アーティスト・レビュー
2017.10.18
2015年の再結成から2年、伝説のロックバンドREBECCA、28年ぶりとなった全国ツアーのファイナル、日本武道館公演の収録にLewitt DTP Beat Kit Pro 7がドラム用マイクに採用されました。本公演ではPA用とは別に収録用のマイクが使用されており、その選定は全てGoh Hotoda氏によるもの。REBECCA、そして松任谷由実の約3年ぶりの新作「宇宙図書館」など、Goh Hotoda氏がレコーディングを手がける作品内のドラム・マイクに、Lewitt DTP Beat Kit Pro 7が採用されています。
ドラムサウンドというのは、それぞれの時代を象徴するサウンドに代表される要素なので、マイクセレクションはとても大事です。
定番であるShureやSennheiser、Electro-Voiceなどはすでに30年以上前にデザインされたマイクであり、それらはアナログテープレコーダーやアナログPA卓に収録〜拡散される事を想定された指向性、周波数特性になっています。
メディアが完全にデジタルな現代において、ノスタルジックなマイクセレクションとデジタル領域での過度なEQ処理、過度なシグナルプロセシングでは、ただ耳に痛いだけの「音」になってしまいます。
これらのビンテージマイクは、当時からEQ補正を使うことが前提にあるマイクなので、それぞれに合ったEQ補正を施すことになり、本数が多くなれば結果としてドラム全体の位相がメチャクチャになります。当時はそれが「魔法」であっても、現代においてこのような位相の問題は聞かずとも明白であると言えるでしょう。現代のドラムサウンドにおける「いい音」の基準とは位相がしっかりとした「音」とするならば、リスナーからみても条件の悪い状態で録音されたドラムサウンドはそれだけで「いい音」ではなくなってしまいます。DTP Beat Kit Pro 7に収録されるDTP 640 REXは、コンデンサーとダイナミックの2つのマイクが一つの筐体に含まれています。今まで、ダイナミックは~?コンデンサーは~?と好みのマイクを別々に立ててミックス時にバランスを取っていました。位相の問題や、マイクを立てる位置について条件が限られた環境だった場合など、想像以上に「被り」があり使えないこともよくありましたが、一つの筐体であれば位相もセッティング位置も確実です。さらに、以前はタムタムに使うマイクは昔からの定番のダイナミックマイクを常用していましたが、結局は個別に400〜800Hzの不必要な音を除去し、3000Hz~7000Hzのアタック感を足すなどのEQ補正が必須でした。しかしDTP Beat Kit Pro 7に収録されるDTP 340 TTであれば、マイク自体が最初からそのような周波数特性であるがゆえにミックスでのEQ補正がほぼ不要です。現場のサウンドチェックでOKした音がそのままなので、位相が狂う事なくいい音を保持できます。スネアマイクの場合、Shureなどの定番マイクを使用した場合、ポジションやドラマーによってハイハットの被りが尋常ではないことがしばしばありますが、DTP Beat Kit Pro 7に収録されるMTP 440 DMを使用した場合には、指向性とF特がスネアに特化されているため、スネアの音をきちんとモニター出来ます。逆にハイハットのマイクからはハットをきちんとモニター出来るほどです。誰もがSnare Topマイクからスネア全体の音を作りがちですが、スネアというのは実は響き線が非常に重要です。プレイヤー自身も響き線のセッティングには非常に気を使っているでしょう。しかしスネアのBottomとTopマイクとのバランスが非常に重要であることは忘れがちなのです。DTP Beat Kit Pro 7に収録されるMTP 440 DMは驚くほどのハイを得る事は出来ませんが、スネアドラムとしてのアタック、胴の深みを驚くほど忠実に収録できます。適正にセットされたスネアBottomマイクからの響き線のハイと、Topマイクとして使用したMTP 440 DMとのコンビネーションにより、ハイハットからの干渉の無い、まるでサンプリングされた様な、素晴らしく際立つ現代的なスネアの音が収録できます。オーバーヘッドの定番であったAKGのマイクは、ニュアンス表現というより鳴っている物を全て飲み込むようなサウンドであるため、シンバル類はまるでドラの様に収録されてしまいますが、DTP Beat Kit Pro 7に収録されるLCT340は、立てる位置さえ間違うことが無ければドラム全体のバランスの良さはもちろん、シンバル類はそのニュアンスまでも非常に繊細に収録することが可能です。DTP Beat Kit Pro 7で収録する事には大きなメリットがあります。全体のトータルバランスでデザインされているのでプリアンプのゲイン設定もダイナミックレンジも把握しやすい点。そして何よりもエンジニアにとって嬉しい、後々のミックス作業が非常に楽になるという点です。素晴らしいプレイヤーと、よくチューニングされたドラムキットを用いて「今」収録するという事は、現代のニーズにマッチしたマイクセレクションで臨むという事です。銘人の包丁の様に、清潔で切れ味が抜群でなければ素材を大切に扱う事は出来ないのです。関連製品
DTP Beat Kit Pro 7
プロデューサー/ ミックスエンジニア
1960年生まれ。東京都出身。シカゴでキャリアをスタートし、1990年マドンナの『VOGUE』のエンジニアリングを務め、今ではポピュラーとなったハウス・ミュージックの基盤を作った。 その後ジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、坂本龍一、宇多田ヒカルなどの一流アーティストの作品を手がけ、トータル5800万枚以上の作品を世に送り出す。2度のグラミー賞受賞作品など世界的にも高い評価を受けている。
仕事を通じ10年来の付き合いのあった『REBECCA』のNOKKOと2001年に結婚。『NOKKOandGO』を結成。
現在はミックスとハイレベルなマスタリングスタジオを可能とした2世代目となるstudio GO and NOKKOを所有、インターネットによるオンラインミックスサービスを行い世界中からのクライアントに貢献している。