二つ目はギターとバイオリンによる伴奏の全体像のアンビエンス。これでさらにライブ感を加えたナチュラルな音像が作ることができた。
このように音声処理で自由なバーチャルマイクを生成すること、これこそがZYLIA ZM-1の技術の核心であり、製品の重要なコンセプトである。また、バーチャルマイクを超指向性に設定しても本物のマイクロフォン製品にありがちな痩せた音にならず、ワイドレンジかつ芯のある音像が担保される。
スタジオレコーディングにおいてはアコースティック楽器はもちろんのこと、ギターアンプ、ベースアンプ、Rhodes Suitcase、Leslie Speakerなどにも相性が良さそうだ。ZM-1を1台立てておくだけで多数のクローズマイクやアンビエンスマイクを一挙に得らるわけで、精密な音作りにも活かせる。実際にRhodes Suitcaseで試したところ、キャビネットならではの音色と音像がいとも簡単に得られた。通常のクローズマイク2本のセッティングではなかなか表現できないリアリティーだった。今後グランドピアノやお箏などのアコースティック楽器でも試してみたい。
ZYLIA ZM-1は当然360度カメラと組み合わせてYoutube 360動画の制作にも使える。2018年の暮れに早朝の浅草や門前仲町の深川不動尊を訪れてみた。
Youtube 360は1次アンビソニックスにしか対応していないため、立体感、定位感、臨場感においては、一般的な4chのアンビソニックス対応VRマイクと比べて大きな性能の違いは出ないが、常に360度19chで記録しているので、後々高次アンビソニックス(HOA/ハイオーダー・アンビソニックス)に対応したコンテンツに変更することも容易だ。さらに、ZYLIA Studio Proでは後からバーチャルマイクを自由に作れるので、気に入らなければオリジナルの指向性を持ったアンビソニックス方式VRマイクを作ることもできる。マイクカプセルの音質そのものはレンジが広く、高音質(音色)で収録できるので安心だ。
前述のYoutube 360動画のうち、仲見世の収録音を使って音の分離を試してみよう。特徴的な物音画面右側では「トントントントン・・」という人形焼を作る音が、左後ろではお店が開店のため「ガラガラ」とシャッターを上げる音が聞こえる。この2つの音の方向を狙ってそれぞれ超指向性のバーチャルマイクを作ると、見事にフォーカスできる。
もちろん多少のカブリはあるが、シャッターの音だけ欲しい、とかこの音だけ抑えたいということが簡単に行える。
このバーチャルマイク生成手法を使えば、24chまで自由なサラウンドセッティングを実現できることになる。5.1ch、7.1chなど一般的なサラウンドから22.2chなど定型のものはもちろん、変則的なセッティングも自由だ。先の年末に収録した素材をここでは8本のスピーカーを使ったキューブ型のサラウンドを構成して試聴してみた。8本のマイクを作って、マイクポジションを設定する。
今回はB-formatアンビソニックスにはせず、8本のマイクをそのままフェーダーに出力、8本のスピーカーへダイレクトに出力する。立体感の再現性を高めるためにはマイクの指向性がカギとなる。SEPARATION MODEはS2(カブリが少ない)、SEPARATION LEVELはMediumを選択、WIDTHは80°と少し狭い指向性のカーディオイドマイクのように設定した。
WIDTHの値はリスニングエリアの大きさ(スピーカー間の距離)によって調整するのが良いと思われる。
こうして出力した3D音像はとてもナチュラルかつ定位感も明確。5.1chや22.2chサラウンドや高次アンビソニックス(16ch, 32ch)での利用が期待できる。また繰り返しになるが、いずれかのフォーマットへ変更したくなったらバーチャルマイクを作って配置し直すだけ。録り直す必要はない。ZYLIA ZM-1でレコーディングしておくことはオーディオ素材の価値を高め、しかもアーカイブはRAW Dataを残しておくだけでよい。今後多方面のオーディオワークでアドバンテージとなりそうだ。
ユニークな発想で生まれた革新的なレコーディングシステムZYLIA ZM-1。機会があればさらに使用例をレポートしたい。