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OP-1 製品レビュー:HIROSHI WATANABE aka KAITO

2021.07.02

OP-1が発売されて既に10年が経つということに驚きながらこの記事を書いてます。10年間その人気が落ちることもなく製品としての存在感と人気をキープするというのはなかなかあるものではありません。一時は販売が中止された時期もあったことも記憶に残っています。その時は確か、生産する為に必要なパーツ、部品不足だったと記憶しています。

改めて、未だに人気の衰えを知らないこのシンセは一体なんなんだろうかと不思議に思いますが、「トイシンセ」でもあり、また扱い方次第で人の想像を掻き立てることが可能な「本気なシンセ」の顔も見せる本製品。「摩訶不思議なシンセ」と勝手に位置付けています。


洗練されたデザイン

本機の魅力がどこにあるのか?それを冷静に分析するといろいろなことが分かってきます。まずは何よりもこの本体のデザイン、ルックスであることは間違いないでしょう。多くの名機とされるシンセサイザーに仕込まれたボディーデザインは車やその他の製品同様、肝心要の工業デザインは販売促進にとても重要な要素となります。

Teenage Engineering OP-1

Teenage EngineeringというOP- 1を作り上げたメーカーは北欧スウェーデンを拠点としています。今や多くの製品や住居、ライフスタイルまでもが北欧のもので埋め尽くされ、その愛くるしさと格好良さのバランス感に多くの人が魅了されていることと思います。北欧デザインというものが本来どういうところから成り立っているのか?色彩センスやデザインが自然に生活に溶け込む今、日々凡ゆるところから影響や刺激を受けているように思われます。

OP-1は唯一無二のデザイン。その「カワカッコイイ」小さな本体にありえんばかりの機能がふんだんに盛り込まれています。よく人間工学に基づくデザインという言葉を耳にすることがありますが、このOP-1は製作者たちのセンスによって、そのレベルのデザインと機能性が人の心を鷲掴みにする魅力の詰まった極めて完成度の高い製品に仕上がっています。

ツールとして、人に愛される物の定義や理由というものは一定の法則が恐らくあるのだろうと思えるのだけど、例えばOP-1は「ルックスだけに惹かれてその独特な世界観に引き込まれる」のではなく、視覚からだけではなく人間の触覚にさえも完璧なまでにその法則らしきものが仕組まれているように思います。

Teenage Engineering OP-1

心地よいタッチと操作性

ボリュームコントロールのノブの重さ、実にこれが心地よい。ノブの重さ、感覚がどれだけ機材にとって大切か?分かってパーツを選び抜かれているように感じます。多くの機能で大変重要な要素を担う4つにカラーリングされたロータリーエンコーダーのツマミ。このツマミの重さとクリックの感触、すばやく動かしたときに感じる一粒一粒の変化量が指先から実に見事に伝わってくる凄さ。これは世界中のOP-1ユーザーが体感する共通認識だと信じています。それくらい素晴らしい。

ゆっくり動かせば目を瞑っていてもその数値の変化を一つ一つクリックから味わえるこの心地よさは、実は機材を触る上での癒しの効果すら生み出しているに違いありません。

そして何よりも配色。これもまた北欧のセンスであろう4色で統一されたデザイン。実はこのカラーリングには意味があり、視覚的に瞬時に小さくて情報量の豊富なOP-1のディスプレイに映し出されるパラメーターと連動しているのです。

Teenage Engineering OP-1

ノブの色と機能に当てがわれたディスプレイに映し出されている色が一致していることで、どのノブを動かせば良いのか?という想像が簡単につくように施されており、これがなんだか心地よいのです。指先の触覚と視覚のシンクロにより、不思議な心地よさに知らぬ間に引き込まれてしまうのです。


遊び心に富んだ機能達

デジタルを駆使した小さなシンセの中身には実は極めてアナログチックな機能が盛り込まれています。シーケンスを組んでレコーディングするためのテープレコーダーは言わば本当にカセットテープやアナログのリールを扱っているかの如くであり、音そのものはローファイで心地よい上に9種類のタイプのシンセエンジンが用意され、おまけにサンプラー機能は外部からの音源やマイクまで搭載されていて実にすばやく実験的な遊びから真面目な発想まで曲作りに取り入れられます。「真面目な作り」と「遊びの要素」が交差しているのです。

きめ細かくデザインされた UI、各ページに入っていく面白さとワクワク感。特筆すべきはエフェクトの各画面のキャラクターとその効果の連動。この発想はそうそうその他のシンセにはないし、楽しすぎて時間を忘れさせてくれることが何よりもこのシンセの特徴なんじゃないだろうか?と思っています。

このコロナ禍でもこういう製品は確実に人の心を癒す貴重な存在であるはずです。それも10年間地道なアップデートを積み重ねながら未だに飽きられることなく存在する機材。音楽も楽器も機材も、タイムレスなものをぼくはやはり求めてしまう。自分が作る音楽もそうであって欲しいと常に思っています。
「いついつのものだから」というふうに時代に押されて成り立つのではなく、もっと特異な存在であることを望んでいます。OP-1の面白さは時代とは無縁とさえ思えるほど、際立ったものです。オモチャのように見えて使い込むとそれは見事な道具となり、表現のツールとなるOP-1。音楽に引き込む導線があちこちに仕掛けられています。

その1つに、いつ触っても面白いと思うアルペジエーターとシーケンサーの機能があります。

Teenage Engineering OP-1

意図的に仕込むシーケンスも得意だけど、ランダム性をいかにセンス良く楽曲に使い切るのか?ということもかなり考えられていて、音楽を知らずとも触っていて楽しい機能がまず先にあることは、実は機材に触れる楽しさ、音楽に触れる楽しさや作る面白さをそっと提示してくれているということであり、その先を感じてみたくなるワクワク感を端から端まで埋め尽くしていることが絶えす感じられるはずです。

ぼくがリリースしたkaito名義の作品の中で、OP-1のPATTERNというお気に入りのシーケンサーがあります。

Teenage Engineering OP-1

縦軸と横軸があって、表示も音階までハッキリとは見えないアバウトなものなのだけど、これがまさにどハマりしてしまう。この機能を使いコードを随時1音または複数音を微妙に変化をさせながら、リアルタイムにレコーディングした作品がいくつかあり、まさに現代音楽のミニマルミュージックを彷彿させるイメージを瞬間的に生み出してくれます。

ぼくはこの機能を使い1曲で30分に及ぶ作品作りを試みました。ただひたすらこのシーケンスの画面と自分の感覚とをシンクロさせ、空想と想像がOP-1の小さな画面と音でひとつになる感覚。パソコンも何もいらないその楽しさは、子供のころにオモチャを時間を忘れて遊び倒したあの感覚と似ています。このPATTERNシーケンサーだけでなく、SKETCHというこれまた一風変わったシーケンサーがあるんですが、右と左にダイアルがシンプルにあって、そのダイアルをくるくると回すと縦と横の線が画面に描かれるオモチャそのもので、これでどうやって音楽を作るのか?って考える前にまずは遊んじゃえ!という発想が笑ってしまいます。

やっぱりオモチャなんだ!と思いきや、出てくる音はカッコイイ。パラメーターのノブが縦横無尽に無骨に並べられているようなアナログシンセではなく、小さな画面にカラフルに描かれるマジカルな世界観に、とにかくツマミを弄ってみたくなる仕掛けが仕組まれています。

Teenage Engineering OP-1

無限の可能性

曲作りするはずが何分も時間を忘れて黙々と触っていられる。面白いからいじっているうちに何やら色々分かってくる。多くの機能は総じて、SHIFTボタンとの連動によって1つのボタンに対してマルチタスクに仕組まれています。このシンプルさが、飽きさせないで音楽に触れさせることを可能にしているように思います。

もちろん、内部のシーケンスは外部のMIDI機器とのシンクも簡単に操作でき、レシーブ状態にしてパソコンと同期させることも簡単で、何よりぼくの曲作りにも役立ったのは全てのシーケンス機能で実際に発音している音のMIDI情報が常に発信されていることでした。先ほどあげたPATTERNシーケンスのコードのMIDI情報をパソコンと同期させてMIDI信号を同時にレコーディングしておき、そのデータを元にOP-1から発信された音のオーディオデータと共にさらに複雑な曲作りを同期したMIDIデータを元にパソコンで作り上げた作品が、* kaitoのEndless Existenceという形でリリースになっています。ぜひ良かったら一度聴いてみてもらえたら嬉しいです。

オリジナルテイクはOP-1の音そのものだけを使い、エフェクトを追加しただけのシンプルな作品、もう一つのテイクはOP-1の上にMIDIデータを元に音を再構築して楽器を割り振り、よりアコースティックなイメージに作りかえたものになっています。

話を本機に戻すと、音作りは用意されたシンセエンジンの多くが直感的、視覚的にいじりながら作り上げるのだけど、実はメニューの中に入っていくと多くのプリセット音源も用意されています。ドラム音源ももちろんあるし、これまた笑えるのがゴリラのドラマーがドラムを叩いてくれるシーケンサーまであったりする。どこまでも子供から大人まで楽しませてくれるシンセなんだけど、隠された機能は「本物」でかゆいところに手が届く設計です。

例えば、テープレコーダーに録音した音はOP-1からの出力を頼りにケーブルで繋いで録音するも良いのだけど、実はいとも簡単にパソコンでオーディオデータとして吸い上げることもできます。これを使えばサラッとOP-1のテープレコーダーで遊びならスケッチしたものをパソコンヘ音データとして転送することも可能で、更に楽曲を作りこむなんてこともやれてしまいます。

FMラジオもアンテナ付けて聞けたり、それをサンプルしたりももちろん簡単。各ボタンの機能がなんなのかを説明してくれるInfoボタンも設けられていたり、どこまでも考えられています。キーボードで唯一付いてない機能としては、強弱をつけるベロシティですが、 ピッチベンドならSHIFTボタンと矢印ボタンの併用で扱えます。結果的にベロシティがないことも触っているうちにどうでも良くなってしまうほどです。


MIDIコントローラーとしても

OP-1はMIDIコントローラーとしても機能するモードまで用意されています。

Teenage Engineering OP-1
Teenage Engineering OP-1
Teenage Engineering OP-1

その中でもAbleton Live専用に設けられたScriptをAbletonに読み込み、OP-1からリモート操作させることができ、OP-1の画面にトラック名やクリップの有無を表示させれたり、MIXモードというボタンやノブにあらかじめアサインされたAbletonの機能を基本的に全て操作もできてしまいます。

使ってみるとこれはこれで驚きで、この小さなコントローラーがここまで操作できるようになることに正直に驚くレベルです。ちゃんとディスプレイにはAbletonのロゴマークまで表示されているし、どこを見てもきめ細かくデザインされています。

最後にOP-1のオモシロ機能でもう1つ。

Teenage Engineering OP-1

演奏や作り上げたシーケンス、テープレコーダーにレコーディングした曲を再生しながら、丸々それらの音をあたかもアナログレコード盤を作れるかのように記録することができて、しかもそれがA面とB面とで二つ録っておける。これは純粋に録ったものを聴いて楽しむための機能なんだけど、こんなことろにまで拘った遊び心があり、感心するのとにやにやが止まらない、そんな魔法の宝箱のようなシンセなんです。

10年間変わらない人気を誇るだけのことはある、まさに奇跡のマシン。旅先にもバックに入れて持って行きたくなる小型シンセサイザー(裏面にそう記載されている)。ぜひそんなOP-1を手に取って触ってみて欲しいと思っています。

Teenage Engineering OP-1
Teenage Engineering OP-1
Teenage Engineering OP-1

ずっしりひんやりとしたアルミでできたボディにきっと感動するはずですよ!


参考楽曲 (文中で作り方を紹介した曲)



プロフィール
HIROSHI WATANABE

HIROSHI WATANABE

作曲家/DJ,Producer,Remixer

東京音楽大学附属高等学校コントラバス科卒 ボストン、バークリー音楽学院 MUISC SYNTHESIS科卒

国内外のダンスミュージックレーベルより作品を多数リリース。 リミックス、楽曲プロデュース、CM、TVドラマ、アニメ、映画、 広告、 ファッションショー、舞台音楽、イベント楽曲制作と多岐に渡り楽曲を手掛ける。 コナミ、ビートマニアシリーズへ多くのヒット曲を提供。 ドイツ最大のエレクトロニック・レーベルKOMPAKTよりKaito名義での作品は シングル『Everlasting』1stアルバム『Special Life』がヨーロッパで話題となり計8枚のアルバムを発表。 アニメ交響詩編エウレカセブンへ「Get it by your hand」を楽曲提供。 鴻上尚史プロデュース舞台作品へは第三舞台封印解除&解散公演を含む公演へ10年以上に渡り音楽を担当。 上海万博/上海国際芸術祭記念 日中友好舞踊歌劇 「木蘭(ムーラン)」劇伴担当。 VESTAXと共同開発により作り上げられたSignatureモデルであるDJコントローラーTR-1を発表。 2014年秋『WDR Funkhausorchester meets KOMPAKT』ドイツケルンWDRオーケストラとケルンにて共演。 日本三大名瀑 茨城県『袋田の滝』ライトアップショーへサウンドトラックを手掛ける。

2016年 Derrick May主宰U.Sデトロイトのテクノ老舗レーベルTransmat Recordsより日本人として初のリリースとなる 『Multiverse』を発表。2017年夏、12年の時を経て改めて公開となったエウレカセブン ハイエヴォリューション1へ 挿入曲『Get It By Your Hands HI-EVO Mix』として楽曲を提供。 一日の通行者数30万人を誇る阪急うめだ本店 コンコースウィンドウ 『夏の心地よい暮らし』にてパネル用写真/楽曲の提供 経産省 データヴィジュアライゼーション作品 「3,393,867,155」 3dcel 3D City Experience Lab. 楽曲制作 アーティスティックスイミング日本代表 乾由紀子(リオ五輪メダリスト)ソロテクニカルルーティン楽曲担当。 (韓国広州で行われた2019年世界水泳選手権にてソロ銅メダル獲得) FISノルディックスキージャンプ女子ワールドカップ蔵王大会2018~2020 スタジアムDJを務める。 音楽学校メーザーハウス、サウンドクリエイト科講師担当(2015~2020閉校まで) OTAI RECORDS MUSICスクールDTMコース講師担当。

Twitter @hw_aka_kaito
Instagram @hw_aka_kaito
Facebook hiroshiwatanabeofficial
Bandcamp hiroshiwatanabe.bandcamp.com
Soundcloud soundcloud.com/kaito

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