2025.06.25
創造者、クリエイターと共に新しい創造物へのインスピレーションを得るために、昨今の空間オーディオ、3Dサウンド、多彩なフォーマット、様々な可能性を体験し、実感する。
MIL STUDIOはそのためのスタジオであり、空間です。
43.2chのディスクリート再生で実現した下方向のスピーカーを備えた完全4π音響空間。研究と体験、そこから得られるインスピレーション。それを実現するためのシステムや音響をコンセプトからご紹介します。
MILは一つの事象に特化したものではないため、掴みどころがなく感じるかもしれません。しかしそれこそが次のステップであり、新しい表現の始まりでもあります。
それが作品の未来を作ります。このイマーシブ空間には、人間にとって最も自然なサウンド空間が広がっています。
まずは、MIL(ミル)のコンセプトを紹介しましょう。
長年2chで培われてきた音楽の表現とは全く異なった「4π」感覚で描かれた音楽。
それらが主体となる世界が新たに始まります。
このMILは「進化し続けるラボ」として今後誕生するであろう様々なフォーマット、3Dの音響を入れるための器、エンコーダー、デコーダーなど様々なテクノロジーを実際に再生し体験し共有することができます。
オーディオに関しては、水平よりも下方向にもスピーカーを配置した、現時点での音響空間のゴールとも言える4π空間再現による真の360イマーシブ環境を実現しています。
そのスピーカーにはFocal CIの3-Way Speakerを採用。
多チャンネル、イマーシブの環境では一般的には同軸スピーカーが採用されることが多く、2-way、3-wayといったスピーカーよりも物理的に点音源としてオーディオを出力する事ができるメリットがあります。
しかし、設置の条件とサウンド・クオリティーを満たす同軸のユニットがなかったために、MILでは音質を重視して3-Wayを採用しました。
(※スピーカー選定に際しては、ユニット自体の音圧放射の特性を調べ上げ、マルチチャンネルにふさわしいものを選定。その測定の模様はProceed magazineにて株式会社SONA執筆の「パーソナル・スタジオ設計の音響学」をご覧ください。)
ここからは、MILにおけるシステムの特徴についてご紹介いたします。
スピーカーは水平方向に30度刻みで等間隔に配置。高さ方向で見ると5層。12本 x 5層=60本。それに真上と真下の2本。
現状のセッティングでは、中下層は水平面のスピーカーのウーファーボックスが設置され、下方向も半分の6本のスピーカーを設置、真下もスタンバイということで、実際には43chのディスクリートスピーカー配置となっています。
それに2本の独立したサブウーファー。これで43.2chということです。
これらのスピーカーはFocal CI社の最新モデルである1000シリーズがメインに使われています。正面の水平面(L,C,R ch)には同シリーズのフラッグシップであり、VGP 2025特別大賞を受賞した『1000 IWLCR UTOPIA』を設置しました。
(Focalでは製品カテゴリを問わず、最上位モデルに「UTOPIA」(ユートピア)というネーミングが与えられます。)
CI=Custom Install、設備用、壁面埋め込み型ということで設置性重視とも捉えられ、音質が犠牲になっているのでは?と感じられる方もいるかもしれないが、このモデルは一切の妥協が感じられない素晴らしいサウンドを出力してくれます。
Focal CIのスピーカーは、全てパッシブです。
そのため、このチャンネルと同数分のパワーアンプを準備する必要があります。
結果、必要なパワーアンプのチャンネル数は55chにのぼります。
2chステレオ仕様のアンプで準備をするとしたら28台が必要ということになりますが、それほど多くのアンプを設置する場所は確保できないため、主要なスピーカーを4chパワーアンプとして、それ以外をInnosonix MA32/Dという2U 32chアンプを採用。
アンプとスピーカーの接続には、ドイツのSOMMER CABLEを採用。
ELEPHANT ROBUSTという4mm2 x 4芯のOFCケーブルが採用されている。MILで使用したスピーカーケーブルの総延長は実に1300mにも及びます。
これらのアンプまでの信号は再生機器から、全てDanteで送られます。
本システムで一番苦労したのがモニターコントローラー部分。
必要要件として43.2ch(将来的には62.2ch)の一括ボリューム制御ができる製品であることが求められる。これができる製品を考えるとAvid MTRXの一択となります。
Avid MTRXのモニター制御部分であるDADmanは、最大64chの一括制御が可能。
この2つの再生系統の他に、Core i9を搭載したパワフルなWindows PCがFLUX SPAT Revolution専用機として準備。
これは、それぞれの再生機から出力されたレンダリングアウトに対し様々なプロセスを行うものとなります。
具体例を挙げるとDolby Atmosであれば、理想位置から出力された際のシュミレーション。MILのTOPレイヤーは仰角34度であるため、Dolby Atmosの推奨設置位置である仰角45度とは11度ほど差異が出ます。これをSPAT上で仰角45位置へと仮想化。水平面に関しても、実際に物理的なスピーカーが設置されていない水平角100度、135度という推奨位置へと仮想化することとなります。
AV amp以外は全てDanteでの接続のため、配線はあっけないほどシンプルです。
一本のEthernet Cableで多チャンネルを扱える、信号の分配など自由自在なルーティングが組めるDanteの恩恵を存分に活用。
各機器がまさに適材適所という形で接続された、まさに次の世代への対応まで整えたと言っていい内容でシステムアップが行われたMILスタジオ。
4πの空間再現、音を「MIL」という思いを込めて。
実験施設とは異なる、じっくり、ゆっくりと音を体験できる場となっています。
それが作品の未来を作ります。このイマーシブ空間には、人間にとって最も自然なサウンド空間が広がっています。
【技術解説】MIL誕生に寄せて〜鑑賞から体験へ 選択から多様の未来へ〜 中原雅考(株式会社ソナ / オンフューチャー株式会社)
マルチチャンネルスピーカー再生での聴取感をヘッドフォンで限りなく正確に再現することが可能となれば、物理的な部屋の広さがどうしても必要となるマルチスピーカー環境を構築せずとも、立体音響コンテンツの制作に着手することができます。
SONYが開発した360 Virtual Mixing Environment (360 VME)は、まさに立体音響スタジオを再現したヘッドフォン再生を可能にするサービスです。
国内唯一の測定スタジオであるMedia Integration, MIL Studioでの360 VME体験を是非お試しください。
測定サービスについて詳しくはこちら
https://www.minet.jp/contents/info/360-vme-measurement/