MixがうまくなるTips、本日はストリングスカルテット(四重奏)の素材をネタに、ミックスの中で「出すところと絞るところ」を処理するステップを解説。素材こそストリングスですが、本日のネタの「考え方」は、シンセやギターを重ねるときにも同様のテクニックとして活用できるのではないかと思います。
2011.08.08
スタッフHです。
連載でお伝えしてる「MixがうまくなるTips」のSonnox QuickTips。本日は第三回目です。第一回、第二回はそれぞれコンプ/ゲート、EQを用いたTipsでしたが、本日は最もSonnoxらしいプラグイン、Inflatorを使用したミックスとなります。
ひょっとしたらみなさま、ミックス中にこんな悩みにぶつかった事はないでしょうか。
「各楽器のトリートメントもした。ドラムの音も完璧。ベースもキックと被らないようにうまくEQを施す事ができた。ボーカルのオートメションもパーフェクト。なのに、カッティングしているギターが埋もれてしまう…。コンプで前に出そうとしたものの、”潰れ感” が強くなってしまうだけで音が抜けてこない…」
「ベーシストから送られてきたベーストラックが、固まる前のコンクリートのようにヌメヌメしていて、ミックスに入れたとたんに全然存在感がない」
「ドラムをスタジオでレコーディングしてきた。音の方向性は良いんだけど、どこどなく “耳にイタい” 感じがする。EQでハイカットしてみたものの、イメージとは違う。いい具合に”マイルドにする” 事はできないか」
「いわゆるマキシマイズ系のリミッターをマスターチャンネルに使っているが、これ以上はつぶしたくない…けど、もうすこし全体に “存在感” が欲しい…」
さてさて、いつものようにまずはビデオをご覧いただきましょう。本日は少々長めの5分弱ですが、あまりの魔法っぷりに短く感じます。
Inflatorが魔法のプラグインだとは常々書いてきましたが、これを見ていただくと納得していただけるのではないでしょうか。よく「Inflatorは全トラックに使ってはいけないのでしょうか?」と質問をいただきますが、このビデオを見ると、そんな事はないのが分かりますね。
このビデオのミックス中、EQやコンプは一切使っていません。しかし、Inflator1つを使うだけで音のエッジを立たせたり、逆にマイルドにしたり。ある音はサチュレーションがかかって派手なクリッピングサウンドになったり、リッチなトーンになったりします。なるほど、これだけシンプルな操作で様々なトーンが得られるので「魔法のプラグイン」と言われるようになったのもうなずけます。
とはいえInflatorを使う時には「深くかけ過ぎないように注意する、もともとラウドな音をさらにラウドにしすぎない」といった耳も一緒に鍛えて頂けると、Inflatorの良さがさらに際立つのではないでしょうか。
では最後に、以前も軽くご紹介した、とあるジャズバンドをレコーディングしているエンジニアさんにお伺いしたInflatorへのコメントをご紹介。
僕がジャズのミックスをするとき、ほとんどのトラックにInflatorを使っています。あるトラックは激しく、あるトラックは誰も気がつかないほど軽くと差はあるものの、普通のデジタルレコーディングでは得られない「何か」があるように思うからです。
僕がレコーディングをするジャズバンドはみなさん熟練のいい音を出す方たちばかりだから、コンプで潰して音を作ったり、EQで大胆な加工をする必要があまりないんですね。だけど、例えば目の前で演奏されているウッドベース。これを耳で直接聞くと、もっともっとディープで良い箱鳴りをしてたりするんですよ。弦を震わせる指の感じまで聞こえそうな迫力があったりする。これを普通にレコーディングしてしまうと、なぜだか冷めた音になっちゃう。そんなときにInflatorを使って、ちょっとだけインプットを突っ込んで、EFFECTをマイナス側(編注:ビデオの中で言う、マイルド側)にするんです。そうすると目の前の演奏とレコードの差がなくなる。今のところ、これに変わるツールは僕にはありません。
解説: Rich Tozzoli
Rich Tozzoliによる、ミキシングを中心にOxfordプラグインのクリエイティブな使い方を紹介するTips集!
グラミー賞ノミネートのプロデューサー/エンジニア/コンポーザー、Rich Tozzoliは、アル・ディメオラ、デビッド・ボウイ、ホール&オーツをはじめとするアーティストのプロデュース/エンジニアを担当。ディズニー・チャンネル、HBO、FOX NFL、アニマル・プラネット、Nickelodeonなど数多くのTV番組楽曲も手がけています。