音楽制作に、フラットな環境は必要か?
2018.01.26
スタッフHです。
Sonarworksからリリースされている、モニタースピーカーとヘッドフォンの補正システム、Reference。2017年の終わりには最新バージョンとなるV4がリリースされ、計測や補正の解像度、対応ヘッドフォンモデルの増加など多数のアップグレードが施されました。
お部屋を計測し、その結果をもとにスピーカーからの出力をフラットにするReference。その計測は実に簡単で、およそ10分。長くかかっても15分で計測が終わります。さらに特筆すべきポイントとして、最初のセットアップが終わってしまえば、計測中は一切マウスやトラックパッドに触る必要がありません。
どうやって計測を行なっているか、わずか2分のビデオをご覧ください。
ビデオでも説明がある通り、Referenceではまず、左右のスピーカーの距離、リスニングポイントまでの距離を検出します。必要であれば、この検出結果をファインチューニングすることもできます。この作業を行うことで、Referenceの計測ソフトウェアは「今、計測マイクがどこにいるか」を音で監視しているということなのです。
ソフトウェア側が計測したい場所を指示し、計測をする私たちはその指示にしたがって指定場所まで移動するだけ。実に不思議な光景ですが、これでリスニングポイントにおけるスピーカーの出音を「フラットに」してくれるのです。
どうしてフラットが必要なのか
多くの方がお気に入りのモニタースピーカーをご利用のことと思います。ブランドが好き、音が好き、デザインが好き、値段が手頃、機能が優れている、色々な理由でお好みのものを導入されていることでしょう。
スピーカーを開発するデベロッパーの多くがカタログやウェブサイトにこう書いていることでしょう。
- このスピーカーはフラットである
- 原音に忠実で、色付けはない
- 高い解像度
デベロッパーが「フラットなスピーカー」というのに、Referenceのような補正はどうして必要なのか。それはひとえに「お部屋によってスピーカーがフラットではなくなっているから」ということに尽きるでしょう。スピーカー自身は入力された音を忠実に再生していても、部屋によって妙なピークやディップが生まれてしまい、結果フラットではなく、かつ解像度も得られません。
音を鳴らすために1から設計されたスタジオであればこのような悩みも少ないのかもしれませんが、居住用のお部屋にはスピーカーが持つポテンシャルを発揮しきれない罠がたくさんあります。形状、天井の高さ、機材の配置、家具…他にもまだまだあることでしょう。
Sonarworks Referenceを使う目的は、部屋がスピーカーに影響を与えてフラットではなくしてしまう要素を排除してくれることにあります。言い換えれば「スピーカーが本来もっているポテンシャルを100%発揮できるようにする」こととも言えるでしょう。
実際に計測をしてみると
私自身の結果も公開してみましょう。使用しているスピーカーは同軸型のもので、フラット、高解像度をアピールするスピーカーです。床置きのスピーカースタンドに設置し、いつも聞いている場所で解析を行った結果がこちら。
パッと見ただけで多くの方が「これはひどい」とお気づきになることでしょう。100〜500Hzにかけて見られる低域の妙な盛り上がり。そして100Hz以下は「ないものの如く」カットされています。重低音まで出るスピーカーではないのですが、それでもスペックシート上では50Hzまでの特性を持っているはずなのに。さらに、左右で音量差があることも判明しました。左のスピーカーが0.9db小さいと解析されています。左右のスピーカーへは種類も長さも同一のケーブルを使っており、左右の違いはないはずなのに..です。
どうりで思い返してみると、私が自宅で処理を行ったものを外の環境で聴いたとき、妙にコシのない音だなぁと感じていました。コシに該当する部分がこの部屋では余分に聞こえているため、そこを抑えようという処理をしてしまっていたからですね。私の部屋は、この素晴らしいスピーカーが持つポテンシャルを打ち消すような特性になっていたのです(ちなみにこの後、スピーカーを置く位置や角度などを調整して何度か計測を行なってみましたが、多少の改善こそあったものの、大きな違いはありませんでした)。
Referenceはこれら全てを「フラット」に解決してくれます。周波数特性の違い、左右のレベルの違い。また、左右にわずかな時間のズレがあった場合でも、補正を行なってくれます。フラットばかりではなく「モニタースピーカーのレジェンド、YAMAHA NS-10Mの特性に」なんていうオプションもあります。また、100%補正だけでなく、わずかに補正などのオプションがあることも、Referenceの特徴の1つでしょう。
ReferenceはDAW上の音を補正するプラグインのほか、システム(iTunesやSpotify、あるいはブラウザで動画サイトを見たときなど)の音声を補正するSystemwideがあります。好きな曲が、自分の部屋でどう聞こえているのが正解なのか、という基準も持てますね。
ヘッドフォンですら「フラット」に
Referenceにはヘッドフォンにも対応しています。世に出回る数多くのヘッドフォン。各メーカーは自社製品のことを必ず「フラットである、色付けはない」と言いますが、スピーカー以上に個々の差が大きく、一体どれがフラットなのかと疑問も残ります。例えば、普段使い慣れていないヘッドフォンを使って「いつものように」ミックスを行うことは、かなり難しいことではないでしょうか。
Referenceは「Sonarworksが定義するフラット」を提唱し、これを基準に世界中のヘッドフォンを計測。世界中の音楽クリエイター、エンジニアに1つの「フラット」を提供することを目標にしています。どこへ行っても、どんな環境でも1つの基準(=Reference)があり、間違いのない判断ができるということを意味します。
さすがにヘッドフォンの解析はユーザーで行うことはできなく、Sonarworksが独自の方法で解析した”プリセット”を使っていただくことになりますが、アップデートのたびに世界中のヘッドフォンが追加されており、多くのモデルがすでに対応済み(2018年1月現在、112種のヘッドフォンが解析済み)。今後にも期待できます。
音楽制作に、フラットは必要か?
お部屋の影響で聞きづらくなったり、あるいは強調されて聞こえてしまう帯域がでてしまうスピーカー。
ブランドによって全く「フラット」の捉え方が違うヘッドフォン。
ここに1つの基準があることで、仲間との音の話もスムーズになることでしょう。
スピーカーの補正を行う = スピーカーの個性を殺す、ということなんじゃない?というご意見を拝見したことがありますが、これに関しては全く逆です。補正されたスピーカーは明らかに解像度が得られ、その機器が本来目指していたものはこれかと気づきが多くなります。
もちろん、Sonarworks Referenceによって補正された音「だけ」が正解ではありません。あえて補正なしで聞く、完璧に補正された音で聞く、50%補正サウンドで聞く、NS-10Mの特性にして聞き慣れた音を聞く。Referenceを導入することで、複数のモニタースピーカーを導入したかのようなバリエーションが得られます。この「バリエーションが得られる」ことこそ、Referenceの魅力の1つなのです。
様々な環境や機材で音をチェックすることの多い方、あるいは音楽仲間と音について話し合う機会の多い方はもちろん、音楽制作を始めたばかりの方であっても、1つの基準で判断が行えることは、重要なことでしょう。
今後もますますの進化を予定しているSonarworks Referenceにご期待ください。