パワフルなDSPサーバー機能と柔軟なネットワーク機能、そして高品位なオーディオ・インターフェース機能が融合したDiGiGridは、レコーディング/ポストプロ・スタジオのみならず、コンサートSRの現場や放送局などにも続々と導入されています。日本を代表するラジオ・ステーション、J-WAVEもDiGiGridをいち早く導入し、番組制作で活用している放送局の一つ。J-WAVEでは、アナログ8ch入出力を備えたDSPサーバーのIOSを、アナログ・コンソールの拡張入力兼マルチ・プロセッサーとしてフル活用しています。そのユニークな活用法について、J-WAVE 放送技術局 放送技術部 副部長の新井康哲氏に話を伺いました。
 
MI: J-WAVEさんではDiGiGridの8ch I/O内蔵DSPサーバー、IOSを導入されているそうですが、どんな使い方をされているのですか?
弊社では各スタジオでStuder社の928を使用しているんですが、ご存じのとおりラジオ用のコンソールなので、マイク入力が多いスタジオでも12chしか備わっていないんです。しかし最近増えているスタジオ・ライブで、バンドものとかですと、もっとマイク入力が必要になる。これまでは28年前の開局時にバップに製作してもらったヘッド・アンプなどをステレオ入力に繋いで凌いでいたんですが、IOSが発表になったときに“これはいいかも”とすぐに導入したんです。ですからここではIOSを、928の拡張入力兼マルチ・プロセッサーとして活用しているんですよ。IOSには8chのマイク入力が備わっているので、928で足りない分はそこに繋いで、同時にコンプレッサーやリバーブなどのプロセッサーとしても使用していると。IOSは、アナログ出力をパラで928のステレオ入力に繋いでいます。
 
MI: かなりおもしろい使い方ですね。DAWのオーディオ・インターフェースとしてではなく、8ch入出力のマイク・プリアンプ兼エフェクターとして使用していると…。
そうです。単純に928のマイク入力を拡張するだけだったら、バップのヘッドアンプでも良かったんですが、我々は開局以来、スタジオ・ライブをそんなにやってこなかったので、アウトボードをそれほど持っていないんですよ。でも今からアウトボードを揃えるのもコストがかかりますし、物量を増やすと中継などでは機材車で移動しなければならなくなりますよね。その点IOSだったら、2Uラック・サイズに8ch入出力のマイク・プリアンプと、Wavesのプラグインをリアルタイムに使えるプロセッサーが入っているわけですから、これは928と組み合わせるのに最高の機材なのではないかと。
 
MI: 単なるマルチ・エフェクターではなく、Wavesのプラグインが動くマルチ・プロセッサーということもポイントだったのですか?
もちろんです。Wavesのプラグインをリアルタイムに使えるというのが一番の魅力でしたね。以前からPro Toolsは使っていたので、Wavesのプラグインの素晴らしさは分かっていましたから。あと弊社では年に1回、代々木第一体育館で大きなイベントをやっているんですが、その現場でAvid VENUEを使う機会があり、そのときにWavesプラグインをリアルタイムにレーテンシー無く使えることの素晴らしさを知ってしまったんです。これはもう最高のマルチ・プロセッサーだなと。
 
MI: 普段は「928」のステレオ入力にIOSのアナログ出力を接続しているのですか?
そうですね。リバーブを使いたいときはAUXに繋ぐこともありますし、マスターのインサートに繋ぐこともあります。現場での作業内容に合わせて、8ch入出力の中でやりくりしている感じですね。また、中継などではヤマハのデジタル卓とSoundGridカードでつないで使用することが多いです。
MI: 拡張入力兼マルチ・プロセッサーとしてのDiGiGrid IOSはいかがですか?
プロセッサーとしては、レーテンシーもまったく気になりませんし、本当にアウトボードのような感覚で使用できています。動作も非常に安定していますね。拡張入力としては、これはまったく期待していなかったんですけど、ヘッドアンプが猛烈に良いですね。ライブの世界でDiGiGoのコンソールが高く評価されている理由が分かりましたよ。音がもの凄く太いんです。普通にSM58を繋いだだけでも違いは分かりますね。耐入力も問題ありません。
 
MI: プラグインはどのようなものを使用していますか?
最も多用しているのはマルチバンド・コンプレッサーのC4とC6ですね。今風の言い方をするなら、まさに“神プラグイン”です(笑)。例えばボーカルとかの吹かれをEQでカットしようと思うと、おいしい部分まで無くなっちゃうんですけど、C4やC6だと上手く処理できる。C4やC6は、キックを強調したいときなどに、エクスパンダーとしても活用していますね。その他にはCLA-76、CLA-2A、C1のディエッサー/ゲート、コンボリューション・リバーブのIR-Lとか…。
そして最近特に気に入っているのが、Dan Dugan Automixerです。これは本当に便利ですね。基本的にPAのオペレーションは専門の人に任せているんですが、予算の関係でどうしてもこちらでやらなければならないときなどに重宝しています。大人数のトーク・ショーとか、自分たちでやるとどうしてもハウリングが起きちゃったりするんですけど、Dan Dugan Automixerを使えば自動で上げ下げしてくれますから。デジタル・コンソール用のDan DuganのAutomixerカードやAutomixerが内蔵された卓も発売されていますけど、全部合わせると100万円以上かかってしまうじゃないですか。しかしDiGiGridはプラグインでできてしまうので、コスト・パフォーマンスはとても高いですよね。
 
MI: 今後、DiGiGridに期待することと言うと?
DiGiGridをライブ・コンソール化してしまうeMotion LV1にとても興味があるんですが、現状Dan Dugan Automixerが対応していないんですよね。Dan Dugan Automixerが対応したなら、ぜひ使ってみたいと思っています。あとはもう少し処理能力がパワフルになってほしいのと、対応プラグイン・メーカーが増えてくれるといいですね。でも本当に便利なツールなので、いずれIOCを追加したいなと考えています。ADAT入出力を装備したIOCを使えば、比較的安価にアナログでの入出力を増やせるかと。レーテンシーの問題はありますが、新しいドライバーでASIO / Core Audioのデバイスも入出力に追加できるようなったのも、とても有難いです。このようにSoundGridネットワークで後から拡張できるのもDiGiGridの魅力ですよね。
 
MI: ありがとうございました!
 
取材協力:J-WAVE 放送技術局 放送技術部
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