LEWITT コンデンサーマイク LCTシリーズをピックアップ

オーストリアのマイクロフォンブランド、Lewitt。会社としてはまだ10年にも満たない「若い部類」に入りますが、創立者のローマンさんをはじめスタッフの多くが経験豊富な人たちばかりで、素晴らしいマイクを生み出すメーカーの1つです。
LewittのダイナミックマイクであるMTPシリーズはライブパフォーマンスにはもちろん、ギターアンプやドラムレコーディングなどに特に人気。多くのエンジニアさんから「そうそう。この音!」と、ダイナミックマイクに欲しいサウンドや音の密度、ガッツのあるトーンが全て得られると評価をいただきます。
一方のコンデンサーマイクのLCTシリーズは、それぞれのモデルの見た目がよく似ており、私たちスタッフも販売店さんやエンジニアさんから「どこが違うの?」と問い合わせをいただくケースが多いように感じます。確かに、長い時間をかけて開発されたハウジングだからなのか、よく似ています。
そこでここでは、Lewittのレコーディング用コンデンサーマイクに焦点をあて、いくつかのモデルをピックアップして特徴をご紹介してみたいと思います。
しかし、マイクの使い方はユーザーの数だけ。どんな楽器にどんなマイクを使っていただいても「間違い」というものはありません(耐圧や構造を無視した使い方はダメですが)。ここでご紹介する機種と使い方などはあくまで一例として見ていただき、いろいろなソースや設置場所をご自身でも研究してみてくださいね!幸いなことにLewittのマイクは、他のマイクと比較してもかなり高い耐圧設計と頑丈なメタルボディで、そうそう簡単には壊れません!
LCT 550(生産完了品)
Lewittのレコーディング・コンデンサーマイクの中で1つの基準となるマイク。Lewitt自慢の1インチ・ラージダイアフラムを搭載。指向性パターンは単一指向性のみ、という割り切った仕様。耐圧もパッドなしで143dB、-12dBのパッドを入れることで最大155dBまで対応できるので、一般的なレコーディングはもちろん、轟音メタルバンドのドラムやギターアンプまで、どんなソースにでも使える懐の広さを持っています。
LCT550の最大の特徴は「セルフノイズ 0dB」を実現した、稀有なマイクであること。
マイクと切り離すことのできないもの、それはマイクプリアンプ。近年のマイクプリは優秀なものが多いので、プリアンプ自体がノイズを発することは少なくなってきている印象を受けます。しかしマイク本体はどうでしょう?もしもマイク本体が何かしらのノイズを発していたら?どんなにノイズの少ないマイクプリを使っていても、マイクが発するノイズは無視されることはありません。マイクプリのゲインを上げていくとともに、望まない「シー」や「サー」といったノイズも一緒に上がっていく….ということになります。
レコーディングするソースがドラムやギターアンプだったなら、さほどプリアンプのゲインを上げる必要もないはずなので、このノイズは気にならないかもしれません。しかし、繊細なアコースティック・ギターやストリングス、あるいはウイスパーボイスのボーカルや音量の低い楽器を録音したとき、ノイズが気になってしまったという方も少なくないのではないでしょうか。LCT550がもつ「セルフノイズ 0dB」は、こういったトラブルとは無縁のマイクと言えます。
セルフノイズ0dBを実感できるシーンは数多くあります。例えば自宅レコーディングのアコースティック・ギターやボーカル。音域もダイナミックレンジも広い楽器の王様、アコースティックピアノ。あるいは静寂さも音の1つと表現するオーケストラ、ストリングスなどの集音。ビンテージのマイクプリと組み合わせたボーカル録音、複数のマイクを同時使用し、なるべくノイズを抑えておきたいドラム録音に至るまで。
音の傾向は、Lewittらしい立ち上がりの速さと、クリアなハイエンド。そして1インチダイアフラムがもつ豊かな低域から中低域まで全てが魅力。近接効果を適切に表現してくれるので、ソースとマイクの距離感で音を作りたい方にもおすすめの1本です。
LCT 550で収録したボーカル/楽器
LCT 240(生産完了品)
Lewittのレコーディングマイクの中では最も弟分となるマイク。実物を見た時に思わず「かわいい!」と表現したくなるほど小型化に成功しており、コネクター部分を除いた本体はタバコの箱とさほど変わらない大きさ。しかしながら、上位機種と同じメタルボディを採用しており、手に持った時のずっしり感は価格以上の満足があります。でも、サウンドにはもっと満足していただけることでしょう。
LCT 240に搭載されたダイアフラムは2/3インチ。他のLewittマイクに比べて1サイズ小さいものを搭載しています。これを価格を抑えるための小型化と捉えるか、サウンドキャラクターのための小型化と捉えるか。LCT 240を実際に購入していただいたエンジニアやミュージシャンにお話しを聞くと「240でなければ得られないキャラクターがある」という評価を頂くケースの方が多いのです。
小さくなったダイアフラムにより、低域や中低域の濃密さは他のLewittマイクよりも劣るかもしれません。かわりに、立ち上がりの速さ、スピード感は小口径らしく優れたものとなり、スピード感を重視したいアコースティックギターのストロークやドラムのトップなど、率先して使用したいシーンが数多くあります。
低域や中低域の密度は、近接効果でもある程度カバーできます。耐圧も上位モデル同様に146〜166dB(パッド併用)まであるため、かなりソースに近づけたセッティングをしても大丈夫。迫力ある大音量のトランペットやトロンボーンで試したときにも「マイクが負ける」ことはありません。
本体の小ささを生かして、セッティングが従来のマイクよりも自由になるといったところもLCT 240を楽しめるポイントの1つ。マイクのセッティングに時間をかけてこだわりの音をつくる方ほど、このマイクは重宝するでしょう。Lewittらしい幅広い帯域と、ダイナミックレンジも併せ持つこのマイクは、価格で音を判断しない方におすすめの1本です。
LCT 240で収録したボーカル/楽器
LCT 450(生産完了品)
LCT 450はLewittのレコーディング用マイクの中でもかなり「異端児」と言えるかもしれません。見た目とサイズ、質感は上でご紹介したLCT 240とまったく同じ。とにかく小さくてかわいい。しかしながら、1インチのラージ・ダイアフラムを搭載したモデル。あえて言うならば、LCT 550とLCT 240の間に生まれた子供という表現がぴったりかもしれません。
ラージ・ダイアフラム搭載の豊かなサウンドキャラクター。本体の小ささを生かしたセッティング場所を選ばない自由度。そしてLewitt伝統ともいえる高い耐圧性能と、広いダイナミックレンジ。近年生まれたマイクであるにも関わらず、ヴィンテージマイクを愛するエンジニアさんに試していただいた時にも「あ〜、この音、好きだなぁ」と言わせるサウンドキャラクターは、Lewitt創立者のローマンさんが前から関わってきた「伝統あるマイクブランドの黄金期」のような印象すら感じさせます。
ボーカルに使用したときには、ごく普通のセッティングをしているにも関わらず「これでいい、これがいい」という必要十二分なサウンド。アコースティック・ギターに使用したときには、位置と距離を綿密に調整したくなる奥行きあるサウンド。ドラムのトップなら、安心してドラムキット全体の鳴りを抑えることを任せられるサウンド。ギターアンプや管楽器にも印象が良かっただけでなく、ウッドベースで試したときの充実した低域、中低域には驚きました。
LCT 240同様、本体の小ささを生かした自由度の高いセッティングに加え、1インチのラージダイアフラムによる音密度の高さ。「極めて小さなボディにラージ・ダイアフラムを載せる」というチャレンジを果敢にも行ったLewittの姿勢が光る1本です。
LCT 450で収録したボーカル/楽器
LCT 940
Lewittが他のマイクブランドと異なる点は、多数あるマイクラインナップにそれぞれ「個性」を持たせているところにあるように感じます。その個性も一長一短というものではなく、「長」の部分が機種ごとに突出しているもの。豪華で希少なパーツを使っているものがハイエンドで、チープな量産パーツを使ったものが廉価版、といった差別をしていません。
そんな前置きでLewittの最上位機種となるLCT 940を紹介することはなかなかの緊張感がありますが、このLCT 940にはオーストリアの巨大マイクブランドで長年プロダクトマネージャーを務めてきたLewitt創立者、ローマンさんの真摯な開発姿勢と、こだわったサウンドが凝縮された「真空管(チューブ)」マイク。マイク本体を正面から見た時にも心がウズウズしてしまいそうなほどの主張をもって、真空管が光ります。見た目だけではなく、真空管マイクらしい音の太さも、しなやかなハイエンドも、そしてプレイヤーの繊細な表現もきっちりと音として収めてくれる懐の広さを持っています。
LCT 940は真空管ドライブだけでなく、他のモデル同様のFETによるドライブ機構も同時に持ち合わせており、なんとこの2つを「連続的」にブレンドして使用することも可能、といったところが最大の特徴でしょう。それぞれのドライブは良し悪しではなくソースの違いによって使い分けられるべきではありますが、「50%真空管・50%FET」や、「80%真空管・20%FET」「100%FET」などのセッティングが自由に行え、ドライブのカスタマイズが行えます。
フラッグシップモデルということもあり、LCT 940はコンデンサーマイクのレコーディングが想定されるあらゆるソースに自信をもっておすすめできます。ボーカル、ギター、ベース、ドラムやパーカッション、ピアノ、ストリングスや管楽器ほか、何にでも試して頂きたいマイクです。
LCT 940で収録したボーカル/楽器
Special!
世界最高峰のベーシストであり、フォープレイ、TOTO、そして近年ではグラミー賞を受賞したダフト・パンクのRandom Access Memoriesでもそのグルーヴが高く評価されたネイザン・イースト。彼もまたLewittマイクを気に入ったアーティストの1人です。Lewittが企画した比較テストでは、数多くのLewittマイクを彼のベースアンプに設置してレコーディングテストが行われました。
ネイザン・イーストによる演奏LEWITTマイクでレコーディング
ネイザン・イースト氏のお気に入りはLCT 840。これはLCT 940を「100%真空管」の状態で使用したものと同じ(LCT 840はLCT 940から真空管/FETのブレンド機能を省いたもの)です。
「LCT 840は暖かく非常に豊かな音ですね。一聴した瞬間に、まるで自分がベースの中に入って音を聞いているかのようなリアルな音に聞こえました。私がマイクに求める数多くの資質を秘めていますね」
このサンプルはモニターする環境によって非常に微妙な差に聞こえるかもしれませんが、だからこそネイザン・イースト氏のようなトップ・プロに気に入ったモデルを指定いただけることは、Lewittマイクにとっても最大の栄誉といえます。
ここでご紹介したLewittマイクはごく一部。他にもまだたくさんのマイクをリリースしています。いずれのマイクにも共通して言えるのは、極めてノイズが少ないことと、マイクが好きで好きでたまらないチームによって生み出されているものであること。
世界中には数えきれないほどのマイクブランドと、そこから生まれるマイクがありますが、Lewittのマイクはその中でも満足度の高いマイクであることは私たちスタッフ一同共通の思いです。まずはたくさんのオーディオサンプルを聞いて頂いて、可能ならば手に取って頂いて。Lewittサウンドに触れてもらえたらと思います。
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