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コンポーザー 瀬川 英史が語る BIAS RACK

映画 「銀魂」のギター・トラッキングはすべてBIAS。

2017.05.19

実はギター弾き。本物の手応えと遜色ない感触を求めてしまう。

僕は実はギター弾きなんです。劇伴という仕事の印象がそうさせるのか鍵盤奏者と勘違いされがちですが、ロックに目覚めて音楽を始めた在り来たりの経緯を持つギター弾きなんです。ここ10年で様々なジャンルのプラグインが改善されました。DAW出現当初からギター系のプラグインはあれこれリリースされましたが、歪み系の音色、特にクリーン以上ディストーション未満の所謂「クランチ系」と呼ばれる領域で満足できる音色を作るのはなかなか難しかったんですね。ここ5年でストンプ・ボックスのプラグインも相当な数リリースされたので、サウンドメイキングの幅は広がったのですが、純粋に「ギターアンプ」の部分に於いて、本物のギターアンプを鳴らした時の手応えと遜色ない感触を得られる決定打になるプラグインはなかなか見つかりませんでした。

昨年、太いメタル系の音が鳴らせるプラグインを探していてたどり着いたのがプラグイン版のBias FXでした。これはとても気に入って他のアンプ系プラグインの出番がほとんどなくなるほどギターをトラッキングする際の”ファーストコール”になりました。

クランチ系の再現度が高い。

一通りのパッチを試しているうちに実はこのプラグインはクランチ系の再現度が高い事にすぐに気がつきました。過去のどのアンプ系のプラグインもそうだったのですが、多く歪ませるとどのプラグインを使ってもそこそこ雰囲気は出ます。でも所謂ブルースで使うクランチ、つまりピッキングの強弱で歪み具合をコントロールする領域のニュアンスを再現できるプラグインはなかなかありませんでした。それと、やっぱりギターのミッドのニュアンスですよね。昔はバンドもやっていたので、ギターアンプはマーシャルからフェンダーから一通り所有していた時期もありましたが、現在手元に残っているのは50年代のツイードのフェンダー・ヴァイブロラックスのみです。それもやはりプラグインではミッドのニュアンスを再現できないので、ここぞという時にレコーディングスタジオに持ち込むために手元に残してありました。

クリーン系の音色は最終的にDAWで8khz近辺をほんの少しEQで調整してやると良い感じになるんです。でもそのクランチ系のミッドローの太さはなかなかEQでは解決できません。8khzは所謂倍音にあたる部分なので、どのギターサウンドでも共通してひっかかる帯域ですが、例えば5弦のリフをポジション変えて6弦で弾いた場合を想像してもらえば分かると思いますが、音域(つまり周波数的な帯域)は同じでもサウンドの太さに違いが出ますよね?倍音ではなくて基音は音程が変わると自ずとEQにひっかかる帯域はどんどん移動するわけなので、アンプの素性が一番出やすいんですね。

さらに僕の私見ですが、プラグインの再現性自体の問題の他に、そもそもプラグイン設計者がどのI/Oの特性を前提として歪みの反応の最終調整しているのかいつも疑問に思っていました。エレキ・ギターのように、ハイ・インピーダンスのシグナルはインピーダンスのマッチングやI/Oの周波数特性(音色のクセですね)にものすごい影響を受けます。ギターケーブルほど音色に影響するパーツもないですよね?それはまさにインピーダンスが高いが故に常に引きずる問題なのです。「たかがケーブル、されどケーブル」と年中ぶつぶつ言ってるのはギタリストぐらいなものです。

それからギターのピックアップの出力に関してはもコイルのターン数が多ければ出力は高くなりますが、同時に音が太くなるかというとそういうわけでもありません。ターン数が多くなるとアタックが潰れやすくなりますから(あくまでも一般論ですよ。弾き方の問題もありますから「必ず」とは申しません)、音の太さに関しては本当に様々な要素がありますよね。

前述した通りプラグインのBias FXを即気に入った僕ですが、やはり設計者はどういうI/Oを前提にプラグインの開発を進めていたのかはとても興味がありました。そうこうしているうちにソフトウエアではなくハードウエアでBias Rackがリリースされるという話を聞き、これはもう開発時にそういったインプットの特性込みでサウンドを追い込んでるわけですから、設計者が「私はこれでサウンドを作り込みました」とトータルのパッケージとして提示してくれているようなものなのですごい興味を持ったんです。AD/DAのパーツから、内部の部品選びまで当然設計者の「耳」で選んだ結果をプレゼンテーションしているわけですからね。

ハードならではの利点。レイテンシーがない。そしてコントロールのレイアウトが非常に常識的、弾きながら身体が反応するままに各ツマミを調整可能。

そして実物を試してすぐに納得しました。まず当たり前ですがレイテンシーがない(正確にはデジタルで処理をしているので理論上はレイテンシーはあるのですが、演奏には全く問題ないです)。これは音楽的にものすごく真っ当な事なんですがDAW上で作業する際、特に処理の重いリバーブやディレイ系のプラグインをギターのトラッキング時に使いたい場合は避けては通れないですからね。大き目にバッファーを設定したDAWでシャッフル系の演奏をするのは苦行そのものですよね。

ロスアンゼルスの自宅スタジオにセットアップされているBIAS RACK

パネル上のコントロールのレイアウトが非常に常識的に出来ているので、弾きながら身体が反応するままに各ツマミを調整していけば良いので、ピックを置いて、マウスを掴んで、プラグイン画面のツマミを微調整を繰り返すという煩わしさがない。音色に関しては僕の仕事で必要な守備範囲は全て網羅しているので、これと言った不満はないです。中域の反応もかなり良いです。これは是非自分のギターを店頭に持ち込んで試弾してみてください。

ポイントが高いのがエフェクトループが付いているということ

それと僕的にかなりポイントが高いのがエフェクトループが付いているということです。ギタイリストなら、これだけは欠かせないというストンプボックスを幾つか持っていると思います。プラグイン上でそれらをシミュレートするのも楽しい部分なんですが、シンプルなストンプボックスほど、やはり代替は難しいですよね。僕の場合はそれがMXR社のdyna compなんです。これにはOUTPUTとSENSITIVITYの二つのノブしかなく、それを極浅めに「かけっぱなし」という使い方が好きなんですね。コンプでありながらAttackの微調整が効かないし、一般的なコンプとしての用途として使っているかというと、個人的に音が馴染むから「かけっぱなし」にしているだけなんです。こういう機材をBias Rackを使うとデジタルのルーティングの中に簡単に取り込むのは簡単そうで実はそうでもなかったんですね。ギター用のストンプボックスもハイ・インピーダンス仕様で設計されていますから、インピーダンスをマッチングさせてDAWのI/Oにかませれば自分のトラッキングにルーティングは可能ですが、音色は正直まったく別ものになります。このエフェクト・ループはかなりポイントが高いです。

リアパネルにはエフェクト・ループの他、スピーカー・シミュレーター後のトーンをコンソールやレコーダーに出力可能なラインアウトなどを搭載

appでセッティングを保存。監督からの修正要望にも対応可能。

それからappのBIAS iPad等でセッティングを保存できるという利点がありますから、映画やドラマの監督からダメだしされるとギターのトラッキングに戻らなければいけない僕のような仕事には本当にベストマッチした機材なんです。7月公開の映画「銀魂」のギターは全てこのBias Rack、またはBias FXでトラッキングしています。後ほど映画で使ったプリセットをTone Cloudにアップする予定なのでチェックしてください

Profile

瀬川 英史

作曲家、編曲家

1965年4月2日、岩手県盛岡市生まれ。小学生の終わりにロックに感化されてでギターを手に取り、80年代のジャズ・フュージョン・ブームでジャズの洗礼を受ける(以降ジャズ的なセオリーが本人の基盤となる)。上京後はあらゆる音楽をむさぼる。1985年、㈱タイト・ロープ(シンセサイザー・マニュピレートの会社)に所謂”ボーヤ”として入社。CMIフェアライト、イーミュレイターII等の当時の最先端のシンセサイザーに触れる。1年後独立、フリーランスのシンセサイザー・マニュピレーターとして活動。80年代後半からCM音楽の作曲依頼を受けるようになり、現在までに2000本以上CM音楽に携わる。サントリー社CM「ザ・プレミアム・モルツ」のShall We Dance?のアレンジは50本以上をシリーズとして手掛ける(同シリーズは2012年3月でオンエア終了)。伝説的なジャズ・バイオリニスト、ステファン・グラッペリとのレコーディングをはじめとし、アメリカ、フランス、イギリス、インド、ブルガリア等海外録音の経験も多数。2002年よりリットー・ミュージック社、サウンド&レコーディングマガジン誌にてセミナー「CM音楽の作り方」(現在終了)の連載や、同社刊「コンポーザーが教える作曲テクニック99」を著す等執筆活動にも積極的に取り組む。近年は劇伴作曲家としての活動を中心としている

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