2021.05.20
アレンジャーワークのみならず、楽曲制作、プロデュース、プレイヤー、自主レーベル[Studio Cubic Records]の運営とアーティストの育成にも力を注ぐ鈴木Daichi秀行さん。
地下から地上2階まで、まるまる1棟が「音楽の玉手箱」とも呼べる氏のホームスタジオ、Studio CubicにてAMS Neveのアウトボードを使用して頂いた。
今回はAMS Neveフラグシップモデルである1073DPXについてお話をお伺いした。
一流のプロデューサーやアーティストが最初に選ぶマイク・プリアンプ その品質は伝説的なものです。 英国で設計・製造された現代の1073®DPXは、オリジナルの仕様に忠実に製造されており、コンポーネントが一致しているため、サウンドが忠実に再現されています。 1073®DPXには2チャンネルの1073® Class Aデザインのマイク・プリアンプが搭載されており、それぞれに3バンドEQ(固定HFとカット/ブースト機能付きの切り替え可能な2バンド)とハイパス・フィルターを搭載しています。
メディア・インテグレーション(以下、MI)
これまで、500シリーズ、新製品の1073OPXとお話を伺ってきましたが、今回の1073DPXが現行のAMS Neve製品の中ではフラグシップモデルになります。
DaichiさんがNeveサウンドと初めて出会ったのはいつごろでしょうか?
鈴木Daichi秀行 氏(以下、鈴木)
19歳くらいの頃に初めてプロのレコーディングスタジオでレコーディングさせてもらった時だと思います。
MI
その頃から制作環境や機材に興味があったのでしょうか?
鈴木
そうですね。興味はありましたね。
当時は知り合いのマニピュレーターの方と一緒に自宅で制作を行っていました。
その頃はまだMacも使ってなくて、自宅でハードウェアのシンセとミキサーを使用して、打ち込みをしていました。
レコーディングスタジオでデータの流し込みをして、Macで音を一音一音、差し替えをしてもらってという感じですね。
MI
差し替えを行うときにNeveが使われていたんですね。
鈴木
はい。僕がお世話になっていた方のスタジオにBCM10があったんです。
BCM10は1073が10ch搭載されてるミキサーで、マイクプリとEQでレベルと質感を調整しながら、レコーダーに録音していました。
当時はあまりNeveというものが分かっていなかったと思うのですが、分からないなりにいい機材なんだろうなと思っていました(笑
当時からレコーディングするメディアはデジタルだったので、デジタル臭さをなくす為はもちろんですが、キャラクターづけで、マイクプリを選択して、録音していくというのはその頃から行っていましたね。
MI
1073DPXは入出力にMarinairトランスが使れています。
改めてサウンドの特徴を教えてください。
鈴木
いわゆるNeveサウンドの良いところは、入力のゲインを上げ気味にして、若干歪ませた時の倍音の出方みたいなところだと思うんですよね。
ちょっと太くなるというか、ちょっと前に出てくる感じというか。
1073DPXはアウトプットのつまみがあってレベルがコントールできるので、インプットを上げ気味で入力して、アウトを下げて出力するみたいなNeveでよくやる使い方が実現できて、ちゃんとNeveのキャラクターが出てくる感じがします。
MI
各セクションのビンテージとの違いについてお聞かせください。
まずは、ヘッドアンプの印象の違いはありますでしょうか?
鈴木
ヘッドアンプはビンテージと比べてみて明るい音ですね。
実際にOld Neveのコンソールで全ての楽器を録音すると、ナローすぎて、クリアさが全くない音になりがちなので、それが合うバンドだったらいいんですけど、合う合わないが分かれてしまいます。
低域の感じはNeveらしさがありつつ、ビンテージより明るいサウンドは、今時の高解像度なレコーディング環境に向いていると思います。
MI
続いてEQはビンテージとの印象の違いはありますでしょうか?
鈴木
そうですね。EQはビンテージと変わりなく違和感なく使うことができました。
1073のEQは結構無茶のことをしても破綻しにくいという特徴があるので、使いやすいと思います。
Qは固定なのですが、そんなに狭くなくて、しっかりかかる感じです。
ピンポイントに音を作り込むというよりは、ぱっと聞いた第一印象で足りないところを補正する使い方が効果的だと思います。
MI
今回録音して頂いた、音源サンプルでは、入力のゲインを上げ気味で、出力で下げるという使い方での録音もして頂きました。
鈴木
先ほどお話しした倍音の出方の違いがわかるサンプルになっていると思います。
やりすぎると歪んじゃいますけど、歪むギリギリのところというか、若干サチュレーションがかかるところがNeveのよさで、気持ちいいところだったりしますね。
単音で聞いている時は分かりにくいのですが、ミックスをしていくと、倍音が出てきて、レベルを下げてもちゃんと音が聞こえてくるというか、存在感のある音で録音されている感じが分かってくると思います。
あとは積極的にそういうキャラクターで攻めていくというのも面白いですよね。
例えば歪みのギターでかなり特徴を付けたい時とかにインプットでかなりゲインを上げて音作りするのも効果的だと思います。
最近はNeveのヘッドアンプのプラグインも出ているし、オーディオインターフェイスの機能の一つやギターのペダルのエフェクターみたいなものでも出ていて、Neveの歪みのサウも認知されてきていますね。
MI
ミックスをLine INに入れてサミングして頂きました。
どういった効果を狙ったのでしょうか。
鈴木
これをやるには一つ注意が必要で、1073DPXに1kHz等の基準信号を入れて1、2chのレベルを事前に合わせておく必要があります。
ビンテージのNeveでもサミングされる方もいるんですけど、タイトな感じに仕上がるというか、音が締まってくる感じになります。
1073DPXもビンテージよりは色付けは薄いですけど、ちゃんとそういう感じにはなりましたね。最後のひとさじというか、最初から最後までデジタルで完結するのではなく、最後に一度アナログ出ししてサミングしてキャラクターをつけるということができるのはいいと思いますね。
MI
Daichiさんオススメの使い方はありますでしょうか?
鈴木
1073DPXはステレオモデルなんですよね。
最近はマイクもステレオで収録することが多いので、マイクプリアンプが揃っているのはいいですよね。大は小を兼ねるじゃないけど、モノでも使えますし(
アコギもステレオで録音すると音像に広がりが出て良かったりしますし、パーカッションとか、ピアノとかにもいいですよね。
他にも、プラグインのソフトシンセとかも一度1073DPXにラインで入力して、それをDAWに戻すだけでも相当な存在感が出てきます。
主張させたいリードシンセやシンセベース等、メインになりそうなものだけでもアナログでEQをかけて、質感を変えてあげるとミックスした際に一層際立つと思います。
ステレオモデルの方が、サミングもできるし、ステレオソースの音作りや、マルチ録音もできますので、やれることが広がると思いますよ。
Bass_1073DPX_DI
EG_1073DPX_DI
EG2_1073DPX_DI
Neve Sample_1073DPX_NormalInputGain
Neve Sample_1073DPX_HighInputGain
Neve Sample_1073DPX_summing
AMS Neve