2022.08.05
昨今、イマーシブオーディオ(全⽅位から⾳を発⽣させて没⼊感を⾼める⾳響デザイン)の話題が尽きませんが、2ch 以上のハードスピーカーを使ったミックスは各スピーカー間の相関関係(⾳量、距離、ディレイ、位相)のコントロールのために、2ch 環境よりも多少シビアなキャリブレーションが必要になります。
⼆等辺三⾓形もしくは正三⾓形に配置する、左右の壁との距離をシンメトリーにする、等お⾦をかけない基本的な事はこちらの記事でプロの⽅々が詳しく解説されています。
弊社も昨年、アコースティックエンジニアリングさんにスタジオを作って頂きました。外界からの⾳の遮断、ブースの完全防⾳、定在波や⾳の回りを極⼒抑えるコンセプトです。仕上がりは⾮常に上質で⼼底満⾜しているのですが、各オーナーのコンセプト、不動産の条件によって優先順位はそれぞれですので「プロの施⼯=全ての物件で完璧な⾳場」にはならないと思います。
何を正とするかは⼀旦置いておきますが、リファレンスを統⼀するというのはそれだけ難しい事なのです。その解決の⼀⼿になるのが今回マルチチャンネルに対応した⾳響補正ソフトウェアSonarWorksSoundID Reference MultiChannel です。
忖度なく結論から申し上げますと、
と、個⼈的には感じました。
幸い弊社には⽅向性の違う作業スペースが2ヶ所ありますので、それぞれMac/Windows 環境で複数回の測定を⾏いました。
Apogee Ensemble
Focal Trio6BE、Focal Shape65、IKmultimedia iLoudMTM
SSL 2
Focal Shape50
計測ポイントは40か所弱と前バージョンより少し増えたような気がしますが、LR スピーカーの距離、リスニングポイントとの三⾓形の距離も⾃動で検出され、各スピーカーの0.数db の誤差、レイテンシーまで⾃動検出し補正をしてくれます。
補正後の⾳はReference4 の頃よりかなりナチュラルになっています。
特に⾼域のシャリ感、低⾳のスカスカ感はそんなに変わる︖というレベルでしたので逆に不安もあったのですが、SoundID になって計測精度が⾼まったことに安⼼して使える⾳になった印象です。
また、複数回計測してもその差は誤差レベルでした。
⼀度の計測で確実なキャリブレーションが完結すると考えると導⼊も気楽になりますし、ヘッドホンはプリセットが豊富に準備されているので該当の型番があればそれをセレクトするだけです。
DAW のマスターに差して使ってみるとほとんどレイテンシーも感じません。
特に100Hz 周辺のディップが綺麗に取れているので低⾳域楽器のトラックの重ね⽅や、EQ の加減、⾳源ごとの癖も⾒えやすくなります。すっきりしすぎて物⾜りないと感じる⽅がいらっしゃったら、補正⽐率を下げてみるのも良いでしょうし、普段はOff にして慣れた⾳で制作、チェック時やミックスの段階でOn にしてしっかり詰めていくという使い⽅もOKだと思います。
実装環境の⽅で効果的に感じたのはエンコード後の⾳が把握しやすくなった事ですね。
BGM は最⾼〜⾼⾳質に⽌める事が多い反⾯、ローの存在が肝になる曲はエンコード後に印象が変わりやすいですし、ボイスは⼩声キャラの接近効果をはじめ、声の圧を捉えやすくなります。
様々なサウンドが⼊り乱れるゲームサウンドの調整段階においても、⼤局的な判断⼒を⾼める事が出来る様に感じました。
余談ですが、DAW 側の出⼒に対してOS 側のsoundID は反応しませんので⼆重でかかる事はありませんし、プラグインをON にした状態でバウンスを⾏うと警告が出ますので誤って補正を掛けっぱなしでwav に反映させてしまうことも防げます。
2ch でもその効果は⼗⼆分に得られますし、冒頭に挙げた様な2ch 以上のハードスピーカーを使ったミックス環境を作る際にも確実にSonarWorks SoundID Reference MultiChannel をオススメします。
あらゆるキャリブレーション問題が⼀気に解決し、有限である「時間」をその分作曲やミックスに充てる事が出来ます。クリックひとつでフルフラットな再⽣環境が⼿に⼊ると考えると⾼価なIOやスピーカーを⼊れ替える前にお試し頂く価値はあると思います。
最後に、対クリエイターという形でレビューをしてきましたが、OS レベルの出⼒でもこのsoundID は有効ですので 動画、⾳楽、Steam 等ゲームサウンドを楽しみたいという⽅にもおすすめ出来ます。
冒頭で申し上げた通り、基準を明確にするのは⾮常に難しく、バジェットが限られたプロジェクトで、外のスタジオでミックスを⾏う場合は特に注意が必要です。
そのスタジオ特性に⾃分が合わせなければいけませんし、普段の制作環境に持って帰ってバランスをミスっていた事に気付いたら取り返しがつきません。AudioMovers の様なリモートミックスだとしても、判断をするという時点でリファレンスは正確であるに越した事はありません。
SonarWorks SoundID Reference を導⼊していたとしたら、その事故は確実に減るはずです。
願わくば全てのスタジオに導⼊して頂き、ハコの特性を活かすか、SonarWorks SoundID Referenceで補正するかを選べる様になれば、リファレンスの提⽰という意味で制作スタジオの信頼性が更にアップするのではないかと考えています。
株式会社スピンソルファ 作編曲家
ゲーム⾳楽を中⼼にパビリオン、アニメ、TV 番組の楽曲制作など作曲家として活動。 サウンドプロデュース/ディレクション業へも本格的に業務拡⼤中。
代表作
GUNDAM EVOLUTION / FINAL FANTASY VII REMAKE / MONSTER HUNTER WORLD / ドバイ万博⽇本館 / NHK スペシャル「東京ロストワールド」/ Netflix ドラゴンズドグマ