2017.04.24
2015年に産声をあげた、コンピュータのイーサネット端子を使用するオーディオIOシステムのDiGiGrid。プラグインデベロッパのWAVESと、世界最大級のコンソールブランドであるDigicoが共同で作ったブランドで、創業時には無骨な見た目のIOを7種リリースするところから始まりました。
2016年にはより自宅スタジオなどに向けた「デスクトップシリーズ」4製品をリリース。4製品のうち3つは特殊な環境下での製品でもあるため、個人スタジオに向けたオーディオIOとしては1製品 = DiGiGrid Dが主な売れ線の製品であり、リリース以降も順調にユーザーが増えてきているところです。
先日、ちょうど私の友人がDiGiGrid Dを購入しました。友人はギタリストですが、ミュージシャンを生業としている人ではなく、一般企業の会社員です。しかしギターの腕前は素晴らしく、彼に決意と熱意があるならプロミュージシャンとしても大成するのではないか、と思うほど素晴らしいセンスを持っています。購入を決意したのは、DTM Station Plusの放送を見たときだそうです。
彼がDiGiGrid Dに決めた理由はシンプル。それまでコンピュータを買いかえるたびに、オーディオIOも買い替えなくてはいけないことに嫌気がさしたから、だそう。この辺は私も同様の経験があります。これまで一通りの接続方式(PCI、PCカード、USB、FireWire、Thunderbolt等々…)のIOを買い換えています。単に私や友人の買い物下手の側面もあるかもしれませんが.....。また友人はWin/Macをその時必要な環境に応じて買い分けています。
DiGiGridのIOが採用しているイーサネット端子はどうでしょう。コンピュータの主な目的(ネットワークへの接続)ということを考えれば、この規格が廃止されるということはなかなか考えにくく、事実最新のMacBook Pro(USB-Cしか搭載されていない)でも、1つの変換を用いてイーサネット端子を使用することができます(ちなみに、USB-CからFireWireへの変換はもはやApple純正では用意されていません)。
実際のコネクタとして搭載されていなくとも、イーサネットポートはこの先も長いあいだ廃止されることは考えにくいということです。この辺のストーリーは、以前にも弊社サポート部のセクションリーダーから聞いた記事がございますので、お時間のあるときにでもチェックしていただければと思います。
何やらスゴいと噂のDiGiGrid、何ができるようになる?(その1)
友人はDiGiGrid Dのアナログ部分の音質もお気に入りで、マイクを接続したとき、リズムボックスやシンセサイザーを接続したとき、ハードウェアのアンプシミュレータ経由でギターを接続したとき。どれもお気に入りだそうです。彼の言葉をそのまま借りれば「最新のテクノロジーが詰まったボックスなのに、今まで使ってきたIOのどれよりもアナログ部分の質感がクリアで図太くて好きだなぁ」だそう。
ともあれDiGiGrid Dは友人のもとでほぼ毎日活躍しており、私自身もおすすめした甲斐があったなと喜んでいるところです。
友人がDiGiGrid Dを購入して半年。友人はWAVESのプラグインも愛用しているのですが、最新プラグインの幾つかを使ったときに、コンピュータのパワーが追いつかなくなるとのこと。友人には1つ大きなポリシーがあって、バッファサイズの設定をしてPCの負荷を抑えるということを「したくない」んだそうです。タイミングやレイテンシーに非常に敏感な友人なので、彼の思いは良くわかります。彼はいつもバッファサイズを最小のままで設定しています。私がいつも社外デモなどで使用している2012年頃のマシンでもこの設定でほとんどの作業は問題なく行えますが、WAVESに限らずいくつかの最新プラグインなどを使うときには厳しくなることもありました。
当初友人は「DiGiGrid Dではなく、DiGiGrid IOS(プラグインサーバー機能つき、8イン8アウトのアナログ入出力ほか、豊富なIOを揃えたもの)にすべきだっただろうか。でも自分の環境ではアナログの8イン8アウトは使わないし…」と話します。でも、WAVESプラグインや先日SoundGridに対応したばかりのFlux::社製プラグイン、Plugin-Allianceの製品は魅力的です。
そこで私が彼に紹介したものは、SoundGrid対応のプラグインを処理してくれるサーバー、WAVES Impact Serverです。DiGiGridのIOSと同じ処理能力をもつこのサーバーを、友人は追加することにしました。これらを同時に使用すると「2イン4アウトのIOを持ったIOS(のような感じ)」という構成になります。Impact ServerもIOSも、いずれもWAVESの人気プラグイン、SSL-4000 G-Channelなら、96kHzのセッションでも170個以上もインサートできるパワーを持ちます。
友人は大満足のようです。好きなプラグインがマシンパワーに左右されず使え、かつバッファサイズは最低に設定してあるため、ダイレクトモニタリングなどの設定も必要ありません。時にはお気に入りのプラグインをレコーディング時から掛けて使用することもあるようです。
例えば友人の場合、彼の趣向もあって全トラックの一番最初のスロットにはWAVESのNLSを使用するそうです。
NLSは著名な(実際に著名なレコーディングでもそのものが使用された)アナログコンソール3種を、1chから32chまですべて解析。インプットとインプットゲインがサウンドに与える暖かさ、歪み、コンソールならではの一体感などを与えてくれるプラグイン。非常にクレイジーな年月をかけて開発されたこのプラグインは、プラグインサーバーを用いなくてもいいほど、非常に軽く動作するようにプログラムされています。32トラック全部にインサートしても、私の2012年製MacBook Proですら微量な負荷にしかなりません。
友人の場合、このプラグインはサーバーに任せることなく、コンピュータ本体のCPUで処理をさせています。
代わりに、先日リリースされたばかりのWAVES Abbey Road Plateを使うときには、サーバーで処理をさせるそう。アビー・ロード・スタジオ公認であり、かつ監修までされたこのプラグイン。非常に美しくて音楽的なリバーブを得意としていますが、名器の再現からか負荷は高め。よってサーバー処理にはもってこいのプラグインともいえます。
このように、必要ならプラグイン単位でCPU処理か、サーバー処理かのセレクトができることが優秀ポイントの1つです。
外部のDSPやサーバーにプラグイン処理をさせる場合につきまとう問題。「サーバーがない場合はどうなるの?」
サーバーを持たずに外のスタジオに出かけた場合、同じプラグインバンドルを持っている友人にセッションファイルごと送った場合、あるいは何らかの事情で、突如サーバーが故障してしまった場合などまでを考えてみましょう。
こんな書き出しをするくらいなので、当然ながらすでに対策は施されています。
Impact ServerやIOSを使って処理をさせているプラグインたち(WAVES、Flux::、Plugin-Allianceほか)は、DAWの起動時にサーバーが見つからない場合は、自動的にすべてをコンピュータ本体(CPU)の処理に切り替えます。特に設定は不要です。ですから
といった事故はありません。
もしもコンピュータ本体だけで動かすのが難しいセッションの場合は、お出かけ先の現地でトラックフリーズすることもできます。サーバーがないから現地で何もできない、といったことはありません。
こちらがサーバーで処理されていたときの画像で、
下がサーバーが見つからず、自動的にコンピュータ本体の処理に変わった図。
その日、私の友人はDiGiGrid DとImpact Serverを持って外のスタジオでギターとボーカルのレコーディングがあったそうです。前日までにラップトップマシン本体、iLok、アダプター、マイクやケーブル、お気に入りのリフレクションフィルタ。そしてDiGiGrid DとImpact Serverを持って出かけることになっていました。スタジオでの万が一に備えて、全トラックをフリーズしたものも用意しています。
ところがスタジオに到着してみると、持ってきたはずのImpact Serverがない。そうです。自宅に忘れたのです(友人はギターをレコーディングしようとしてギターを忘れたこともあるほどなので、このくらいは意外でも何でもありません)。
忘れたときのために全トラックフリーズ済みのセッションでレコーディングを開始しようとしたものの、スタジオで微細なエディットを余儀なくされました。しかしフリーズを解除すれば、通常の外部DSPプラグインの場合は起動できません。友人はこのトラブルが発生したとき、上で書いたような「自動的にCPU処理に切り替わる」ことを知らなかったため、すがるように私に電話がきました。
「これ、フリーズ解除したらどうなるの….」と。
私は(かなり格好つけた声で)「そのままフリーズ解除していい。問題ない」と伝え、意を決した友人がフリーズ解除を押したところまでを見届けて電話を切りました。
フリーズ解除→ネイティブ環境でエディット→再びフリーズ
こういった現場対応となるような作業もDiGiGrid IOSやSoundGridサーバー(Impact Serverなど)なら問題ありません。この辺が優秀ポイントその2です。
友人はこんなことがあってから、何回かはDiGiGrid IOSへの買い替えを検討しているようですが、あれ以来はもうImpact Serverを持ち出すこともなくなったそうです。いざとなってもスタジオで対応もできるし、忘れ物にビクビクしながら楽しいはずのレコーディングに臨みたくない、と、絶妙にだらしないことも言います。ですが、こういった臨機応変な対応ができる環境を作ったこともSoundGrid対応機の自慢のひとつなので、良かったのかもしれません。
DiGiGrid