2018.09.21
文:青野光政(イデア・サウンド)
人の心を揺さぶってくれるマイク・・・現実にはなかなか遭遇することはできません。過去にはそんなマイクが多く出た時代もありましたが、今はそう簡単には出会えません。
ところが、ヴォーカルやナレーション収録に特化したマイク、Earthworks SV33がやってくれました。ヴォーカリストが気持ちよくマイクの位置を気にせず唄うことが出来るマイク、これは凄く重要です。SV33は、歌い手が大きめパフォーマンスをして動いても、マイクの位置を気にせず、歌の情報をきちんと録ってくれます。こういう仕事をしてくれるマイクには、なかなかお目にかかれません。
今までのマイクは、どうしてもアーティストがマイクの正面に立ち、中心から動かないで唄ってもらう必要がありました。ベテランの方は、それをわかっているので動かないで唄ってくれますが、若いシンガーから「もっと動いて歌を唄って録ってみたい」と要望があったときには、ハンドマイクを使って録っていましたが、どうしてもケーブル・ノイズなどを拾ってしまいます。しかしこのSV33が出たおかげで問題が一気に解決しました。
今回、唄ってもらった歌手の方は自然に体を動かしたりするので、通常のマイクだと音のムラが出てきてしまいます。音のムラと言うのは、マイク正面に向かって唄ってもらえば距離感がある程度一定になります。しかし、パフォーマンスをしながら唄った場合は距離感が変わってしまいます。SV33はこのような場面でも、録った音の距離感を一定に保ってくれ、とても良い収録ができました。
またSV33は、ヴォーカルのポップノイズがかなり入りにくい設計になっています。この日、他メーカーのヴォーカル・マイクも使用したのですが、こちらはポップノイズを拾ってしまったのに対して、SV33はほとんど拾わなかったのは驚きでした。もちろんポップガードも使用しています。別の歌手の方でも試してみました。こちらの方は正面に向かって唄っていただきました。マイクからの距離は15cmから20cm位でした。
そうすると、今までに聞いたことのない低域がマイクから入ってきました。モヤモヤせずクリアーな低倍音を押さえてくれています。低倍音をクリアーに拾ってくれるのはとても助かります。スピーカーやヘッドフォンから聴こえる歌が、あたかも耳元で唄っているように聴こえてくることはとても重要です。同様にポップノイズはかなり押さえられました。
SV33は今までのマイクとは絶対に違う所があります。通常のマイクはオンマイクと言って、マイクに近づき近接効果を利用して、低倍音の声や小声で唄ったりし音像を大きく感じさせると思いますが、SV33は、そこを意識せずに唄う事ができるのです。皆さんが気になっている全体の音色ですが、今風のぱきぱきした音を収録するマイクでは有りません。とてもナチュラルにヴォーカルを収録してくれ、ちょっと今までに聴いたことのない声を収録してくれます。
僕はビンテージのマイクもかなりの種類を使ってきましたが、それらとも違います。今までのマイクでローエンドが多い場合、大抵ミッドやハイエンドが濁ってしまいましたが、SV33ではその問題がクリアされており、そして純粋で色付けの少ない本来の声が収録できます。特に、女性のピーキーな声(2kHz〜3kHz辺り)が出るシンガーでも、ピークが飛び出すことなく録ってくれます。音色の印象は、変にセピア色の古くさい音でもなく、耳に刺激的でもなく、さらに、マイクスタンドからの低いノイズなどの対策もしてあり、とても使いやすいマイクです。アーティストさんのパフォーマンスを余す所無く収録でき、とても満足できるマイクでした。