2025.08.22
VRアイドル「えのぐ」がプロデュースするリアルライブイベント「VRide!(ブイライド)」。このイベントは、アバターを持つアーティストはもちろん、1枚絵でも出演可能なため、回ごとにさまざまな個性を持ったパフォーマーが主演します。
その「VRide!」で、それぞれ異なる配信環境を持つアーティストとの共演を可能にするのが、AUDIOMOVERS製品の音声ストリーミングプラグイン「LISTENTO Pro」。「VRide!」では、共演者の音声を会場に流すシステムとして「LISTENTO Pro」を採用しています。
バーチャルライブを現実空間に繋ぐ「LISTENTO Pro」のシステムがどのように構築されているのか。そして、「VRide!」が目指す新たなLIVEスタイルとは。主催「えのぐ」の皆さん、そしてライブ運営スタッフのおふたりとのインタビューを通じて深掘りします。(お名前はすべて敬称略にて記載)
――― 「えのぐ」はどのような活動をされているグループか、自己紹介をお願いします。
鈴木あんず:私たち「えのぐ」は2018年3月に結成したVRアイドルグループです。メンバーは鈴木あんず、白藤環、日向奈央の3人で、 VRアイドルやバーチャルアイドルを名乗って活動する、たくさんのスターが生まれるための礎を築いて道を切り開く、そんな「世界一のVRアイドル」になることを人生を懸けて挑戦しています。
2019年と2021〜2024年の5回、世界最大級の女性アイドルフェス 「TOKYO IDOL FESTIVAL」に唯一のバーチャルタレントとして出演しました。2023年にこのイベント内で開催された「アイドル総選挙」では、歴戦のアイドルの皆さんの中で予備選挙1位でグランドフィナーレに立ち、本選挙では3位という結果をいただくことができました。
白藤環:2024年1月に所属事務所の廃業を受けて独立、「えのぐ合同会社」を設立し、自分たちのプロデュースをおこないながら、『VRide!』などのライブイベント制作など、リアルとバーチャルの壁を越えて「アイドル」という素敵な文化を楽しむことができる未来を目指して活動しています。
――― 「その「VRide!」とはどのようなイベントですか?
日向奈央:全てのバーチャルアーティストが平等に輝けるステージを!をテーマに掲げる、VRアイドル「えのぐ」がプロデュースする”誰でも”参加可能な定期対バンライブイベントです。
3Dモデル/Live2D/一枚絵など、どんなスタイルでも出演OK。「歌唱力」「パフォーマンス力」「トークカ」など「外見ではなく中身」で自分が得意な領域が評価される、次の時代のスタンダードとなるようなリアルなバーチャルライブイベントを目指しています。
――― ここからはLIVEの心臓であるシステムやPA環境を統括するLIVE PA担当の中島さんと、VRide!責任者のMさんのお二人にお話を伺います。お二人は「VRide!」初回から、えのぐと共にイベントを立ち上げ、LIVEを支えている制作陣です。本日はよろしくお願いいたします。
Mさん
中島さん
よろしくお願いします!
――― えのぐ主催「VRide!」をなぜ開催することになったのか、その経緯をお聞かせください。
Mさん
VTuberやバーチャルライブという言葉はここ近年で少しずつ認知され始めていますが、それは基本的にはPCの画面を通してみるものだと思うんです。なので、「VRide!」のような対バンスタイルで現地でバーチャルライブを見るっていう体験は、まだ全然世の中に浸透してないと思っています。
VTuberが好きな方にとっては、歌枠配信やオンラインライブに触れる機会は多いと思うんですけど、それに加えて、「ライブハウスでバーチャルライブを体験することってこんなに楽しいんだよ」ということを知っていただくきっかけとなるイベントをつくるために始めたのがこの「VRide!」です。(※Vtuber=バーチャルYoutuber)
――― バーチャルライブで、LISTENTOを採用したきっかけをお聞かせください。
Mさん
多くのバーチャルアーティストさまがOBSを使用していると思いますので、イベント開始当初、私たちはOBSの仮想カメラでDiscordに画面共有し映像を出力、音声もDiscordから会場に出力していました。
しかしながらDiscordの場合、出演者さま側で特殊な環境を用意していただかないと音声がモノラルになってしまい、ライブの音響には適さない、などといった課題も多かったんです。
音響環境の改善のために、会場と出演者さまのサウンドを繋ぐ仕組みが新しく必要ですね、という話を中島さんとするなかで、以前レコーディングの現場などで使用していた LISTENTO だったらできるんじゃないですか?という提案をいただいて、検証して導入に至ったという経緯になります。
中島さん
以前は作家さんやアレンジャーさんとサウンドチェックをする時、スタジオにみんなで集まって行うことが多かったんですが、コロナ禍のタイミングでオンラインツールが流行ったんです。もちろん今でもスタジオに集まることもありますが、コロナ禍が収束してからも LISTENTO を使用してみんなで聴く、という方法がかなりスタンダードになりました。
当時のオンライントラックダウン作業では、スタジオやエンジニアさんがほぼ全員といっていいほど LISTENTO を使用していました。いくつか類似のツールはあったんですけど、その中でも LISTENTO の使用率が一番高かったんです。
出演者さまと会場でお互いに使いやすいもの、導入のハードルが低さを考えたときに、送信側はログインしてURL発行するだけ、受信側はそのURLをもらえばサウンドを出力できる、という工程の少なさと手軽さが採用の決め手になりました。
――― 音声のストリーミングツールは他にもあったと思うのですが、比較検討などはされましたか?
中島さん
もちろん比較したツールはありましたが、どちらかというとリアルタイムでのやりとりを重視しているものであったり、受け取り手側も、操作が少し複雑なツールをインストールする必要があるものが多かったんです。
それに比べ LISTENTOなら、専用のURLをGoogle Chromeなどで開けばすぐに聴けるので、レコード会社の方や事務所の方、アレンジャーの方などみんなに展開する場合でも、複雑な操作なしでスムーズにすぐに聴ける、というのが良かったです。
また当時の他社製品だと、お互いにかなり回線の状態が良くないと安定しないという課題もありました。その点でも非常に良かったというか、痒いところに手が届くという印象があったので「VRide!」でも使ってみよう!という流れになりました。
Mさん
第2回までは音声出力もDisccordを使用して「VRide!」を運営したんですけど、LISTENTOを採用してからは劇的に音質が変わりました。そもそもモノラルがステレオになったこと自体が大きな変化でしたね。
――― 他にも運用する上で、大きく改善したことや変化した点などはありますか?
中島さん
音声のレイテンシーを選ぶことができるのも、LISTENTOの大きな強みのひとつだと思います。回線が少し不安定な方の環境との通信でも、こちら側でレイテンシーを増やしたり減らしたりすることで、ある程度安定した運用ができると感じました。
――― 映像と音声のズレは具体的にはどのような対処をするのでしょうか?
Mさん
厳密には、多くの現場でやってるように音を遅延させて調整をする以外にはないんですけど、「VRide!」は採用しているツールの仕様上、先に音、後から映像が来るという順番なので、ディレイの値を会場のPA担当が設定しています。ちなみに映像と音声の合わせは、ほぼ目視で行っています。
――― MTC の同期などはしないのですか? (※MTC=MIDI Timecodeの略。MIDI信号で伝送するタイムコード。)
Mさん
タイムラインで動いているのであればMTCなどに同期することもできるかとは思うのですが、「VRide!」はもう全部リアルタイムで動くので、目視ですね。むしろタイムライン側がその生モノのタイム感に合わせていく、というような意識でやっています。
出演者さまになるべくイベント都合の負担をかけない、というスタンスなので、パフォーマンスに集中していただくためにも、主催側が責任を持ってチューニングをしています。
――― LISTENTOがこうだったら良かったな、と思うところはありますか?
中島さん
あまり不満はないというか、他のソフトと比べれば今でも相当分かりやすいです。ただ安定性とトレードオフにはなるとは思うんですが、これがブラウザベースとかで使えたらめちゃくちゃ強いですね。
音声を送る側も、URLを介して送信できたら…そんなことができたらもう本当に革命的だとは思うんですけど、ほとんどのオンラインTDの現場では、Pro tools のマスターにプラグインでインサートすることが多いので、実際にはブラウザー用途ってそんなに需要ないかもしれません(笑)
ただ技術職ではない人が音を送信するというのがもっとかんたんにできると、イベント活用などのシェアを大きく取れそうな気がします。
――― LISTENTOは買い切りライセンスはなく、サブスクリプション契約で使用が可能になるプラグインですが、こちらでデメリットを感じたことはありますか?
中島さん
使い方によっては買い切りのほうがいい場合ももちろんあるんですが、出演者さまの立場からみると、1回のライブのために永続ライセンスを買うのはかなり抵抗があると思うんです。そこが例えば1ヶ月分だけ購入できれば、「VRide!」の出演者さまには相性はいいのではと思っています。
先ほど誰でも使えるので導入がしやすいという話をしましたが、1ヶ月ライセンスなら初期投資という面でも導入ハードルが下がりますよね。何か試してみようって思った時に1回体験版を使うことは皆さん結構多いと思うんですが、1ヶ月サブスクなら予算的にもフルサービスで1回使ってみようか、ということがやりやすいです。
例え永続版でもアップデートが1年間しかできないとか制約がある製品もありますし、バージョンがアップデートした時に買い直しをする必要が出てくるリスクもあります。
追加機能で希望があるとすれば、演者さまとのコミュニケーション機能でしょうか。現状、ライブ音声はLISTENTOで受け取り、コミュニケーションについてはGoogle Meetを使っているので、それが統合できるととても助かります。ただライブイベントでは、いろいろな機能を搭載していることよりも安定性がもっとも重要です。そういった意味でも、現在までLISTENTOによるトラブルは一度もないのでとても信頼しています。
――― 今後のVRideの将来的な展望についてお聞かせください。
Mさん
先ほども言ったとおり、ライブハウスでバーチャルライブを見るという体験は、まだ全然世の中に浸透してないと思っています。ライブハウスという場所自体に抵抗がある方もいらっしゃるでしょうし、そもそもその楽しさを体験したことないから分からない方も多いと思います。
そこにはいいものが確かにあるはずなんだけど、例えば牛肉の美味しさをまったく知らない人に、いくらこの牛丼が美味しいですよ、と言葉やテキストで説明しても何も伝わらずに断られてしまうと思うんですよね。
ライブの魅力は確かにあるんですが、バーチャルライブを現場で体験したことない人にはそれがなかなか伝わらない。バーチャルライブを知っていただく取り組みとして、えのぐが主催で「VRide!」を開催しているのですが、とはいうもののひとつのイベントだけでは、どんなに頑張っても世の中には広がらないのではと。
そこで、「VRide!」のように個人でも主催できるレベル、個人で使える機材と設備と仕事量でできる規模のイベントを開催し、その仕組みを再現しやすいパッケージとして広めれば、それを真似して色んな人たちが自分たち流にカスタマイズした魅力的なバーチャルライブを主催してくれるのではないかと考えています。
私たちが広く情報を共有することで、地方などでもバーチャルライブが開催されるようになって、その楽しさを体験した人が増えていく。そうしてバーチャルライブという体験そのものが世の中に浸透していくことで、カラオケやボーリング、ゲームセンターのように、普通に週末にフラッと行って楽しめるエンタメになったらいいな、と思っています。
――― お二人とも、本日はありがとうございました。
2025年8月23日(土)、オンラインにてえのぐワンマンライブが開催されました。アーカイブ配信もありますので、ぜひ詳細をご覧ください!
日程
2025年8月23日(土)19:00〜
開催場所
Z-aN
ライブ詳細
Z-aN:https://www.zan-live.com/ja/live/detail/10600#event-info
2025年8月、LISTENTO v3アップデートがリリースされました!より快適にストリーミングを行える機能が多数追加されています。
チャンネル数の増加
・最大 128 チャンネルのオーディオをストリーミングおよび受信します (Pro サブスクリプションで利用可能)。
マルチストリーム受信
・アプリケーションのレシーバーで最大 4 つの LISTENTO ストリームを受信します。
オーディオファイルプレーヤー
・LISTENTOアプリケーションを介して送信する4つのオーディオファイルを切り替えます。4つのファイルは同期して再生され、送信機で選択して再生できます。
ローカルビデオファイルプレーヤー
・ローカル ビデオ ファイルを受信 LISTENTO プラグイン ストリームに同期し、リモート オーディオをローカル ビデオとともにリアルタイムで確認します。
トークバック/リッスンバック
・TalkbackとListen-back機能を使って、LISTENTOアプリ内で共同作業者とコミュニケーションをとることができます。この機能は現在、アプリ内でのみご利用いただけます。
新しい UI
・アプリケーションUIが更新され、新しい配色、送信機と受信機の個別のタブ、およびローカルミキサーが追加されました。
ゲストパス
・LISTENTOへのアクセスを共同作業者と共有できます。共同作業者をメールで招待し、LISTENTOへの3時間のアクセスを許可します(Proサブスクリプションで利用可能)
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