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Spectrasonics レビュー:ヒャダイン

2021.06.17

ありがとう、そしてこれからもよろしくSpectrasonics

ども。いつもお世話になっております。ヒャダインと申します。
音楽クリエイターをやっております。J-POPやアイドルへの楽曲提供、さらにテレビやアニメ、映画などへの劇伴もさせてもらったり、もうかれこれ長い年月音楽で飯を食わせていただいているのですがSpectrasonics製品に何度助けられたかわかりません。今回そんな恩人Spectrasonicsの代理店であるメディアインテグレーションから寄稿をお願いされ、恩返しを込めて色々書かせていただきたいと思います。
お付き合いくださったら光栄です。


-Trilian- Spectrasonics製品の出会い

まず私とSpectrasonics製品の出会いの最初はTrilogyでした。今ではTrilianという名前に進化しているベース音源のソフトシンセですね。いつ買ったかはちょっと思い出せないんですが私のキャリアのかなり前半だったと記憶しています。

バイトをやっと辞めることができて音源にお金をかけられる状況になり渋谷にあるDTMer御用達の名店ロックオンカンパニーにプライド投げ捨て、恥を忍んで「DTMの環境を進化させたいのでおすすめのソフトシンセをください」と丸投げした時に一番最初におすすめされたのがTrilogyでした。とにかく生ベースのクオリティが高い、と。

確かに打ち込みにおいて生ドラム、生ベースの足回りは音源の優劣がバレがちだと当時から感じていて、スラップベースを打ち込んだとしても「いかにも打ち込みましたよー」感が強く大きな悩みでもありました。SPM(スーパーマーケットミュージック)の呪縛で雁字搦めだったのです。もちろん即買いでほくほくで家に帰ってインストール。当時は数枚に分かれるROM DISCでした。出しては入れ、出しては入れでなんとか完遂。初めて音を出した時の感動は忘れられません。「わい、ベーシストや!わいはベーシスト猿や!!」心の中に眠っていた藤子不二雄A先生が騒ぎだします。

当時は音色もTrilianに比べて圧倒的に少なく生ベースのシミュレーションが数種類しかなかったんですがそれでも構わない。アーティキュレーションで遊べるのも魅力的。正直に言うと今にいたるまで竿ものの知識が少なく、何が正しいかなんてわかっていないのですがそんな私でさえ本物っぽい演奏ができる。私はリアルタイム録音派なのですがその鍵盤のちょっとしたベロシティの揺らぎで細かく音色の表情も変わるおかげで「のぺーー」としないんですよ。この「のぺーー」がSPM感を出してしまうので重要なポイントですよね。(あ、ちなみに「SPM」というのはロバート秋山さんが作り出した言葉です)。

そして記憶が正しいならその後大型アップデートがきたんですよね。そう。シンセベースが加わったんです。ホームページからデータをダウンロードしたんですがシンベなのでそこまで容量がエグいわけではないのにめちゃくちゃ大量のシンベがラインナップに入ったことに狂喜乱舞したことを今でも覚えています。その後ご存知の通りTrilianへと進化。音色も劇的に増えてバリエーションも増加、ベースだけではなくシンセも充実し始めたという神っぷり。ここからはその中でもお気に入りの音色を少し紹介していきます。

まずは基本、「Clean Fender」シリーズ。

TRILIAN

Clean Fenderだけでもめちゃくちゃ種類ある!私はもはやDAWを最初開いた時デフォルト画面で「Clean Fender Full Range」を仕込んであります。まず曲のデッサンを描く時、ピアノとベースで枠を作るのですがこれは万能。どんな曲のジャンルでも対応してくれるし曲を限定しないイメージです。要するにデッサンができた後他の音色に変更するバッファを与えてくれる音でありつつデッサンレベルでさえ立体的に表現してくれるので要するに最高。まあ差し替えないでそのままこの音で提出することもザラにあります。そのくらいの万能感です。

ちょっとキラっとさせたい時は「Full Range Brite」にしたりとかチャチャっと色味を変えられていい感じです。あ。そうそう。生系は画像にもあるようにやはりファイル容量がでかいのでロードに少しだけ時間かかりそう、と思うじゃないですか?いやいや。SSDだったら一瞬です。ストレスゼロでベースの音を探れるので、万が一HDDを使っている人がいるのならば悪いことは言わない。絶対にSSDがお勧めです。

次のおすすめは「Bang Street」

TRILIAN

ファイルの大きさ24M。軽い!なんですが音は重厚で派手。そう。基本Trilianのシンベは重厚で派手なんです。中でも「Bang Street」は若干のデチューン感もありステレオ感もあるのでこれで下を支えるだけで華やかになるので2010年代前半はスタメンばりに使っておりました。特にBPM速い系はバリバリ使ってましたねえ。個性が強いんですが私の曲はわちゃわちゃしているのでちょうどよかったです。今でも★を5つつけていつでも召喚できるようにしております。

で、贅沢な悩みではあるんですが「音が多過ぎて最適解を選びきれない」という問題が出てくると思います。これはTrilianに限らず全てのソフトシンセあるあるだと思うのですがSpectrasonics製品のソートは本当に楽。曲のジャンルや属性など細かい条件でソートできるので楽しいです。

まあそれでも物量が多いので「最適解」に届きにくいと悩む方がいるかもしれません。でも私の意見ですが音選びは一期一会だと思うんですよ。パパッと選んだ音色でピタッとくるともう他の探すのいいかな、と思っています。そこにこだわって「他にもいい音があるはずだ」と潜り続けていたらせっかくのクリエイティブのバイブスにストップをかける気がしていまして。テンポ良くバンバン音を決めていき曲への情熱に邪魔をさせることなくズンズン進めていくほうが私は好きなので。そしてそれに応えてくれるのがTrilianだとも思っております。

で、ちょっとイメージが違ったらカットオフとかレゾナンスとかいじって味変も簡単ですからねー。音のカスタマイズ問題なんですがプリセットが非常に優秀なのであんまりいじることがないです、正直。だってプロが作った音色なんですもん。そりゃいいよね。プロのミュージシャンとしてちょっとお恥ずかしいんですが私プリセット大好き。プリセット作ってくれたプロのみなさんありがとー!!おかげで美味しいご飯食べられてます!


-Omnisphere- 勝ちを確信しました

時系列的にお話させていただきますと、次出会ったのがOmnisphereでした。Spectrasonicsのセンター。セーラームーンみたいなもんですね。ど真ん中。この購入動機が非常に不純でして、劇伴作家さんたちが会話しているのを盗み聞きしていた時に「Omnisphereのプリセットのパッドを流してるだけで提出できちゃうみたいな曲もあるよねーがはは」みたいなことを脳内メモに油性ペン並の消えなさで刻んでいて、これまたロックオンカンパニーにその日のうちに走っていって購入しました。だってプリセット流すだけで作品になるんでしょ!こんな素敵なことないじゃん!最高!宇宙的なジャケットやインターフェイスも魅力的。こういう深い青のスペース感ってなんでこんなにワクワクするんでしょうねえ。

そんなことを思いながらインストール。立ち上げてまずびっくりしたのが「え、Omnisphere内でTrilian使えるじゃん」。STEAMエンジンばんざーい!そう。Trilianを立ち上げなくてもOmnisphere内で使えちゃうんですね。一つのOmnisphereで8つチャンネルがあるのでわざわざいちいち立ち上げる必要がない!これは後に購入するKeyscapeでも適応されるのでその時にまた感謝の涙を流すことになるのですが。嗚呼便利。で、噂のOmnisphere。まず音色の数が異常。助かるー!!しかも一般的な音は少なく逆に「え、こんなの聴いたことない」系の不思議な空間系音色だったりSEだったりが豊富、そして音圧もエグいし広がりもすごい。ああ。こりゃ最高だわ。インストール直後、まだ音色ツアーが全然できていない段階で勝ちを確信しました。何に勝つのかはわからないですが。

もうそこからはOmnisphereの虜ですよ。DAWのデフォルト画面で最初からOmnisphereのmidiチャンネル1から8のトラックをあらかじめ用意しております。どうせ使うなら作っておけばいいじゃん。そのうちいくつかはすでに音色も固定させております。

Ch1はトラック名「Synthbrass」として「Classic Roland SynthBrass1」をアサイン。80sを感じさせるいなたいシンセブラスなんですが、スケッチを描く時コード感を決めるのにめっちゃ便利なんですよね。ビャーッと弾いたら間が埋まって全体像が見えやすい。もちろん本テイクでもよく使います。気取りきらない「ザ・シンセブラス」が欲しい時に大活躍です。Ch2は前述の通りTrilianのClean Fenderをアサイン。速攻でベースが出るシステムとなっています。

他に愛用しているのがIntimate Music Box

Omnisphere

Music Boxも色々種類があると思うんですがこれは打鍵がしっかりとしている系でオルゴールというよりベルといった印象。リリースもあっさりしてるし倍音もあるし、ボーカルとのユニゾンでも華やぐし飛び道具として登場させても派手だし大活躍です。椎名林檎さんのセルフカバーアルバムでアレンジさせていただいた「プライベイト」でもめっちゃ使いました。前述のシンセブラスも使っているのでよかったら聴いてみてください。あと意外に使い勝手がいいのが「Human Voices」カテゴリなんですよねー。

Omnisphere

シンセのボーカルシミュレーションって一辺倒なイメージがあったのですが特にこのJazz Stacksシリーズはクセが強くておもろいです。ジャズコーラスグループみたいな感じ。Manhattan Transfer気分。パッド代わりに忍ばせていると音が立体的になって楽しいんですよ。

このシリーズの他に声系はゴスペルだったり少年だったり細かくあるのでひたすら楽しい。不気味な曲とか作る時ここのカテゴリ開いてればなんとかなる。盗み聞きした内容はほんまやったんや!!パッド目当てで買ったOmnisphereですが意外にギターやオルガン、ストリングスも素晴らしくしょっちゅう使います。カテゴリの一番下、Trons and Opticalもイージーにメロトロン系のシンセが使えるのでレトロ感とかもすぐにリーチ。ほんと万能。どの曲か忘れましたがマルチ書き出ししてる時、8割のトラックがOmnisphereだったことがあって笑っちゃいました。まだまだ確認できていない音色があることは自覚しているので、1日Omnisphere デイを作って音色確認作業をがっつりしたいものです。


-Stylus- 意外な展開に持っていける

そして次に購入したのがStylusです。これまたロックオンに勧められたのですが、自分ビートは基本自分で手打ちするタイプだったので「え、パターンが入ってるだけでしょ」、みたいな偏見で半年ほど封を開けていませんでした。後悔。ある日同僚がStylusを褒めていたのを聞いて「やべえ」と思って速攻インストール。めっちゃ使いやすいじゃないですか!!まずビートを敷いて曲の着想を得る時にももちろん使用できますし、一番使っているのはやはりパーカッション系。コンガやタンバリンのループは非常に使い勝手がいいです。

なかでも気に入っている機能が「Chaos Designer」。ループのスライスをランダムにしたり、一部をリバースさせたりとまさにカオスにしてくれる機能です。これを闇雲にえい!!とつまみ上げるだけで予定調和が崩壊、意外な展開に持っていけるので遊び感覚で使っています。やっぱり自分の管理下にないところで起きる音楽的事故って最高じゃないですか。DTMってバンドと違って他者がいないからそういうケミストリーが起きにくい分、そういうの大切にしていきたいですよねー。

STYLUS

あと地味に便利なのが「Sound Menu」を選択したら使える単発の音たち。クラップとかスナップとか鍵盤に色んな種類がアサインされてサンプラーのごとく使えるので便利です。Stylusも単体で8chまでアサインできるから一回立ち上げたら8つまでフットワーク軽く使えるのもストレスフリーで重宝しております。


-Keyscape- 鍵盤天国

そして最後に購入したのがKeyscapeです。購入動機が私が尊敬する音楽家の先輩がツイッターで「Keyscapeはアコースティックピアノが注目されがちだけど実はエレピもレベル高い」みたいなことを呟いてらっしゃって「なーにー!!」と即ポチり。渋谷まで行くのが邪魔臭かったのでこれはサウンドハウスで買いました。便利な世の中ですよねえ。ていうか、私は大体同僚や先輩の噂を聞いて物を購入するタイプなんですね。自分という軸がないですね〜。

で。実際使ってみたところ、これはテンションが上がる!私は唯一弾ける楽器が鍵盤なものですからどうしても曲作りはピアノが中心になりがち。そこでこのKeyscapeの幅の広さよ。まずグランドピアノだけでも色んなバリエーション。しかも音像を変えるのがめちゃ簡単。英語読めなくても適当につまみいじるだけで好きな音になります。しかもリアル!音質が細やか。

でね。音とは関係ないんですけどビジュアルがめっちゃかっこいいんですよ!!アコースティックピアノのC7、色々な音色で用意されているのですがいちいちビジュアルかっこいいの。

Keyscape Keyscape

テンション上がりませんか!?霧の森の中での演奏とか憧れちゃうよ!やはりこういう細やかなところでテンションを上げてくれるのも重要ですよね。

で、肝心のエレピ。はい。最高。まずシミュレーションしている機体が多いところから最高。Rhodes、Wurlitzerはもちろん、あれもこれもあります。しかも先ほどのように素敵なビジュアル付き。で。エレピの方が音色をいじることが多いと思うんですよ。これも感覚的にいじって自分なりの正解を出せますし、そもそもプリセットでめっちゃ最初から用意されているのでクリックしてオーディションするだけで合格者がでちゃう。J.Y.PARKも速攻でキューブあげちゃうレベルの高品質です。

下の画像でもあるんですけど、Signalのつまみ、エレピ音をラインで鳴らすのかスピーカーからマイクで拾ったものにするのかを選べたりも。正直それ要る!?マニアックすぎるわー。好き。

Keyscape

あと特筆すべきはトイピアノ!結構使うんですけどいつもバリエーションがなくて諦めていた部分があるんですが、ミニピアノ、トイピアノのラインナップがやばい。これ作った人どうかしてるよ!でも一口にトイピアノとはいえグロッケンぽいのからラグタイムっぽいやつとかホラー感があるやつとか色々振り幅あるんですよね。ほぼ全部網羅ですよ。ベル代わりにも使えていいんですよねートイピアノ。もちろん本来のトイピアノの音域を超えた部分も弾かせてくれるので助かります(そこらへんの柔軟さって必要だと思う。原楽器に忠実で音域まで再現しちゃってるやつとかちょっと困る時がある)。

Keyscape

そして鍵盤天国Keyscape。ビンテージシンセが楽しい。特にハートを打ち抜かれたのがJD-800のエレピ!

Keyscape

この画像だけでよだれがでますね。90年代の顔してるでしょー。いい表情。弾くと蘇る90s。シンセで作った人工的なエレピの音さいこー!!トレンディな香りもしますねえ。オメガトライブの「ガラスのPALM TREE」をさっき弾いてみたんですが涙出そうになりましたもん。まあオメガトライブは80sですけどね!

初めてシンセを触った時の喜びが蘇りつつも、最近のシティーポップスブームにもばっちりハマる音源なのでは。グイッとリバーブのつまみとトレブルをガン上げしてモーリスホワイトの「I need you」のイントロを弾いたら溶けますよ。誰でも口説ける気がする。他、チェレスタやクラビ、ハーモコードまで網羅しているのでかなり制作の幅が広がります。Ommnisphere内で立ち上げるもよし、Keyscapeを立ち上げてビジュアルを堪能するのもよし、楽しみ方も人それぞれだと感じました。


これからもお世話になります!!

以上、私ヒャダインのSpectrasonics愛を語らせていただきました。先ほども書いたのですが正直まだ確認できていないプリセット音もたくさんありまして、それを知ることでより一層表現の幅も広がるでしょうし何よりも曲の着想の手助けになります。音色から導かれる展開や発想ってあるんですよね。インターフェイスのかっこよさもそうですがそういったクリエイティブを刺激してくれるあたりも私がSpectrasonicsから抜け出せない一因かと思っております。使いやすさ、そして他では代わりが効かない独特な個性、これからもお世話になります!!

(追伸 Spectrasonics製品揃えたら私のライバル増えるのであんまり他のクリエイターは買わないでください。買うなよ絶対!)


Profile

ヒャダイン
ヒャダイン

音楽クリエイター

音楽クリエイター 本名:前山田 健一。1980年大阪府生まれ。 3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につける。 京都大学を卒業後2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になり屈指の再生数とミリオン動画数を記録。 一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得。2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。アイドル、J-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動。テレビ朝日系列「musicるTV」、フジテレビ系列「久保みねヒャダこじらせナイト」、BS朝日「サウナを愛でたい」、テレビ東京系列「ポケモンの家あつまる?」、FM NACK5「One More Pint!」などレギュラー多数。

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