Earthworks User Stories
2015.10.05
間瀬哲史氏を講師に、コトリンゴ with 村田シゲ & 神谷洵平をゲストにお迎えし、密度の濃い時間が流れたハイ・ディフィニション・マイキング・セミナー。アルバム「ツバメ・ノヴェレッテ」に収録の「minoru」のレコーディングがされたセミナーの模様をムービー、オーディオを混じえてご覧いただけます。
2012年7月27日 --- おそらくは日本初と思われる実際にレコーディングしながらのセミナー、わずか15名のためのプレミアムなセミナーが世田谷区野沢のハートビート・レコーディング・スタジオにて開催されました。講師の間瀬哲史氏、ゲスト・ミュージシャンのコトリンゴ with 村田シゲ & 神谷洵平、そしてEarthworksマイク。すべての素晴らしいパフォーマンスが発揮され、セミナー終了後の受講者の皆様方の満足気な表情が全てを物語る、素晴らしいイベントとなりました。その模様を当日撮影のムービーなど混じえながらをレポートします。
会場となったハートビート・レコーディング・スタジオ
講師プロフィール
間瀬 哲史 氏 (セカンドドリップ)
レコーディング/ミックス/PAエンジニア。
コロムビア・スタジオを経て2003年にフリーランスとなり、セカンドドリップを設立。 DJ KAWASAKI、Kyoto JazzMassive、沖野修也、坂本龍一などエンジニアとして様々なプロジェクトに参加する一方で、音楽機材の開発/製造や音楽スタジオのプランニング、音楽レーベルの運営など行っている。
コンソールはNeve VR-72
Musik RL901、RL906をモニターに使用。ピアノとドラムのトップのHAにはSym・Proceed SP-MP4を使用
当日はセミナーと同時に会場となったハートビート・レコーディング・スタジオ常設のProToolsシステムにて、レコーディングも敢行。セミナーを開催しながらのレコーディングという世界的に稀なイベントとなった。セミナー、レコーディングともにブースにセッティングされたEarthworksマイクはヘッドアンプ(プリアンプのみ)を経てダイレクトにProToolsに入力されレコーディング。セミナーで比較試聴が必要なドラムのトップ、ピアノにはピュアで原音に忠実な音質のSym・ProceedSP-MP4をヘッドアンプに使用。加えて、マイクの実力を正確に把握できるよう、モニタリング、レコーディングともに、EQやコンプによる処理は施されませんでした。
「色付けがほとんど無く、それでいて音楽的。ミックスのときコンプ、EQ処理しやすい」
セミナーのはじめに間瀬氏がEarthworks マイクの出会いと印象について語りました。
間瀬:最初に使用したEarthworksマイクは今日もピアノで使用しているQTC40(当時QTC1)です。最初に紹介を受けたとき、このマイク「キックにも使えるんですよ」と言われ、まさかと思いました。形状も細く、決してキックに使うようなマイクに見えないですしね。「何だろうコレは?」というのが第一印象です。
それとEarthworksというと測定マイクのイメージが強かったので、「ワイドでフラットなのは良いとして音楽用途にはどうか」と思っていました。そこで、その時は試しにドラムのアンビエンス用に使ってみました。そうしましたら、部屋でなっているそのままの音が入ってきて、色付けがほとんど無く、それでいて音楽的で驚きました。上が40kHzまで伸びているので、高いところまで綺麗に伸びて、うっすらと無くなるように聞こえるのでシンバルの伸びが綺麗です。それにワイドかつナチュラルに録れるのでミックスの時、コンプやEQ処理しやすく、録音時にエフェクトをかける場合でもかかりが良いです。他に紹介されたとおり、KICKPADと合わせてキックに使用したり、色々と試しました。いずれも、ワイドかつフラットで耐圧の高さに驚きました。また、ホール録音、ライブのオーディエンス・マイクによく使用しています。ライブ会場でのオーディエンス・マイクに使う場合、他のマイクでは湿気が理由で、ライブ中に使えなくなるケースが結構、あるのですが、Earthworksマイクではこれまでに一度も無く、それは非常に重要なポイントです。それで、その時はQTCも欲しかったのですが、残念ながら手が届かず、SR69(現SR20)を購入しました。
EarthworksSR69(現SR20)マイクを実際に購入の上、しばらく使用してからの印象
間瀬:SR69(現SR20)はレコーディングの際に最初に選ぶマイクです。ドラムのトップやアコースティック・ギターによく使います。アコースティック・ギターではSR69(現SR20)に出会う前はNeumannU87で全体を、弦のジャリっとしたところをAKGC451で録って混ぜる手法で録音していたのですが、今はSR69(SR20)コレ1本で済んでいます。それにSR20はヴォーカルに良いと紹介を受けました。実際にグリルを取り付けるとハンドヘルドのような形状になりますしね。実際にヴォーカルやナレーションに使うと、リアルですごくいいんですね。声がそのまま録れます。なので、結構、ヴォーカルにも使用しています。SR69(現SR20)はマルチに使える良いマイクで、まさに「赤い相棒」です。2本しか持っていないのですが、レコーディングの時にはいつも、最初にSR69(SR20)をどこに使うか、考えます。ちなみに結構、荒い使い方をしていますけど、壊れませんね。耐久性も良いですよ。
実際の現場でのEarthworks マイク使用例
2009年 坂本龍一 ヨーロッパ・ツアー — PM40を中心にリアルなピアノサウンド —
間瀬:2009年のヨーロッパ・ツアーでは2台のピアノに同じセッティングでマイキングしました。ツアーは300人から最大2,000人位のホールでのツアーでPM40をメインにQTC40も使っています。(本日と同じセッティングです)加えて、SR69(現SR2 0)を教授がピアノの弦をブラシで叩いたり、ボトルネックでプレイしたりする音を拾うために使用しました。
2012年7月 No Nukes — 10,000 人規模の会場で証明したハウリングへの強さ —
それから、先日7/7〜8に幕張メッセで開催されたNoNukesの際のセッティングはこちらになります。
会場が幕張メッセと10,000人規模だったのでハウリング・マージンはとれないので無指向性のQTC40は使用していません。PM40TとSR69(現SR20)を使用しました。
フルオープンのピアノにPM40TとSR69(現SR20)がセットアップ
リハーサル時のコントロール・ルームの様子
間瀬:アリーナ・クラスの会場にPM40を使ったことはありませんでした。これまでは大きくても2,000人程度の会場で、教授のヨーロッパ・ツアーのように響きの良い会場での生音の補助用途での使用が中心で今回、大規模会場で更にドラムがすぐ側にいるバンド・スタイルのSRに始めて使ったのですが、驚きでした。使用前はハウリング・マージンなど心配な点が多々ありました。しかも教授は弦を直接叩くプレイをするので蓋は全開です。それでリハの時にコントロール・ルームを作ってもらって、(予め)音を作りこんだんですね。僕はもともとレコーディングの人間なのでフェスでリハ無しで、そこまでの現場対応はできないと思ったので・・・
PAスピーカーをコントロール・ルームにおいて、リハーサルの間に諸々のセッティングをプリセットとして作成し、当日、会場でそのプリセットをデジタル・ミキサーに読み込ませました。とりあえず、そのまま出したら、ハウリングもなく、バランスも良く、ほぼそのままのセッティングで本番ができました。なので本番中はほとんど何もしていません。これには僕も驚きましたが周りの方も驚きでした。ヨーロッパ・ツアーのときには響きが良いホールでのライヴだったので、会場によっては125Hzあたりから下をカットする必要があることもありましたが、NoNukesではローカットすら不要でした。
オムニマイクで「全体を録る」独自のアイディアが盛り込まれた間瀬式ドラム・マイキングとは?
マイク3本で録るドラム... 無指向性マイクでトップを収録
使用マイク: DK50 (QTC50、SR30)、SR40mp
ここからは実際に音を体感します。
間瀬:ロック・バンドなどだとマルチで(マイクを)立てて、各パーツがはっきり聞こえることが大事なのですが、マイクの本数が増えるにつれ位相、セッティングに問題が出て、各パートとドラムセット全体のサウンドの両立が困難になります。僕も各シンバルにマイクを立てるようなこともありますが、マイクの本数に比例して扱いは難しくなります。
Earthworksのマイクを試した時に、「少ないマイクで録音したほうが良いのではないか?」と気づきました。「少ない方が全体のなり、部屋のなりを素直に引き出せるのではと」
そして、3本の手法を取り入れてから、自分の手法が色々と変わってきて、マイクを減らす方向に意識が行くようになりました。
これから聴いていただくものは実際にマイク3本でドラムを録った作品でpenpalsのDAYS GONE BY (OKINAWA RAGGA STYLE)です。これは曲作りの合間に遊びで録ったものがそのまま作品としてリリースされたものです。録ったのは一口坂の2stで、ドラムをQTC40(トップ)とSR69(キック)の3本で録音し、EQ、コンプは無しです。ミックスの時点でも何も処理せず、マスタリングの時にもわずかにレベル調整をした程度でほとんど何もしていません。部屋の感じまで綺麗に録れています。(会場では曲の一部がプレイされます。マイク3本で録音しただけのものとは思えないクオリティに驚きの表情が会場を包みます。)
間瀬:基本的には録る曲に合わせてトップに使用するマイクの指向性(単一指向性、無指向性)を判断すれば良いと思います。今回の曲に関しては、サウンド・チェックの時にメンバーと聴き比べをして、QTC50(無指向性)で行こうということになりました。
DK50Rを中心にマイキングされたドラムセット(レコーディング用にドラムセットの各パートにもマイクをセット)
ドラムのトップには無指向性マイクのQTC50と単一指向性のSR40をセッティング。
キックには単一指向のSR30をKICKPAD接続で使用。
1963年製ヴィンテージ Ludwig Down Beat( キック 20”x 14”, タム 12”x 8” , フロアタム 16” x16” ) キットにスネアはLudwig Blonze( 14” x 6.5” ) 、シンバルにはIstanbul を使用した拘りのドラムセット
受講者はここでブースに移動し、ドラムの生音を聴きつつ、キューボックスにてトップのマイクをQTC50(無指向性)を使用した場合と、SR40(単一指向性)を使用した場合を聞き比べ。キックにはSR30にKICKPAD(キック用パッド)を接続して使用。
間瀬:トップマイクはセンターより若干、右にセットされています。これはトップ2本のマイクで録った音をステレオで聴いた時にスネアが真ん中になるよう、調整してセットしています。
向きに関していうと無指向のほうはマイクが真下に向くようセットします。QTC50は先が細くなっているので、そこは簡単です。
高さは無指向の場合、天井高とのバランスに配慮します。トップに単一を使用する場合はもっとシンバルに近い位置に普段セットします。今日はアンビエンス・マイクも立てていますが、トップに無指向(QTC50)を使用する場合には、アンビエンス・マイクはほとんど使いません。
最近は狭いスタジオで録音することが増えているのですが、その場合、トップに無指向性マイクを使うとアンビの音もバランス良く録れます。
トップにSR40とQTC50をペアでセット。
キューボックスで生音とモニターを確認。
再び、コントロール・ルームに受講者が移動。ブースで聴いたドラムの生音とマイクで収音した音を比較。
無指向性は全体を録ろうという意識で使用します。
QTC50(無指向性)では神谷さんが出しているシンバルの「ジャーン」という感じやサスティーンが忠実に良く表現されています。正直なマイクで立てた位置に的確に反応しています。上手く使えるとすごく便利なマイクです。
単一指向性マイクと無指向性マイクの使い分けについて言うと、無指向性は全体を録ろうという意識で使用します。なので、こういうレコーディングには有効です。ただ、ギターが2本入っているような派手なバンドなどでは無指向性だけではシンバルなどが埋もれるので単一指向性を主に使用し、アンビエンスに無指向性マイクを使用することがあります。
「演奏がありのままに録られるので、楽しくもあり、恐ろしくもありますね。」
神谷洵平
ドラムの神谷洵平氏は、Earthworksマイクの印象について「いつも聞こえていない音がちゃんと聞こえてくるし、ワーといってもちゃんとついてくるので、その分、身が引き締まる思いです。ダイナミクスの反応、追従がすごい。自分のプレイ、ドラムの音がそのまま表現される。演奏がありのままに録られるので、楽しくもあり、恐ろしくもありますね。」とコメントしました。
受講者の皆様の3本のEarthworksマイクにて録られた自然なドラム・サウンドへの驚きと納得の表情が印象的なドラム・セクションでした。セミナーはこの後、コトリンゴさんが登場のピアノ・セクションへと続きます。
2011年春に卓越したピアノ演奏と柔らかな歌声で浮遊感に満ちたポップ・ワールドを描きだす女性シンガー・ソングライターとして各方面から注目を浴びているコトリンゴを中心にベースに村田シゲ(□□□、Cubismo Grafico Five、Circle Darko)、ドラムに神谷洵平(赤い靴)を迎え、スリーピースバンド編成でライブ活動を開始。2012年3月にはスリーピースバンドで録音したミニアルバム『La mèmoire de mon bandwagon』を発売。Panasonic VIERA - Experience the Smart VIERA Worldのプロモーション映像テーマソング「Today is yours」の他、それまでのライブで温めてきた4曲を収録。ますます注目度が高まっている。