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Earthworks SR20 – ピアノレコーディングの Tips

2020.04.28

ボーカルからキックドラムまで。この両極端なソースに「使える」マイクを探そうとすると、実はあまり多くないと言えるでしょう。周波数特性、耐圧、立ち上がりのスピード。多くのミュージシャンやエンジニアは、この違いを汲み取ってマイクをセレクトしています。

「バンド全ての楽器を、1種類のマイクだけでレコーディングしてみるってどうなんだろう?」

そんなスタッフの思いつきから始まったこの企画。ドラム、グランドピアノ、アコースティックギター、そしてボーカルまでを1種類のマイクだけで録ってみようというもの。エンジニアには蓮沼執太フィルのメンバーでもあり、数多くの作品に携わる葛西敏彦氏を迎え、ゲストミュージシャンには至極のアコースティックデュオ、ビューティフル・ハミングバードを迎えたこの企画。

高解像度のサウンド体験と、マイキングのTips。「SR20こそ、本当にマルチで使えるマイク」と実感頂ける連載企画をお楽しみください。

1.はじめに

2.キックドラムレコーディング

3.ドラムトップレコーディング

4.ピアノレコーディング

5.アコースティックギターレコーディング

6.ボーカルレコーディング

7.SR20だけで全てのレコーディングを実施

8.ミュージシャンから見たSR20による演奏への影響

先日とあるレコーディングスタジオの集合ロビーで、ピアノのレコーディングについて打ち合わせをしている人たちを見かけた。そのスタジオにはなかなか良い状態のグランドピアノが設置されており、勝手ながら私は「ああ、あのいいピアノをレコーディングするための打ち合わせなんだな」と思っていた。

ところが話をよく聞いてみると「ピアノのレコーディングが思ったよりもうまく行かないから、ソフト音源で差し替えましょう」と話をしている。

たしかにアコースティックピアノのレコーディングは難しい。現存する楽器の中でも最も音域が広く、オーケストラ演奏の中でも負けないほどの音量が出せるように長年研究され続けている楽器だ。ぱっとマイクを数本立てて簡単にレコーディングできるものであるはずがない。

そんな背景があったかどうかは別として、近年のソフトウェアピアノ音源は劇的な進化を遂げている。かつてのイメージだった「デモ曲を作るときの代用品」というイメージは徐々になくなってきており、本物のピアノと言われても気がつかないような良質の製品が多数登場している。

しかし、今やレンタルスタジオにも(完璧とは言えないまでも)良質のグランドピアノが設置され、気軽に触れられる環境がある。こういった環境を利用して、ご自身の楽曲に合ったピアノサウンド、ピアノマイキングを追求してみて欲しいという思いもある。 マイク1本でピアノのレコーディングは可能か。あるいは2本使用したら、どこまでサウンドの幅が広がるのか。エンジニアの葛西氏に聞いてみた。


モノラルレコーディング編

MI:ピアノを1本のマイク(モノ)でレコーディングされる事はあまりないのでしょうか?

葛西:そんな事はないと思います。僕自身も、たまに狙ってモノラルでレコーディングする事もありますよ。

MI:テレビやライブ映像などを見ていると、「ピアノは複数のマイクを使用するのが当たり前なのかな?」と固定概念で考えてしまっていましたが...。モノラルでも問題はないのですね。

葛西:問題があるかどうか、というよりも、まずその楽曲に「ピアノのステレオ感が必要か」を考えた結果だと思いますね。ステレオで録ったからといって、必ずしも良い音に繋がる訳でもないですからね。近年のポップスのように豪華さ、立体感が曲にとって必要ならば、2本以上のマイクを使ってステレオに仕上げる方が良いかもしれませんね。

1本のマイクで充分に良い音をレコーディングする事も可能だと思います。反対に1本だけの方が「ピアノが本来持っているダイナミクス」をより捉えられる事もあるのではないでしょうか。ジャズなどで”各演奏者の強弱”を的確に捉えたいときは、1本のマイクだけでピアノを録るのもアリだと思いますね。その場合は他の楽器も全部モノにしてしまったほうがより効果的に演奏のダイナミクスをリスナーに届けられるかもしれませんね。

20200423_earthworks_sr20_piano5

今回葛西氏には「マイク1本だけでピアノレコーディングをする時に、考えられる4カ所の設置場所」とだけ伝えてマイキングを行ってもらった。

使用したピアノはSteinwayの中でも珍しい、ミニ・グランド。今回協力していただいたオールアートスタジオに常設されている珍しいグランドピアノだ。

葛西氏はピアニストの藤井学氏がテストプレイをしている中でピアノの周りを歩きながら、あるいは共鳴板に耳を傾けながら、好みのサウンドが得られる場所のサーチに時間をかけていた。

以下のビデオは、設置された4本のマイクを順に切り替えながら再生されるビデオだ。4本のマイクがそれぞれどのような響きを狙っているか、ピアノの響き以外にどのような特徴があるかチェックしてみてほしい。

20200423_earthworks_sr20_piano1

MI:4本のマイク、それぞれの狙いについて教えていただけますか?便宜上、ムービーの左側から1本目としてご説明をお願いします。

葛西:1本目はビデオ中、一番左。ピアニストの頭上にセッティングしたマイクです。これはドラムの時と同様に「プレイヤーズ・ポジション」ですね。ピアニストが感じているであろうサウンドとなるべく差がないような意識でセッティングをしています。実際にピアニストの頭上から演奏を聞いてみて、ここだと思う場所を選んでいます。

2本目はピアノのハンマーの真上から、垂直にハンマーを狙ったもの。ハンマーがピアノの弦を叩くポイントを狙ったものですね。ハンマーのアタック感が得られるので、このサウンドが好きな方や、ミックス中にこういった要素が欲しい場合には有効なポジションですね。

3本目はより実践的な位置ですが、ライブなどの場合に多いセッティングかもしれませんね。この位置であれば、同時に他の楽器を鳴らす場合でも被りが少なくなります。ピアノの内部に向かって、弦と共鳴板が鳴っているポイントをオン(近め)で狙ったものになります。

4本目は3本目の延長線上というか、実践的でありながら、ピアノ全体の鳴りを捉えるためにオフ(遠め)にセッティングしたものになります。レコーディングなどの場合にはこのパターンが一番多いかもしれませんね。

”ピアニスト頭上に設置したプレイヤーズポジション”(非圧縮 96kHz wavファイル)

”ピアノのハンマーに向けて設置したもの”(非圧縮 96kHz wavファイル)

”ピアノの共鳴板にむけて近距離で設置したもの”(非圧縮 96kHz wavファイル)

”ピアノの共鳴板にむけて遠距離から全体を狙ったもの”(非圧縮 96kHz wavファイル)


マイク1本でレコーディングする、ピアノマイキングのTips

  • 1本目のプレイヤーズ・ポジションでは、ピアニストが鍵盤にタッチする音が微かに混じったり、演奏に込めた強弱のニュアンスが分かりやすいサウンドになる。ピアノソロ作品や、少数編成のアンサンブルなどに有効なセッティング
  • 2本目はグランドピアノのハンマーが弦を叩く「コツ」というサウンドが得られるセッティング。この「コツ」というサウンドがある事で、目の前でピアノ演奏を聞いているかのような近い距離感が特徴ともいえる。ポップスやバンドアンサンブルのアレンジなら、このくらいのアタックがある事で無闇なEQやコンプを用いることなく抜けのよいサウンドに仕上がるた
  • 3本目と4本目は同じ系統のサウンドだが、オン気味にセッティングした3本目はピアノの共鳴板の鳴り、アタックの強さが欲しいときにチョイスしたいサウンド。オフ気味にセッティングした4本目はピアノ全体の響きに加えて、低音弦の迫力、高音弦の美しい響きまでを捉えている

ステレオレコーディング編

ピアノは現存する楽器の中でも最も音域が広く、またピアニッシモからフォルテシモまで、ダイナミクスの幅も広い楽器だ。前項の「モノラル編」では、そんなレンジの広い楽器をあえて1本のマイクで収録するためのTipsをご紹介したが、ここでは定番となるステレオ(2本)を使用したマイキングTipsをご紹介しよう。

ここまでのTips記事で使用してきたマイク、EarthworksSR20に加えて、同社の「グランドピアノ専用マイク」であるPM40Tを併せて使用したものを本項でご紹介する。

MI:定番ともいえるピアノのステレオマイキングについてお伺いします。使用するマイクが1本から2本に増えることで、どのような違いが出てくるのでしょう。

葛西:ピアノは楽器の中でも特にレンジの広い楽器なので、単純にいえば低い弦から高い弦までの音域をスムーズに抑えられるという違いはあると思います。僕は普段ステレオマイキングを行う事が多いのですが、今日はグランドピアノ専用のPM40Tもあるという事だったので、SR20の方は通常のステレオマイキングではなく、XY方式でのマイキングにチャレンジしてみようかと思います。ここ(取材場所:オールアートスタジオ)のピアノは非常に美しい鳴りをしているピアノで、聞いたままを収録できるXY方式ならうまく行きそうだと思ったから、というのも理由です。

もう一方のマイクはEarthworksのPM40T。ピアノのマイキングに革命を起こし、ピアノ・サウンドの劇的な向上を実現したグランドピアノ専用のマイク。

マイクスタンドを兼ねた本体。4Hzから40kHzまでの驚異的な周波数特性。近接効果を排し、セッティング図からは想像もつかないほどに明瞭度の高いサウンドが特徴のマイク。

20200423_earthworks_sr20_piano4

葛西氏はハンマーの上部辺りに本体バーを設置。右のグースネックを繊細に調整していた。この2組のマイクをそれぞれ使用してレコーディングされたテイクがこちらだ。

グランドピアノはハンマーが弦をたたき、弦の振動が共鳴板にて増幅され、大屋根(蓋)を介して聴衆に音が届く。葛西氏は幾度となく頭を動かし、最もよい響きが得られる場所にXYセッティングでマイキング。

Earthworks SR20を使ったマイキングのTips:ピアノ(ステレオ)編 from Media Integration on Vimeo.

20200423_earthworks_sr20_piano3

”ピアノの共鳴板にむけて XY セッティングをして全体を狙ったもの”(非圧縮 96kHz wavファイル)

”グランドピアノ専用マイクの PM40T を使用したもの”(非圧縮 96kHz wavファイル)

ミキサーに立ち上がったPM40T、XYでセッティングした2本のSR20を、葛西氏は左右にパンを振り切らず、程よく左右のパンを狭めていた。これについて葛西氏は、

葛西:パンを左右に振り切るというのが必ずしも正解ではありません。広がり方が違うのはもちろんですが、大切なポイントは「ピアノの音として一番しっくりくる」場所を探す事ですね。パンを振り切ってちょっと輪郭がボヤけてしまったり、広がりすぎて存在感がなくなってしまった時には、まずパンの調整を行います。

MI:「しっくりくる」というのは、具体的にどの辺を基準にしたらいいのでしょう。

葛西:これは「エンジニアじゃないと分からない特別な事」ではないんです。客観的に聞いてみて「ピアノらしいな」と思うところまで左右のパンを調整すればいい、という事なんですね。

XYでセッティングしたSR20は、当初の印象通り「その場で聞いたままの音」がそのまま再現されるマイクだなと思いました。いつも通りに共鳴板を狙って、でもちょっとだけオフ(離し)気味にセッティングしてあります。今回レコーディングしたこのピアノ(SteinwayminiGrand)は、フルコンサートピアノとは違って低域のド派手さがあるピアノではないのですが、その印象そのものをパッケージングしようと狙ったそのままのサウンドがレコーディングできました。

ピアノは音域的にも周波数的にもレンジの広い楽器なので、そのピアノサウンドが楽曲の中でどういう位置を担うのかを考えながらマイキングします。このパターンではローエンドまでをカバーしているわけではないのですが、後で解説するもう一方のPM40Tで録った方がハイからローまでまんべんなく収録できた「豪華版」な感じのサウンドだったので、意図的に差がある場所を狙ってレコーディングしてみました。ポップスなどのアンサンブルの中に入った時にはこれくらいローが薄くてもアリかな、と思いましたね。

MI:対して、今回の企画では唯一の別マイクであるグランドピアノ専用のPM40Tはいかがでしたか?

葛西:さすがに専用マイクという事だけあって、よい印象です。ピアノの音像がしっかりしていて、上から下までバランスもいい。それに加えて設置がしやすいという点も素晴らしいと思いましたね。マイキングの話題なのにこんな事をいうのもおかしいかもしれませんが、グランドピアノに置くだけでコレが録れてしまうので、どんなシチュエーションでも「このピアノの音」が録れることがいいですね。レコーディングはもちろんですが、ライブでもとても助かるだろうなと思います。普通これだけクローズ(近く)にセッティングすると、なかなか全体像を捉えることは難しいのですが、PM40Tの場合はそういった印象を(いい意味で)裏切ってくれて、ピアノらしいサウンドを録ることができます。

 

レコーディングがうまくなる、
マイキングの Tips - まとめ
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