2022.09.06
2007年の発売時、そのルックスとコンセプトがホームレコーディングの常識を覆したApogee Duet。さらに洗練され進化したApogee Duet3について、ボーカルミックス・歌ってみたMIXで使用してもらい、感想をお伺いするシリーズ・インタビュー。
第4回はtwitterフォロワーが2万人を超える人気MIX師、らいむさんに使っていただき、お話を伺いました。
Media Integration(以下MI)
最初に活動の経歴や音楽経験などを教えてください。
らいむさん(以下敬称略)
実家にピアノがあって、物心ついた時から好きな曲を弾いていました。また父が若い頃にビッグバンドでドラムを演奏していたこともあり、小学生の頃からドラムを叩かされていました(笑)。
中学生の頃には歌にも興味が出てきて、アコギを買って弾き語りをしてみたり。高校生になってからはMIDI音源を買って、よく分からないながらも好きな曲を耳コピで打ち込む、ということをやっていました。
音楽教室等で習ったりしたことはないんですが、母がピアノを弾いていて、父がドラムを叩いていたのでその影響があったかもしれません。
MI
音楽が自然と家にあった感じなんですね。MIXを始めたきっかけは?
らいむ
MIX師は2017年末くらいに始めました。きっかけは歌い手の友人がいて、その友人に「MIXやってよ」と頼まれたんです。そんなの面倒くさいから嫌だと最初は断ったんですが(笑)、でも僕は高校時代くらいからリスナーとしてオーディオが好きだったんですね。一度考えてみて、音に関することだし興味があるからやってみるよと、自分で勉強しながらやり始めました。
MI
Duet3をMIXでお使いいただきましたが、ファーストインプレッションをお聞かせください。
らいむ
最初に箱を開けてみて、印象としてはまず「小さい!」と。そしてとても薄い。小さくて薄いから当然軽いです。デザインも洗練されていてスタイリッシュでかっこいい。高級感もあるし所有欲が満たされる製品ですね。
音の面でいえば、これだけの小ささでバスパワー駆動なのに、音はしっかりしていてクリアで解像度が高い。コスパは高いなと感じました。
MI
音質について詳しくお伺いしたいのですが、出力側の音質はいかがでしたか?
らいむ
MIX作業や、純粋にオーディオとしても試聴しましたが、上から下まで解像度が高く分離感がありました。粒立ちがよくクリアな音だなと。特に高域の解像度が良いですね。情報量がとても多く、細かいところまで音が追いかけられるような感じでした。
基本的に原音に忠実でフラットで、余計な味付けは感じない。かといって音の線が細いわけではなく、しっかり音楽を鳴らし切ってくれるエネルギッシュさ、厚みも感じます。傾向としてはソリッド寄りですが程よい艶感があり、現代的なサウンドで高域の抜けがよく全体的に明るいサウンドという印象です。ギラっとしたいやらしさはなく、あくまでも自然でクリアな、上品な明るさですね。
立ち上がりが速くて分離がいいので、トランジェントもつかみやすかったです。ダイナミクスも広いので、音が消えていく時も滑らか。リバーブなどの減衰もとらえやすいと思います。分離感、定位感の良さから、音との距離感を正確に測れるので、各パートの位置をしっかり聴けて、MIXの迷いも少なくなりそうですね。
また、低音も解像度が高く情報量が多いです。程よく引き締まっていて瞬発力が高い。軽快さやスピード感があり、ビートも感じやすいです。
MI
ヘッドホンとスピーカー、どちらをメインでお使いになりましたか。
らいむ
ヘッドホンです。Focal Clear MG PROをメインに使っています。僕はもともとオーディオが好きということもあって、いつもはヘッドフォンアンプを使っているんです。今回は直接Duet 3のヘッドホン端子につないで聞いたのですが、音がいいですね。この薄さに凝縮されているんだなというのは驚きました。アンプは昔から大きくて重いものがよい、というイメージもありますが、小ささと音質がトレードオフされていない、両立されているのがすごいなと感じました。
MI
入力側はいかがだったでしょうか。
らいむ
一言でいうと「クリーン」。ゲインが65dBあるとのことですが、ゲインを上げていってもノイズや歪みを感じず、滑らか。変にブーストされているようなカーブも感じなかったですね。感度が低いダイナミックマイクの場合でも十分にゲインが稼げると思います。
録り音は出力と同じで、色付けがなくフラットでした。色付けはないんですが、ボーカル録りをしてもどっしりと太くコクのあるような、音像の大きな音が録れるなと。
変なピークを感じないバランスのいい音なんですが、中域の密度が高くパンチ感のある音だと思います。あとはDA出力変換でも感じたんですが、帯域バランスはあくまでもフラットではあるんですが、なんというんでしょうか...音に艶のようなものがありますね。
例えばボーカル録音については、音数が多い派手目なオケの中でも、ボーカルがしっかり際立って主役になってくれるような音が録れるなと。「座りがいい音」だなと感じました。
MI
マイクプリアンプとして、例えば「〜っぽい音」みたいな印象はありましたか?
らいむ
何か別のモデルに似ている、というような印象はなかったです。いい意味でクリアで、無色透明だと思います。帯域バランスの偏りがないとか歪みやノイズがない、ということだと思うんですが、僕らはMIXする上でなんらかのエフェクトを適用する必要があるんですけど、その際に扱いやすい音だと思います。
例えば品質が悪い機材で録音すると、コンプやサチュレーターみたいなエフェクト処理をしていく過程で耳障りな成分が発生することもあるんですが、そういう嫌な音がなくて、雑味が生まれにくい素直な扱いやすい音だと感じました。
MI
録音した音を安心してMIXにも使えるクオリティでしょうか?
らいむ
もちろんです。十分使えますし、MIXする上で扱いやすいと思います。歌い手さんがDuet3で録って送ってくれたら嬉しいな(笑)
iOSでも動くそうなので、パソコンを持っていない歌い手さんでもスマホですぐに使えますよね。MIX師も、これで録った音なら喜んでくれるんじゃないかと思います。音の面でも携帯性の面でも、歌い手さんにはおすすめしたいです。
MI
DSPエフェクトについてお伺いします。使ってみた印象はいかがでしたか?
らいむ
EQに関していえば、順当に削った分だけ削ってくれるような分かりやすさで、癖のない感じです。コンプに関してもナチュラルで、コンプくさくない音。どちらも自然で素直なタイプだと思うので、EQ、コンプ、サチュレーターみたいなチェインに沿ってあまり考えずに直感的にいじっていくと、わりといい感じの音ができるんじゃないかなと思います。
MI
エフェクトがあまり分からない人でも使えそうですね。
らいむ
そうですね、いい感じにかかるというか。あとはDRIVEつまみもEQ等と同じでナチュラルでほんのり厚みを加えてくれるような...変な癖もなく、激しすぎるディストーションのようなものもないので、歌にも使いやすいかなと。
MI
誰でもかんたんにいい音が得られそうですね。
らいむ
それは思いますね。DSPのエフェクトに限らず、音とかも全部含めて、良い意味でキャラクターがないので使いやすいと思います。モバイルや携帯性を意識した製品はたくさんありますが、ここまで外観と中身、両方兼ね備えている製品はなかなかないんじゃないかなと思います。高品質にモニタリングしたいというMIX師さんにはもちろん、スマホで歌を録っている歌い手さんにも一度Duet3のAD変換を体験してほしいですね。
MI
歌い手、MIX師以外だとどういう方にお勧めでしょうか。
らいむ
僕がオーディオ好きということもあって、オーディオ愛好家の方にも試してみてほしいです。僕は元々ドンシャリな音が好きだったんですが、MIXをするようになってからモニター調のフラットなサウンドの方が、オーディオでも好きになってきたんですね。
僕らのような音楽制作に携わっている人だけじゃなくて、オーディオ愛好家の方にもピュアなDA変換を体感してみてほしいし、最近ならハイレゾのストリーミングサービスなども広まってきているので、PCオーディオの一部に組み込んでリスニング用としても有力な選択肢になるんじゃないかなと思います。
コンパクトなオーディオシステムとして、これ以上ない選択肢かもしれないですね。録音やミックスはもちろんのこと、オーディオなどコンパクトながらもさまざまな用途でパフォーマンスを発揮できる製品だと思います。
Duet 3