2023.12.15
安室奈美恵や氷川きよしといった大物アーティストの作品から、ゲーム音楽、ドラマの劇伴、さらにはテレビCMに至るまで、多岐に渡って活躍している音楽プロデューサー/作編曲家/キーボーディストの高藤大樹氏。最近ではクリエイター・チーム『Sound Bahn(サウンド・バーン)』を主宰し、若手クリエイターの育成にも力を注いでいます。
そんな高藤氏がオーディオ・インターフェース兼モニター・コントローラーとして愛用しているのが、Focusrite ProのRed 16LineとRedNet R1のコンビネーション。アウトボードやスピーカー類はすべてRed 16Lineに接続され、プライベートスタジオの核としてフル活用されています。数あるオーディオ・インターフェースの中からなぜRed 16Lineを選んだのか、プライベートスタジオにお邪魔してじっくり話を伺いました。
MI
今日は高藤さんにいろいろなお話を伺いたいと思っているのですが、まずはこの世界に入られたきっかけをおしえていただけますか。
高藤
専門学校を卒業してすぐにアレンジャーとして仕事を始めたのですが、22歳か23歳のときにハーフトーンミュージック(注:音楽プロデューサーの武部聡志氏が設立した芸能プロダクション)の方から“ウチに来ないか”と誘っていただいたんです。
そこからキーボーディストとしてアーティストのライブ・サポートの仕事が増えていったので、自分のキャリアはハーフトーンミュージックからスタートしたと言ってもいいかもしれません。
その後、縁あってアミューズの方々や所属アーティストとの交流が始まり、flumpoolはデビュー前からライブ全般をお手伝いするようになりました。20代はたくさんのアーティストのライブやツアーなどにキーボーディストとして、またライブにおけるアレンジやサウンド周りを担当させていただいたり。スタジオよりもライブの仕事の方が多かったですね。
MI
20年以上、音楽業界の第一線で活躍されている高藤さんですが、キャリアのターニング・ポイントというと?
高藤
ハーフトーンミュージックに在籍する前に安部潤さんとの出会いがあったのですが、それは自分にとって大きな出来事でしたね。ボーヤのようなこともやりましたし、安部潤さんからさまざまな方を紹介してもらったりとか。安部潤さんとは今でも親しくさせていただいています。
もう1つ挙げるなら、アミューズのアーティストの仕事をさせていただいたのも大きかったと思います。魅力的なアーティストの仕事だったというのはもちろん、業界の最前線の現場を身近で体感出来たという意味でも大きかったですね。
それがスタジオ仕事だったらそうでもないのかもしれませんけれど、ぼくはキーボーディストとしてライブの現場に関わっていたので、物事が進んでいくスピードやヒットのムーブメントなどを直に感じることができたんです。
その若い頃の経験は、この世界で仕事を続けていく上で、凄く役に立っているのではないかと思います。
MI
業界には高藤さんのようなクリエイターがたくさんいるわけですが、自身の強みはどの辺にあると思っていますか?
高藤
意識してるのは「全体像を見る」というところでしょうか。
ぼくは鍵盤を弾いたり、アレンジをしたり、いろいろやりますけど、全体を底上げできたらいいなと常に考えているんです。たとえ自分が関わるのがほんの一部分だとしても、皆が何を求めているのかを考えて、全体を底上げできるような提案をする。自分のエゴは押し付けたくないので、迷惑にならない程度にですけどね。
MI
高藤さんが主宰されているクリエイター・チーム、『Sound Bahn』( https://www.soundbahn.tokyo/ )についておしえてください。
高藤
最初はA-Sketchに所属していた時に自分の個人事務所としてスタートしたのですが、2020年からは他のクリエイターのマネジメントも手がけるようになりました。一緒に仕事をしたいと思うクリエイターが何人か出てきたのがきっかけですが、自分の経験を活かして、若い人を育ててみたいという欲求も出てきたんです。ちょうどコロナ禍で、何か新しいことを始めるにはいい時期だったこともあり、『Sound Bahn』をクリエイター・チームとして本格的に前に進めてみようと思ったんです。
MI
『Sound Bahn』所属のクリエイターとコライトしたり?
高藤
そうですね。『Sound Bahn』のクリエイター内でよくコライトしています。コライトは、メロディーを作る人、リズム・トラックを作る人、上モノを作る人等、複数のクリエイターが分業や協業することで、それらが相乗効果となって新しいものが生まれるおもしろさがありますよね。ただ、それらを最終的にまとめる立ち位置の人が大変だったりするんですけど(笑)。
個人的には、歌謡曲と言われているタイプの楽曲をコライトで作るのは難しいと感じています。ですので、『Sound Bahn』のコライトも、積極的なコライトというよりも、足りない部分や別要素を補い合うコライトという感じですね。
MI
高藤さんは、アーティスト活動には興味は無いのですか?
高藤
よく言われますがまったく無いですね(笑)。昔から表に出るのがあまり好きではないんですよ。ぼくは誰かをサポートする方のが好きなんです。
MI
作業はこのプライベートスタジオで行うことがほとんどですか?
高藤
そうですね。別にブースがあるわけではないのですが、電気周りや部屋の鳴りもそれなりに作っているので歌や楽器などもここで録ってしまいます。コロナ禍でライブの現場が少なくなってしまってからは、軸足がスタジオ仕事になりました。もともとスタジオで曲を作る事が好きだったので、ここで作業するのはとても楽しいですね。
MI
スタジオのシステムをおしえてください。
高藤
現在のコンピューターはApple Mac miniで、Intelの最終モデルをフル盛りで使っています。DAWは、18歳のときからMOTU Digital Performerを使っていますが、他社のDAWが良さそうだな思うときもありますし、最近もSteinberg Cubaseの性能に惹かれる部分もあったりするのですけれど、使い続けていますね。
新しいDAWの使い方を覚えるのは面倒ですし、その手に使う時間よりも音楽作りそのものに時間を掛けたいので。そもそもパソコン自体は好きではないんですよ(笑)。スピーカーは、NS-10Mからの流れでヤマハ HS8を使っています。
MI
Digital Performerの良さと言うと?
高藤
よく訊かれるんですけど、オーディオとMIDIの垣根がないところ、シームレスに作業できる点が一番気に入っています。それと単純に音が良い気がしますね。ぼくは普段、24bit/48kHzで作業しているのですが、Digital Performerで鳴らすとソフト音源の出音も良い気がします。
バウンス後の音も鈍らない感じがします。
MI
ソフト音源の一軍選手をおしえてください。
高藤
一番使うのはUVIの音源ですね。凄く好きで、何でもUVIの音源を使っています。Falconのエクスパンションもほとんど持ってますし……。UVIの良さを言葉で説明するのは難しいのですが、鍵盤での演奏がそのままイメージの音になってくれるというか、ソフト音源でありながら本物の楽器のような良さがあるんですよね。
他社のソフト音源は、弾いた後に少しエディットしないと本物っぽさに欠けたり良い音にならなかったりしますけど、UVIの音源は弾いた時にイメージ通り鳴ってくれるのでそれで完結してしまうというか。UVI以外の音源ですと、生系のドラムはXLN Audio Addictive Drums、エレキやウッドベースはSpectrasonics Trilianが中心で、今風のバキバキなシンセ・サウンドが欲しいときはVengeance Sound Avengerを使うことが多いですね。今風シンセは、他にもXfer Records Serumとかありますけど、Avengerは音が強いのがいいんですよ。
なので歌謡曲のような楽曲でも使いますし、ギターに被せて使ったりもします。
MI
デスク脇にはMoog Sub 37やヤマハreface DX、Sequnential OB-6といったハード音源が置いてありますね。
高藤
やっぱりハード音源にはソフト音源では出せない“味”があるんですよ。特にベースは違うので、Sub 37はほぼベース専用になっています。ピアノは、マスター・キーボードとして使っているヤマハ CP88がメインで、reface DXは本物のFM音源、OB-6は和音が出るアナログ・シンセという使い分けですね。ピアノ、アナログ、ポリ・アナログ、FMと、一通り揃えてあると(笑)。OB-6は、昔のOberheimのリメイクのようですが、今風なシンセなので、プラックやリードといった音色でも活躍していますね。
MI
左側の500 Seriesはどのような使い方ですか?
高藤
ほぼハード音源のインプットとして使っています。Sub 37はShadow Hills Mono Gama、OB-6やreface DXはRupert Neve Designs 517、CP88はAPI 505-DIという感じで、繋ぎっぱなしですね(笑)。Mono GamaはSub 37との相性が抜群で、3種類入っているトランスを切り替えながら、曲の中でハマりどころを探っていくんです。
MI
歌録りをするときは?
高藤
好きなHAはビンテージNeve SHEP 1073やAPI 312なんですが、最近は312を使うことの方が多いかもしれません。コンプが必要なときは、Black Lion Audio Seventeenなどを併用して。マイクは、Neumann U87 AiかAustrian Audio OC818のどちらかが多いですね。
MI
本題に入ります。高藤さんにはFocusrite Red 16LineとRedNet R1をご愛用いただいていますが、導入のきっかけをおしえていただけますか?
高藤
以前はUniversal Audio Apolloを使用していたのですが、銀パネルの初期モデルだったので、少し設計の古さを感じていたんです。また、モニター・コントローラーのPreSonus Central Stationも、ずっと使うのをやめたいと思っていて……。Central Stationがどうこうという話ではなく、オーディオ・インターフェースとスピーカーの間に何も挟まず、ダイレクトに繋ぎたいなと。
それで新しいオーディオ・インターフェースを物色し始めたんですよ。
MI
多くの選択肢があった中、Red 16Lineをセレクトされたのはなぜですか?
高藤
多チャンネルで、AD/DAをたくさん積んでいるオーディオ・インターフェースが欲しかったんです。2〜3年前からハードウェアにハマっていて、500 Seriesのモジュールを始めアウトボードをたくさん買っているのですが、それらを繋ぎ変えずに使えるようにしたかった。
でも、いざ探してみると、アナログの入出力をたくさん備えたオーディオ・インターフェースはそれほど選択肢が無くて……。
それでRock oNに相談しに行って、おすすめされたのがRed 16Lineだったんです。早速デモ機をお借りして試してみたのですが、音がめちゃくちゃ良くて驚きました。
RedNet R1を接続すれば、高機能なモニター・コントローラーとしても使えますし、以前から作曲家の田辺恵二さんも推していて、色々教えて頂いたりもしていたので、ほとんど迷わずに決めた感じですね。導入したのは、2022年の2月のことです。
MI
Red 16Lineを導入される前、Focusrite製品をお使いだったことはあるのですか?
高藤
所有して使ったことはなかったのですが、個人的にNeveが好きだったこともあり、ずっと気になっていたブランドでした。
Neveのアウトボードは、トランスの質感が良いからか、通すだけで音が馴染むので昔から好きなんです。プラグインでいじくり回す必要がないというか。ただ、導入したRed 16Lineは良い意味でNeveのアウトボードとは全然違う印象でした。
MI
実際に制作で使用されて、Red 16Lineの印象はいかがですか?
高藤
音がとにかくクリアですね。ひとくちにクリアと言っても、いろいろあると思うのですが、Red 16Lineは出音をそのまま録ってくれるオーディオ・インターフェースという印象です。入力だけでなく出力もそのままの音で、バウンスしたものを聴いても印象が変わらない。
レーテンシーもまったく気になりませんし、凄く優秀なオーディオ・インターフェースだなと思います。
MI
内蔵のマイク・プリアンプに関しては?
高藤
マイク・プリアンプは500 Seriesをメインに使っているので、Red 16Lineのゲインは固定なんですよ。アナログのアウトボードを使って、指先でレベルを取るのが好きなので。
MI
モニター・コントロールは、RedNet R1で行っているのですか?
高藤
そうです。
Red 16Lineを導入するにあたっては、RedNet R1の存在が大きかったですね。これがあれば別途モニター・コントローラーを用意する必要がなくなると思って、即導入しました。
このスタジオには低域の確認用にサブ・ウーファーが置いてあるので、ステレオと2.1chの切り替えもRedNet R1で行っています。
モニター・バランスに関しては、自分一人で作業しているときはステレオ・ミックスが聴ければOKなんですが、歌を録るときはリバーブを加えたミックスを作って、Red 16Lineのヘッドフォン出力から出しています。
ぼくはRedNet R1でモニターして、歌い手さんはRed 16Lineのヘッドフォン出力でモニターする。この使い方はとても気に入っています。
MI
総じてRed 16LineとRedNet R1のコンビネーションには満足されていますか?
高藤
導入当初は不安定だったソフトウェアも安定してきましたし、何より音が良いので、とても満足しています。1Uでこれだけアナログ入出力があると、ハードウェアを接続したまま繋ぎ変えなくてもいいので、ぼくのような面倒くさいことが嫌いな人間にはバッチリですね。
配線のことを考えずに、クリエイティブな作業に集中できるというか。
入出力が足りなくなった場合でも、Danteでもう1台追加すれば、簡単に拡張できるので、アウトボードとかハード音源とかをたくさん使っているクリエイターに、とても合っているオーディオ・インターフェースだと思います。
4歳より音楽教室へ通い始めピアノやエレクトーンを習い始める。
幼少の時からアンサンブルの楽しさを知り、14歳の時シンセサイザーやMTRを使い始め、当時の黄金ヒットを意識した楽曲制作を始める。20歳の頃よりアーティストのサポート・キーボードや、作編曲家としてプロのキャリアをスタート。
SPYAIR、flumpoolをはじめとする数多くのアーティストのツアーやライブに参加するほか、さまざまな楽曲プロデュース、作曲、編曲を行なっている。
近年は音楽の幅を広げ、映画やアニメの劇伴、企業CM、各種ショーの音楽制作、そして地方自治体のPR用音楽なども積極的に手がけている。ライブでは常にキャッチーで歌心を大事にした音作りや演奏を心がけ、アーティストからも絶大な信頼を得ている。
制作ではリスナーを第一に考え、どんな時も琴線に響く音色をモットーに創作を行う。
これからの時代をアーティストや作品ごとにしっかりと考え、プロジェクトの向かうべき方向を的確に見据える能力やセンスも各所にて定評を得ている。