2025.06.10
アニメソング制作をはじめ、個人でもボカロPとして活躍されている「ねりきり」氏をゲストに迎え、氏の楽曲素材を題材に、Neve 8816 Summing Mixerをハンズオンして頂きました。
左:ねりきり氏 右:ニラジ氏
Neeraj Khajanchi(ニラジ・カジャンチ)氏(以下敬称略)
DAWミキサーやプラグインで作った音場は、グラフィック上では正確に再現されているように見えますけど、実音はそうとも限らなくて、ミックスをワイドにするとセンターが崩れてしまうんです。
また、DAWプラグインで楽器同士のなじみを良くする「グルーなコンプレッション感」を得ようとすると、過剰な歪み成分が付加されてしまいます。
そういったDAWの位相崩れや歪みの問題を避けたい場合には、アナログ機材を使うことで本来のセンター成分や、過剰な歪みのないコンプレッションを得ることができるんです。
Neeraj Khajanchi:Neve 8816 Summing Mixer (以下Neve 8816) は、現代のNeveミキシングコンソールでミックスをするのと同様に、ワイドレンジなアナログステージでステレオミックスすることができます。適正なレベルを常に考えながらミックスをする。サミングミキサーはそういう考え方に近いんですよね。
16チャンネルにパラで楽器を立ち上げて、それぞれにアナログのコンプやイコライザーをインサートすることもできます。適正な送りレベルを考えることでコンプのかかりが良くなって、アナログ本来の「グルーなコンプレッション感」を得ることができますよ。
Neve 8816が他社のサミングミキサーと比べて大きく違うのは、Widthコントロールでステレオフィールドを広げた時の音なんですよ。その広がり方がとても独特で、DAWの中で配置しているパンニングの位置よりもワイドに仕上げられるんです。僕はそれがすごくカッコいいサウンドだと思うんですよね。これについては人によって意見が分かれるかと思いますが、いわゆるアメリカのサウンドが好きな人は絶対好きだと思います。
アメリカのRockやR&Bなどでは、ボーカルとキックの音像がセンターにありながらもワイドで、その音場をNeve 8816で作れるんです。たとえば僕の場合、モノラル4チャンネル(キック、スネア、ベース、ボーカル)をセンターに定位させて、それ以外の12チャンネルをステムで入力しています。そうすることでセンターをしっかりと出しながら、とてもワイドなミックスが可能になります。
ねりきり氏が制作した楽曲のセッションデータを開いて、ステレオミックスに Neve 8816 Summing Mixer を通したサウンドの変化を、ニラジ氏に実践して頂きました。
Neeraj Khajanchi:今回は元の2ミックスデータと、僕のPro Toolsミックス、そしてPro ToolsミックスをNeve 8816に立ち上げてサミングした、3つの試聴音源を用意しました。まずは元のミックスと、僕のミックスから比較してみましょう。
ねりきり氏(以下敬称略):ニラジさんのミックスは、元のミックスにくらべて大きく聴こえます!元のミックスはレベルを大きく入れすぎて、上をかなり潰してしまっていたんですね。
Neeraj Khajanchi:でも実は、両方のVUメーターの振れ方は全く一緒なんですよ。
ねりきり:こんなに音の大きさが違うのに一緒なんですね!
Neeraj Khajanchi:レベル管理をきちんとすれば、音を歪ませずにレベルを上げられるんです。
次に僕のミックスと、それをNeve 8816でサミングしたミックスを比較してみましょう。Neve 8816ミックスでは、キック、スネア、ベース、ボーカルをモノで立ち上げてパンをセンターにしています。Neve 8816を通すと特に中低域の出方が変わりますよ。
ねりきり:ベースが真ん中にいるのがよくわかります!センターがしっかりあるのに全体がワイドになっていますね。それと、中低域の違いがよくわかります。リッチになった感じがするので、曲の重心がどっしりした印象です。
試聴-1
※モニタースピーカーまたはモニターヘッドホンにてご試聴頂きますと、サウンドの違いがよりお分かり頂けます。
試聴-2
〜書き出しの流儀〜
ねりきり:僕が仕事を始めたての頃、ミックスをして頂くエンジニアさんにドライの素材をよく渡していたのですが、最近はマキシマイザーをかけるくらいで、基本的に全部ウェット素材になりました。ドライ素材とウェット素材、どちらをエンジニアさんにお渡しするのが良いでしょうか?
Neeraj Khajanchi:エンジニアによるとは思いますけど、僕がミックスをスタートする時点ではウェット素材の方が嬉しいです。アレンジャーさんが1ヶ月かけて作り上げたサウンドが100%だとしたら、その処理を外したドライなデータでは50%になってしまいますよね。そうすると僕は1日かけて、曲のイメージが変わらないように音を分析して100%へと合わせに行く、というマイナススタートになるんです。それだと100%から120%に持って行くことが時間的に難しくなってしまいます。
基本的にはウェットデータを書き出して、アレンジャーさんの中でサウンドが見えていない素材だけ、ドライのデータも入れておくのが理想的だと思います。たとえば、自分が作ったピアノのディレイよりも、エンジニアがもっとカッコいいディレイをかけてくれるかな?とか、歌はもう少しブラッシュアップしてもらえそうだな、みたいな感じでウェットとドライの両方を入れておきます。僕はそれを聴いてどちらが良いか判断して、アレンジャーさんのウェット音が最高だと思ったら触らないし、処理が必要だと感じたらドライ音を使います。
書き出しにあたっては、レベル管理を意識して「プラグインでの意図しない歪み」を防いだり、トラックにレベルを入れすぎないように注意してもらえると助かりますね。2ミックスのマキシマイザーを外しても、ピークギリギリという楽曲もあったりしますので。
「これが自分のベストの状態で、ミックスでもっとカッコ良くしてもらおう!」という気持ちで僕にチャレンジしてもらって、僕はそれに120%で応えたいんです。毎回、作曲家やアレンジャーさんの想像を超えるカッコいいミックスを戻したいと思っています。
〜カッコいい音とは〜
Neeraj Khajanchi: 僕にとってカッコいい音というのは、曲を聴いた時に「世界観が見える音」で、我々エンジニアは音の世界観を作る仕事をしていると思うんですよ。よりリアルな楽器の音を求めながらも、リアルを超えたフェイクな世界を演じようとしているんです。それは白黒映画の世界観とか、70年代であったり何でも良いんですけど、自分の狙っているフェイクな世界が、リスナーに伝わるといいなって思いながらミックスをしています。僕はその世界観を作るために、アナログ機材を使うわけです。
カッコいい音はテンションが上がってクリエイティブになりますし、それによって生まれる楽曲のクオリティも上がります。クリエイターの皆さんも時間を惜しまずに、カッコいい音をぜひ追求してください!
レコーディング&ミキシングエンジニア
マイケル・ジャクソン、ボーイズIIメン、ティンバランド、リルジョン、 ジャヒーム、ヨランダ・アダムス などの海外一流アーティストを始め、YOSHIKI, 三浦大知, 大貫妙子, 木村カエラ, 南佳孝, 青田典子, 渡辺貞夫, Hana Hope, Mrs. Green Apple, Hana Hope, 小林愛香, 白銀ノエル, あんさんぶるスターズ!! などの国内アーティストまでを幅広く手掛ける、いま最も多忙なレコーディング&ミキシングエンジニアの一人。
作・編曲家
楽曲提供や、自身でボカロ曲の投稿等のアーティスト活動も行うクリエイター。幼少期にエレクトーンを習っており、鍵盤楽器とギターの演奏を得意とする。
Works
【ARCANA PROJECT】硝子玉の世界(作詞・作曲・編曲) / 【TVアニメ『魔王様、リトライ!R』OPテーマ/ ASCA】明日世界が終わるとしても(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism / 鈴木 羽那】無垢(作曲・編曲) / 【アイドルマスター シャイニーカラーズ / コメティック】平行線の美学(作曲・編曲) / 【藤城リエ】LIFE(作曲・編曲) / 【異世界のヘリオン 羽黒ヘリオン(Vo.前田佳織里)】Another-self(作曲・編曲) / 【TVアニメ「デュエル・マスターズWIN 決闘学園編」エンディングテーマ / 上月せれな】BRAND NEW MOMENT(作曲・編曲) / 【おはスタ ガル学 クリスマスエンディング曲 / Girls2 from South2】HolyMagic大人になっても解けない魔法(作曲)
AMS RMX16 500 series module
Neve®の伝説的なサウンドを手元に
8816サミング・ミキサーは、Neve®の伝説的なサウンドをコンピュータ・ベースのプロデューサーに提供します。イギリスのバーンリーにあるNeve社の工場で手作りで配線された8816は、エンジニアやプロデューサーがNeveサミング・ミキサーで音楽をミックスすることを可能にします。
¥120,000 (税込)
¥187,000 (税込)