2018.12.27
現在、ヘッドフォン市場は1つの大きなブームが訪れている。特に音楽制作に携わる人にとっては、長らくどこへ行っても「定番だけ」であった状況から一変し、個々の制作者やミュージシャン、プロデューサー、そしてエンジニアもそれぞれのリファレンス・ヘッドフォンを持つようになった。どこにでも持ち歩けるリファレンス環境があることは、現代の音楽制作人にとって重要なこととも言える。
サウンド・クリエイターとしてSEKAI NO OWARI、ゆず、SKY-HI、シナリオアート、新津由衣、三上ちさこなどのアレンジ、プロデュースを手がける保本真吾氏(CHRYSANTHEMUM BRIDGE)は、ある製品をきっかけにFocal Professionalの製品に惚れ込み、今ではモニタースピーカーのみならずヘッドフォンもFocal Professionalに統一し、日々クリエイティブな作業に使用しているという。
保本氏はFocal Professional製品との出会いを経て、音の良さという側面だけではなく、「新たな発見や喜び」も湧き上がってきた、と話す。特にヘッドフォンについては「気兼ねなく音を出せる環境になって、ヘッドフォンで音を聞くことから遠ざかっていた」という。
日々音楽浸けの多忙な日々を送る保本氏がFocal Professional製品に出会ったきっかけ、あらゆるスピーカーやヘッドフォンをFocal Professional製品に統一した過程などを伺った。
MI:
保本さんは、Focal Professionalというブランドについてどのような印象をお持ちでしょう。
保本 真吾 氏(以下敬称略):
Focal Professionalのどんな製品もそうだけど、まずシンプルに音がいい。それでいて音作りからミックスの段階に至るまでの過程で「判断がしやすい」とも言えますね。以前使っていたモニタースピーカーは音が非常に「派手」な傾向のものだったけど、今はいくつかあるスタジオの全てをFocal Professionalのものに変えて作業をしています。
MI:
Focal Professionalというブランドを知ったきっかけ、導入に至るきっかけを教えていただけますか?
保本:
最初にFocal Professionalというブランドに出会ったのは、ヘッドフォンのSpirit Pro(編注:現在は生産完了)でした。当時、日々の制作の中で「ヘッドフォンで音を聴く」という習慣が薄れていた時期のことですね。
MI:
ここは音響的にも整備されたスタジオで、さらに良いスピーカー環境もあります。スピーカーで聴くということがメインとなっていて、ヘッドフォンの必要性がなかったということでしょうか?
保本:
そうなんです。でも、昔はスピーカーでもヘッドフォンでもよく音楽を聴いていたし、それが新しい発見やアイディアの礎になっていたんですよ。その後、自分のスタジオができて気兼ねなく音を出せる環境となったからなのか、無意識のうちにヘッドフォンで音や音楽を聴くことから遠ざかってしまっていた。ある日「これでは良くない」と思ったんですね。
MI:
ヘッドフォン、スピーカーと聴く形を変えることによって、様々なインプットがあったということですね。
保本:
なので「意識的にヘッドフォンで音楽を聴くようにしよう」と思い、いいヘッドフォンを探そうという経緯に至ったわけです。どうせ買うなら良いものを選びたいと思っていくつかのモデルに目星をつけ、試聴をしまくって数モデルまで候補を絞った中にあったのが、Spirit Proでした。決して安いとは言えない価格(約40,000円)で、どうしようか迷っていたところ仲良くさせてもらっているプロデューサーの本間昭光さんもSpirit Proユーザーだということが分かり、背中を押された気分で購入を決めたんです。でも…
MI:
保本さんがSprit Proを購入されようとしているそのタイミングで、後継機種となるListen Professionalというモデルが発表され、Spirit Proは「在庫限り」というタイミングでした。私たちの手元にも在庫がない状況でしたね。
保本:
そうなんです、在庫を持っている楽器店がないか探しまくってなんとか購入できました。Sprit Proで聴く音楽がまた格別で、ヘッドフォンで音楽を聴くことが楽しくなった。昔の体験が蘇ったような気分になったし、何度も聴いていたはずの曲から新しい発見もあり、音楽を聴く喜びも湧き上がってきた。この感覚は新鮮でした。
MI:
Spirit Proを導入されたばかりの保本さんからご連絡をいただき、後継機種となるListen Professional、さらにハイエンドのClear Professionalも購入したい!とご連絡をいただきました。
保本:
純粋に、Focal Professionalというブランドに興味が湧いたんです。Spirit Proをすごく気に入っていたのに、その「後継」となるものがある、さらに上のハイエンドモデルまであるらしいと。
MI:
Spirit Proの後継機種となるListen ProfessionalはSpirit Proと同価格の税別35,185円、Clear Professionalに関しては183,333円と高額な商品です。
保本:
どちらのヘッドフォンも立て続けに購入してしまいました。Clear Professionalに関しては20万円という、スタジオモニターヘッドフォンでもかなり高額な部類ですが、試してみてその真価を体感すると、価格以上の価値も実感できます。移動中や宿泊先のホテルなどでも「完璧なモニター環境」が欲しいという思いもあり、それが叶いましたね。Clear Professionalはオープン型のヘッドフォンということもあって、音の分離まで確認できる素晴らしいヘッドフォン。最近は、近場のスタジオへ行く時にも必ず持参しています。
MI:
保本さんの中で1つのリファレンスになっているということですね。
保本:
そうですね。価格のことを考えると「気軽に持ち歩く」ことをちょっと躊躇してしまいますが(笑)これからはモバイル環境での制作スタイルがもっともっと重要になってくる時代だし、だからこそ間違いのない判断ができるヘッドフォンも重要になってくる。
MI:
ラップトップのマシンがこれだけパワフルになっている今だからこそ、モバイル環境でも十分な「スタジオ」があると言えますよね。
保本:
日々音楽制作に向き合っていると、時に「ちょっと環境を変えたいな」と思うときがあって、ひと昔前ならリゾート地のスタジオを貸し切ったり、ホテルのスウィートルームに機材を持ち込んで…なんてこともありましたが、今はそういう時代でもない。ラップトップマシン1台と、小さな鍵盤1つ。それから信頼できるヘッドフォンがあれば場所を選ばなくていい時代なんです。そうなると、スタジオのモニターで感じられる音像や音圧と同じ感覚で判断できる「いい」ヘッドフォンが1つあることの方が重要になってくるわけです。
MI:
スタジオなどでは信頼するヘッドフォンアンプやI/Oに接続されると思うのですが、移動先で使用されるときは何に接続されていますか?
保本:
ApogeeのOne。よほどスペースがなかったり時間がないときにはMac本体に直接Clear Professionalを挿しますが、基本的にはApogee Oneを使います。モバイル環境で使えるI/Oも色々と試しましたが、音質はこれが一番いい。
保本:
ヘッドフォンをこれから導入しようという方にお伝えしたいのは、「価格に惑わされるな」ということ。例えばClear Professionalは約200,000円と、価格だけを見て相当「インパクトある値段」のように見えるかもしれませんが、本気のスタジオモニタースピーカーを購入する金額を考えればむしろ安上がりに収まるはずです。実際、Clear Professionalにはそのクオリティがあるとも感じます。
MI:
保本さんの周りの方はいかがですか?
保本:
一緒に制作をしているミュージシャンやうちのスタッフもFocal Professionalを使ってみた印象は僕と同じ意見でした。なにより色々な現場に行ってもFocal Professionalのヘッドフォン、モニタースピーカーが多いですよね。
MI:
Linsten Professionalはクローズ型、Clear Professionalはオープン型のヘッドフォンです。それぞれはどのように使い分けていらっしゃいますか?
保本:
Clear Professionalはオープン型なので、必然的に使える環境は限定されますね。自宅やホテルなら問題ないですが、飛行機や新幹線の中では使えませんから(笑)なので僕の場合はオープンでも迷惑がかからない場所はClear Professionalを使っていて、漏れたら困るなという場合やレコーディングの時はListen Professionalを使います。もう、スタジオ定番とされているヘッドフォンは全く使わなくなりましたね。
MI:
オープン型とクローズ型では、そもそもの鳴り方が違いますが、環境によってClear ProfessionalとListen Professionalを「使い分ける」ことに違和感はありませんか?
保本:
従来あったオープン型とクローズ型ではやはり違和感というか、「一旦耳をリセットして」聴きなおす感覚がありましたが、ClearとListenの間には使い分ける違和感はありませんね。さらにいうと僕はいくつかあるスタジオの全てをFocalのスピーカー、Solo 6Be、そしてShape Twinを使っているのですが、驚くことにスピーカーからヘッドフォンに変えたときの違和感も感じない。これはFocalというブランドだけに感じるものです。一定のポリシーを感じるんですよ。僕のようにFocalでスピーカー、ヘッドフォンを統一したくなる人が多いのも頷けますね。
MI:
装着感はいかがでしょう?
保本:
非常にいいですね。耳がまったく痛くならないんですよ。僕はけっこう立ち耳気味なので、特に密閉型のヘッドフォンを長時間使っていると1時間ももたない方なのですが、Focal Professionalのヘッドフォンはイヤーパッドで耳を「覆う」ようになっているから、ストレスを感じない。すごくいいですよね。音がいいだけじゃなくて、こういうところにも心配りが行き届いているからこそ、完成度の高いヘッドフォンといえますよね。
保本 真吾
CHRYSANTHEMUM BRIDGE
サウンドクリエイターとして活動していた保本真吾とライブなどのプロデュースを手掛ける石川淳とのプロデュースチームCHRYSANTHEMUM BRIDGE。SEKAI NO OWARI、ゆず、でんぱ組 inc.、Silent Siren、シナリオアート、Charisma.com、GO-BANG’S、みみめめmimi、Q-MHz、新津由衣、三上ちさこ等のアレンジやサウンドプロデュースを手掛ける。また、 楽曲提供や劇伴、ライブ音源制作やコンサートのサウンドプロデュースなど幅広く手掛けている。
Clear Professional
Listen Professional