2025.05.30
アニメソング制作をはじめ、個人でもボカロPとして活躍されている「ねりきり」氏をゲストに迎え、氏の楽曲素材を題材に、AMS RMX16 500 series moduleをハンズオンして頂きました。
左:ねりきり氏 右:ニラジ氏
Neeraj Khajanchi(ニラジ・カジャンチ)氏(以下敬称略):1980年代〜90年代前半くらいまで、僕の先輩エンジニアたちが AMS RMX16 をよく使っていました。Rock、R&B、Pops、HipHop、どのジャンルでも使われていて、当時最も使われていたリバーブのひとつです。
AMS RMX16は、レコーディングスタジオで録ったような空間を再現するのに重宝されていて、80〜90年代の音楽が好きな人は絶対にその音を聞いたことがあるはずですよ。当時から使っている僕にとっては、Ambience(アンビエンス) や Nonlin(ノンリニア) というプログラムの音はとても聞きなじみがありますね。
トラックをミュートして周波数のスペースを空ける
Neeraj Khajanchi:最近は、ディレイやリバーブをあまり使わないミックスがトレンドになっています。ただ、ドライなサウンドだけでは各楽器の奥行きを感じにくいので、面白みに欠けたミックスが増えている印象があります。
たとえば音色に奥行きを作るために、複数の音色をレイヤーして重ねるという手法がよく使われますよね。でもその方法だと、20Hzから20KHzの中にミックスを収めたいという制約がある中で、周波数のスペースを必要以上に使ってしまいます。他の楽器とぶつかりやすくなって、マスキングされた楽器を前に出したいから歪みを足して、みたいな悪循環を招いてしまいがちです。
多い人だとシンセ音色を8個レイヤーする人もいて、そんなとき僕は、ある程度ミックスが出来上がった時点で、レイヤーされているトラックをミュートし始めます。この8個の音色の中で、何個ミュートすれば元のラフミックスと全く同じ音色が作れるのかを試しながら、周波数のスペースを空けていくんです。そうすることでトラックに奥行きを付けるスペースが生まれて、リバーブを効果的に使うことができます。
一般的なリスナーが求めている音を作ることが大切
Neeraj Khajanchi:歌をドライに聞かせて全く空間を作らないと、良い意味でも悪い意味でも「メジャー感」が出せないんです。自分の世界観を保ちつつも、一般的なリスナーが求めている音を作ることが大切だと思います。歌がこういう感じに鳴っていたらカッコいいとか、ドラムがこう鳴っていたらカッコいいとか、大勢の人が聞いてカッコいいなと思ってもらえる音を、僕は常に意識しています。
なので僕は、音圧がギリギリまで上がっているミックス素材をもらったとしても、そこにどうやって奥行きを足すか、どのトラックをもっとパワフルにするかを見極めて、トランジェントと奥行きをコントロールしています。
Neeraj Khajanchi:ミックスで奥行きをつけるとき、ボリュームをコントロールして奥行きを付けると単純に音量が変わってしまうので、音量を変えずに「見えない奥行き」を作るには、音の前後感を効果的に生み出せる「リバーブ」がとても有用なんです。
だから僕にとってAMS RMX16は、ミックスの印象を変えずに奥行きが簡単に作れる、とてもクリエイティブなツールなんです。
ねりきり氏が制作した楽曲のセッションデータを開いて、ボーカルとシンセサイザートラックに、AMS RMX16 500 series module を使った奥行きの作り方を、ニラジ氏に実践して頂きました。
【ボーカル編】
Neeraj Khajanchi:メジャー感のあるミックスというのは、全体のミックスの中でどれくらい空間や奥行きが作れているか、そこがポイントになります。
今回、ボーカルがとてもドライな印象だったので、ボーカルの世界観をイメージして AMS RMX16 で空間を作りました。2つのリバーブサウンドを足していて、ひとつはプレートのプログラムで、もうひとつはコーラスというプログラムです。
80年代にAMS RMX16を使っていたエンジニアは、入力したボーカルのピッチを左右で数セントずらして、それをボーカルトラックに加えてコーラス効果を作っていたんです。現行のAMS RMX16にも、そのマイクロピッチのテクニックがプリセットされているので、それを使いました。
ねりきり氏(以下敬称略):すごい!これくらいリバーブが鳴っていてもいいんですね!
Neeraj Khajanchi:これで全然ありなんですよ。バースの世界観からサビに入った時に、この広がりと音の圧が生きてきます。後ろの方向にも奥行きをつけて、ちゃんと歌にフォーカスさせることができます。
プリディレイをうまく使えば最初にドライな音が聞こえてくるので、音像をボヤけさせずに歌や楽器に奥行きを加えることができるんです。
ボーカルサウンド試聴(プレート)
※モニタースピーカーまたはモニターヘッドホンにてご試聴頂きますと、サウンドの違いがよりお分かり頂けます。
ボーカルサウンド試聴(コーラス)
【シンセ編】
Neeraj Khajanchi:ドライブさせたギターと同じ位置にシンセがいたので、シンセにAMS RMX16を使って奥行きを作りました。空間を足すというよりもちょっと面白いテクスチャーを作りたくて、リバースというプリセットを使用しています。曲の中で繰り返されているシーケンスの2周目を、少し新しい世界観にしたかったんです。
ねりきり:面白い音ですね!ソロで聞くとリバーブが深く感じますけど、オケに入るとそう感じなくて、世界観が全然変わるんですね!ギターとシンセの位置関係が確かに変わりました。
シンセサウンド試聴
Neeraj Khajanchi:僕は以前、AMS RMX16のオリジナルモデル(2Uラックマウントタイプ)を使っていたんです。故障してもう部品が手に入らないので、いまAMS RMX16のリバーブサウンドが欲しい人は、現行モデルのAMS RMX16 500 series moduleを買った方が絶対に良いです。S/Nが格段に良くなっていますし、OLEDディスプレイにIN/OUTボリュームや、DRY/WETの値が数字で表示されるのも便利です。
そしてなんと言っても使いやすいですよね。僕は基本的にマニュアルを読まない人間なんですけど、本体を見ただけで使い方がわかりました。特にボタン操作が分かりやすくて「DECAY」を押せばリバーブの長さを調整できる。「PRE」を押せばプリディレイを調整できる。フィルターの「LO」と「HI」のボタンがあったり、それをワンプッシュしてノブで調整するというのが使いやすいですね。
AMS RMX16の音を聞いて、そこからインスピレーションを受けることもたくさんあります。楽器のルームマイクがあったとしたら、奥行きを出すためにそれを使うべきなのか、それともAMS RMX16で作ったルームサウンドを混ぜるべきなのか考えたりして、ミックス作業がとてもクリエイティブになるんです。
プラグインのリバーブは音がきれいで透明感がある反面、リバーブの存在感が埋もれやすいですよね。AMS RMX16は密度の濃いリバーブが得られるので、プラグインとは全く違ったサウンドテクスチャーが作れます。シンプルな編成の曲だけでなく、音が詰め込まれている曲でもしっかりと奥行きが出せますよ!
レコーディング&ミキシングエンジニア
マイケル・ジャクソン、ボーイズIIメン、ティンバランド、リルジョン、 ジャヒーム、ヨランダ・アダムス などの海外一流アーティストを始め、YOSHIKI, 三浦大知, 大貫妙子, 木村カエラ, 南佳孝, 青田典子, 渡辺貞夫, Hana Hope, Mrs. Green Apple, Hana Hope, 小林愛香, 白銀ノエル, あんさんぶるスターズ!! などの国内アーティストまでを幅広く手掛ける、いま最も多忙なレコーディング&ミキシングエンジニアの一人。
作・編曲家
楽曲提供や、自身でボカロ曲の投稿等のアーティスト活動も行うクリエイター。幼少期にエレクトーンを習っており、鍵盤楽器とギターの演奏を得意とする。
Works
【ARCANA PROJECT】硝子玉の世界(作詞・作曲・編曲) / 【TVアニメ『魔王様、リトライ!R』OPテーマ/ ASCA】明日世界が終わるとしても(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism / 鈴木 羽那】無垢(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ / コメティック】平行線の美学(作曲・編曲) / 【藤城リエ】LIFE(作曲・編曲) / 【異世界のヘリオン 羽黒ヘリオン(Vo.前田佳織里)】Another-self(作曲・編曲) / 【TVアニメ「デュエル・マスターズWIN 決闘学園編」エンディングテーマ / 上月せれな】BRAND NEW MOMENT(作曲・編曲) / 【おはスタ ガル学 クリスマスエンディング曲 / Girls2 from South2】HolyMagic大人になっても解けない魔法(作曲)
AMS RMX16 500 series module
帰ってきた伝説のリバーブ
AMS RMX16 は、世界初のマイクロプロセッサー制御によるフルバンド幅のデジタル・リバーブで、1980年代以降の多くのレコーディングに使用されました。かつてはプレミアスタジオのみが利用できるものでしたが、500シリーズのフォーマットで幅広いユーザー層に向けて提供されることになりました。
¥120,000 (税込)
¥187,000 (税込)