これはいつかメディア・インテグレーションの方にお知らせしないと!と思っていたものがあって、2014年にリリースされたHASKING-BEEのアルバム「AMU」の中の「Side By Side」という曲のドラムは、SR20でレコーディングしたんですね(と、言って曲を再生する間瀬氏)。
はい。もちろんマイキングの試行錯誤はしましたが、1本だけなんです。ドラムセットを正面からみて、キックとタムの間くらいに立てたのですが、自分でもびっくりするくらい良い音で録れたので、結果1本だけで仕上げました。曲がこういった音を求めていたという事もありますが、普通のマイクではきっと無理だったと思います。SR20の耐圧の高さ、周波数特性の良さ、ハイファイさが全て混じってできたことですね。
SR20、実際の音
- ドラムのトップにはほぼ必ず使用されているとのことですが、実際の音や演奏者からの評価はいかがですか?
SR69(SR20)をドラムトップに使用していると、特にドラマー本人からの評価が高いですね。僕にはわからないような微妙なニュアンスの差がきっちり録れているからなんだそうです。他のマイクを使ったときには「何か違うなぁ」と言われてしまっていた部分ですね。
- 周囲の人にはわからない、演奏者だけがわかる違いまでも抑えられているということですね。
エンジニアの立場からも分かる違いがあります。例えば僕がレコーディングを担当しているとあるバンドで、ドラマーがめちゃくちゃシンバルにこだわりを持っていて、レコーディングにものすごく大量のシンバルを持ってくる方がいるのですが、一般的によくドラムのトップに使われるマイクを使っているときには、ドラマーがシンバルを変えた差が「あまりない」なぁとドラマー以外のメンバーとコントロールルームで話していたんですね。ドラマーがこだわってニュアンスの異なるシンバルに変えたとしても、マイクがその差を表現してくれなかったんです。
- 実際に目の前でドラム本体を聞けばわかる違いが、マイクを通ることによって失われていたということですね
ドラマーは「この曲にはこのシンバル」とこだわっているのに、マイクがその微妙な違いを捉えていなかった。ところがSR69(SR20)をトップにしてみたら、コントロールルームにいた全員が一枚一枚の違いがはっきりとわかるほどだったんです。アタックの速さと、余韻の美しさ、全てを捉えていましたね。
それからドラムに使用するということであれば、耐圧が非常に高いことも付け加えておきたいですね。音が大きいドラムやアンプにも問題なく使えることは、エンジニアとして助かります。例えばわかりやすいのがハイハットで、結構近くまでくっ付けてレコーディングをしたとしても、アタックが鈍ったり歪んだりしないんですね。コンデンサーマイクとしては驚異的なくらい近い位置にセッティングも可能で、その上で理想的な音が録れる。キックに使っても大丈夫ですしね。
- エレクトリックギターのアンプなどにはいかがでしょう。
鳴っているアンプによって状況はまちまちですが、よく見かける一般的なマイクの置き方、スピーカーに向かって真正面にマイクを立てる方法では「ない」方法で録ると非常に良い結果になる気がしましたね。Earthworksのマイクって「目の前で鳴っている音そのまま」を録ることが非常に得意なので、少し斜めから狙ってみると思った通りに録れると思います。
- 少し斜めというと?
ギタリストがアンプの音を聞くときに「スピーカーの真正面から」聞くことはあまりなくて、大抵は少し上とか、少し離れた位置で聞きますよね。その上で音を作っているはずです。SR20のように性能のいいマイクを使うのであれば、その角度までを含めたようなマイキングにすると、演奏者からもいい反応をもらえる音になると思います。SR20は低域もしっかり抑えてくれるマイクだから、多少オフ気味(離して)セッティングしても、迫力が失われるようなことが少ないですね。
- 多少オフ気味のセッティングでも大丈夫、とのことですが、近接効果(マイクが音源に近づくにつれ、低域が強調される現象)を考えると、離したときにローエンドが寂しくなったり輪郭が甘くなったりしないものですか?
これがEarthworksの面白いところです。一般的なコンデンサーマイクをつかって多少オフ気味にセッティングしていくと、ある距離に達した瞬間に突然ローエンドがまるでスカスカになることがあります。なので必然的にある程度近づけないと音にならない。ところがSR20はそれがないんですね。あくまでも「その位置で自分が聞こえる音」のまま録ることができる。徐々に離していけば、ちゃんと「徐々に低域が薄くなっていく」んです。
- 近接効果の反応がリニアに変わる、といった感じでしょうか
そうそう。「急にここからダメ」というものがない。だから距離感を演出する録りにも使えるということですね。多少適当においてもそこそこの音になってくれるマイクもありますが、SR20は自分がこだわって置いた距離感もきっちり反映してくれるマイクだと思います。
- そのほか使ってみてよかったソースはありますか?
コンガなどパーカッション系はびっくりするくらい良い音で録れますね。コンガって割と気楽に録れそうな楽器の一つだと思いますがそれだけに奥深くて、いざやってみるとオケの中に埋もれちゃうことが多々あるんですね。SR20を使うようになってからは何よりもパーカッショニストから絶賛をもらうことが多くなりました。僕がレコーディングを担当させてもらった方の中には、その後ご自身でもSR20を買った方も何名かいらっしゃいますよ。ほか、ティンパレスにもよかったですね。
- SR20にはボーカル使用をする際の脱着式ウインドウスクリーンが付属していますが、ボーカルのレコーディングなどで使用されたことはありますか?
あります。結構ありますね。普通にセッティングして使うこともありますが、例えばハンドヘルドで歌いたいシンガーさんのときには必ずSR69やSR20です。
- ハンドリングノイズは問題ありませんか?
はい、全然大丈夫ですね。さらに、付属のウインドウスクリーンではなくてちょっと変則的なポップノイズ対策を…(といい、スタジオ内で何かを探し始める間瀬氏)
こんな感じで市販のウインドウスクリーンを固定して、シンガーに歌ってもらったこともありました。ハンドヘルドならではの勢い、シンガーの歌いやすい環境作りにもOKでしたね。もちろん音もバッチリでした。よくある定番のレコーディングマイクを使ったときよりも….ちょっと抽象的ですが、深夜のラジオDJのような「いい声」ってあるじゃないですか。ああいういい質感で録れるんですよ。きっと多くのマイクと違って、ロー側がフラットだからなんだと思います。おかしなピークがない。特に、ダイナミックレンジの広いシンガーや曲の場合には、こっちで録った方がうまく捉えてくれるんじゃないかと思いますね。
- ローがフラット、という表現はものすごくよくわかります。
すごく抽象的ではあるのですが、低域って近接効果によって影響を受けやすい帯域なので、普通のマイクだと暴れたりニュアンスが変わってしまったりということが起きやすい部分ですよね。でもマイクを通していないシンガーの声は、ちゃんと目の前で鳴っているはず。そういった「今までのマイクでは変わってしまった」部分が、SR20にはないと言ってもいいですね。
本当の意味で「マルチに使える」マイク
ボーカルはもちろん、アコギ、ギターアンプ、ドラムほか打楽器、ピアノ、管弦楽器、何にでも使えるよ!という触れ込みのマイクは多いですが、僕はSR20こそそ「本当の」マルチに使えるマイクだと思いますね。見た目からするとものすごくソースを選びそうで、繊細そうで、なんか堅苦しそうなイメージですが、実際はまるで反対。先にも言いましたが、SR20、SR69を使わない現場はないというくらい必ず使っています。ほぼ毎日使用しているので、当然たまには落っことしたりもしますが(笑)、未だに一度も壊れていません。だから…僕の意識的にはどこのスタジオにいっても必ずある、あの定番マイクくらいの感覚で使っちゃってますね。本当はもっと大事にしなきゃいけないんだけど(笑)
- 坂本龍一さんのヨーロッパ・ツアーのときにも同社のPM40(ピアノ・マイク)とともに持って行かれてましたもんね
そうですね。あのときもなかなかヘビーなツアーでしたが、SR69は大活躍でした。市販されているあらゆるマイクとキャラクターがかぶることもないし、何より聞いたそのままを録るという、マイクに求められる最高のことを普通にやってくれる。マイクを通すことで起きる変化や質感も好きですが、目の前のボーカルや楽器がいい音なら、そのまま収録するべきですよね。SR20はその当たり前の仕事を、きっちりこなしてくれます。
僕もこの限定レッドバージョンを含めて、合計5本のSR20(SR69を含む)を所有していますが、本当にどの楽器にもオススメできる、最高の1本です。