tofubeatsインタビュー:Talkin ‘Bout My Generation
2015.01.30
この度はお時間頂きましてありがとうございます! tofubeatsさんの世代ならではの、音楽制作に関す る環境や考え方についてとても興味があり、お会い出来るのを楽しみにしていました。まず、今のトラックメーカーに繋がる音楽的ルーツは何ですか ?
tofubeats: 日本語ラップです。一番最初はブッダ・ブランド。ベストが出たのが中1の時です。それと、ニト ロ・マイクロフォン・アンダーグラウ ンドがデビューしたのも中1の時。最初は聞き専でした。同じ中1の時、親にベースを買ってもらったんですが、 練習するのが楽しくなく、1週間で辞めちゃって友達にあげたんです。親にすごく怒られましたが。それで、ヒップ・ホップをやりたいと思って調べてみたら、サンプラーが2万5千円くらいで買えることがわかったんです。「英検準 2 級に受かったらサンプラーを買ってくれ。」と親にお願いして、中2で合格して買ってもらったのが KORG ELECTRIBE ES-1です。以降、トラック作りを続け、サイトに音源をアップしてました。
いきなりトラックは作れたんですか?
tofubeats : はい、ELECTRIBE ES-1 に最初からデモ曲が入ってて、サンプリングのやり方だけ分かったら、トラックは作れるようになってました。当時のデモが今でも残ってて、中学、高校の時に作った曲が今でもすぐにリコールできます。( 今、iTunesで再生している ) このトラックは当時、ES-1 だけで作った曲ですが、もうすでに曲になってますよね。この頃になると、サンプルネ タを抜いてAKAI MPC1000でチョップ するようになってます。この頃はMPCとmicroKORGも使ってました。この2台だけで作ったトラックをサウンドカードのSound Blaster経由で、自作の Windowsマシンに取り込んで、ネットにアップしてました。
ネット上で反応は返ってきましたか?
tofubeats : 最初の頃は「クソみたいな 曲だ。」みたいなことばかり言われてました。当時は muzieや2チャンネルの掲示板ですね。ヒップ・ホップ交流掲示板に、「曲を作ろうスレ」みたいなのがあって、優しくアドバイスをくれる人もいますが、「ループがいけてない。」みたいにディスる人もいたり ( 笑 )。トラックをアップしたら、誰かが勝手にラップを乗せて返してくれる、みたいなカルチャーもありました。 僕には、いわゆる師匠がいないんですけど、MSNメッセンジャーを使って、 デモ曲を送り合ってアドバイスし合ったり。その掲示板出身のトラックメー カーで活躍してる人が結構いるんですよ。
当時の回線状況はどんな感じでしたっけ?
tofubeats: 中1の頃は、mp3 96kbps をモノラルでネットに上げてました。中2~3の頃にピア・ツー・ピアが世の中に出てきましたが、アルバムを128KbpsでZipファイルにすると、だいたい30MBくらいになって、データのやり取りに24時間くらいかかってました。僕らの世代はそんな感じですね。
世の中にtofubeatsという名前が出るようになったきっかけは何ですか?
tofubeats : 高3の時に、CD「High School of Remix」を自主でリリースして、人生初アナログを切りました。「High School of Remix」 はJET SETとヴィレッジヴァンガード下北沢店の2店で500 枚以上、トータルすると 1,000 枚以上売れたんですが、このお金でDAW環境に移行したんです。自作WindowsマシンとAbleton Live 6 Suiteを買いました。そして、WIRE08に出演したんです。
ギャラをもらってトラックを作る、初めての仕事としてのトラック作りは ?
tofubeats : 高3の時に、ピコピコ系コンピCDのイントロジングル作成でした。その後、曲としては、CHIX CHICKSというアイドルグループのリミックスが最初でした。お金をもらうようになると、一定の責任が生じるので、そういった意味からDAW環境に移ったというのもあります。権利問題が絡んでくるので、サンプリングなしに作らなきゃいけないパターンが出てくるからです。 以降、沢山のリミックスの依頼を頂くようになりました。
本当に沢山のリミックスやられてますよね。リミックスする時って、自分のスタイルみたいなものはありますか?
tofubeats : アイドルのリミックスが多いので、原曲のボーカルをキープした上で、崩すようにしてます。本 人達の声を全く使わない、みたいなことは絶対しませんし、ファンの人たちが、ちゃんと原曲を踏まえて聞いてくれるものを作っています。あと、Aメロ~Bメロ~サビの構成はいじらない、ということですね。その隙間に自分のアイデアを入れて行く、という感じです。メンバーの子達のカワイサはそのままに、カワイサの方向を変えてあげる、という感じでしょうか。あくまで、ファンの人たちが聞いてくれる曲、という前提を意識してます。
現在の制作環境について教えて下さい。
tofubeats : DAWはAbleton Live 9 です。多くの作業はLiveで行います。 Pro Tools 10もありますが、データの 受け渡しやセルフマスタリングする時に使っています。ソフトインスツルメンツで一番使うのは、Togu Audio Line Tal-BassLine というフリーのソフトで主にリードに使います。SH-101のモデリングなんですが、クソみたいに最高ですね。
オールインワン音源では、MOTU MachFiveもよく使います。MachFiveは同世代のトラックメーカーの音と被りにくい、ということもありますね。MachFiveのピアノやパーカッションは結構使います。プラグインはWAVES のAPI Collection、PSP Vintage Warmer、fuzz filter Pro-Qがよく使うプラグインですね。セルフでマスタリングする時は、UAD-2のA800やiZotope OzoneのEQ部分を使います。
ソフトウェアとハードウェアの割合は、ソフト8、ハード2くらいですね。 アクセントとしてハードウェアの音を使う感じが多いですね。(今再生してる)この曲の途中に入ってるパーカッションは、KORG ELECTRIBE ES-1 から出してますが、Live とシンクしてる訳でなく、マニュアルでELECTRIBE のシーケンスを鳴らしながら、Liveにオー ディオ化してるんですよ。ジャストな感じがなくなって、気合いを入れてく感じで、トラック中のいいアクセントになるんです。こういう使い方もよくやります。ELECTRIBE ES-1はTubeの歪みも好きですし、内蔵のディレイがすごくいいですね。ガンガンかけてもピーキーにならない。KROMEやMS-20やLegacy Collectionも使ってますし、KORGの出音のが好きなんです。ELECTRIBEの新型は期待してますね。
今回、10月2日にリリースされたばかりの「FirSt Album」ですが、トラックダウンは?
tofubeats: 外スタジオで、立ち会いの元やった1曲だけを除いて、全部自分でこの部屋でやりました。マスタリングはサイデラマスタリングの森崎さんです。森崎さんにお願いすると、すごくタイトになっていいですよね。リリースを厳密に追い込んでくれます。 僕はスピーカーでやらずに、99%ヘッドフォン完結なんですよ。SONY MDR-CD900STを高3の時からずっと使ってます。今は、これしか信頼していない。
えぇ、そうなんですか!
tofubeats : 僕はヘッドフォンしながらめっちゃ踊って作ってるんですよ。 ヘッドフォンだったら位相も変わらないし。ハイエンドな環境でモニタリングすると、ユーザーの環境と離れちゃ うから、スタジオでラージで鳴らすのが嫌いなんです。マスタリング・スタジオに行っても、僕はDATなどのヘッ ドフォンアウトに CD900ST を挿して聞いてます。スタジオの人に「ラージ使わないんですか?」とか、言われたりして。マスタリングが終わって、マスター音源をもらった後、まずはマスターのままチェックしますが、その次はiTunesでmp3に変換してiPhoneでチェックします。
今のリスナーと近い環境でチェッックする、ということですね?
tofubeats: そうです。僕はmp3を聞いて育ってきたし、320kbpsで聞ける今の環境がありがたい、と思うほど なんです。ネットにアップを始めた頃は、回線速度の制限で96kbpsのモノラルだった訳ですし。それでこそ今はプロとして音楽をやってるので、 ケーブルの違いやハイレゾにも興味ありますが、音楽を始めた頃はmp3の 320kbpsと96kbpsの違いさえ分らなかったくらいの耳ですから。
そういった経緯があるので、今の若いリス ナーが音楽を聞くにあたって、スマホ 環境で満足してる気持ちもよく解る世代なんです。今の若い世代は、スピーカーで音楽を聞けないのが普通の環境だし、僕がやってる音楽はポップスなので、聞いてくれるお客さんを第1に考えなければいけないですし。あと、 ハイレゾはデータ量的にまだ共感ができない部分があります。加えて、僕の場合は、48kHz/24bitで、まだまだ 音を良くする余地があると思ってます。
モニタースピーカーはEve Audio SC205ですね。選んだ理由は?
さっき言ったように、CD900STの音が好きなんで、同傾向のEve Audio SC205にしました。買う時に色々比較して試聴したんですが、Eve Audioはレスポンスが早く、デジタル音楽との相性がいいですね。設定でLoを0.5dBほど上げてます。
SC205にしてから、仕上がりは変わりましたか?
tofubeats : はい、全然変わりました。 Eve Audioは打ち込みをやってる人にぴったりでしょうね。ホワイトノイズ を出すにしても、目の前で「シャーン」と、しっかり明瞭に鳴るし。僕はハイハットの打ち込みを詰めるのが好きな んですけど、Eve Audioの立ち上がりの早さは向いてますね。
「First Album」にフィーチャリングしてるシンガーのセレクション はご自分で?
tofubeats : PES(RIPSLYME)さん以外は、シンプルに自分の好きな人を選んだという感じです。正攻法で、自分で一人一人お願いしに行きましたよ。okadadaと自分の歌はこの部屋のアビテックスの中で録り、それ以外の方々の歌入れは、スタジオまで行って全員立ち会わせて頂きました。アイドルの仕事も多いので、ボーカルディレクションは自分でやりますが、基本的にその人の方向性を尊重します。ただ、藤井隆さんは、ディレクションして欲しいタイプの人でした。歌心に溢れ、すごく上手かったですよ。
こうやってメジャーからリ リースをされている訳ですが、地元の神戸で音楽をすること対する意識はどうですか?住む場所を東京に移すことは考えたりしないですか?
tofubeats : インターネットで繋がってるので特別ないですよ。住んでる場所に関係なく、ネットで知り合った友達 の方が仲いいし。もちろん神戸にも友達はいますけど。東京の方が友達が多いので便利かもしれないですけど、こっちが家賃も安いし、住環境としては最高だし、神戸で大学生しててもYUKIさんみたいなアーティストのリミックスも出来た訳だから、東京に移る必要はないですね。正直、そんなこと考えたこともなく、人に「上京しないんですか?」と言われて「そんな選択肢もあるんだ。」と気付いたくらいなんです。僕にとっては、音楽を作ってお金をもらってることが異常事態であって、そのことをちゃんと感じるために、東京でストレスを抱えて生きるよりも、神戸で自分のペースで生活したいと思います。それに、東京には、なんでも褒めすぎる空気があって苦手なんですよ。
( 笑 )。それはどう いうことですか?
tofubeats : 東京へは、高校の時から毎月DJしに行ってるんですが、特に僕みたいな若手に対して、大した事 なくても褒めるカルチャーがありすぎて苦手なんです。 大して良くないアーティストを持ち上げて、売れるよ うに仕向けたりする人がいたり。僕が所属してたマルチネレコードの20代前半のクリエーターは、ネットを舞台に、お金とか関係なく、ピュアな気持ちでずっと音楽を作ってたんです。でもある時から、それまでと同じ事やってるだけなのにお金をもらえるようになり、ラッキーな世代とも言えますが。ネットから音楽を始められたおかげで、「音楽を作りたい。」という気持ちの本質的な部分を経験できたと思っています。だから冷静に、人の評価と自分の本当の実力を切り分けて判断しなければいけないと思ってます。
メジャーから出す意義は感じてたりしてます?
tofubeats : それはありますよ !! だって今回のアルバムで森高千里さんとのコラボはメジャーの環境だから出来た事ですし。上の世代の著名なクリエーターの方々とお話できたり、一緒にお仕事できる機会を持てたり。こういったことは、メジャーでないと経験できないことです。メジャーとインディー、両方に長所/短所はありますが、天秤にかけて判断するためには、両方を経験してから言えることだと思います。
では、海外と国内の違いはどうですか?
tofubeats: 今、海外でも国内でも、みんな使ってるツールは同じで、SoundCloud、Bandcamp、Twitterなんですよ。だから環境にそんな差はない。それに、SoundCloudから流れてくるのは、洋楽と言ってもそれがアメリカなのかヨーロッパなのか分んないまま、みんな聞いてるし、トラック作ってるクリエーターも、わざわざ自分の国籍を明かすこともなかったりして。 僕のSoundCloudの再生数の3分の1はアメリカです。だから海外の人も、結構J-POPの曲を聞いてくれてると思います。正直、洋楽/邦楽の区別って意識してないですね。
今後のご予定をお聞かせ下さい。
tofubeats : 音楽やってて「仮に3ヶ月楽しくなかったら今後を相談しよう。」とマネージャーに話してるんですが、今迄の所、楽しくやってます。希望としては、死ぬまで楽しく音楽をやれればいいですね。音楽しか好きな事無いですし。なおかつ、好きな事でお金がもらえれば機材も買えるし。その上で、自分の音楽が世の中に広まってくれればいいなと思います。その他の今後の情報は公式サイトチェック、ということで。(笑)
最後の質問ですが、tofubeatsさんにとって音楽とはなんでしょうか?
tofubeats : たった1つの大事な趣味、ですね。
(インタビュー2014-10-7、Proceed Magazine 2014-1015掲載)
tofubeats
1990 年生まれ、神戸で活動を続けるトラックメイカー /DJ。 学生時代からインターネットで活動を行い、YUKI、ももいろ クローバー、Flo Rida、Para One、くるり等、ジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスを手掛ける。プロデューサーとしてもlyrical school、9nine、Negicco、でんぱ組 inc. といったアイドルやアー ティストに楽曲提供をしており、SONY、SEGA、SHIPS、KOSE、CONVERSE、LUMINEなど、TVCM やwebCMの音楽制作等も多数。ソロアーティストとしてはスマッシュヒットした「水星 feat. オノマトペ大臣」を収録したアルバム「lost decade」を 2013 年にリリース。全曲フル試聴などの施策で話題を呼ぶ。過去の外部仕事をまとめたワークス集2枚も同時発売。 同年秋にはWARNER MUSIC JAPANのレーベルunBORDEからメジャーデビューが決定し、森高千里、の子 ( 神聖かまってちゃん )をゲストに迎えて「Don't Stop The Music」をリリース。
これらの一連の流れが評価され、iTunes Best of 2013 に 選出された。 2014 年春にメジャー2nd EP「ディスコの神様 feat. 藤井隆」をリリースし各方面で話題を呼んでいる。制作だけではなくDJとしても多 くの現場をこなし、高校生時代のWIRE08出演を皮切りに、2013年末にはCOUNTDOWN JAPANにも出演を果たす。2014年7月にはイギリスのラジオ局BBCのプログラム『BBC Radio1Xtra Diplo and Friends』に日本人として初出演し、エクスクルーシブ・ミックスが オンエアされる。また、数誌でコラムの連載も行っており、各方面 で精力的に活動中。 2014/10/02(豆腐の日)には、待望のメジャー1st アルバム「First Album」をリリース。
公式ウェブ サイト : http://www.tofubeats.com/