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全席に感動を。音響空間デモクラシーを実現するSPAT Revolution WFSとライブサウンドの未来。

2024.04.05

EVENT REPORT

去る2月6日と7日の2日間、京都芸術劇場 春秋座において、「次世代舞台音響『イマーシブ・オーディオ』の可能性について」と題した勉強会が開催されました。この勉強会を企画したのは、舞台音響家/京都芸術大学舞台芸術科教授の大久保歩氏で、現在各分野で注目が集まっているイマーシブ・オーディオを、“舞台音響”の観点でその可能性を模索するという内容。初日はミシガン工科大学美術・舞台芸術学部教授のクリストファー・プラマー(Christopher Plummer)氏や、おなじみ東京芸術劇場の石丸耕一氏が講演を行い、2日目は演奏家の協力のもと、イマーシブ・オーディオを利用したバンド演奏が実演されました。

ここではそのプログラムの中から、イマーシブ・プロセッサーSPAT Revolutionの開発元である FLUX::社のヒューゴ・ラリン(Hugo Larin)氏の講演の模様をレポートするとともに、SPAT Revolutionでプロセスされたサウンドを体験された兵庫県立芸術文化センターの金子彰宏氏と大久保氏のコメントを紹介します。


Flux::社のヒューゴ・ラリン(Hugo Larin)

はじめに

今回のセミナーでは、WFS(Wave Field Synthesis)=波面合成をテーマにお話をしたいと思っていますが、私たちが開発したSPAT Revolutionは、WFS専用プロセッサーではないということを最初にお伝えしておきたいと思います。現在、いくつかのメーカーがイマーシブ・プロセッサーを販売していますが、用途に合わせて最適なパンニング方式を選択できる点は、SPAT Revolutionの大きなアドバンテージです。WFS=波面合成という言葉から、スピーカーが隙間なく並べられている再生環境を想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、本日のセッティングのように、スピーカー間の間隔が開いていても十分立体的な音場を作ることができます。


WFSがイマーシブ・システムに何をもたらすのか

現在注目されているイマーシブ・サウンドですが、WFSはそのシステムにどのようなベネフィットをもたらすのでしょうか。私たちは大きく5つのベネフィットをもたらすと考えています。

  1. 仮想音響空間の構築
  2. 観客のリスニング・エリア全体に安定した音像のイメージを提供
  3. エネルギーの配分を効率にし、サウンドのシーンの一貫性を確保
  4. ステレオの原則や音響的な錯覚など、過去の聴感上のパラダイムから離れる
  5. 音色を尊重した自然な感覚

分かりやすく言うなら、WFSは音響空間のデモクラシー/民主化を実現します。従来のライブ・サウンドでは、FOHが音響的に最も良いポジションだったわけですが、WFSによるイマーシブ・システムを導入することによって、会場にいるすべての観客に良い音を届けることが可能になります。これまではステージの左右に吊ってある巨大なラインアレイから、非常に圧の強い音が出力されていたわけですが、それとはまったく違う音像を作り出すことができるのです。また、従来のステレオ・システムは、ファンタム・センターを擬似的に作り出すことで、ステレオ感を得られる仕組みになっていました。しかしWFSでは、サイドに直線的にスピーカーを配置することで、たとえ観客が会場内を移動しても、同じような音像を得ることができます。正しく設置/調整されたWFSによるイマーシブ・システムならば、会場にいる観客はスピーカーの存在を忘れてしまうでしょう。音が自然と鳴っている空間に身を置いているだけ。きっとそういう感覚になると思います。


WFS(Wave Field Synthesis)=波面合成とは何なのか

WFS

WFS(Wave Field Synthesis)=波面合成とは一体どのような技術なのでしょうか。WFSを理解する上で重要なのが以下の3点です。

  • 1:与えられたサウンド・フィールドで適切な物理的な再生成を目的とする
  • 2:複数のラウド・スピーカーで人工的な波面を合成する
  • 3:ディレイと振幅に依存

オーディオの業界に関わるWFSの研究は1960年代に始まりました。ここでその歴史をお話しすると長くなってしまうので省略しますが、WFSは複数のラウド・スピーカーから発せられる波面を人工的に合成することで、音響を作り上げます。そして波面合成では、振幅、ディレイ、位相のコントロールといった技術が用いられます。
繰り返しになりますが、従来のステレオ・システムでは、スウィート・スポットにいる人しかベストなサウンドを聴くことができませんでした。一方、WFSならば、会場にいるすべての観客を満足させることができます。バーチャル・アコースティック・ソースから音が発せられると、スピーカーの後方から波面が広がっていき、波面が届いたスピーカーから反応し始めます。その結果、あたかもそのアコースティック・ソースがそこにあるかのようなサウンドが得られるのです。


SPAT RevolutionにおけるWFS

SPAT RevolutionにおけるWFS

WFS再生ができるイマーシブ・プロセッサーは他にも存在しますが、SPAT Revolutionを使用したWFS再生には多くのアドバンテージがあります。FLUX::のWFSでは、オブジェクトの移動によるスムーズな定位のトランジションを可能にするため、単純なディレイ・ステップによる計算ではなく、ディレイ値の非常に精密な計算モードを実装しています。

そしてSPAT Revolutionでは、複数の『ルーム』を扱うことができます。『ルーム』は、ミキシング・コンソールにおけるバスのようなもので、『ルーム』ごとにパンニング・タイプを設定したり、リバーブ・パラメーターを調整することができるのです。たとえば本日の会場ですと、上に吊ってある5本のスピーカー用の『ルーム』、7本のフロント・フィル用の『ルーム』を設定し、それぞれ別のプロセスを実行しています。これで十分でなければ、バルコニー用の『ルーム』を設定してもいいでしょう。複数の『ルーム』を設定することで、最適な音場を実現することができます。

SPAT Revolutionにおける WFSでは、最低でも5本のスピーカーを設置する必要があります。 フロントにスピーカーを直列に並べたコリニアル・スピーカー・システムはもちろん、 客席の右 、左、後方にも直列に、2Dまたは3Dに並べた全方位から囲むような設置にも対応します。ちなみに、ライブ・サウンドにおいて上下方向の定位が使われることはほとんどありません。


WFS再生におけるスピーカー・レイアウト

SPAT RevolutionでWFS再生を行う場合、スピーカー・レイアウトを定義しなければなりません。その代表的な方法が、スピーカーの設定ファイルをインポートするというやり方で、SPAT RevolutionはEASEの設定ファイル、各スピーカー・メーカー固有の設定ファイル、JBL/HARMANグループのVenue Synthesisにも今後対応します。もちろん、Microsoft Excelにスピーカー・レイアウトが入力してあれば、それをインポートすることも可能です。

WFS 再生においては、実際のスピーカーの設置場所に基づいて、できるだけ正確に位置情報を入力することが重要になります。また、スピーカーの向きも重要で、これを正確に入力することで、スピーカーの再生範囲/カバー・エリアを定義することが可能になります。SPAT Revolutionでは、自動的にスピーカーの位置に応じて推奨の向きが設定されるほか、向きのプリセットも用意されており、手動で設定することも可能です。


SPAT RevolutionのFocus/Efficiencyゾーン

SPAT RevolutionのWFS再生には、『Focusゾーン』と『Efficiencyゾーン』というオプションも用意されています。『Focusゾーン』を使用するには、各スピーカーの間隔を40cm以内に設置しなければなりませんが、このオプションを有効にすると、フォーカス・オーディオ・ビームを形成し、オブジェクトをスピーカーと観客の間に配置することができます。

一方の『Efficiencyゾーン』は、有効なゾーンを定義するためのオプションです。スピーカー・レイアウトに応じて 自動的に 『 Efficiencyゾーン』が定義され、 オブジェクトの動きが 『 Efficiencyゾーン』 内に自動的に制限されます。また、 オブジェクトが『 Efficiencyゾーン』から外れた場合、その出力をミュートす るという機能も用意されています。この『Efficiencyゾーン』は、SPAT Revolutionを使用するのであれば、頭に入れておくべきオプションと言えるでしょう。


WFS再生のキャリブレーション

SPAT Revolutionでは、WFSのパンニング方式を選択するだけで、すべてのパラメーターが最適な値に設定されます。しかし必要に応じて、ユーザー・サイドでパラメーターを設定し、システム全体をキャリブレーションすることも可能です。具体的には、『ディレイ相関』『ゲイン・ランプ・タイム』『ディレイ・スケーリング』『ゲイン・スケーリング』『プリフィルター』といったパラメーターが用意されています。

パラメーター設定の一例として、『ゲイン・スケーリング』を紹介することにしましょう。 オーディエンスがコリニア・スピーカーにかなり近い場合、またはスピーカー間の間隔がかなり大きい場合、ゲイン・スケーリングは遅延の相関性を維持しながらゲインを再分配することを可能にします。そのため、メイン・システムのゲイン・スケーリングとフロント・フィル・システムのゲイン・スケーリングは、聴衆の近さに応じて異なる場合があります。


ライブ・サウンドでのセットアップ

ライブ・サウンドでSPAT Revolutionを使用する場合、インラインとインサート、2通りのセットアップ方法が考えられます。

図版#1

インライン・セットアップでは、マイクやシーケンスなどすべての音声はミキシング・コンソールでまとめられ、そのフェーダー前のダイレクト・アウトがSPAT Revolutionに送られます。状況に応じて、ダイレクト・アウトではなくグループ・アウトを送ってもいいでしょう。また、ライブ・サウンドではシステムの冗長化が重要になるので、SPAT Revolutionのプロセッシング・エンジンを2式用意し、両方に同じ信号を送ります。そして万が一SPAT Revolutionのプロセッシング・エンジンのいずれかにトラブルが発生した際に、 必要であれば、自動的に切り替わるような検知システムも適用でき ます。これによって音が出ないという最悪の事態を回避することができますが、もちろんプロセッシング・エンジンの冗長化は必須ではありません。しかしライブ・サウンド、特に重要な現場では検討すべきオプションであると言えます。

図版#2

もう1つのインサート・セットアップは、マイクやシーケンスなどすべての音声がミキシング・コンソールに入るのは同じですが、頭分けで同じ信号をSPAT Revolutionのプロセッシング・エンジンに送ります。そしてプロセッシング・エンジンで処理された音声は、再びミキシング・コンソールに戻り、そこからスピーカーに出力されるというわけです。このセットアップの大きなメリットは、スピーカーにはミキシング・コンソールから出力されるため、既存のステージ・ボックスなどをそのまま活用して、システムを簡略化することができる点です。また、システム全体をミキシング・コンソールからコントロールできるのもメリットで、このセットアップが多くの場合推奨されます。ただ、このセットアップでシステムを構築するには、十分な数のバスやマトリクスを備えたミキシング・コンソールが必要になります。


事例 #1:野外でのクラシック・コンサート

事例 #1:野外でのクラシック・コンサート

それでは、SPAT RevolutionでWFSを使用した事例を3つご紹介しましょう。1つ目は、複数の事例があるのですが、夏の暑い時季に行われた野外でのクラシック・コンサートです。鑑賞されたことがある方ならば分かると思いますが、ホールと比べると野外でのクラシック・コンサートは、音質面で物足りない印象があります。なぜかと言えば、クラシック・コンサートにおける重要な要素である建物の響きが、野外ではまったく得られないからです。従って野外でのクラシック・コンサートは、WFSを使う大きな意味がある現場と言えます。

フランスで行われた野外でのクラシック・コンサートでは、フロントに7本ないし5本のラインアレイを設置し、さらに客席のサイドにもスピーカーを配しました。野外で、どのようにサイド・スピーカーを設置するのかと思った方もいるかもしれませんが、スタンド立てで問題ありません。そして会場には静的オブジェクトとして80本のマイクロフォンを設置、14の拡散ポイントを定義してチャンネル・ベースでWFS再生を行ったのですが、野外でありながら、まるでコンサート・ホールのような豊かな響きを得ることができました。


事例 #2:演劇のプロダクション

事例 #2:演劇のプロダクション

2つ目の事例は、私の地元であるカナダのケベック州で行われた演劇のプロダクションです。会場となったシアターは、2,000人程度のキャパシティで、ステージ幅はとても広く30メートルくらいありました。すべてのサウンドは、Apple Mac mini上で動作するApple Logic ProとFigure 53 QLabから再生され、250本以上のオーディオ・トラックが64個のオブジェクトにまとめられ、Danteで送出された後、AES50にコンバートされてMIDASのミキシング・コンソールに送られました。そしてMIDASのミキシング・コンソールでミックスされたオーディオ・トラックは、SPAT Revolution上で約64個のオブジェクトとして定位され、SPAT Revolutionで定位、空間表現されたものがWFS方式で再生されました。WFSの拡散ポイントも41というかなり大規模な事例であり、 Logic Pro/QLabとSPAT Revolutionが完全に二重化されていたのもポイントです。


事例 #3:教会の設備音響

事例 #3:教会の設備音響

最後の事例は、アメリカ・アリゾナ州ツーソンの教会の設備音響です。アウトプットは、EAWのAdaptiveシリーズをフロンタル・アレイとして9本、さらにはサイドにもサラウンド・アレイとして10本設置しました。しました。日本の皆さんには馴染みのない文化かもしれませんが、アメリカの教会では全てのバンドの音がPAされ、観客は歌に参加し、牧師さんは教会内を動き回りながらスピーチを行います。この事例では、そんな教会をアレイ・システムで取り囲み、 SPAT RevolutionでWFS再生することで、 観客を包み込む没入感と、より強い定位感を演出することが可能になりました。ここでのもう一つの重要な要素は、観客が歌うと残響音が発生し、教会全体に一体感が生まれることでした。

この事例でも、SPAT Revolutionのプロセッシング・エンジンを 2つ組み入れることによって、システムの冗長化を図りました。この教会にはスピーカー・マネジメント・システムは無かったのですが、Danteのルーティングをプリセットで切り替えることで 、冗長化を図っています。また、ミキシング・コンソールがOSCに対応している場合は、 SPAT Revolutionから出力される位置情報を使ってオートメーションを書くことができるのですが、教会に導入されていたAllen & Heath SQ7はOSC非対応だったので、 SPAT Revolutionから直接オブジェクトを調整することに加えて、リモート・コントロール用デバイスとしてApple iPadを使用しました。


終わりに

なお、SPAT RevolutionでWFS再生を行うには、別途ライセンスが必要になります。イマーシブ・オーディオに取り組んでみたいが、一体どのようなシステムを組んだらいいか分からない…… という場合もご安心ください。有償のサービスにはなりますが、私たちは最適なシステムを構築するためのコンサルティング・サービスも提供しています。

ご存じのように FLUX::は、 HARMANグループの一員になりました。今後 SPAT Revolutionの開発チームは、HARMANという大きな組織の中で製品開発を行なっていきます。今後、 SPAT Revolutionのさらなる進化にご期待ください。


SPAT Revolutionの奥深さを感じた勉強会だった

金子彰宏(兵庫県立芸術文化センター)

今日の勉強会に参加させていただいて、イマーシブ・オーディオにあらためて大きな可能性を感じました。イマーシブ・オーディオ ”というと、何だか新しい技術のような感じがしますが、 我々はこういう仕事を始めたときから、音をそこに配置したい”、 その位置から音を大きく鳴らしたい”と、ずっと思っていたんです。私は演劇畑出身なのですが、電話が鳴る場面があれば、電話が置いてある場所にスピーカーを仕込むということをやっていました。ただ、そんな仕掛けも小さな劇場であれば成立するのですが、大きな会場では通用しない。しかし SPAT Revolution のようなイマーシブ・プロセッサーを使えば、会場の大小や屋内/屋外関係なく、自然な音響を実現することができる。広島のライブ・ハウス、福山 Cableでもその自然な音響を体験させてもらって、 これからは劇場やホールもイマーシブ・オーディオに対応させていかなければならないのだろうと思っていました 。

実は昨年、オーケストラのコンサートでd&b Soundscapeを試用する機会がありまして、 電気的音響反射板と各楽器の音像定位など、自然な劇場環境をつくることができました。 しかしご存じのように d&b Soundscapeは、 d&b audiotechnikのスピーカーでしか使えませんから、スピーカー・メーカーを選ばないSPAT Revolutionにはとても可能性を感じました。大久保さんが操作しているのを見ると、ちょっと難しい感じはしたのですが(笑)、でもその分、非常に奥が深そうなソフトウェアだなと。こちらが少しずつでも勉強していけば、かなりいろいろなことができそうだなと思いましたね。それと SPAT Revolutionは、ハードウェア・プロセッサーではなくソフトウェアというのも良いなと感じています。こちらがフィードバックすれば、フットワーク軽くアップデートしてくれそうだなと。今日の勉強会に参加してますます興味を持ったので、機会があればぜひじっくり使ってみたいと思います。


演奏や発話される位置的情報は、2Dでも充分説得力のあるもの

大久保歩(舞台音響家/京都芸術大学舞台芸術科教授)

大久保歩

20年足らず前から、演劇の拡声に2ミックスのスピーカーだけでは満足しきれなくなり、ハース効果を用いた手法を研究実践していました。しかしそれは完全に満足しうるものでは無く、2ミックスよりはマシ……という程度のものだったのです。そんなときに出会ったのがイマーシブ・オーディオで、この技術を使えば、左右のスピーカーから台詞が聴こえてくる時の違和感が無くなるのではないか、と興味を持ったのが最初でした。そして今回、京都芸術大学から、“何か劇場を使って研究してみませんか”というお誘いがあり、即座に思いついたのがイマーシブ・オーディオの勉強会だったのです。

今回の実験ではSPAT Revolutionを使用させていただきましたが、演奏や発話される位置的情報は、イマーシブ・オーディオの2Dでも充分説得力のあるものでした。私は他のイマーシブ・オーディオのソフトウェアについてよく把握しているわけではありませんが、SPAT Revolutionはかなり細かな設定ができる点も特徴だと思います。すべての設定を触り出すといくら時間があっても足りないのではと思ってしまいますが、そこは現場を繰り返すことによって習熟していけるのではないかなと。また、指向性やF特など考慮すべき点はありますが、スピーカー・メーカーを選ばないという点、WFSをはじめとする多様なフォーマットに対応しているのもSPAT Revolutionの特徴ですね。

ただ、固定された楽器の音像定位は満足できるものでしたが、演奏者が移動するからといって、それに追随して音像定位も動かしてしまうと、音楽のバランスが崩れてしまうといった課題も感じました。ミュージカルやオペラ、演劇といった演目において、音源が移動する場面ではSPAT Revolutionの効果が高かった印象ですが、イマーシブ・オーディオはすべての舞台芸術にそのまま適用できる訳ではないということも同時に感じました。ソフトウェア面においては、できれば日本語のメニュー表示があると良いかなと思います。すでにいくつかの言語のメニューが実装できているようですので、日本の技術者がとっつきやすいように日本語化を進めてもらいたいです。

舞台音響におけるイマーシブ・オーディオが抱える課題としては、WFSで再生するためにはフロンタル5や、リップ・フィルなどのスピーカーが必要となる点、そして舞台の上や前にたくさんのスピーカーが設置されているため、視覚的な違和感があることが挙げられます。また、制作サイドにおいても、従来より仕込みの行程が増加しますので、この辺りのコスト問題も越えなければならない壁だと思います。

今回の研究会には、実演家や演出、制作の方にお集まりいただき、少しでもイマーシブ・オーディオへの理解を深めていただける機会になったのなら幸いです。今後、イマーシブ・オーディオが社会に浸透し認知され、舞台音響が進歩していくことを願っています。


取材協力:

京都芸術大学 https://www.kyoto-art.ac.jp/
京都芸術劇場 春秋座 https://k-pac.org/
Trios Miles

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