2024.06.21
Sonarworks社のSoundID Referenceは音響の問題をフィルターで補正し、モニター環境を改善するためのテクノロジーです。こうした音響補正ツールは主にスピーカーに対して行われることが多いですが、SoundID Referenceの特徴としてヘッドホンの出音も補正してくれるという点が挙げられます。
スタジオモニターヘッドホンはどの会社のどのモデルも正確なモニタリングを提供することを目的に作られているはずですが、それでも完全にフラットな周波数特性が実現できているわけではありません。また、モデルが異なれば当然音も異なるため違うヘッドホンのユーザー同士がお互いの聴いている音を揃えることもできません。SoundID Referenceのヘッドホンキャリブレーションはこうした課題を解決します。
ここからはSoundID Reference for Headphonesのヘッドホン補正の5つのメリットを挙げていきます。
いわゆるスピーカー補正系のツールは専用のマイクを使って数分〜数十分という時間をかけて部屋の測定をする必要があり、面倒くさかったりハードルが高かったりするものです。また、マイク自体も測定用のものとなると高価だったりもします。
一方で日本のクリエイター、特にアマチュアの方やチームで集まって制作されている方はヘッドホンでの制作が中心というケースも多く、モニター環境の補正ツールはどこか自分とは縁遠いものと考えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
SoundID Reference for Headphonesはモニター環境の補正についてなんとなく敬遠していた方でも拍子抜けするくらい簡単にヘッドホンの出音を改善することができます。やり方は、SoundID Referenceをインストールして起動した後に自分が使っているヘッドホンのモデルを検索して選ぶだけです。これだけで、今自分が使っているヘッドホンの特性がフラットに近づきます。
一度ヘッドホンプロファイルを適用してしばらく音を聴いた後にSoundID Referenceを無効にすると「今まで自分はこんな音でモニターしていたのか!」と驚かれると思います。
メジャーなヘッドホンモデルのプロファイルは概ねSonarworksから提供されていますが、日本でのみ流行っているモデルであってもMedia Integrationさんが働きかけてくれれば後に対応してもらえることもあります。過去にSonyのMDR-CD900STのプロファイルがそういった経緯で作成されました。
ヘッドホンだけで制作を完結させている方からすると、スピーカー補正のソフトウェアやマイクが付いてきても無用の長物になってしまうかもしれませんし、その分がお値段に反映されてしまっていたら割高感は否めません。過去にSoundIDやSonarworksのことを調べた時に「え、6万円?ちょっと手が出せないな…」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、SoundID Reference for Headphoneはヘッドホン補正のみを行うバージョンが存在します。その上、後にスピーカー補正もしたくなった時のためのアップグレード版もあります。なので、思ったより導入の敷居は高くないのではないでしょうか?
プラグインでモニター環境を補正することの問題点としてDAWの中の音にしかかけられず、YouTubeやApple Musicの出音とDAWの中の音が違ってしまうという問題があります。しかし、SoundID ReferenceにはSystemwideというスタンドアローンアプリがあるためOSの出力のオーディオに対しても同様の補正を行うことができます。
Tips: SoundID Referenceの補正によって映像と音がズレてしまうと感じる場合はフィルターをLinear PhaseからZero Latencyに変えてあげることで遅延を防ぐことができます。
ヘッドホンの出音をいくらフラットにしたとしても、スピーカーモニタリングで得られる感覚とヘッドホンで得られる感覚は異なります。その最も大きな理由は、例えば左のスピーカーから出る音は左右両方の耳に入ってきますがヘッドホンでは左のドライバーから出た音は左耳でしか聴くことができません。このことで、スピーカーで聴いていれば感じられる空間や定位がヘッドホンでどうしても感じられないのです。
SoundID Reference for Headphonesではこの問題も解決します。別売のVirtual Monitoring Add-onを購入しスピーカーのシミュレーションをONにすると、Near field、Mid field、Far fieldから好きなスピーカー構成を選んでヘッドホンの中でシミュレートすることができます。
これにより、ヘッドホンを付けた状態でパンをLやRに振り切った時でも逆側の耳に音が聴こえてくるようになりスピーカーでミックスしているのに近い体験を得ることができます。
さまざまなリスナーの環境を想像しながらミックスの最終確認をいくつかの環境で行うのはよくあることですが、一度書き出したデータを色んなところに持ち出して確認するのは意外と手間のかかるタスクだったりします。これを英語だとTranslationの確認と言います。
Translationは直訳すると「翻訳」ですが、あるところで作ったミックスの印象が他の環境に持っていって音が変わっても正しく伝わることを翻訳と言われるとなんとなくしっくり来る気もします。
話を戻すと、Virtual Monitoring Add-onはこうした課題もクリアします。Translation Checkでターゲットを切り替えるだけでそれぞれの環境で聴いた時の印象を再現し、現状のミックスが別の環境でも意図通り再生されるか否かを手軽に確認することができます。MacBookやiPhoneからいくつかのTVの型番まで、思ったよりもいろいろなデバイスのプロファイルが入っているためヘッドホン一つでこれらのデバイスでの印象を確認できると考えるとなかなかにお得感がありますし、時短に繋がるでしょう。
ヘッドホンでもより信じられる出音を得ることは多くのクリエイターにとっての福音となることは間違いありません。21日間のフリートライアルもありますので、まずは実際に自分の環境の出音がどう変わるのか試してみてください。
SoundID Reference 入ってる? 〜リスニング環境によって印象を左右されないミックスのために〜
SoundID Reference
ミックスのクオリティはモニタリングのクオリティで上限が決まると言っても過言ではありません。EQやコンプレッサー等、信号に直接介入するツールももちろん重要ですが、SoundID Reference for Headphonesのようにモニター環境自体のクオリティを上げるというアプローチからも得られるものは大きいのではないでしょうか。
代表作に「 Street Fighter V」「Bayonetta 3」「Final Fantasy XV Multiplayer:Comrades」等。
自身が主催しアーティストとしても参加するG5 Project、G.O.D.では世界中から若手の超凄腕ギタリストを集め、「G5 2013」はオリコンアルバムデイリーチャート8位にランクイン。
東京大学工学部卒でデジタルオーディオに精通した日本人唯一のiZotope Artistであり、Billboardの全世界チャート6位にランクインした。
「The Real Folk Blues」のチャリティーカバーやMARVEL初のオンラインオーケストラコンサートではミキシングを務める。
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