808系ドラム&ベースサウンドのためのTips集
トッププロデューサー&ミキシングエンジニアからのTips
2017.08.29
今回は、8人のトッププロデューサーやミキシングエンジニア、DJによる「808系音源で作成したドラムやベースラインにおいて、パンチ、音質、ローエンドのインパクトを絞り出すためのTips」をご紹介します。
808のサンプルはヒップホップから電子音楽、さらにコンテンポラリーなメタルミュージックに至るまで、あらゆるものに使用されている、音楽制作における定番ともいえるサンプルです。しかし、頻繁にキックやベースなどの要素と競合することもあり、ミックスが難しい場合があります。適切なサンプルを選択していなかったり、適切な信号処理が行われていなければ、ミックスが混沌としてしまいがちです。
私たちは、8人のトッププロデューサーとミキシングエンジニアに、こういった困難な状況において808のサンプルをどのように取り扱うのか、特に他の誰かが選んだ808サンプル素材に対してどう対処するのかについて質問しました。ここでは、ディストーションの追加からサイドチェイン・コンプ、また808のサウンドで倍音成分とトランジェントを整形するためのテクニックについて、彼らの回答をまとめました。
808はバスドラムとベースラインの両方とも気に入ってる。典型的なポップスからヒップホップ、トラップ、ドラムンベース、ハウスミュージックまであらゆるジャンルにバッチリ合うからね。
ピッチエンベロープやトランジェントと同様に、倍音成分は808のサウンドにおいて重要な位置を占める要素だね。たまにオーディオ信号のトランジェントを、シンセで作ったピンクノイズで置き換えることもある。それから、特に808をバスドラムとして使用する場合は、CLA-2A Compressor / Limiterでコンプをかけるんだ。
808のミキシングは、ラジオで聴くことを想定するのが大事。スタジオやクラブで重たく聴こえるようなトラックはラジオで聴くと空っぽになってしまうことがあるから、色んなテクニックを駆使して3次以上の倍音成分を足したり、ベースの存在感を増したりして、まずはトラックのキーになる部分を安定させるんだ。
2次と3次の倍音成分は、808に高域成分を追加してくれる。この高域成分は、ディストーションで強調させることもできる。もっと厳密なやり方だと、Cobalt Saphiraの倍音成分の整形プラグインを使って、奇数と偶数の倍音成分を強調する方法がある。このテクニックは、808のボディの音色を形作ってくれる。これと同様に、サウンドに倍音成分を加えたり、音色を加工したりするための他の方法としては、Renaissance Bassを用いる方法もあるよね。
プロセッシングはいつも、ボディ部分とトランジェント部分の処理を分けて行うようにしてる。処理後のボディとトランジェントをフェードで合わせてから、コンプをかける。さらに、ディストーションで倍音成分を足してから、OneKnob Filterなどのフィルタを使ってオートメーションさせるときもある。そうすることで、トランジェントの最初の15〜20ミリ秒できつめのローパスフィルタが高域成分を減衰させてカットしてくれるようになる。ボディにディストーションをかけると、不要な高域成分も発生するけど、これはフィルターのオートメーションで抑え込める。このテクニックを使う場合は、ボディの開始直後のピッチ変化に追従して、必ずゼロクロスでトランジェントとボディを繋ぎ合わせる必要がある。
キックドラムや808のサウンドをより細かく整形したい場合は、波形エディターを拡大表示すれば、周波数サイクル単位でカットして繰り返して貼りつけることもできる。波形の100 Hz部分を足せば、808のサウンドにパンチを追加できるから、100 Hzの成分の周波数サイクルを幾つか付け足すことで必要なパンチを得て、残りの部分についてはEQ/トランジェントモジュレータを使用しないままの状態にしておく。マルチバンドのトランジェントツールを使用すれば、100 Hzのパンチゾーンだけを持ち上げることもできる。
808のサウンドを大きく、強力にするための様々な方法がある。これまでの経験から、808のキャラクターはボーカル並みに変化することを知ったんだ。何でそんなことが言えるのか、気になるよね?でも沢山の仕事をこなしてきた人なら誰でも、単純なサイン波から、タイムストレッチで引き伸ばしたMP3ファイルをサンプリングした808まで、様々な種類の808のサンプルを見てきたはずだ。
だから、どんな種類の808のサンプルなのかによって、使うべきツールも変わってくる。きれいな正弦波の場合は、Waves SSL E-ChannelかG-Channelを挿入するだけで、40 Hz成分を少し足して、コンプを少しだけかけてあげるだけのシンプルな方法で大丈夫。でも、808の波形が悪い場合は、幾つかのプラグインを使う必要がある。低域のパワーが足りてなくて、フラットなサウンドしか出ていなければ、VitaminやRenaissance Bassを使って、低域を適切なレベルまで持ち上げてあげる。808の高域成分のアタックが弱く、丸くて輪郭のはっきりしないサウンドだったら、私はSmack Attackを使用して最初のトランジェント部分の波形を加工したり、場合によってはテール部分を強調したりもする。
808のサウンドを使うときは、コンプと一番仲良くなるようにすることを覚えておくべき。個人的によく使うコンプは、CLA-2A Compressor / Limiter、Renaissance Compressor。それと時々SSL E-Channelのダイナミックセクションを使うときもあるね。
でも、一番重要なアドバイスをシェアしておかないと、ダメなのかもしれない。完璧な808のサウンドを作るために長い時間を費やした後で、ミックスにバスドラムを加えた瞬間、すべてが変わってしまうことがあるよね。ミックスでバスドラムと808を一緒に再生する場合、808での作業中は常にキックとの関係について考える必要がある。これまでに達成した中で一番難しかった課題は、これら2つの要素を融合させることだった。サイドチェーンコンプとマルチバンドコンプは大きな役割を果たしてくれる。C6 Multiband Compressorは、808の低域成分を下げてキックのためのスペースを確保するのに便利。場合によっては、Q10かQ4を使ってバスドラムの80 Hz前後のローエンドを下げてやるだけで、808を大音量で鳴らすためのスペースを確保できることもある。
いずれにしても、練習、練習、練習あるのみ。何度もトライし続けていれば、自分なりの方法でここまで辿り着けるはずさ。
コンテンポラリーなR&Bや特にトラップでは、808のバスドラムのサンプルをチューニングしてメロディックなパターンを演奏することによってベースラインが作成されます。この808ベースラインはトラック全体の基盤となるものなので、ミックス全体を通して大音量で再生される必要があります。
しかし、シングルバンド・マスタリング用リミッターを使って納品用の最終的なレベルアップを施す段階において、808ベースが壊れてしまって安っぽく歪んでしまうこともあります。
私の解決策は、L3-16 Multimaximizerマルチバンドリミッターを用いて、低域の設定のプライオリティを上げることです。808ベースをサブ周波数まで下げつつ、他の周波数成分にはリミッティングをかけることによって、トラック全体の音圧を稼ぐことができます。
以下に808ベースラインを使用した曲の、L3-16 Multimaximizerを用いたマスタリングの一例を画像で示しますので、参考にしてみてください。
808サンプルの自分なりの処理方法は以下の通りだね。
- 初めに、適切なサンプルを選ぶことが大事。ひとつだけリコメンドするとしたら、Kontaktの808 Warfareかな。
- 通常、必要のない高域成分をEQで取り除く - 通常は500 Hz以上の成分。0-25 Hzの超低域成分も、必要ない場合は取り除くときもある。
- よくやる手法は、ローミッドをRenaissance Bassでブーストすること。808の特定の部分の成分だけを正確に持ち上げることができるんだ。
- 通常、808はモノラルで使う。
- 最後に808をバスドラムにサイドチェインさせて完了。
面白いことに - これまで沢山のヒップホップを手がけてきたけど、808はそんなに好きってわけじゃなかったんだ。最初のうちは、ベースラインの代わりに808を使っていたけど、次にベースラインと組み合わせる方法を見つけだしたんだ。808のサブ周波数が、元々存在しているベースラインと同じ帯域にあることを学ぶ必要があったんだ。
今では、サブ808を使ってミックスを完成させるんだ。Renaissance Bassで持ち上げてね。これが正しい、と感じる周波数を探しながらダイヤルを回すだけさ。
大きなベース、ヘビーなドラム、それらは全てスペースとコントラストが大事です。低域の長い持続音に対して、パンチの効いたバスドラムをサイドチェインさせることで、ローエンドのアタックが緩やかになります。 このスペースを生み出すことによって、ベースのテイル部分が再生される前に、バスドラムのパンチをカットすることができます。
808のミキシングは難しいときがある。私はミックス・プロジェクトを全面的に手に入れており、私がどのような種類の録音をしているのか分からない。
奇妙なことに殆どの人がリスニング時に気にしないけど、その808のサンプルがどういった特徴を持っているかということが大事だね。ピッチ、ピッチトラベル(サブドロップスタイル)、アタック、サステイン、リリース。808のピッチが他のサウンドに直接的な影響を及ぼさない限り、アタックとサステインさえ調節すれば、多くの場合はそれで済んでしまう。808のピッチが他のサウンドに影響を及ぼす場合は、その部分のサウンドをトランスポーズして、影響を受けない状態にしてやるんだ。
アタックとリリースを調整するために、たまにSmack Attackトランジェントシェイパーを使うといい時がある。最初に「これは使える!」と感じたプラグインだね。扱いにくい808のサンプルには、アタック部分が強いものが多い。時にはフェードやオートメーションと一緒にエンベロープを手作業でいじるときもあるけど、飽き飽きする作業の割にはあまり良い結果が得られないことも多いんだ。Smack Attackを使えば、ノブひとつで素早く正確にアタックを決めることができる。
音楽のジャンルによっては、リリースの調整が不可欠なものもある。ヘビーな音楽には、サブジャンルごとに異なるアプローチがある。昔ながらのロック/メタルトラックでは、最大音量の808サンプルを配置したり、重量感を出すために低域成分をミックスに使うこともある。他のジャンルでは、808は非常に大きくて壮大なサウンドを持っていて、ミックスで複数使われることもあるかも知れない。ミックスの方向性を決めるために、音楽ジャンルの情報を得ておくことは重要だね。
808の設定すべきサステインは、ミックス全体において808がどのように存在させたいのかによって相対的に決まるもの。サステインを決める上で大事なのは、曲のテンポと、曲のどのセクションなのかということ。サビの後にボリュームがガクンと落ちたら、長くて大きなサステインが欲しいよね。保守的な808サンプルの使い方だとボン, 2, 3, 4というカウントでサステインが切れるけど、長いものだとボーン,2 ,3 ,4 ,2 ,2 ,3 ,4まで長くなる。好みやその他のサウンドによって決まるんだけど、大まかな考え方は伝わったかな?
ここにRakestraw 808 Fixer プリセットファイル(zipファイルをダウンロード)があるんだけど、しばらくの間、Smack Attackでいろいろやってみたんだ。
最後にヒントをひとつだけ:おそらく、ヘビーな音楽で808サウンドをミキシングする際に最も重要なことの1つは、ミックスバスコンプレッサーをハイパスフィルターのサイドチェインで動かす方法だね。過去にミックスで聞いたことがあると思うけど、808のサウンドが無くなるタイミングで、ミックス全体が変になってしまうときがある。ミックスバスコンプレッサーのサイドチェインにハイパスフィルターを使用することで、808が鳴っている間、ミックスが崩壊しないように保つことができるんだ。
808のミキシングするための私のプリセットとヒントを紹介しましょう。すべてのプリセットをダウンロードするには、ここをクリック(zipファイルをダウンロード)してください。
808 Chunky Sub Bass – PuigTec MEQ-5
ガツンとしたサブベースをクッキリとさせます。
808 Hat Softener – PuigTec EQP-1A
昔ながらなのブースト・アンド・カットのテクニックですが、トップエンドにだけ使います。レイドバックしたEDMなどで素晴らしい効果を発揮します。
808 Thick Kick – PuigTec EQP-1A
覇気のないキックに、ガツンとしたベースとトップエンドを足します。
808 Suuuub Kick – PuigTec EQP-1A
808キックで骨を揺らすようなサウンドだけが欲しいなら、ローをブーストし、トップをカットします。
808 Kick Intensifier – Renaissance Bass
808のキックのサンプルに少し手を加えないといけないときには、これを使用します。最適な結果が得られるように、周波数を微調整しましょう。
808 Dirty Clap Spreader – CLA Effects
クラップをもう少しローファイに響かせて、ミックスのセンターからサイドに広げて、ボーカルとリードラインに必要なスペースを確保します。
808 Bass Punch – CLA-2A Compressor / Limiter
少しパンチが必要なベースラインの前にバケツを追加します。
808 Snare Comp – CLA-76 Compressor / Limiter
CLA-2Aを用いた'808 Bass Punch'プリセットと似ていますが、電子スネアのためのプリセットです。これにより、より華やかで響きのある808のサウンドが得られます。
808 Hat Improver – Maserati GRP
808のハイハットを明るくして、ミックスの中で明確に聞こえるようにします。
808 Kick Tops – SSL E-Channel
時折、複数のキックドラムとミックスするためのプロジェクトを請け負うことがあります。キックドラムのいくつかはボトムをカバーする一方、トップをカバーするものもあります。このプリセットは、トップをカバーするキックドラムをまとめあげ、ミックスに必要なものすべてを強調します。
808 Toight Snare – SSL E-Channel
私がSSLを用いてミックスしているときにやっていることに似た動作をします。サウンドをはっきりとさせるためにトップエンドを追加する一方で、少しローエンドを削って、ゲートとコンプレッションでサウンドをいい感じにタイトにしてくれる。
808を使うためのヒントを得ることができましたでしょうか?ぜひぜひ仲間同士でシェアしてくださいね!