• POPULAR LINKS
検索

本サイトでの Cookie の使用について

  • TOP
  • Tips / Article
  • ニラジ・カジャンチの Analog Magic!第1回:Neveマイクプリ編
scroll

ニラジ・カジャンチの Analog Magic!第1回:Neveマイクプリ編

2025.04.21

アナログサウンドの魅力をお伝えする連載企画「ニラジ・カジャンチのAnalog Magic!」

今回は、25年間Neveのマイクプリを毎日使っているという ニラジ・カジャンチ氏のスタジオ「NK SOUND TOKYO」を訪ね、アナログサウンドの魅力を伺いました。

アニメソング制作をはじめ、個人でもボカロPとして活躍されている「ねりきり」氏をゲストに迎え、氏の楽曲素材を題材に、Neveプロダクツのハンズオンをして頂きました。

第1回は、ニラジ氏とNeveの出会い、そしてマイクプリをテーマにお届けします。

左:ねりきり氏 右:ニラジ氏 

ニラジ氏とNeveの出会い

Neeraj Khajanchi(ニラジ・カジャンチ)氏(以下敬称略):僕がスタジオ業界に入った頃、スタジオには基本的にSSLかNeveのどちらかのミキシングコンソールが導入されていました。SSLのコンソールが導入されているスタジオにはほとんどの割合で、Neveのヘッドアンプやコンプレッサーがアウトボードとして用意されていたんですよね。

例えばマイクプリだと

コンプレッサーだと

こういったNeveのアウトボードがスタジオに用意されていて、実際に現場で使ってみてNeveのキャラクターがSSLと全然違うことを知りました。なので、僕とNeveとの出会いはミキシングコンソールではなくてアウトボードからなんですよ。

僕はニューヨークのThe Hit Factoryというスタジオに入って、そこは7部屋のうち6部屋がSSLのコンソールでした。僕ら世代のエンジニアは、2000年代のAmerican Top 40みたいなポップスを作るにはSSLの方が良いと育てられちゃったので、「ミックスをSSLでやるならレコーディングは基本的にNeveでやる」という考え方があったんです。

とても有名なロック・アルバムたちが、名機と呼ばれるNeveコンソールを使って作られているわけですよね。僕の先輩エンジニアは80年代、90年代の人たちで、あの時期のアメリカの音楽はロックがメインストリーム。だからNeveのミキシングコンソールで育っているエンジニアが多くて、現場ではみんなNeveのコンソールがあるスタジオを使いたがる風土があったんです。

なので僕は今の時代でも、キラキラしたポップスの上物に合わせて、リズムセクションはやっぱりNeveで録りたいなって思うんですよね。ちょっと歪んだロックのドラムを録るのであれば、キック、スネア、トップには絶対Neve系のヘッドアンプを使うわけです。

プリアンプNeve 1073系の魅力〜人間の耳に一番必要とされている音〜

Neeraj Khajanchi:僕はNeve 1073や1084をどのレコーディングにも毎日、もう25年間ずっとNeveを使っていて、基本的に73系を使っています。73系のプリアンプってすごくいい音ですよね。ゲインをいくら上げても、とても音楽的なサチュレーションが得られるプリアンプです。

他のメーカーのヘッドアンプだと、ある程度のボリュームを超えると単純に音が歪む「悪い歪み」になってしまって、EQが効かなくなるくらい音が悪くなる。

でもNeveにはそれがなくて、力強くてキャラが濃い。攻めたいんであれば男くさいサウンドを出してくれるけどオーバーじゃない。人間のアナログな耳に一番必要とされている音の印象ですね。


ねりきり氏のギター素材でNeve 1073LBをハンズオン

ねりきり氏が制作した楽曲のセッションデータを開いて、ギタートラックにNeve 1073LBを通した時の音変化を、ニラジ氏に実践して頂きました。

Neve 1073LB Mono Mic Preamp Module

Neeraj Khajanchi:ギタートラックにライン録り独特の細さが感じられたので、ガッツ感を出したくてNeve 1073LBのライン・インプットに通してみました。

ねりきり氏(以下敬称略):通すだけでこんなに音が変わるんですね!

Neeraj Khajanchi:Neve 1073LBのラインインプットを-15dbにしたのでアウトプットを15db下げて、インとアウトのボリュームを揃えてもこれくらい音に差が出るんですよ。ギターアンプのドライバーが空気を振動させて、それをShure SM57マイクのダイアフラムが収音した音に近づいたと思います。ローミッドはタイトだけどドライブしていますよね。

ねりきり:これはEQとは違う変化なんですね。

Neeraj Khajanchi:EQ処理すると他の楽器で使いたい周波数のスペースを使っちゃうので、僕はマイクプリをEQの代わりに使っています。アグレッシブだけど、サビに入った時にシンセとぶつかる成分が出てこないサウンドにしたかったんです。だから同時にシンセが入ってきても、ちゃんと存在感がある音になってくれる。ベースやドラムが一緒に鳴った場合にも違いが分かりますよ。

ねりきり:ギターの存在感が全然違いますね!不思議。

エレキギターサウンド試聴

※モニタースピーカーまたはモニターヘッドホンにてご試聴頂きますと、サウンドの違いがよりお分かり頂けます。


プリアンプ88シリーズの魅力〜ピカソのような色彩感覚〜

Neeraj Khajanchi:Neveがワイドレンジでクリアーな88RSコンソールをリリースしてから、サウンドの方向性が大きく変わったなと思いました、僕たちのようにSSLのコンソールで育ったエンジニアからしたら、ある意味すごく聞きなじみのある音がするヘッドアンプだったんです。

88シリーズはあまり大きなレベルを突っ込まなくも、すごくクリーンに何にでも使えるシリーズですよね。ワイドレンジで上から下までしっかりちゃんと録音できます。ただそれでも、ローミッドの密度がNeveっぽいんです。

これは多分ですけど、ロビン・ポーター氏と開発チームはヨーロッパのオーケストラ・セッションを意識して88シリーズを作ったのではないかなと。

オーケストラを一発録りでレコーディングするときにNeveのサウンドが欲しいけど、パーツが新しい、SNがいい、少しレベルを入れすぎても歪まない、ガリが出なくて壊れない、そういったヘッドアンプが求められていたんだと思います。Neveのサウンドを継承しながらも、現代のレコーディング環境とサウンドにマッチした優れたプリアンプですね。

このクリーンな88シリーズのヘッドアンプを20ch〜30chぐらい使って録ると、基本的にどういう録り方をしてもヘッドアンプで楽器の音が馴染むんですよ。だから、あまりレコーディング経験がないエンジニアでもいい音で録れます。

Neveで録ると色々な楽器から出る周波数が上手くブレンドされて、フリケンシー(周波数)の和声が作られるんです。僕は周波数を「色」で感じるので、Neveで録ると様々な色がオーバーラップしているように感じるんです。他のヘッドアンプで録ると、ステレオフィールドの中に色が点在しているように聞こえるのですが、Neveだとピカソみたいに、もうファーーー!って。色々な色をブレンドして一つの絵を作るっていう感覚です。


ねりきり氏のボーカル素材でNeve 88RLBをハンズオン

ねりきり氏が制作した楽曲のセッションデータを開いて、ボーカルトラックにNeve 88RLBを通した時の音変化を、ニラジ氏に実践して頂きました。

Neve 88RLB Mono Mic Preamp Module

Neeraj Khajanchi:楽曲素材のボーカルがステレオに散っていたので、歌にフォーカスさせるためにNeve 88RLBを通して、センターに足してみました。

Neve 88RLBに-15dbでラインINして、DAWのボリュームを15db下げてレベルを揃えています。ハイパスフィルターがついてるのが結構便利で、今回はハイパスも使っています。そしてサビでは、ボーカルに短いプレートリバーブも足してみました。

ねりきり:ボーカルの存在感が出ましたね!ボーカルをなるべく大きく聞かせたいけど、ただリミッターを使うだけでは全くダメで、どうしたらこんな感じに大きく聞かせられるんですか?

Neeraj Khajanchi:耳がまず聞きに行くのがトランジェント。コンプやリミッターを強く使いすぎるとトランジェントを殺してしまうので、こういうアナログのサチュレーションを使って「前に出る」サウンドに仕上げているんです。

だから、僕はある程度ミックスした後はすごく小さいボリュームでモニターしてきくわけです。小さい音で聞いた時に、バンドに負けないようなサウンドになっているかを確認しています。

ねりきり:小さい音量で聞いても、ボーカルやベースがちゃんと聞こえてきますね!

ボーカルサウンド試聴

※モニタースピーカーまたはモニターヘッドホンにてご試聴頂きますと、サウンドの違いがよりお分かり頂けます。


「自分が盛り上がるサウンド」を選ぶ

Neeraj Khajanchi:僕にとってヘッドアンプを選ぶ基準は、ヘッドアンプが持つサウンドのカラーです。どういう作品を作るか、その作品をどういうカラーに仕上げるのか自分の中で決まっているので、どの楽器にNeve 1073のヘッドアンプを使うか、1066を使うか、1084を使うのかセレクトします。それに対して他のメーカーのヘッドアンプが別のパレットになるように、フリケンシーの和声を構築するんです。

「自分が盛り上がるサウンド」を選ぶという意味では、Neve 1073系のプリアンプはとてもお勧めしたいですね。

Neeraj Khajanchi(ニラジ・カジャンチ)

レコーディング&ミキシングエンジニア

マイケル・ジャクソン、ボーイズIIメン、ティンバランド、リルジョン、 ジャヒーム、ヨランダ・アダムス などの海外一流アーティストを始め、YOSHIKI, 三浦大知, 大貫妙子, 木村カエラ, 南佳孝, 青田典子, 渡辺貞夫, Hana Hope, Mrs. Green Apple, Hana Hope, 小林愛香, 白銀ノエル, あんさんぶるスターズ!! などの国内アーティストまでを幅広く手掛ける、いま最も多忙なレコーディング&ミキシングエンジニアの一人。


ねりきり

作・編曲家

楽曲提供や、自身でボカロ曲の投稿等のアーティスト活動も行うクリエイター。幼少期にエレクトーンを習っており、鍵盤楽器とギターの演奏を得意とする。

Works

【ARCANA PROJECT】硝子玉の世界(作詞・作曲・編曲) / 【TVアニメ『魔王様、リトライ!R』OPテーマ/ ASCA】明日世界が終わるとしても(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism / 鈴木 羽那】無垢(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ / コメティック】平行線の美学(作曲・編曲) / 【藤城リエ】LIFE(作曲・編曲) / 【異世界のヘリオン 羽黒ヘリオン(Vo.前田佳織里)】Another-self(作曲・編曲) / 【TVアニメ「デュエル・マスターズWIN 決闘学園編」エンディングテーマ / 上月せれな】BRAND NEW MOMENT(作曲・編曲) / 【おはスタ ガル学 クリスマスエンディング曲 / Girls2 from South2】HolyMagic大人になっても解けない魔法(作曲)


1073LB Mono Mic Preamp Module
88RLB Mono Mic Preamp Module
TOPへ