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AMS Neve 本社ツアー:オーディオのイノベーションが誕生した地

2026.02.02

AMS Neveは、Rupert Neveが1961年に設立したNeve Electronicsが築いてきたアナログ技術の優位性と、Mark Crabtreeが1976年に設立したAdvanced Music Systems(AMS)が培ってきたデジタル技術を融合させ、1992年に誕生した企業だ。

本連載では、プロデューサー/ミキシング・レコーディングエンジニアの加納洋一郎氏とともに、イギリス・バーンリーにあるAMS Neve本社を訪問。研究開発の現場から製造・生産の現場まで、実際に社内を案内してもらいながら、そのこだわりを紐解いていく。案内役を務めてくれたのは、AMSの創業者であり、現在もマネージング・ディレクターを務めるMark Crabtree OBE 氏だ。

AMS創業者、マネージング・ディレクター Mark Crabtree OBE 氏

AMS Neve本社と企業文化

AMS Neve本社は、イングランド北西部ランカシャー州バーンリーにある「AMS Technology Park」内に位置している。60年以上にわたり培われてきた技術力を礎に、世界中のコンテンツ制作の最前線で活躍するクリエイターへ、最高のサウンドと制作環境を提供することが、同社の使命だ。

エントランスからロビーへ足を踏み入れると、AMS Neveの歴史を一望できるパネルが来訪者を迎える。

さらに奥へ進むと、そこはまるでミュージアムのような空間だ。Neve、AMS、そしてAMS Neveの代表的な製品群とともにオーディオ技術の進化の歴史が展示されており、加えて、The Beatlesが『Revolver』のレコーディングで使用したレコーダーも目にすることができる。

AMS & Neve のイノベーションを担った歴代の名機からレアアイテムまでが展示されている。

1960年代の創業期にルパート・ニーブが最初に製作したカスタム・コンソール。当然ながら真空管式。

コンパクトながらリッチなサウンドの放送局向けのアナログ・コンソール。「Baby V」とも呼ばれ高い人気を博しました。

AMS とNeve 合併後に登場のハイブリッド・コソール Logic 3SC。Neveの「アナログの豊かな音質」とAMSの「デジタル制御の利便性」が同居した歴史的モデル。

AMS:model dm 2.20 tape phase simulator 。非常にレアな1台。AMSは放送局向けの製品が多く、音声と映像の同期用ディレイA/V-Syncなどを展開していた。

ビートルズ『Revolver』のレコーディングに使用された4トラック・レコーダーStuder J-37。

加納 洋一郎 氏

イノベーションが生まれた聖地

加納氏:エレベーターを上がってみると展示ゾーンになっていました。Neve、AMS、そしてAMS Neveの各時代を象徴する製品群が一堂にあり、自分も知らなかった製品も含めてずらりと並んでいて、技術の深みが感じられます。僕がリスペクトしているエンジニア、アル・シュミット氏やジョージ・マーティン氏のパネルもあって、ちょっと感動(笑)

この地が、世界のサウンドのイノベーションを生み出した聖地であるという、歴史の奥行きを肌で感じることができました。

緊密な経営と組織体制
品質最優先の文化

AMS Neveの組織は、約100名の従業員で構成される「小さな家族」のような、非常に緊密なオペレーション体制が特徴だ。例えば、マネージング・ディレクターのMark Crabtreeは、日々製造現場やオフィスを歩き回り、従業員一人ひとりと顔を合わせて会話を重ねる、いわゆる「歩き回る管理(Management by Walking Around)」を実践している。

生産体制と製造技術

AMS Neveの製造部門は、アウトボード機器およびコンソール・モジュールを製造する棟と、コンソールの最終組み立てを行う棟の2つに分かれている。いずれの現場においても、最高品質を追求するための高度な技術と、長年の経験を持つ熟練した人材が密接に連携している。

そこには、「スピードが重要なのではない。品質が重要なのだ(Speed is not the point. Quality is the point.)」という思想が深く根付いている。従業員一人ひとりが自らの仕事に誇りを持ち、妥協のない品質を実現することに集中できる環境こそが、AMS Neveの製品づくりを根底から支えているのだ。

加納 洋一郎 氏

高度な設備と、熟練した技術が融合

加納氏:生産ラインを見て、まず印象的だったのは、若手や女性の従業員が多いことでした。積極的に採用して、一人ひとりに裁量を持たせて高い品質を自律的に目指しているという話に、とても感心しました。

AMS Neveってアナログなイメージが強いですが、生産ラインはハイエンドな少量多品種生産に対応できる最新技術(コンピューター制御の設備など)がどんどん導入されていて、進化が目覚ましいです。高度な設備と、熟練した技術者による丁寧な作業が融合しているからこそ、『最高の品質』が保証される体制が整っているんだなと思うのと同時に、そうした質への徹底したこだわりが、そのままAMS Neveの自信と誇りになっていることを肌で強く感じました。

品質と自律性を重視した現場管理
一貫した生産体制

AMS Neveの製造現場には、いわゆる監督者が存在しない。会社から従業員に与えられるのは週ごとの生産目標のみであり、品質が保たれる限り、作業の順序や進め方は各自の裁量に委ねられている。従業員一人ひとりが自らの仕事に誇りを持ち、最高品質の製品づくりに集中できる環境こそが重要だと考えられているからだ。

そのような環境のもと、日々の業務を通じて各従業員は、高い品質を実現するための創意工夫や改善を自発的に生み出していく。コンソールのアッセンブル・チームは約8名で構成され、全員がすべてのモデルに対応できる技術を備えている。ここでも重視されるのは、生産スピードではなく、あくまで品質である。

作業効率と品質の両立

AMS Neveでは、試作品から量産品に至るまで、すべて同一の生産設備を使用して製造が行われる。これにより、開発段階と量産段階で生じがちな品質のばらつきを排除し、一貫した高い品質が保たれている。

現在、約600種類もの回路基板を扱っており、作業内容は非常に複雑だが、「Quick Tick」と呼ばれるビデオガイド付きの組み立て指示システムと、品質データ収集システムを併用することで、作業効率と品質の両立を実現している。組み立て担当者は、表面実装基板の製造から自動テストに至るまで、一連の工程を自ら担当することで、自身が製造した製品に対する強い責任感と誇りを持って作業に臨んでいる。

少量多品種生産への最適化

またAMS Neveは、適切な設備投資を継続的に行っており、特にハイエンドな少量多品種生産に対応するための技術導入に力を入れている。コンソール用基板のように1枚のみ製造されるケースもあるため、部品リールを積載したトロリーを迅速に交換できる仕組みを採用。これにより、製造装置の切り替え時間を大幅に短縮するなど、柔軟で効率的な生産体制が構築されている。

基盤にリール部品を表面実装するマシン。テープに乗ったパーツが内部に入り基盤に実装される。両面トロリーで素早く必要なパーツの交換ができる点も少量多品種の生産に効率的。最新のマシンへの投資により、高品質と効率性に優れた生産を実現している。

部品管理と計画

毎月100万ポンド以上(約1.7億円相当)にのぼる部品を扱うAMS Neveでは、製造装置のサプライヤーと協力し、生産計画を制御する専用ソフトウェアを共同開発している。この最新システムを導入したのは、Rolls-Royce社に次いで、AMS Neveが世界で2番目となる。

新たに導入されたセレクティブ・ソルダリング装置では、窒素ガスを使用することで、はんだ付け時の酸化やブリッジの発生を防止。これにより、極めて高い精度のワイヤリングが実現されている。この工程を自動化することで、熟練した作業者は、より高度で複雑な作業に集中できるようになった。

さらに、1,000か所以上の接続部を持つ新しいデバイスの品質を保証するため、自動光学検査(AOI)に加え、X線検査装置を導入。目視では確認できない基板裏面の接合部に至るまで、すべてのはんだ付け品質を厳密にチェックしている。

またAMS Neveは、地元大学と連携し、サマーインターンシップを通じて優秀な学生をフルタイム従業員として採用する、安定した人材育成の仕組みを確立している。従業員の多くが高い音楽的関心を持っていることも、製品開発における大きな強みとなっている。

設計と生産の緊密な連携

R&D(研究開発)の様子。画面に映っているのはプリント基盤のデータをチェック、議論している様子。

ソフトウェア・エンジニアは主に自宅で開発作業を行う一方、定期的にR&Dルームへ集まり、意見交換や仕様調整を実施している。ハードウェア・エンジニアはこのR&Dルームで設計を行い、すぐ隣の製造ルームでプロトタイプや改良版基板の製作を進める体制が取られている。

なお、このR&Dルームでは、88RSコンソールの開発エンジニアであり、Neve社時代に故ルパート・ニーブのもとで働いていたロビン・ポーターも、現在なお開発に携わっている。

Neve時代からの開発エンジニア、ロビン・ポーター氏。88R/ RS コンソールも彼がチーフ・エンジニア。

R&D部門のエンジニアは日々、生産ラインのすぐ脇を通り、組立担当者と直接コミュニケーションを取っている。これにより、製造工程で発生した問題点は即座に設計側へフィードバックされ、迅速な改善につながるという、非常に効率的な好循環が生まれている。絶え間ない品質追求と、設計から生産まで一貫した哲学。この積み重ねこそが、AMS Neve製品の高い信頼性と卓越したサウンドを支える基盤となっている。

加納 洋一郎 氏

長い歴史と技術革新

加納氏:AMS Neveの本社に行ってみて、音響技術のパイオニアとしての長い歴史と、未来を見据えた新しい技術革新の両方の側面がある、本当にすごい場所だなと感じました。

デザインを担当しているロビン・ポーターさんとも話しましたが、設計の部屋と製造ラインが近くにあることで製造過程での不具合や改善などコミュニケーションをすぐ取れるのも、この会社の良いところだとおしゃっていたのが印象的でした。

テクノロジーと人の技の両立

AMS Neveは、航空宇宙分野で培われたデジタル技術と、Neveが築いてきたアナログ技術を基盤に、設計者と製造現場が密接に連携しながら製品開発を行っている。最新鋭の設備と、手作業を多く含む熟練の職人技を組み合わせることで、ハリウッドをはじめ世界中のトップスタジオから信頼される、最高品質のハイエンド・オーディオ機器を生み出してきた。

安定した生産ラインを維持しつつも、すべての製品に必ず職人の目と手が介在する——そのイギリス国内自社生産へのこだわりが、Neveならではのサウンドを支えている。それはまるで、高級時計の製造において、最新のCNCマシンやX線検査装置を駆使しながらも、最終的な組み上げと調整を熟練した時計職人の手に委ねる姿勢にも似ている。テクノロジーと人の技、その両方に一切の妥協を許さない姿勢こそが、AMS Neveの品質を支えているのだ。


左:ミキシング・エンジニア 加納洋一郎氏 / 右:株式会社サウンド・シティ代表 明地 権氏

加納洋一郎氏 プロフィール

加納 洋一郎 氏

MIXING ENGINEER

Yoichiro Kano

株式会社ミキサーズ・ラボ チーフエンジニアからフリーランスを経て、2024年株式会社サウンド・シティ イマーシブdiv. 責任者に就任。

バンド、アーティスト作品のみならず、映画、TVアニメ、TVドラマ、Game、CM、舞台と多くの分野で幅広く活動、近年はDolbyAtmos、360 Reality Audioなどイマーシブ制作にも積極的に携わる。

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