2023.10.11
株式会社エス・シー・アライアンスの一カンパニーであるサウンドクラフトライブデザイン社は、音響デザインをプランニングから仕上げまで一貫して行うポストプロダクション・カンパニーです。プラネタリウムやインスタレーションなどの音響制作を数多く手がけていることで知られる同社は今春、東京・早稲田の本社ビル2階に新スタジオを開設。メイン・スピーカーとして、FOCAL PROFESSIONALのST SOLO 6を導入しました。市場に数多く出回っているモニター・スピーカーの中からST SOLO 6を選定した理由は何なのか。株式会社エス・シー・アライアンスのサウンド・エンジニアである山本雅之氏にお話を伺いました。
MI
まずはエス・シー・アライアンスさんのスピーカー遍歴からおしえていただけますか。
山本 雅之氏
(以下、山本)
私が入社した1980年代後半、スタジオにはJBLとAltecが入っていたのですが、杉並に新しいスタジオを開設したタイミングでGenelecのダブル・ウーファーのスピーカーを導入し、それからはGenelecがメインですね。杉並にスタジオを造ったとき、ちょうどGenelecが普及し始めていた頃で、いろいろなところで聴かせてもらったのですが、評判どおり凄く感触が良かったんです。サウンドもそうですし、アンプとのマッチングを考えなくてもいいというところにも惹かれてGenelecを導入することにしました。
MI
エス・シー・アライアンスさんはマルチ・チャンネルの音源制作を数多く手がけられていますが、ステレオの音源制作用とマルチ・チャンネルの音源制作用とでは、スピーカーの選定ポイントは違いますか?
山本
そのあたりでの違いは特にないと思います。一番重要なのは、いかに素直に原音を再生してくれるかという点で、どのメーカーのスピーカーを選定するかということよりも、どうやって環境を構築するかということの方が大切ですね。とはいえ、スピーカーの数が増えれば増えるほど干渉も多くなっていくので、マルチ・チャンネルの音源制作に向いているかどうか、無意識に気にしているのかもしれません。余談になりますが、地下のミックス・スタジオの最初のマルチ・チャンネル用スピーカーは、GenelecではなくBoseだったんですよ。
MI
最近人気のある同軸のスピーカーについては、どのような印象をお持ちですか。
山本
同軸のスピーカーは干渉が少ないので、マルチ・チャンネル環境では有利ですよね。ただ、同軸のスピーカーは、トラディショナルな配置のスピーカーと比べると、パワーが入らないという印象があります。これは特に音楽系のスタジオですと気になるポイントなのではないでしょうか。弊社でも何度かデモをしたことがあるのですが、最終的に導入に至らなかったのは、そのあたりが大きかったのかもしれません。もちろん、最新の同軸のスピーカーは、かなり良くなっている印象がありますけどね。
MI
先頃開設された新スタジオについておしえてください。
山本
早稲田の本社ビルの2階には、仕込みなどで使用する小さな仕込み用のスタジオが2部屋あったのですが、最近の使われ方を見ていると、もはや2部屋も必要ないかなと感じていたんです。最近は選曲などの仕事はデスクでもできてしまいますし、それだったら2つある作業部屋を1つに集約して、フォーリー収録などにも対応できるスタジオに改装した方がいいんじゃないかなと。また、地下にDolby Atmosに対応したミックス・スタジオがあるのですが、簡易的にでもイマーシブ・コンテンツを再生できるスタジオがもう1部屋あった方がいいなと思ったんです。それで昨年くらいからプランニングを始め、今年の春に全面的にリニューアルしました。モニター・スピーカーは5.1.2chというミニマムな構成で、狭い空間なのでトップ・スピーカーを4本設置するのは難しいかなと思っていたのですが、そんなときにPro Toolsが5.1.2chをサポートしてくれたんですよ。
MI
新スタジオではメイン・スピーカーとして、FOCAL PROFESSIONALのST SOLO 6を採用していただきました。今回、FOCAL PROFESSIONALのスピーカーを選定された理由をおしえていただけますか。
山本
弊社は基本ポスプロなんですけど、会社としては以前から音楽やミュージカルなども手がけていて、最近はプレスコ録りやCD制作といった仕事が増えているんです。そういった仕事を担当しているスタッフから、Genelecだとバランスが取りにくいという意見が出て、何年か前にFOCAL PROFESSIONALのTrio11 Beを導入したのですが、これが音楽的なサウンドで凄く良かった。なので今回ST SOLO 6を導入した理由としては、既にTrio11 Beを使っていたというのが大きかったですね。
また、少し前にオーディオ・ルームのSIの仕事を手がけたのですが、そのときにFOCAL PROFESSIONALのCI 1000シリーズを聴かせてもらって、その印象が凄く良かったというのも選定理由の一つです。某企業のトップの方が接客用に使うオーディオ・ルームを改装する仕事で、インストールするスピーカーをいろいろとリサーチした結果、CI 1000シリーズが良いのではないかと思って、メディア・インテグレーションさんの『MIL Studio』で試聴させてもらったんですよ。そうしたら想像していた以上に良くて、クライアントさんの反応も凄く良かった。もちろん、値段はそれなりにするんですけど(笑)、“FOCAL PROFESSIONALのスピーカーって凄く良いな” と改めて実感したんです。
MI
ST SOLO 6というモデルを選定されたのは?
山本
このスタジオを造る話が持ち上がったときは、Trio11 Beの下のモデル、Trio6 Beがいいかなと思っていたんです。でも発売から年月が経っていますし、このタイミングでTrio6 Beを導入するのはどうだろうと思っていたときに、新しいSTシリーズが発表になったんですよ。ですので、一応デモ機は試聴させてもらいましたが、ほぼ決め打ちでST SOLO 6を選んだ感じですね。FOCAL PROFESSIONALの新しいスピーカーですし、間違いないだろうと。
MI
実際に作業をされて、ST SOLO 6にはどのような印象をお持ちですか。
山本
解像度が高く、みずみずしいサウンドで、本当に音楽的なスピーカーだなという印象です。高域がきれいに伸びていて、筐体はコンパクトなんですけど、低域も凄く膨よか。膨よかと言うと、ボワンとした低域をイメージされるかもしれませんが、ST SOLO 6はタイトで締まった低域なんです。十分な量感でありながら、締まった低域なので、ベース・ラインもきれいに響いてくれる。全体的なバランスが良く、音にスピード感もあるので、とても作業がやりやすいスピーカーですね。
MI
パワーはいかがですか?
山本
もう十分で、Genelecよりもパワーが入る感じがします。この広さの部屋ですと、ちゃんと鳴らし切れていなくて、もったいないなと思うくらい(笑)。それと小さな音量でもバランスがあまり変わらないというところも気に入っていますね。
MI
その他に印象に残った点はありますか?
山本
私はまだ使用していないのですが、フット・スイッチを踏むだけで、1ウェイのフル・レンジ・スピーカーとして使える『フォーカス・モード』という機能がおもしろそうですね。この部屋で使うことはまずないでしょうけど(笑)。あとは個人的に赤色が好きなこともあって、デザインがとても気に入っています。
MI
このスタジオではステレオ・モニターとして使用されていますが、ST SOLO 6はイマーシブ環境にもマッチすると思いますか?
山本
何だか凄く良さそうな気がしています。天井や壁面に取り付けるためのインサートも付属しているので、一瞬組んでみようかなと思ったのですが、この広さのスタジオだとオーバー・スペックかなと。今後、この倍くらいの広さのスタジオを造ることがあれば、ぜひST SOLO 6でイマーシブ・システムを組んでみたいですね。
MI
先ほど、“FOCAL PROFESSIONALのスピーカーは音楽的なサウンドがする”とおっしゃっていましたが、もう少し詳しくお話しいただけますか。
山本
音がみずみずしくて、解像度が高く、バランスがとにかく音楽的なんですよね。映像作品のセリフと音楽作品のボーカル、どちらも人間の声なので同じように思われるかもしれませんが、Genelecの中低域はセリフを聴くには凄く良い感じなんですけど、ピッチ感のある声や楽器が少し判断しにくいという声があったんですよ。その点、FOCAL PROFESSIONALのスピーカーは、歌や楽器のピッチ感や細かいニュアンスがとても聴き取りやすいんです。もちろん、FOCAL PROFESSIONALのスピーカーも中高域にクセがあるのですが、よりスムーズな感じで、奥行きや定位感も凄く分かりやすい。抽象的な表現になってしまうのですが、本当に音楽的なスピーカーだと思います。みずみずしいサウンドで、スピーカーの前に膜がなく、発せられた音がそのまま耳に届くというか。これはST SOLO 6だけでなく、FOCAL PROFESSIONALのスピーカーすべてに共通する印象ですね。CI 1000シリーズはパッシブなんですけど、同じように音楽的なサウンドという印象です。
MI
ニア・フィールド・スピーカーの導入を検討している人に、ST SOLO 6はおすすめできるスピーカーですか?
山本
凄く良いスピーカーだなと思っています。特に音楽系のお仕事をされている方にはおすすめですね。それと最近は機材の価格がどんどん上がっていますが、ST SOLO 6はコスト・パフォーマンスも高いんですよ。最初に導入を検討していたTrio6 Beのおそらく半額くらいなのではないかと思います。Trio6 Beは3ウェイですし、この広さのスタジオにはオーバー・スペックでしたから、パワー的にも価格的にもST SOLO 6を選んで正解だったなと満足しています。
MI
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
ST SOLO 6