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JINMOが語る〜Gamechanger Audio社について

2020.02.18

彼らは未来的な機械を造っているのでは無い、音楽の未来を創っているのだ

エレキギターの発明者が誰であったかについては諸説があるが、間違いなく彼は一つの楽器を発明しただけでは無く、それによって表現されるエレキギター以降の全ての表現を創った事になる。もし仮に、レオ・フェンダーがシンクロナイズド・トレモロ・ユニットを造らなかったとしても、ジミ・ヘンドリックスは偉大なギタリストであったろうが、ウッドストックの伝説となったアメリカ国家の演奏は存在し得なかったはずだ。大型真空管アンプの過剰出力による歪みが、楽器音に新たな美意識をもたらし、ハードロックという音楽を創出した。

楽器制作を生業とする者は、確かに商品を造ってはいるが、真に新しい表現を産み出すことを可能とする新しい楽器を世に送り出すと言うことは、それ以降に始まる新しい芸術的価値観、そして新しい音楽表現を産み出していくのだ。

ここに紹介するGamechanger Audio社。そう、彼らは未来的な機械を造っているのでは無い、音楽の未来を創っているのだ。

写真:Gamechanger Audio創立者

 

私はこの音によってこれから再定義される「美しい音」と、それによって始まる音楽の未来の予感に歓喜した。

2018年のNAMM Show、出展社数2,000を超え、来場者は10万人を超える世界最大の楽器ショーでのこと。私は会期4日間で16回の演奏会をしなければならず、毎日広い会場内を慌ただしく移動し続けていた。食事を摂る時間の捻出さえ困難な多忙さであった。

早足で移動している最中にどこからか「JINMOさん!」と私を呼ぶ声がした。SiFiムービーから飛び出したかの様な、加えて非常にスタイリッシュなブースにその男はいた。黒い上下のスーツに黒いシャツ、黒いネクタイ、黒いサングラス。見ればそのブースのスタッフ全員が彼同様に黒づくめ。出展ブースに必需品の看板が、一瞬見当たらないと思ったら、なんとこのブースはレーザー光線で会場壁面に社名を投影して看板にしていた。

Gamechanger Audio。急いでいるはずの私は、思わず足を止めてしまった。

「Gamechanger Audio社CEOのイリア・クルミンスと申します。JINMOさんに是非とも試していただきたいものがあって、お呼び止めいたしました。」

イリアと名乗る黒づくめの男はそう言って、これまた黒いアタッシュケースを取り出し、映画”メン・イン・ブラック”で秘密兵器を見せるシーンの様に、儀式的にアタッシュケースのロックを解除し、ゆっくりと開いてその中身を私に見せた。そこにあったのは黒い筐体の‥、異様なストンプ・ボックス。アタッシュケース内部で見えぬ様な細工で電源が供給してあるらしく、それは既に作動していた。その様子の異様なこと。黒い筐体には細長いガラス窓があり、そこにキセノンガスを充填したチューブ。ニコラ・テスラが開発したかと見紛うような、蒼く激しく細動する美しいプラズマがそこに!

PLASMA Pedalといいます。もしよろしければ是非、お試しに‥。」

イリアの言葉が終わらぬ内に、「貸せ!!」と私は言って、そのブースにあったテレキャスターを掴み、気づいた時には荒々しくも美しい、そう稲妻が天地を轟かせる時の倍音に似た音塊の渦に私は屹立していた。私はこの音によってこれから再定義される「美しい音」と、それによって始まる音楽の未来の予感に歓喜した。

これが彼らとの出会い、彼らと共に音楽の未来を創り始めた第一日目のことである。

「巷間に溢れる歴史的名機の複製や改良版などの機器を作っている暇は、私達には無いのです。」

Gamechanger Audio社はバルト三国の一つ、ラトビア共和国の首都リガに在る。”バルト海の真珠”と讃えられる美しい港湾都市だ。高校時代からの友人4人によって同社はスタートした。

彼らは同社の存在意義を、「新しく、革新的で、実用的で、真に価値ある機器を創出(原文ではcreate。makeやbuildではない)し、音楽家と技術者のイマジネーションを拡張させることにある。」と明言している。また2019年11月、初来日で拙宅に7日間滞在したイリアは、何度か繰り返し私にこの様に断言した。

「巷間に溢れる歴史的名機の複製や改良版などの機器を作っている暇は、私達には無いのです。」

Gamechangerと言う言葉には、「世の流れを一変させる者。世論に多大な影響を及ぼす者。革新をもたらす者」といった意味がある。この野心的、且つ攻撃的な社名にこそ既に、創業時点から経済的成功以上のものを目指す強い意志が託されている。

同社が最初の製品となった”PLUS Pedal”の開発に着手したのは、2015年11月のことだと言う。同機はWinter NAMM 2017で発表され、クラウドファンディングで大成功を収め、同年8月からは製造開始。非常に大きな話題を集め、全世界に供給されている。その成功の直後から、”PLASMA Pedal”の開発に着手。かつて世界中のどこのメーカーも成し遂げることのなかった全く新しい原理で、荒々しくも美しいディストーション・サウンドを生成させた。同機が発表されたのが前述の我々が邂逅したNAMM 2018であり、この年の2,000以上の出展ブースの中で「最も注目されたブース」であるとして、NAMM実行委員会から認定表彰されている。

彼等の製品が提示する新たな価値観に、ジャック・ホワイト、ジョー・ペリー、アダム・ジョーンズ、ロビー・ロバートソン、ジャン・ミシェル・ジャール、マイク・カー、ジョー・バレジ、リチャード・Z・クラスプなど、数々のトップミュージシャンや先見の明のある人々が魅了され、そして革新者Gamechanger Audioのエンドーサーとなっている。

この革新者の快進撃は留まらず、これまでで最も野心的なプロジェクト、”Motor Synth”へと続く。発音原理として常識的・古典的なオシレーターの使用は捨て、ドローン・モーターによる電磁気的作用と光学的作用を発音原理としたもので、同機は世界初の”物理・アナログ・デジタル”シンセサイザーとなる。発売前のデモ機にも関わらず、同機が一旦、人々の前に姿を現し、音を轟かせると、そこには必ず黒山の人だかりとなる。間もなくの発売開始と、それを用いた新しいスタイルの音楽作品がリリースされ始めるのをワクワクと待ち望む者は少なくない。

繰り返そう、彼らは未来的な機械を造っているのではない、音楽の未来を創っているのだ。

JINMO 2019年12月


Profile

JINMO

表現形態の五感による分化を越境し、聴覚芸術、視覚芸術など様々な分野での表現活動を活発におこなう芸術家。
『私は自らを”音楽家"や"画家"といった矮小なアイデンティティに落ち着かせる事に、猛烈なる反発を発動させる。強いて言うならば、自らは"Avant-attaque(前撃)"の実践行為者であり、天的嗣業の前に血を流し、微笑むメディアムである。』と、JINMOは明言している。2019年2月現在までに、ソロ・アルバムだけでも243作品をリリース。代表作としては、文化庁文部科学省により2009年度芸術祭参加作品に選定された"Ascension Spectacle”、全世界17レーベルから発売された”Live At The Knitting Factory”等がある。

http://www.jinmo.com/

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