2020.04.23
「音がいい」ことと、「演奏がいい」ことは、時に別の次元で語られることがある。「音がいいからこの曲はいい」という使い方をすれば、それは確かに間違った言い回しだ。録音技術が今よりも未発達だった頃に記録された名盤は数えきれないほどある。
しかし、ギタリストがケーブルの1本を変えた途端、それまで抑制されていた何かを解放したかのようにのびのびと演奏できるようになった、というケースは珍しくない。それまではどう頑張っても最大の満足を得られず、無理な弾き方でカバーしたり、追加のエフェクトで補正していたものを、ケーブル1本変えることで余計なストレスがなくなり、プレイそのものに集中できるようになった、というケースだ。この場合、音がいいことは演奏がいいことに結びつく。
Earthworksのマイクロフォンは、いずれも完璧なまでにフラットであることと、高い耐圧性、可聴領域をはるかに超える周波数特性という特徴を持っている。
レコーディングに於いてマイクロフォンの質の高さが示すものは、ヘッドホンに戻ってくるモニター音そのものだ。Earthworksのマイクを使用してレコーディングを行うことでプレイヤーへの変化はあったのか。
MI:これまでのレコーディングやライブで、Earthworksのマイクを使われたことはありましたか?
小池:あまり機材に関しては詳しくないので...メーカー名とかは分からないのですが、この形のマイクでレコーディングをしたりライブで使ったりという記憶がないので、多分初めて使ったのだと思います。見た目も特徴的ですよね。
MI:これまで多くのレコーディングを経験されてきて、ヘッドホンから聞こえるSR20を通したご自身の声は、いつものレコーディングと違うなという印象はありましたか?
小池:音を言葉でうまく表現することができるかどうかわかりませんが、普段よりも「くっきり、はっきり」しているな、とは思いました。子音とか、音のふくよかさという部分では、自分が歌っているイメージの通りにヘッドホンから聞こえてくる感覚ですね。
MI:これまでのレコーディングやライブで、Earthworksのマイクを使われたことはありましたか?
田畑:記憶している限りでは、なかったと思います。もしかすると自分が知らないうちにエンジニアさんが使っていたことはあったかもしれませんが、今日SR20を見てみて「斬新な形だなぁ」と思ったくらいなので、初めてだと思います。
MI:本日は普段のレコーディングではあまりない、前を取り囲むようにマイクのセッティングをさせて頂きましたが、ヘッドホンから聞こえるモニターや、プレイバックの音を聞いてみた第一印象はいかがでしたか?
田畑:「くっきり」しているなと思いました。僕たちはアコースティックのセットが多いので、レコーディングではモニター(ヘッドホン)から聞こえる音が重要で、これによってプレイそのものが左右されると言っても過言ではないのですが、今日は自分の音だけでなく、他のメンバーの音もクリアに聞こえました。ドラムの音はいつも感じる「フィルターが一枚かかったような音」ではなく強弱の繊細さが感じ取れる音でモニタリングできましたし、僕自身も繊細なギターの音が好きなので、Earthworksマイクとの相性がいいのかな、と思いました。
MI:いつもよりも「くっきり、繊細な音まで聞こえる」ことで、プレイそのものへの影響はありましたか?
田畑:はい、ありました。他のレコーディングで「強弱のニュアンスを込めて演奏しているつもりなのに、ヘッドホンから聞こえる音は強弱の繊細さを感じない」ことがあったんです。ヘッドホンを外してギターを直接聞くと問題なく聞こえるのに、ヘッドホンから聞こえる音は何かが違う、という。そのニュアンスを残したくて弾き方を変えてしまうこともあったのですが、今日はその違和感がまったくありませんでしたね。
MI:これまでのレコーディングやライブで、Earthworksのマイクを使われたことはありましたか?
藤井学:いえ、初めて使いました。SR20の方はもしかするとエンジニアさんがひっそり僕のレコーディングで使っていた可能性はありますが、このグランドピアノ専用のマイク(PM40T)は見るのも初めてです。ピアノ自体の見た目も邪魔しないし、グランドピアノの蓋を閉じても使えるというのはすごいですね。
MI:ピアノは特にマイキングによって表情が変わると思うので、マイク経由の音をヘッドホンで聞きながらプレイするのは、慣れないうちには難しいと思いますが・・・
藤井学:ヘッドホンをつけている時と外しているときの差が少なかったのが印象的で、ヘッドホンをしているのにいつもと変わらない(ヘッドホンなしのように)演奏に集中できたことに驚きました。思いっきり弦の近くにマイクが立っている時とかには、自分が思っている以上に音が近くて、いつもより弱く演奏してしまったりすることもあるのですが、今日は自分の演奏ニュアンスがそのままヘッドホンから聞こえてきたので、自然と演奏に集中できましたね。
MI:これまでのレコーディングやライブで、Earthworksのマイクを使われたことはありましたか?
藤井寿光:いえ、初めてですね。
MI:ヘッドホンから聞こえてくるご自身のサウンドを聞いてみて、第一印象はいかがでしたか?
藤井寿光:今までのレコーディング時に感じていた「膜が一枚被ったような感じ」が全くなくて、ヘッドホンなしでドラムを叩いて聞こえる音との差が少なかったように思います。一言に「レンジが広い」と言えばそれまでかもしれませんが、それだけではない再現性を感じましたね。
ダイナミックマイクで敢えてレンジの狭さを利用したサウンドも大好きなので、それはそれでアリだと思うのですが、今日試させてもらったトップマイクのクリアさ、自分の耳に(ヘッドホンを経由して)すっきり入ってくる素直さ、奇麗さにはビックリしました。モノラルでもステレオ、XYのどの方式でも同様の印象を感じました。
MI:これまで経験されてきた多くのレコーディングでは、スネアやタム、ハイハットなどにも個別にマイクを立てたマルチマイクでのレコーディングが多かったのではないかと思うのですが、本日のドラムレコーディングの最後には、キックに1本、トップに2本の合計3本だけでのレコーディングをお願いさせて頂きました。実際にヘッドホンに返ってくる音は、いつものレコーディングとは違う印象の音だったと思うのですが、モニター音が違うことによってプレイそのものへの影響はありましたか?
藤井寿光:はい、もちろんありました。エンジニアの葛西さんをはじめ、今日このスタジオにいらっしゃる多くの方が感じられていたと思うのですが、シンバルの奇麗な伸び方や、僕が叩いたそのままのバランス、ニュアンスでヘッドホンに返ってくるので、プレイに集中できましたね。
・・・ただねぇ、怖いことですよ、これは。練習してなかったり、曲をしっかり理解してないと、色んなことがバレちゃいますからねー(笑)でも、良い意味で自分にストイックになれると思います。周りの音もしっかり聞こえたし、下手な演奏はできないぞ、という引き締めにもなりますね。しっかりせなアカンな、と(笑)
2002年、小池光子(Vo)と田畑伸明(Gt)で結成。2003年にリリースしたアルバム「ビューティフルハミングバード」がロングセールスを記録、稀有な世界観と表現力が高く評価される。2006年、鈴木惣一朗プロデュースでメジャーデビュー。一方で、小池が数多くのCMや作品に参加、「誰もが声を聴いたことがあるボーカリスト」となる。
近年、通常のライブ活動の他、完全生音の室内楽スタイルによる「耳をすまそうコンサート」や、子育て中のお父さん・お母さんも親子で楽しめる「絵本のよみきかせLIVE」を始動。また、坂本龍一氏主宰の『にほんのうたキャラバン』での童謡コンサートにも積極的に参加しており、全ての人に音楽の幸せを届けるべく活動中。
公式WEBサイト:http://www.suzakmusik.com/bhb/
サウンドエンジニア。ライブPA、スタジオ録音など、マルチに活動を行う。主にオオルタイチ、蓮沼執太、平賀さち枝、ショピンなどを手がける他、舞台作品、リミックスなど幅広く、活躍の場を広げている、今、最も注目を浴びているエンジニアの一人。
オープンからも日が浅いコンパクトなプライベート型レコーディング&リハーサル・スタジオ。スタジオの内部は、自然の木柱をレイアウトし、常設のSteinway&SonsS-155とともに、心置きなく寛げる雰囲気を醸し出しています。まるでご自宅にいるようなリラックス感が新たなアートを生む空間となっています。